多対一というのは、それだけで分が悪い。
「残りは9人か」
威勢の良い啖呵は切ったものの、どう相手にするべきか。マリク・イシュタールは思案していた。
現在の時刻は2時11分。ロケットの打ち上げ予定は3時。普通なら正体不明の集団から襲撃を受けた時点で、打ち上げは中止されるべきだ。だが、自分の雇い主は予定を変えずに打ち上げを断行するに決まっている。いっそ清々しいほどに、マリクは確信していた。
アレはそういう男なのだ。
「さて……」
マリクにとって最悪のケースは適当な人数に足止めされて、襲撃者達の本棟への侵入を許すことだ。本棟には打ち上げ準備を進めているスタッフ達が、まだ大勢残っている。こういう場合はすぐに逃げ出すのが一般人の心理だとマリクは思うのだが、彼らは打ち上げに精力を注いできた一端の技術者である。ロケットを残して逃げ出す気は、さらさらないらしい。
守るべきロケットと、何よりも優先されるべき人命がそこにある以上、マリクがこの場所をどくわけにはいかない。
しかし、かといって……3対1程度ならどうとでもなるが、9対1はどんな歴戦の決闘者であろうと不可能だ。
「だから1人では動くなと言ったんだ」
聞き覚えしかない声に、マリクは思わず振り返る。
と、同時。彼を取り囲んでいた襲撃者達の内、3人の腕にワイヤーが巻き付いた。
「……キミ達を待っていたら、ここは突破されていたよ」
「でも僕達が来ないと、結構マズイ状況でしたよね、コレ?」
まるでビデオでもう1度再生したかのように、また3人の腕に向かってワイヤーが放たれる。
マリクは自分の近くで倒れている男を見下ろした。床でのびている、哀れな『元部下』の腕から決闘盤を奪い取り、デッキを入れ換える。
「なるほど。その発想はなかった。中々便利だな」
呟きつつ、マリクはさっきと同じ要領で残りの3人と腕を繋いだ。
これでもう、誰も逃げられない。
「1人につき3人だ。20分もあれば終わるだろう」
金髪の大男が、重々しい口調で言った。
「……ラフェール。随分と余裕だね?」
「『元グールズ』の人員が多いと聞いて警戒はしていたが、存外大したことはなかった」
「皮肉は聞き流しておくよ」
やれやれ、とマリクは首を振った。ラフェールは厳戒な表情のままだ。
「あのー、すいません。時間制限やめましょうよ。僕がビリになるの決まってるじゃないですか。はやく海馬くんを助けに行かなきゃいけませんし、急ぐのは分かりますけど」
あまり良好とは言えない2人のやり取りに、白髪の男が場違いな声音で割り込む。今度は別の意味で面倒臭くなって、マリクは溜め息を吐いた。
「……バクラ。くどいようだが、雇い主をそう呼ぶのはやめろ。形式上、キミはボクの部下だ。部下の躾がなっていないと『社長』から『お叱り』を受けるのは、ボクなんだからな」
「はーい。気を付けます」
おどけたように、白の長髪に覆われた頭が下がる。いつものことながら、反省の色は全く感じられなかった。
「まったく…………ああ、すまない。キミ達を放って喋ってしまった」
何も言わずに固まっていた襲撃者達に、マリクは語りかけた。何人かが息を飲み、後退する。無理もない。彼らの前にいるのは、バトルシティ準優勝者、マリク・イシュタール。同じくバトルシティベスト8、獏良了なのだから。
もう1人については襲撃者達は全く知り得なかったが、その方が彼らにとっては幸せだったのかもしれない。もしも元『ドーマの三銃士』である、ラフェールという男が『武藤遊戯』を倒した決闘者だと知っていたならば、彼らの内の何人かは戦意を喪失してサレンダーしていただろう。
もっとも、何も知らずに叩き潰されるだけの勝負に挑む方が、彼らにとっては残酷かもしれないが。
無謀にも決闘盤を構える9人と対峙しながら、マリクは気になっていたことを口にした。
「ところで、リシドはどうした?」
「僕たちとは反対側にまわってます。まだ隠れている人がいるかもしれませんから」
マリクは眉を潜めた。リシドなら心配はいらないと思うが、それでも1人というのは不安が残る。
