ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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※10/31 決闘内容を一部修正しました。


57.「だから、きみは勝てないのだ」

「謝る……か。貴様のような男から謝罪を受け取る気はない」

 

 瞳に怒りを浮かべながら、ラルフは百野真介の発言を切って捨てた。

 

「いやいや、強がらなくてもいいよ。自分の切り札が敵にまわって、さぞやショックでしょう?」

 

 百野が肩を竦めるのと同時、彼の背後に控えている『ホルス』が高い声で鳴いた。

 『レベルモンスター』

 設定された条件を満すことで毎ターン進化していくこのモンスター群は、生産枚数が少ない極めて稀少なレアカードだ。『ホルスの黒炎竜』の他にも、武藤遊戯が使用した『サイレント・ソードマン』『サイレント・マジシャン』など、何種類かのカードは確かに一般で流通している。だが、この男の背後にどんな組織がいるのかを考えれば、眼前の銀竜が本物でないことは明白だった。

 

「貴様のそれは『コピーカード』か?」

「ご明察。雇い主殿が用立ててくれたんだ。気に入らなかったかな?」

「ああ、気に入らんな。コピーカードをいけしゃあしゃあと使うのも、オレのデッキを猿真似して使われるのも、不快極まりない」

「ああ、これ?」

 

 トントン、と。実にとぼけた顔で、百野はデッキを叩いた。

 

「いいよね、このデッキ。『ホルス』で『魔法』を、『王宮のお触れ』で相手の『罠』を封殺。あとはジワジワと直接ダメージを与えるか、そのまま攻め込んで削りきるか……うん、勝ち筋がハッキリしていて素晴らしい!」

「誉めても何も出んぞ」

「嘘なんてつかないよ。オレの心からの感想さ」

 

 百野は片目を閉じてウィンクした。キザったらしい態度が、いちいち癪に障る。ラルフは声を荒げた。

 

「馬鹿にするのも大概にしろ」

「馬鹿になんかしていない。雇い主から資料を見せて貰って、いい『デッキ』だと思った。だから『真似』させて貰った。それだけだよ」

 

 そうやって。

 彼は、数え切れないほどのデッキを持つようになったのだろうか?

 不意に、百野は自虐的な笑みを漏らした。

 

「……オレのアニキはカードコレクターでさ。あちこちのカードショップを荒らしては、新しいデッキを作ってまた次の店を潰す。まぁ、典型的な小悪党だったんだ。結局どこかの誰かさんに負けて、本人が潰れちゃったんだけど」

 

 ラルフの疑問に答えるように、百野は語る。

 

「で、そんなアニキの背中を見て育ったオレは、ちょっと不思議に思ったワケですよ。なんであんなにカード持ってるのに、無様に負けたんだろう?ってね」

 

 彼の言う『兄さん』という言葉には親愛の響きはなかった。

 

「オレの結論は単純だよ。シンプル・イズ・ザ・ベスト! 使いこなせていないからだ!」

 

 明るい声で、独白は続く。

 

「良い戦術、構築のバランス、画期的なコンボ。それらを参考にするのはダメなことかい? そうじゃないだろ? スポーツをする子供達は、一流選手のフォームの真似をする。当たり前の話だ。オレはデュエルモンスターズが好きだから、強くなりたいと思った。その努力の結晶が、オレの全身のかわいいデッキ達だよ」

 

 見せびらかすように腕を広げ、胸を張って百野は喋るのを止めようともしない。

 

「ノーマルなビートダウンにメタビート。ドラゴン、鳥獣、機械、戦士、魔法使い等々の各種族デッキ。オレの所持デッキにはなんでも揃ってる。特殊勝利なんかもサイコーにイカしてるよね? 今回一緒に仕事してるメンバーにエクゾディア使う人がいるんだけどさ。その人のデッキがまた面白いんだよね。アレもぜひパクりたいね!」

 

 嬉々として語る百野の言葉は、ラルフにはまるで雑音に聞こえた。

 子供が、自分が揃えたオモチャを自慢しているような。自分の興味を満たす以外は、何がどうなっても関係ない。そんな思考が透けて見えるようだった。

 

