「どうだ? 俺のコーヒーは?」
「あ、ハイ。おいしいです」
「ラルフはコーヒーにはやたら拘るからな~うまくて当たり前だぜ」
「黙れ、ルース。お前はコーヒー1つもまともに淹れられんだろう?」
「いや、普通の男にインスタント以外のコーヒーを淹れる技術を求めるなよ……」
『ブラック・マジシャン・ガール』を見せられた結果、カード開発部で肩身を狭そうにしていた創司を
「ちょっと来い」
とルール開発部まで引きずり、現在に至る。しかし、ここでも創司は小さく縮こまり、ラルフの淹れたコーヒーをすすっていた。まずは、創司の緊張をほぐした方が良さそうだ。ラルフはコーヒーのおかわりを注ぎながら、質問する。
「お前はどういった経緯で、ペガサス会長のスカウトを受けたんだ?」
「えーと……アトラスさんは……」
「ラルフでいい」
「……ラルフさんはコミケって分かります?」
「コミ……ケ?」
聞き慣れない単語の登場に、眼を白黒させるラルフ。ルースを振り返るが首を横にブンブンと振る。全く知らないらしい。
「やっぱり……こんな一流企業にはボクのことをわかってくれる人なんて……」
またまた勝手に縮こまる創司。かなり後ろ向きな男のようだ。どうしたものか……とラルフが思ったその時。
救世主が現れた。
「コミックマーケット。毎年8月と12月に東京ビッグサイトで3日間に渡って催される国内最大級の同人誌即売会です。要するに、アニメやマンガのファン達が作った本を売る、販売会っすね」
すらすらと聞いてもいないことを答えたのは……サイトウである。
「サイトウ!? 貴様いつからいた?」
「チーッス! 今さっき来ました!」
相変わらず軽い挨拶をするサイトウ。しかしこの軽薄な男に、創司はやっと味方がいた、とばかりに飛び付いた。
「にっ……日本人の方ですよね!?」
「イエース、ジャパニーズっす。はじめまして。斎藤卓也っす。まぁ、気軽にサイトウとでも呼び捨てにしてください」
「うれしいです!こっちに来てから日本人に全然会わなくて……心細くて……生水飲んでお腹も壊すし……」
「あ~俺もやったっす。日本感覚で飲んじゃいますよね~水道水」
「サイトウさんはアニメとか漫画は好きなんですか!?」
「そりゃあもう。こちとら日本原産のオタク男子っす。どんとこいって感じですね!」
「本当ですか! じゃあ……」
「待て! 待て待て待て!」
先ほどとは打って変わって饒舌になった創司とサイトウの会話を止めたのは、ラルフである。同じ国の者同士、話が盛り上がるのも分かるが、おいてけぼりにされても困る。
「すまないが積もる話はあとにして、ペガサス会長との話をだな……」
「あっ! すいません!」
「せっかくのオタクトークに口を挟むっすか……まぁ確かに、俺もペガサス会長との出会いは気になるっす。聞かせて貰っていいっすか?」
「は、はい! え~とですね……」
ぽつりぽつりと、創司は自分のペースで話し始めた。
―――――――――――――――――――――
ボクは見ての通り、絵を描く位しか取り柄がなくて、アニメや漫画が大好きだったんです。それでその……ラルフさんとルースさんは、よく分からないと思うんですけど、同人誌っていうのを描いてて……今回、コミケではじめて出せることになったんです。ボク、アニメや漫画以外に『デュエルモンスターズ』が大好きで……そういうイラストをいっぱい載せた本を出したわけです。そしたら、白髪をポニーテールにして、左目に眼帯、口髭をした、コスプレ外国人の方がきて……
「ユーのモンスター達はとってもキュートですね。しかも愛がこもっているのが伝わってきマース」
「そんな風に言ってもらえるなんて、嬉しいです! え~と、外国の方ですよね? 観光ですか?」
「私はアニメが大好きデース。日本はアニメ文化が進んだ、素晴らしい国だと思いマース」
そう言うと、そのコスプレ外国人の方は髭を取って、髪をおろしました。
「どうですか? 私の会社で働いてみませんか?ユーの様々なイラストをもっとみてみたいのデース!」
ボクはびっくりしてひっくり返りそうになりました……まさかその方が『デュエルモンスターズ』の生みの親、『ペガサス・J・クロフォード』だったなんて、思いもよらなかったんですから……
―――――――――――――――――――――
「……待て……待て待て待て……」
創司が話し終わると、ラルフは思わず立ち上がった。
「うちの会長はいったい何をしているんだ!? 日本出張に行ったのは知っていたが、いったいいつ? どの時間に? そんな場所に? コスプレ?までして行ったというんだ!?」