「まあ、いい。はじめようか」
「了解だ」
「了解です。はやく海馬く……ゴホン、社長のところへ行きましょう」
マリク、獏良、ラフェール、そして襲撃者達9人。合計12の決闘盤が、唸りをあげて展開する。
「社長のところへ……か。行きたければキミ1人で行けよ、バクラ」
「え? 何でですか?」
心底不思議そうに聞き返す獏良に、何も分かっていないな、とマリクは呆れた。
「社長が決闘を開始してから、もう1時間は経つ」
マリクは口にこそ出したことはないが、バトルシティ大会の準優勝者は自分ではないと、常々思っていた。理由は単純かつ簡潔だ。
マリク・イシュタールは、まだあの男との直接の決闘で、一度たりとも勝利していない。
「既に終わっているだろう。海馬瀬人ならな」
が、それは自分達がのんびりしていい理由にはならない。敵はまだいるかもしれないのだ。
「無駄話は終わりだ。手早く片付けよう」
引き締めた口調で、マリクは言った。
◇◆◇◆
時は僅かに遡る。
――13:55。
「アヒャハハハハ! どうだ、海馬ぁ!?」
「自分の愛しい愛しい、ブルーアイズを奪われた気分は!?」
光の仮面 LP3800 手札0
《モンスター》
メルキド四面獣
《魔法・罠》
凶暴化の仮面
闇の仮面 LP3800 手札1
《モンスター》
青眼の白龍
《魔法・罠》
遺言の仮面
海馬 LP1400 手札3
《モンスター》
なし
《魔法・罠》
リバース1
海馬と対峙しているブルーアイズには、醜悪な2枚の仮面が貼り付いている。コントロール奪取の効果を持つ『遺言の仮面』
そして、装備モンスターの攻撃力を増加させる『凶暴化の仮面』である。
3体のブルーアイズを並べ、一時は圧倒的優位に立った海馬だったが、『仮面魔獣デス・ガーディウス』から発動された『遺言の仮面』によってブルーアイズが奪取され、盤面は再び仮面タッグ側の有利に傾いていた。
「今の気分か……」
しかしそれは、あくまで客観的な視点から見ればの話である。
海馬背人は、鼻を鳴らして、光と闇の仮面を見た。今の心境を語るならば、一言で事足りる。
「つまらん」
「なにぃ?」
「つまらん……だとぉ?」
「そうだ」
頷きながら、海馬はカードをドローする。
「新しいカードを取り入れたわけでもなく、戦術に進歩もない。多少様子を見てみれば、また馬鹿の一つ覚えのコントロール奪取だ。所詮、犬以下の頭脳の決闘者に進歩を期待する方が無駄だったというわけだ」
「きっ……きさまぁ!」
光の仮面は腸が煮え繰り返るような、激しい怒りを覚えた。
手を抜いてやったのに、期待外れの芸しか見れなかった、と。海馬瀬人は彼らに対して、そんな侮辱を吐き捨てているのだ。
「つまらん、くだらん、取るに足らん。何の面白みもない決闘だ」
もう充分だと言わんばかりに、海馬は彼らを睨み付けた。瞳には嘲りよりもむしろ、失望の方が色濃く浮かんでいた。
「魔法カード『黙する使者』を発動。墓地から通常モンスターを守備表示で呼び戻す。この効果で特殊召喚したモンスターは、表示形式を変更できない」
翼を畳み、守備体制をとった『青眼の白龍』がフィールドに現れる。3000の攻撃力を誇るブルーアイズが守備表示でいる光景は珍しい。
「はっ! 守備表示のブルーアイズなんざ、恐れるに足り……」
爆発。
闇の仮面が己の言葉を言い終える前に、彼らのフィールドの『青眼の白竜』は粉々に吹き飛ばされた。
攻撃は、守備表示の『青眼の白龍』から放たれたものだ。
「魔法カード『滅びの爆裂疾風弾』を発動した。相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。しかしこのターン『青眼の白龍』は攻撃できない」
全滅したモンスターに目を見開いていた光と闇の仮面は、ほっと胸を撫で下ろす。
海馬はそんな彼らに向かって、ゆっくりと告げた。
「だが……その『融合体』なら話は別だ」
仮面の下で、2人の表情は凍り付いた。