「……主張は分かった。では、コピーカードを使うのはなぜだ?」

「そんな分かりきったこと聞かないでよ。こんなにカード集めてたら、お金がいくらあっても足りないでしょ?」

 

 百野の体の上で、デッキがわさわさと揺れた。

 

「いっぱい持ってるってのは、それだけでカッコいい。認めたくないけど、やっぱりオレにもクソったれなアニキのコレクター魂があるってコトだね、うん」

 

 もういい、とラルフは思った。

 1人で満足して頷いている百野。そんな彼に対して、ラルフはたった一言だけ。口を開いて投げ掛けた。

 

「ガキめ」

 

 にこやかな顔が、能面のように固まる。

 

「ただの軽薄な男ではないと思ったが、軽くて薄いどころではないな。貴様の頭には、およそ考えと呼べるものが詰まっていないらしい」

「……何それ? どういう意味?」

「自分で思考しろ。悪いが俺は、貴様を説教して更正させる気はない」

 

 わざわざ説明して、考えを言って聞かせてやる義理などない。時間も惜しい。

 ラルフはただ、この男を倒して前へ進むだけだ。

 

「……威勢はいいけどさぁ、状況分かってるの?」

 

 ねっとりと絡み付くような視線を、百野はラルフへ向けた。

 

「オレはもう『ホルス』と『お触れ』でロックを完成させている。突破が難しいのはアンタが1番よく分かってるんじゃないの?」

 

 ラルフのデッキはロックカードを絡めた変則ビートダウン。大前提として『ホルスの黒炎竜LV8』と『王宮のお触れ』を展開した上で、勝利を決める。逆に言えば、2枚を展開し終えた時点で、デッキとしての勝利の形は完成している。

 

「だからさっさと諦めてくれないかな?」

「俺のターン、ドロー。俺はモンスターをセット。ターンエンド」

「……無視かい」

 

 百野真介は、ラルフと会ってからはじめて苛立った表情を覗かせた。

 

「ハイハイ、分かったよ。お望み通り、完膚なきまでに、ぶっ潰してあげるよ」

 

 

◇◆◇◆

 

 

 アーサー・ハイトマンとキース・ハワードの決闘は、一進一退の攻防が続いていた。

 刀を操る戦士族と弾丸で敵を撃ち抜く機械族。例えるならば、剣と銃の対決か。

 

「――私のターン。『神速の具足』の効果で『六武衆-カモン』を特殊召喚! 効果できみのフィールドの『マシン・デペロッパー』を破壊する!」

 

 発破に長けた『カモン』は口元のキセルで爆弾を点火し、一気にバラまく。キースの機械族モンスターの攻撃力を底上げしていた厄介な永続魔法は、これで破壊された。

 

「『六武衆-イロウ』で『リボルバードラゴン』を攻撃! この瞬間に速攻魔法『月の書』を発動! 鉄クズの竜には裏守備になって貰おうか!」

 

 太刀を構えた侍は裏側になったカードに肉薄し、両断した。裏守備モンスターをダメージ計算を行わずに切り捨てる『イロウ』の能力だ。

 

「はっ! 甘いな! リバースカードオープン! 『リビングデッドの呼び声』発動! 『リボルバー・ドラゴン』を蘇生させるぜ!」

 

 何事もなかったかのように、三門の砲塔を備えた殺人機械が蘇る。機械に蘇生もあるまい、とアーサーは鼻を鳴らした。

 

「ふむ、致し方ないな。ターンエンドだ」

「俺のターン! 俺は『ツインバレルドラゴン』を召喚!」

 

『ツインバレル・ドラゴン』

闇/機械族

ATK1700/DEF200

 

 新たに呼び出された鉄竜は『リボルバー・ドラゴン』や『ブローバック・ドラゴン』よりも比較的小さいが、頭部には同様の凶器を備えていた。

 

「コイツの効果は2回コイントスを行い、両方で表が出た場合、相手フィールドのカード1枚をブチ抜くことができる。さあ、シリンダーが回転するぜ!」

 