絶叫するラルフをまぁまぁとなだめつつ、ルースも苦笑いだ。
「でも、アーサー社長も言ってたぜ。ペガサス会長は日本に行くと浮かれて、ガードもつけずにすぐ抜け出すって。この前は勝手に築地?とか言う漁港に行って、『サシミ』を食ってたっていうし……」
「じ……自由過ぎる」
恐るべし、『ペガサス・J・クロフォード』である。
「さっすがー! ペガサス会長はそこらへんの経営者とは訳が違うっすね~」
「そういう問題ではない!」
「で、その後ボクは日本支社に連れて行かれて、面接、採用が決まったんです。ペガサス会長が特に気に入ってくれたイラストをカード化したら、すぐアメリカに出発して……今に至ります」
創司の話が終わり、ラルフは自分を落ち着かせようと、深呼吸した。どうやら海馬といい、ペガサスといい、大企業の経営者は頭のネジの1本や2本が外れてないと、勤まらないらしい。
「そのカードというのが、この『ブラック・マジシャン・ガール』というわけか」
ラルフは机の上に置かれた1枚のカードを手に取る。魔法使い族屈指のレアカード、『ブラック・マジシャン』と似た名前をしている。
「い、一応、ブラック・マジシャンのただ1人の『弟子』って設定なんです」
「『弟子』か……」
ぽつりと呟き、感慨深げにカードを見つめるラルフだったが、
「ひゃっふぅ~!」
『ブラック・マジシャン・ガール』は横から、かっさらわれてしまった。もちろん取ったのはサイトウである。
「金髪! パツキンの! 美少女魔法使いキター! こういうカード待ってたぁあああぁあああ!」
その場でピョンピョンと跳び跳ねるサイトウ。ちなみに、ラルフ達が話している周りにはルール開発部の社員達がいるのだが、1人残らず引いている。
「この瞳! この胸! 服装のこのデザイン! どれをとっても、強靭・無敵・最強!!」
海馬に聞かれたら、ぶん殴られるだけでは済まなさそうなセリフを吐きつつ、サイトウのテンションの高まりは、留まることを知らない。
「いやもう最高! 創司さん、別アングルからの設定画とかあるっすか?」
「あ……ハイ。ありますよ…」
「足の露出度ヤベー!」
創司からスケッチブックを渡され、イラストを狂喜乱舞しながら見るサイトウ。どうやら先ほど、カード開発部のジョン・ハイトマンに見せたものと同じスケッチブックらしい。ラルフとルースも、サイトウの後ろから覗き込む。そこには『ブラック・マジシャン・ガール』以外にも、様々な女の子が描かれていた。
「……本当に女性モンスターばかりなんだな」
「この『霊使い』っていう子達もめちゃくちゃかわいいっすね……」
「あー。俺はこの地属性のアウス?って子が好みだわ。なんか、ウチのマイハニーに似てるわ」
「ノロケはやめてくださいっす。俺は火属性のヒータちゃんですね。このツンデレな感じがなんとも……ラルフ先輩は?」
「俺は……ってそんなことをなぜ貴様に言わなければならんのだ!?」
スケッチブックを覗き込んで、ワイワイ騒ぐラルフ達。創司は彼らを嬉しそうに眺めていたが、すぐに溜め息をついた。
「皆さんにそうして楽しくイラストを見て貰えると、ボクは本当に嬉しいです。なのに……あのジョンっていう人は、ボクのイラストを認めてくれなくて……」
そう言ってネガティブなオーラを発散させる創司。ラルフは、スケッチブックを見て浮かんできた疑問をそのまま口にした。
「お前は女性モンスターしか書かないのか?」
「……ボクは女の子を書くのが好きなんです。ペガサス会長も、ボクのイラストをキュートだと言ってくれました!」
「ふん、なるほどな……」
否定も肯定もせず、ラルフは黙って腕を組む。その何か言いたげな様子を見て、創司もはじめてむっとした表情をみせた。
「ま、まぁまぁ。ジョンは堅物なんだよ。気にすんな!」
「そうっす! このイラストの良さが分からないなんてホントにセンスがないっす!」
他の2人が空気を変えようと、創司をフォローする。ラルフはギロリとサイトウを睨んだ。
「サイトウ……貴様、いつまでここで油を売っている?」
「え? なんすか唐突に?」
急に怒り出したラルフにポカンとするサイトウ。
「こんな所で遊んでいる暇があったら、とっとと仕事に戻れ!」
「いや……だから急になんでそんな……」
「とにかく! はやく仕事に戻らんかぁ!」
ラルフの怒声が響き渡る。創司はジョンとのやり取りを思い出して、身を縮ませた。
「はぁ~わかったっすよ~仕事に戻るっす……」