「魔法カード『龍の鏡』を発動!」
『龍の鏡』
通常魔法
自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、ドラゴン族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)
墓地から2体、フィールドから1体。交わり、生誕する竜は、海馬瀬人が編み出した勝利の方程式の体現とも言える存在。
「『青眼の究極竜』を融合召喚!」
今、舞い降りる。
『青眼の究極竜』
光/ドラゴン族
ATK4500/DEF3750
全てを圧倒する気高き咆哮が、会場に木霊する。
瞬間。会場の人々は自分達が置かれている状況を忘れ、歓声をあげた。
それだけの力強さが、この竜には備わっていた。
「こ、攻撃力4500……」
「あ、あ……」
光と闇の仮面は怯え、竦み、後退した。そして、顔を見合わせる。当然の反応だった。
次の一撃で、どちらかがやられるのだから。
「ふぅん、安心しろ」
だが、海馬瀬人はそんな彼らの浅い予測を、軽々と飛び越える。
「貴様らは2人まとめて、同時に葬ってやる。リバースカードオープン!『異次元からの帰還』 ライフを半分支払い、除外されているモンスターを全て呼び戻す! 我がフィールドへ舞い戻れ! 3体のブルーアイズよ!」
海馬 LP1400→700
圧巻、としか言い様がない光景だった。『青眼の究極竜』と『青眼の白龍』
並ぶはずのない存在が、共に翼を広げて海馬のフィールドで嘶いている。
「喜べ。貴様らはこの俺の最強モンスターの攻撃によって、華々しく散る栄誉を得たのだ。魔法カード『融合』を発動!」
そして龍は、再び交わった。
『青眼の究極竜』
光/ドラゴン族
ATK4500/DEF3750
「ありえん……」
「アルティメットが……2体だと!?」
歓声が爆発する。
居並ぶ2体の『究極』に、誰もが我を忘れて興奮する。
この危機的状況で、常軌を逸したプレイング。海馬瀬人は紛れもなく、人々に決闘を『魅せて』いた。
「消し飛べ、雑魚ども」
12の青い瞳が、光と闇の仮面を見下ろす。
今さら遅い、とは思ったが、彼らは心の底から後悔した。この計画に参加したことを、ではない。
海馬瀬人という決闘者と対峙したことを、後悔していた。
「あれ……?」
何故か、ふと。
パニックで頭がおかしくなったのか、光の仮面の脳裏に馬鹿馬鹿しい疑問が浮かんだ。
そもそもどうして自分達は……こんな計画に参加したのか?
「『青眼の究極竜』の攻撃! ダブル・アルティメット・バースト!」
相棒に問い質す間もなく、彼の意識と体は閃光に飲み込まれた。
光の仮面 LP3800→0
闇の仮面 LP3800→0
◇◆◇◆
さらに、時は遡る。
――13:39。
本棟へと真っ直ぐに向かっていたラルフ・アトラスは、建物に入る前に足止めを受けていた。
「『ホルスの黒炎竜LV8』で攻撃! 神滅のブラックフレア・ストリーム!」
「ぐぁあああ!?」
LP800→0
まずは1人、打ち倒してラルフは息を吐いた。
残りは3人。ラルフの実力を見た襲撃者達の空気が変わる。
「どうした? まとめて来ても構わんぞ」
1人ずつ倒している時間はない。海馬のように複数人との同時決闘に持ち込んででも、強引に突破するのが1番はやい。覚悟を決めて、ラルフが決闘盤を構えたところで
「はいはい、待った待った」
軽い声が割って入った。ローブを着た男達が道を空け、奥からふらりと人影が現れる。
「アンタの相手はオレがしよう」
被っていたフードを下ろし、男は微笑んだ。年はおそらく20代前半。茶髪をオールバックにまとめているが、厳戒な印象なない。むしろ、いかにも優男といった風貌だ。
「し、しかし……」
「いいから。君たちは先に行きな。このイケメンさんとはオレがやるから」
「ですが1人では……」
なおも反駁する部下に、優男は「あれぇ?」と大げさに首を傾げた。