 キースもまた、自らの決闘スタイルを貫いていた。毎ターン発動可能な破壊効果を持つ機械族モンスターを維持し、敵のフィールドを破壊し尽くして制圧する。直接戦闘ではなく、効果破壊で確実に敵の戦力を削ぐ。

 そういう意味では、戦闘時に効果を発揮し、展開したモンスター同士の連携を重視する『六武衆』は相性が悪いと言えた。

 剣と銃なら、やはり剣の方が不利か。アーサーは固唾を飲んで効果の結果を見守った。

 

「ちっ……」

 

 キースは舌打ちした。『ツインバレル・ドラゴン』の効果が不発に終わったのだ。アーサーはほっと息を吐いたが、まだ本命が残っている。

 

「続けて『リボルバー・ドラゴン』の効果だ!」

 

 黒光りする銃口が『イロウ』へ向けられ、弾倉が静かに回転を始める。そして響いたのは、2発分の装填音。キースは下卑た笑みを浮かべながら、今度は楽しげに指を鳴らした。

 

「Fire!」

 

 大口径のマグナム弾に撃ち抜かれ、侍の体は粉々にちぎれ飛んだ。そのまま銃口は『カモン』へと向けられる。

 

「さらに『リボルバー・ドラゴン』で『六武衆-カモン』を攻撃! ガン・キャノン・ショット!」

 

 引き上げられた撃鉄が落ち、今度は三連発で凶弾が放たれた。

 

「くっ……リバースカード、オープン! 『和睦の使者』を発動!」

 

 みすみす攻撃を受けるわけにはいかない。アーサーは即座に罠カードを開く。不可視のバリアによって、弾丸ははじかれた。

 

「悪足掻きを……俺はこれでターンエンドだ」

 

 1ターンの攻防が終わる。アーサーは時計をちらりと見てから、デッキトップに指を添えた。

 

「私のターン、ドロー! ……ところで、きみにひとつ聞きたいことがあるのだが?」

「なんだ? 命乞いなら受け付けねぇぞ、クソジジイ」

「いやいや。老婆心からくる単純な疑問だよ。1度は全米チャンプに上り詰めたほどの男が、なぜこんな犯罪行為に手を染めているのか……というね」

「……聞かなくてもそんなことは分かってんだろうが!」

 

 キースの拳は、目に見えて震えていた。

 

「ペガサスの野郎に負けた時から、俺は全てを失った! 金も栄光も、全てだ!」

 

 キースはとりわけ『デュエルモンスターズ』というゲームが好きなわけではない。ただ偶然、はじめてみたゲームの才能が自分にあっただけであり、カードに対する信頼や愛着などは爪の先ほども持っていなかった。キースが欲しかったのは、勝利に付随する富と名声だけだ。

 ペガサス・J・クロフォードはたった一夜、たった一回の決闘でそれを奪い去った。

 

「ペガサスの野郎への復讐を成し遂げない限り、俺の怒りは収まらねぇ。必ずヤツをぶっ倒して、俺の前に脆かせてやるのさ!」

 

 声も高らかにキースはそう言ったが、アーサーは彼の言葉に違和感を覚えた。

 言いたいことは分かる。キースの目的は嘘偽りなく、ペガサスへの復讐だろう。事実、この男はその為に1度は『決闘王国』まで赴いて来たと、アーサーはペガサス本人から聞き及んでいた。結局ペガサスには指一本も触れることができずに、海に落とされたらしいが。

 

「ペガサス会長への復讐。それできみは、今回の襲撃にも加担した、と?」

「そうだ! このロケット打ち上げを阻止すれば……」

 

 急にキースは、言葉を詰まらせた。

 

「阻止すれば……」

「阻止すれば……なんだね?」

 

 やはり、おかしい。

 アーサーは手で頭を押さえるキースを、じっと見詰めた。

 今回のロケット打ち上げは、海馬コーポレーション主導で行われている計画だ。インダストリアル・イリュージョン社も提携企業として名を連ねているが、裏を返せばそれだけである。イベントに参列するのも、元々アーサーの予定だった。ペガサスが来日するとは、どこのメディアでも報じていない。

 つまり、キースがこの襲撃に加わるには、動機が薄すぎる。少なくとも彼にとって、リスクとリターンが釣り合っているとは思えない。

 もちろん、金で雇われたということもあるだろう。それならそれで、アーサーの質問には白を切ればいいのだ。何も、頭を抱えて悩む必要はない。

 

「阻止すれば……提携しているインダストリアル・イリュージョン社の損害にも繋がる……ペガサスの会社の痛手になる……そうだ……だからこの計画を潰してやるんだ!」

 

 虚ろだった瞳に、生気が戻る。なるほど、とアーサーは心の中で頷いた。

 そういう『刷り込み』をされたのか。

 

「ああ、理解したよ。もう喋らなくていい」

「あぁん?」

「裏に誰がいるにしろ……きみという男が、過去の栄光にすがりつき、復讐しか考えられない哀れで器の小さい人間なのはよく分かったからな」

「て、テメェ……」

「私のターン、ドロー! 私は2体目の『六武衆-ザンジ』を召喚。そしてこのカードは自分フィールドに『六武衆』が2体以上存在する時、手札から特殊召喚できる」

 

 アーサーは手札から、そのモンスターを引き抜いた。年甲斐なくはしゃぐのも、たまには悪くない。

 久々の出陣だ。

 

「武士(もののふ)を統べる魔王。いざ、参らん!『大将軍紫炎』を特殊召喚!」

 

 天下布武。

 武を持って義を為す、天下人が刀を抜いた。

 

『大将軍紫炎』

炎/戦士族

ATK2500/DEF2400

 

「ソイツが大将か……けど所詮、攻撃力は2500止まり。『リボルバー・ドラゴン』には届かない!」

「ならば届かせる。装備魔法『団結の力』を『大将軍紫炎』に装備!」

 

『大将軍紫炎』

ATK2500→4900

 

 配下の力を得て、爆発的に『紫炎』の力が増す。

 

「鉄クズを切り捨てろ、紫炎!」

 

 一刀両断。

 携える名刀は『リボルバードラゴン』を――

 

「舐めんな、クソジジイ」

 

 響いたのは切断音ではなく、刃を受け止めた音だった。

『リボルバー・ドラゴン』

ATK2600→5200

 

「これは……」

「リバースカード『リミッター解除』だ」

 

 名実共に知られている、機械族の切り札。コンバットトリックにも利用できる速攻魔法。

 アーサーは目を細め、口元を歪めた。

 

「ほう。『リミッター解除』か。さすがだな」

「残念だったなぁ! これで……」

「だが甘い」

「ッ?」

「その程度は想定の範囲内だ」

 

『大将軍紫炎』

ATK4900→5600

 

 1度距離を取った侍大将は、凄まじい速度で再び『リボルバー・ドラゴン』に突っ込む。

 

「コンバットトリックがそちらだけと思うなよ。速攻魔法『突進』を発動させてもらった」

 

『突進』

速攻魔法

モンスター1体の攻撃力をエンドフェイズまで700ポイントアップする。

 

「くっ……まだだぁ! こちらも、もう1枚のリバースをオープン!」

 

 が、キースのリバースカードは開かない。

 

「どうなってやがる!?」

「私の『大将軍紫炎』の能力だ。相手プレイヤーは、1ターンに1枚しか魔法、罠カードを使用できない」

 

 今度こそ。

 鉄竜の首が、まるで元々繋がっていなかったかのようにすっぱりと落ちた。

 

キース LP3000→2600

 

「クソッたれがぁ……」

「クソとしか罵倒する言葉が思い浮かばないのか。盗賊はもっと賢しくあるべきだぞ。『ザンジ』で『ツインバレル・ドラゴン』を攻撃! さらに『カモン』でダイレクトアタック!」

 

 『ザンジ』が切り開いた進路に『カモン』が飛び込み、キースに向けて爆撃の雨を浴びせた。

 

「うぉおお!?」

 

キース LP2600→2500→1000

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

 涼しい顔でアーサーはターンを終えた。

 

アーサー LP1700 手札1

《モンスター》

大将軍紫炎

六武衆-カモン

六武衆-ザンジ

《魔法・罠》

神速の具足(発動中)