「雇い主さんから言われてるでしょ? このグループのリーダーはオレだよ。ただ、オレってあんまり指示とかとばすの好きじゃないからさ。バンデットさんのグループか、もしくはあのギョロ目の人のチームに合流してよ。これ、命令。オーケー?」
「……はい」
「どうかご無事で」
ローブの男達は渋々といった様子で引き下がり、本棟へ向かって走り去る。部下を立ち去らせた男はくるりと振り向いて、ラルフに笑い掛けた。
「はい、お待たせ」
「……貴様、随分と軽いな。本当にやる気があるのか?」
「もちろん。2人きりでやりたいから、うるさい人達を追い払ったんだよ? ああ、そういえば自己紹介がまだだった」
にこやかな笑顔のまま、男は決闘盤を展開した。
「オレは百野真介。よろしく」
「……これから戦う敵とよろしくする気はないな」
「うわ、聞いた通りの堅物なんだね。ラルフ・アトラスさん?」
「貴様、俺の名前を……」
「知ってるよ。色々と雇い主から聞いているからね」
ワイヤーで、ラルフと百野の決闘盤が繋がれる。ラルフはすでにシャッフルを終え、デッキをセットしてあるが、百野は動かない。笑顔を浮かべたまま、デッキスロットは空っぽだ。
「何のつもりだ?」
「ん? ああ、ごめん」
紫のローブが翻り、脱ぎ捨てられた。
「どれにするかちょっと迷っちゃって」
「ッ……!?」
ラルフは言葉を失って、彼の全身を凝視した。
さながら、ガンマンのように。腰や脚のベルト、さらに胴体のチョッキにまで、数え切れないほどのデッキが納められていた。正確に言えば、その数は100を下らないだろう。
「なんだその数は……?」
「カッコいいでしょ? その名の通り、オレは『100のデッキ』を持つ男さ……バキューン!」
指をたて、おどけて百野は笑う。
「ふん……数さえ持っていれば強いわけではあるまい」
「確かに、仰る通り。だからちゃんと相手に合ったデッキをセレクトしなきゃね」
目にも止まらないはやさだった。ほんの、瞬きをする間と言っても過言ではないほど、百野がホルダーからデッキを抜くスピードははやかった。
「やっぱり今回は、アンタの為に作ってきた『このデッキ』にするよ」
「貴様……」
今の熟達した動きで、ラルフは考えを改めた。目の前の敵は、決してヘラヘラ笑っているだけの軽薄な男ではない。
「じゃあ、いくよ?」
「来い」
「「決闘!!」」
百野 LP4000
ラルフ LP4000
◇◆◇◆
――14:12。
「きみ達には分からんかもしれんが、年を取ると体の節々が痛くてな。こういった時間外労働は腰が痛くなっていかん」
床に這いつくばっている襲撃者に向かって、アーサー・ハイトマンは愚痴をこぼした。無論、まともな返事が返ってくるとは思っていない。
「うっ……ぐ」
返ってきたのは、潰れたヒキガエルのような呻き声だけだ。
「自分達が仕掛けた決闘盤の機能で倒れるとは……なんとも間抜けというか、自業自得というか……」
アーサーの周囲には3人が倒れている。全員が決闘に負けた後に意識を失っていたが、アーサーはその内の1人を叩き起こした。
まだ聞かねばならないことがあるのだ。
「さて、きみ達のリーダーはどこだ? 目的は?」
「だ……誰が答えるか……」
「ふむ、それは困るな」
「は……お前にしゃべることなどな……おっ……がっ……」
男の声が唐突に途切れる。アーサーが彼の口に、革靴の爪先を押し込んだからだ。
「さっきも言ったが、私はもう年でね。この広い会場を走り回って、いちいちきみ達の相手をするような体力はないんだよ」
「おっ……が、あ……ぐぇ……」
「分かったら、はやく吐いてくれないか? 胃の中身は吐くなよ。脳ミソの中の悪巧みを、きれいさっぱり吐き出してくれ」
ぐりぐりと。爪先を押し込んでいく。男の呻き声が切迫したものに変わったところで、アーサーは一旦靴を引っ込めた。
「あっが……はぁはぁはっ……」
踏みつけている悪党を見下ろしながら、アーサーは考え込んだ。
海馬の手助けをする為に会場を抜け出したのは良かったが、どうにも敵の手掛かりや動機が掴めない。海馬にタッグデュエルを挑んでいたのは、元グールズの構成員だ。ならば襲撃者達の大半はグールズ関連の人員、ということになるが……