団結の力(紫炎装備)

リバース1

 

キース LP1000 手札0

《モンスター》

なし

《魔法・罠》

リバース1

 

 場、手札、ライフポイント。全て鑑みても、どちらが優勢かは火を見るより明らかだった。

 

「なんでだよ……」

 

 キースは呻いた。

 

「どうして元アメリカチャンプの俺様が! テメェみたいなジジイに追い詰められなきゃいけねぇんだ!?」

 

 キース・ハワードは、バンデット・キースは、もっと強い、強いハズなのに。

 肩で息をするキースに対して、アーサーはあっさりと言い放った。

 

「きみが弱くなったからだろう」

 

 弱い。

 キースの頭の中で、その言葉が反響した。

 そんなことは、ない。断じて、ない。全米チャンプにまで上り詰めた自分が、弱いわけがない。

 

「俺は負けねぇ……俺のターン、ドロー!」

 

 デッキから、カードをドローする。正確には、デッキから、ではない。リストバンドに仕込んであるカードから、ドローした。

 アーサーは相も変わらず涼しい顔でいた。キースが何をしたのか、全く気づいていない様子だった。

 

「ぶっ殺す……魔法カード『オーバーロード・フュージョン』発動!」

 

『オーバーロード・フュージョン』

通常魔法

自分フィールド上・墓地から、 融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを ゲームから除外し、機械族・闇属性のその融合モンスター1体を 融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する。

 

「俺は墓地の『リボルバー・ドラゴン』と『ブローバック・ドラゴン』を融合!」

 

 武装を重ねた結果、肥大した重量を支える為に下半身は車輪に。しかし武装は、より強力な三門のガトリング砲へパワーアップを遂げていた。キースのデッキ最大のモンスターが今、フィールドへ進撃する。

 

「『ガトリング・ドラゴン』を融合召喚!」

 

『ガトリング・ドラゴン』

闇/機械族

ATK2600/DEF1200

「リボルバー・ドラゴン」+「ブローバック・ドラゴン」

コイントスを3回行う。表が出た数だけ、フィールド上のモンスターを破壊する。この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

 

 『リボルバー・ドラゴン』と比べて、攻撃力に変化はない。その代わり、効果は段違いに強力なものになっている。

 

「『ガトリング・ドラゴン』の効果発動!」

 

 銃身の回転が始まる。3体全てを破壊する確率は八分の一。即ち12.5%。2体、もしくは1体を破壊する確率は37.5%。さらに言えば、失敗に終わる確率も12.5%だ。

 結果はすぐに分かった。全砲門への給弾音が、同時に響いたのだ。

 

「なっ……!?」

「そうだ! 俺はまだ運に見放されてねぇ! 全弾ぶち込め、ガトリング・ドラゴン!」

 

 全三門のガトリング砲が、一斉に火を吹いた。ガトリングの連射性能は毎分3000発を優に越える。刀一本で防御など、できるわけがない。銃弾の雨を全身に浴びて、3人の侍は倒れ伏した。その効果のあまりの苛烈さに、フィールドに粉塵が舞う。

 

「……さすがにこれは想定外だ」

 

 『大将軍紫炎』には、フィールドの『六武衆』を身代わりにして破壊を免れる効果がある。だが、今回のような同時に破壊する効果からは、逃れることはできない。

 

「想定外か! ならそのままテメェも蜂の巣になっちまいな! 『ガトリング・ドラゴン』で……」

 

 攻撃を宣言しようと、振りかざした手をキースは止めた。粉塵が晴れた先に、アーサーを庇うようにして立つ人影があったからだ。

 

「想定外と言っても、応じる手がないわけではない。リバーストラップ『六武衆推参』を発動した。効果で『六武衆-ヤリザ』を守備表示で特殊召喚する」

「ぐっ……だったらそのザコを攻撃だ。ガトリング・キャノン・ショット!」

 

 再び降り注ぐ銃弾の雨。『ヤリザ』は一歩も引かず、身を呈してそれを一身に受け止めた。

 

「……すまん、ヤリザ」

「かっ! 何が『すまん』だ! カッコつけやがって。死んだモンスターに謝って何か変わるのか? 馬鹿馬鹿しい! モンスターなんざ、ただの手駒だろうが!」

「…………」

 

 形成は逆転した。たった1ターンで、アーサーのフィールドのモンスターは全滅だ。キースは肩の力を抜いて、アーサーを睨み付けた。彼の言葉を嘲笑い、表情を見て――

 

「馬鹿馬鹿しい……か」

 

 ――硬直する。

 口の中が乾く。冷や汗が噴き出る。サングラスの奥のキースの瞳まで見透かすように、アーサーの目は静かに怒りを滲ませていた。おそらくこの決闘で、彼がはじめて見せた、敵意。否、殺気だった。

 

「だから、きみは勝てないのだ。その発言、今すぐ訂正するか、さっさとターンを渡せ」

「……ターンエンド」

 

 インダストリアル・イリュージョン社の社長とはいっても、名ばかりのお飾りだとキースは思っていた。所詮はペガサスに実権を握られた、何もできない男だと。

 しかし、この男もペガサスと同じだった。ペガサスと同じ、底知れない『何か』を持っていた。

 

「私のターン」

 

 アーサーの指が、デッキトップに添えられる。達人の居合いの如く静かに、それでいて鋭く、彼はカードを引き抜いた。

 

「ドロー。私は魔法カード『死者蘇生』を発動」

 

 しまった、と。キースは反射的に墓地を見た。墓地には『ツインバレル・ドラゴン』がいる。もし奪われれば、確率は低いが『ガトリング・ドラゴン』が破壊される恐れが……

 

「言っておくが、きみのモンスターを復活させる気はないぞ」

 

 アーサーに告げられて、思考が中断した。

 

「私は無粋な銃などより、美しい刀剣の方が好みなんだ。何よりも、きみのように天に運を任せる気もない」

 

 現れたのは、この決闘で3度目の対面となる槍兵だった。

 

「墓地より『六武衆-ヤリザ』を特殊召喚。さらに『六武衆-ヤイチ』を召喚、効果発動。効果でリバースカードを1枚破壊する。射抜け、ヤイチ」

 

 銃弾とは違う、たった一射。ただ一度で、リバースカードは貫かれた。

 

「『援護射撃』か。警戒しすぎだったな」

「俺が……」

 

 声が漏れる。情けないとは分かっていても、言わずにはいられなかった。

 

「どうして俺がッ……どうして俺がテメェなんかに!?」

「城之内克也に負けた時も、そう言ったのか?」

「それは……」

「カードを信じず、カードを愛さない決闘者に、勝利の女神は決して微笑まない。ましてや、モンスターに対して『死』などという言葉を使う男は、そっぽを向かれて当然だ」

 

 アーサーは何も言わなかった。しかし『ヤリザ』は主の意を汲み取り、動いた。

 

キース LP1000→0

 

「ジャストキル。ボーナスポイントが出なくて残念だよ」

 

 ソリッドヴィジョンが切れ、決闘盤の拘束が解ける。アーサーは倒れているキースに、ゆっくりと歩み寄った。床に膝をついて、決闘盤に残されたままの『ガトリング・ドラゴン』のカードを手に取る。

 

「本物か、惜しいな。カードは応えてくれたというのに」

 

 手首を見ると、やはりリストバンドにはカードが仕込まれていた。次に、デッキトップのカードを捲る。

 

「本当に……残念な男だ」

 

 カードは放り捨てず、キースのデッキトップに表で戻す。アーサーは立ち上がり、そのままこの場を立ち去った。

 次のドローカードは『オーバーロード・フュージョン』だった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「なんだ……それは」

 

 『ホルス』が攻撃したモンスターの正体を見て、百野真介は呟いた。

 

「何を驚いている?」

 

 普通のデッキなら、どうということはない。だがそのモンスターは、ラルフのデッキには投入されていない筈のカードだった。

 

「『グリズリーマザー』など、ありきたりな『リクルーター』だろう」

 