「やはり目的が分からんな。こんな大規模な襲撃だ。潰れかけの組織が行うにはリスクが大き過ぎる」
分からないのなら、仕方ない。やはり、知っている人間に吐いてもらうしかない。
アーサーの足下の男は、ひっと息を飲んだ。
「さて、話の続きだが……」
「話の続きなら、俺としようぜ?」
割って入ってきた声に、反応するよりもはやく。アーサーの決闘盤にワイヤーが絡み付いた。
「これはこれは……ようやくリーダーと御対面だな」
「アーサー・ハイトマン。インダストリアル・イリュージョン社の社長か。ペガサスの野郎はどうした?」
「残念ながら、会長はアメリカだよ」
「ちっ……」
アーサーの返事に、バンダナを巻いた男は舌打ちを響かせた。
アーサーは踏みつけていた男から離れ、決闘を行うのに適切な距離を取る。
「きみとしては残念だろうな。会長にリベンジがしたくて仕方ないだろうに」
「あぁん? なんだテメェ? 喧嘩売ってやがるのか?」
「聞き返さないとそんな事も分からないのかね? 元全米チャンピオンの盗賊殿はオツムが足りないらしい」
サングラスの奥の瞳は見えない。だが、バンダナの男は黙り込むと、床に這いつくばっている男につかつかと寄って行った。
「す、すいません、キースさん。おれ、負けちまって……」
「うるせぇ! このカスがっ!」
その男――元全米チャンプ、バンデット・キースは容赦なく、部下の腹に蹴りを叩き込んだ。
「あっ……が」
「使えねぇにも程があるぜ! 結局、俺以外は全滅じゃねぇか!」
執拗に、何度でも。キースは部下の男を気絶するまで足蹴にし続けた。
「ったくよぉ……だから俺がこんなクソジジイにナメられるんだろうが」
「おいおい、それはないだろう。彼は彼なりに全力を尽くしたんだ。私はきみの部下が弱かったから、きみを舐めているわけじゃない」
穏和な表情のまま、アーサーは言った。
「私がナメているのは、大衆の面前でトムという少年に負けた、哀れな盗賊だよ」
「このクソが……つくづく口の悪い老害だぜ!」
アーサーとキースの腕ががっちりと、ワイヤーで繋がれた。
「覚悟しな! これでテメェはもう逃げられねぇぜ!」
「覚悟しろと言ってもな……正直言って、この機能はもう見飽きたよ。新鮮味に欠ける」
「言ってろよ、ジジイ!」
全く同時に、2人の決闘盤が展開した。
「「決闘!!」」
アーサー LP4000
キース LP4000
「先攻は私だ、ドロー! 私はモンスターを守備でセット。リバースカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
「けっ! ジジイらしい古臭い一手だ! 俺のターン、ドロー! 手札から魔法カード『デビルズ・サンクチュアリ』を発動!」
キースのフィールドに、不気味に光る『メタルデビルトークン』が出現する。
「さらにコイツを生け贄に捧げて『ブローバック・ドラゴン』を召喚するぜ!」
入れ代わりに現れたのは、オートマチック拳銃を模した頭部を持つ、無骨な機械竜。低く唸りをあげて、アーサーを威圧する。
「初手から上級モンスターか。腐っても、元全米チャンプだな」
「ほざけ! 俺は『ブローバック・ドラゴン』の効果発動!」
ガシャン、というメタリックな音が響き、その名の通り頭部の砲身がブローバックした。
『ブローバック・ドラゴン』
闇/機械族
ATK2300/DEF1200
コイントスを3回行う。その内2回以上が表だった場合、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。
更に2回、3回、と立て続けに砲身がブローバックする。キースはニヤリと、確信めいた笑みを浮かべた。
「Fire!」
重い銃撃音が響き、裏側のモンスターに風穴が空いた。
「なるほど、運がいいな」
「当たり前だ。強い奴は運も引き寄せるんだよ」
「それについては同感だ」