 破壊されたそのモンスターを墓地へ送りつつ、ラルフはデッキスロットからデッキを引き抜いた。

 百野には、もうそのデッキが分からない。

 百野が知る『ラルフ・アトラス』のデッキには『グリズリーマザー』は投入されていなかった。

 つまり、アレはもう自分が『コピー』したデッキではないということだ。

 

「俺はデッキから、2枚目の『グリズリーマザー』を攻撃表示で特殊召喚。どうした? 決闘者がデッキを改良するのは当然だろう」

 

 形のいい眉を歪ませて、ラルフは不敵に笑った。

 

「自分の知らないデッキであることが、そんなにこわいか?」

「……言ってくれるじゃん」

 

 あからさまな挑発だ。ノッてやる必要はない。だが、あの『属性サイクル』のリクルーターは全て攻撃表示で特殊召喚されるのが特徴だ。百野のフィールドにはこのターンに追加で召喚した『火炎木人18』がいる。ここでダメージを重ねておくのは、悪い選択ではない。

 

「火炎木人! 攻撃表示のメス熊を叩き潰せ!」

 

 巨木のような……実際に燃焼中の大木である腕を振り上げ、木人は『グリズリーマザー』を叩き伏せた。

 

ラルフ LP2300→1850

 

「……3体目の『グリズリーマザー』を特殊召喚!」

「往生際が悪いっつーか、なんて言うか……オレはこれでターンエンドだよ」

「生憎、諦めが悪いのが性分でな」

「諦めが悪い、ねぇ」

 

 諦めない、と口で言うのは簡単だが、それを実行するのは想像よりも遥かに難しい。百野はその言葉が嫌いだった。

 他人のデッキをコピーし、本人よりうまく使いこなすようになると、周囲の人間は百野を当然のように糾弾した。中には、決闘中に決闘盤を放り出されたこともある。どいつもこいつも、自分の『デッキ』の力を100%引き出せていないせいだとは、考えもしなかったのだろう。

 だから、そんなヤツらよりもオレの方が100倍『デッキ』にふさわしいのだ。

 そんなことを考えて、百野真介はふと思った。これは、彼の言う『自分の考え』というやつに当てはまるだろうか。

 

「ねぇ……」

「待たせたな」

「へっ?」

 

 百野はそれをラルフに言うことができなかった。

 何故なら彼が、実に挑発的な……そそる目で、こちらを見詰めていたからだ。

 

「貴様に逆転をみせてやる」

 

 紡がれた言葉と同時、ラルフの周囲に3つの柱が立ち上った。水の二柱と炎の一柱。交わるはずのない、天敵とも言える2つの力は、しかしフィールドの中央で寄り合わさって1つになっていく。

 

「このカードは自分の墓地の水属性モンスター2体、炎属性モンスター1体をゲームから除外することで特殊召喚できる! 『氷炎の双竜(フロストアンドフレイム・ツインドラゴン)』を特殊召喚!」

 

 相反する力は完全に結合し、双頭の竜へと変貌を遂げた。

 

『氷炎の双竜(フロストアンドフレイム・ツインドラゴン)』

水/ドラゴン族

ATK2300/DEF2000

 

「なんだよ……なんだよなんだよなんだよ!」

 

 コピーし、完璧に使いこなすようになったと思っていたデッキから、全く予想だにしていなかったモンスターが飛び出してきた。

 

 おもしろい。

 

「すっげーじゃん、アンタ! そのデッキにそんなもんまで組み込んでたのかい!? サイッコーじゃん!」

 

 百野真介は心の底から歓喜した。

 コレはイイ。超クールだ。アツくなってきた。

 

「……その空っぽの頭に喝を入れてやる。『氷炎の双竜』の効果発動! 手札を1枚捨てることで、相手フィールドのモンスターを1体破壊する!」

「うぇ?」

 

 百野の間抜けな声を掻き消して、反発する力が混じりあったブレスは『ホルス』を凍てつかせ、焼き焦がした。

 フィールドを制圧していたモンスターは、呆気なく破壊されてしまった。

 

「『ホルスの黒炎竜』の弱点だ。単純に『モンスター効果』に弱い」

「いや、そのくらいは分かってるよ。けどあっさりそれをやられるとはね……まあ、いいよ。次のターンでまたロックしてあげるからさ!」

「次のターンが、あればな」

「……はい?」

 

 返事を待たずに、ラルフは攻撃を仕掛けた。

 

「『氷炎の双竜』で『火炎木人18』を攻撃! ブリザード・フレイム!」

「うっお!?」

 

百野 LP4000→3550

 

 急な衝撃に、百野は思わず仰け反った。痛みがあるとは雇い主から聞いていたが、想像以上だった。

 

「続けて『グリズリーマザー』でダイレクトアタック! さらに『サイクロン』を発動! 『王宮のお触れ』を破壊する!」

 

百野 LP3550→2150

 

「ぐっ……か」

 

 怒涛の攻めで完璧に見えた布陣が打ち崩されていく。呆然と、だが法悦として百野は攻撃を受けていた。

 信じられない。だが、それがイイ。

 盤面をひっくり返された。ならば今度は自分の番だ。相手のカードを最大限使いこなして、また逆転してやろう。

 しかし、百野は悟ってしまった。

 

「2つ目の弱点だ。『王宮のお触れ』で罠を封じる以上、ロックを崩されれば敵の攻撃は防御できない」

 

 ラルフ・アトラスのフィールドで、罠カードが開く。興奮でアドレナリンが回った脳でも、それがどんなカードなのかは理解できた。

 

「そして『お触れ』が消えれば俺は当然、追撃の罠カードも使えるわけだ」

 

 ――これは、オレの負けだ。

 

「リバースカード、オープン! 『レベル・ソウル』」

 

『レベル・ソウル』

通常罠

自分フィールド上のモンスター1体を生贄にして発動。自分の墓地の「Lv」と名のつくモンスター1体をゲームから除外し、そこに記されているモンスター1体を、召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。

 

「俺は『グリズリーマザー』を生け贄に捧げ、効果発動! 墓地の『ホルスの黒炎竜LV6』をゲームから除外し、デッキからそこに記されているモンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する!」

 

 白銀が煌めく。黒炎が螺旋を描いて渦を成す。

 

「『ホルスの黒炎竜LV8』を特殊召喚!」

 

 先ほどまで従えていた銀竜が、百野を見下ろしていた。

 

「……オレの時よりも、カッコいいね」

「当たり前だ。俺のデッキの、俺の切り札だ」

 

 完璧だったはずの『コピー』が超えられた。デッキの内容を変えていたのは、偶然かもしれない。だとしても、この対戦相手が己のデッキを容易く破ったという事実は揺るがない。

 百野は、目を輝かせてラルフを見た。

 

「アンタ……次は絶対倒すよ」

「頭に中身を入れて出直して来い! 神滅のブラック・フレア・ストリーム!」

 

 視界全てを染め上げる、黒き炎。全身に衝撃を受けながらも、百野は口元に笑みが広がるのを押さえられなかった。

 

百野 LP2150→0

 

 1ターンキル。

 叫びもあげずに倒れた百野に目を向け、ラルフは大きく息を吐いた。

 主義と主張は気に入らなくても、手練れだったことに間違いはない。

 

「こんなにも手間取るとはな」

 

 決闘盤を畳み、ワイヤーを引き抜く。腕時計を見ると、やはり時間が経過していた。

 

 ――2:32。

 

 ラルフの現在位置は、本棟へと続く道のちょうど中間地点。今から走って、10分で辿り着けるかどうかといったところだ。

 立ち止まっていても仕方がない。地面を踏み締め、ラルフは走り出そうと、

 

「う、お……!?」

 

 突然、視界がブレた。決闘のダメージがそこまで蓄積していたのか、と一瞬思ったがすぐに違うことが分かった。

 揺れたのは、ラルフが踏み締めた地面。地面が揺れたのは、衝撃が伝播したからだ。地震ではない。

 

「あれは……」

 

 今まさに、向かおうとしていた場所。打ち上げ施設の本棟から、煙が立ち込めていた。

 大地を揺らしたのは、爆発の衝撃だった。

 




『レベル・ソウル』はアニメオリカ。GXでは万丈目が使用。個人的にカード化を切望する1枚。
レベルモンスターの強化はよ……
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