「なら、こいつもくらいな! オートマチック・キャノン・ショット!」
今度は1発だけでなく、何発もの弾丸がアーサーへ立て続けに撃ち込まれた。銃口からは硝煙が立ちのぼり、薬莢が床に落ちる。
アーサー LP4000→1700
「ぬっ……ぐ」
「ご老体にはちょいとキツイか? 俺はリバースカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
「……敬ってもらうのは結構だが、あまり見くびるなよ、若造」
ダメージで膝をついたアーサーは、すぐに立ち上がった。
「私のターン、ドロー!」
ドローカードは、そのまま決闘盤に叩き付けられた。
「私のデッキの一番槍の出番だ。手札より『六武衆-ヤリザ』を特殊召喚!」
長槍を携え、鎧武者は静かにフィールドに降り立った。マスクから覗く瞳は、槍の先端よりも尚鋭く研ぎ澄まされている。
『六武衆-ヤリザ』
地/戦士族
ATK1000/DEF500
「ドローフェイズに特殊召喚だと!?」
それでキースはようやく気づいた。アーサーのフィールドで、既に1枚の罠カードが表になっていることに。
「永続罠『神速の具足』の効果だ。私がドローフェイズで『六武衆』モンスターをドローした時、そのまま特殊召喚できる」
さらに、とアーサーは次の1枚を手に取った。
「私は『六武衆-ザンジ』を召喚」
次に現れたのは、薙刀を持った荒武者。『ヤリザ』を澄んだ静水と例えるならば、彼は静かに燃える火のような雰囲気をその身に纏っていた。
『六武衆-ザンジ』
光/戦士族
ATK1800/DEF1300
「なんだくだらねぇ。アメリカ人がサムライ気取りか?」
「無粋に銃を乱射する輩よりは、よほどマシだと思うがね……バトルだ! 『ヤリザ』で攻撃!」
「攻撃力1000で……」
「『ヤリザ』は他の『六武衆』モンスターがいる時、相手プレイヤーに直接攻撃できる!」
キースの眼前から『ヤリザ』の姿が消えた。
「なっ……?」
音も無く、気配も分からず、背後に回った槍兵に、
「――螺旋砕槍」
キースは成す術なく、そのまま刺し貫かれた。
「ちぃい……」
キース LP4000→3000
「続け、ザンジ。『ブローバック・ドラゴン』に攻撃だ」
「今度は『ブローバック・ドラゴン』に攻撃だと!?」
『ブローバック・ドラゴン』からの銃撃を受けながらも『ザンジ』は足を止めず、突貫する。
銃撃で鎧を穿たれ、血飛沫を舞い散らせ、それでも『ザンジ』は鉄の竜に一太刀を浴びせ、力尽きた。
アーサー LP1700→1200
「くだらねぇ、自滅かよ」
「それはどうだろうな?」
「あぁん?」
ピキリ。
装甲につけられた僅かな切り傷から光が洩れだし、ゆっくりと『ブローバック・ドラゴン』の体が崩れていく。キースは目を見張った。
「理解したぜ……そういう効果か」
「『ザンジ』の一撃を受けたモンスターは、戦闘終了後に必ず倒れ伏し、朽ちる。それは鋼鉄のモンスターでも例外ではない」
バラバラと、鉄竜は体を崩壊させ、物言わぬスクラップと化した。
「私はリバースカードを2枚伏せ、ターンエンド。私の刃と、きみの銃弾。どちらが先に相手の息の根を止められるか、尋常に勝負といこうじゃないか」
アーサーの挑発に、キースは口元を釣り上げて答えた。
「――――上等だ」
◇◆◇◆
――14:14。
「『ホルスの黒炎竜LV8』で攻撃! 神滅のブラック・フレアストリーム!」
黒炎が辺り一面を覆い尽くし、相対する敵モンスターを殲滅する。
「くっ…………」
「大丈夫ー? 息荒いよ?」
ラルフは歯を食い縛り、笑顔を浮かべている優男を睨み付ける。
「そんな顔しないでよ」
百野真介は頬を掻きながら、自らが従えているモンスターを見上げた。
「パクったのは謝るからさ」
百野 LP4000 手札3
《モンスター》
ホルスの黒炎竜LV8
《魔法・罠》
王宮のお触れ(発動中)
リバース1
ラルフ LP2300 手札3
《モンスター》
なし
《魔法・罠》
リバース1