嫌々ながらも、サイトウはルール開発部の部屋から出ていった。
「……おいラルフ。急にどうしたんだ?」
ルースが訝しげに問うが、ラルフはそれには答えず、創司の方を向いた。今度は自分が怒鳴られる番かと、創司はビクビクする。
「ついて来い」
「……え?」
予想に反しての静かな一言に、呆気にとられた。
「今からお前に足りないものを教えてやる」
そう言うとラルフも歩き出し、ルール開発部から出ていく。
「あ……ちょっと待ってください!」
慌ててあとを追う創司。1人残されたルースは、溜め息をついた。
「ま~た始まったよ……ウチのリーダーのお節介が……」
愚痴るような口調とは裏腹に、ルースはどこか嬉しそうに笑った。
◆◇◆◇
「なぜボク達はこんなことを……?」
「黙っていろ。そろそろ来るぞ」
10分後、ラルフと創司はデュエルリングの側にいた。しかし、2人の姿は誰にも分からない。なぜなら……
「どうして……ダンボールを被って隠れる必要があるんですか?」
「安心しろ。俺にも考えがある」
デュエルリングの側には、ソリッドヴィジョン用の機材を収めたダンボールが積まれており、その中の1つにラルフと創司は紛れ込んでいた。
「狭いんですけど……」
「我慢しろ」
「これじゃまるでスネークだ……」
「スネーク?」
「気にしないでください……」
創司の頭には、特殊スーツを着た歴戦の傭兵の姿が浮かんだ。当然ながらラルフには、なんのことやらさっぱり分からない。
「……来たぞ」
「えっ?」
ラルフに促され、覗き穴から外を見る。
「る~るる~ふ~ふ~ん!」
調子外れな鼻歌を歌いながら入ってきたのは、やはりこの男。サイトウである。
(サイトウさん…?どうでもいいけど音痴ですね…)
(あぁ…相変わらず、音痴だな…)
ダンボールの中でコソコソと、サイトウの歌唱力に勝手な批評をつけるラルフ達。
「あのクソ金髪め……性格に問題があるから、イケメンでも彼女ができないんすね……ププっ!」
ガタガタッ!!
「ん? 何か動いた気が……? 気のせいっすね……」
サイトウは首を傾げるが、そのままデュエルリングに上がって行く。
(ラルフさん、抑えてください !静かにしろって言ったのはラルフさんでしょう!?)
(HANASE! アイツに一発入れなければ気がすまん!)
「よぉ~し。仕事しますか。今日はこの子からっすね……」
デュエルリングに上がったサイトウは、そう言ってカードを置いた。
「『味方殺しの女騎士』ちゃん、召喚!」
ソリッドヴィジョンが起動し、大剣を持った女騎士が現れる。その攻撃力は2000。レベル4としては、破格の攻撃力である。
「う~ん。自分のスタンバイフェイズごとに自分モンスターを生け贄に捧げる効果っすか……ヤンデレっぽいっすね……初期召喚動作にプレイヤーに向けて舌打ち……自分モンスターを生け贄に捧げる時は、サディスティックな笑み……ムフフ」
(……すごい。モンスターに命が宿っていく…)
(あいつはこれに関しては天才だからな……)
着々と動作がプログラミングされていく女騎士の姿に、創司は感嘆の声を洩らした。
(サイトウさんは……好きなことをして、楽しそうですね。ボクも、自分の好きなイラストを書いて……それを仕事にできると思ってたのに……)
(……それだ)
(えっ……?)
(お前は、そういう考えが甘い。次のサイトウのモンスターをみてみろ)
「はぁ~あんまりやりたくないんすけどねぇ~愚痴っても誰が聞いてくれるわけでもないし、さっさとすませちゃいますか……」
本当は約2名に聞かれているのだが、そんなことは露知らず、憂鬱そうに呟くサイトウ。
「『女帝カマキリ』召喚っと……」
デュエルリングに現れたのは巨大な昆虫。腕に鋭利な鎌を備えた、カマキリムシだ。
(あれは……虫カゴ?)
思いもよらないものを取り出したサイトウに、創司は眼を丸くした。中には昆虫の『カマキリ』が1匹入っている。
「……脚はもうちょい長めの方がリアルだな……動作も最初は少し緩慢な感じにして……」
(昆虫の動きを実際に見ながら……研究してる?)
(これが、お前とサイトウの『差』だ)
(……『差』ですか?)
(あいつは女性モンスターが大好きで、ソリッドヴィジョンシステムの開発チームに入ったそうだ。そういう点では、女性モンスターのイラストが大好きで、うちの会社に来たお前とよく似ている)
(……はい)
(だがあいつは……女性モンスターのグラフィックデザインしかやらないわけじゃない。どんなモンスターに対しても、分け隔てなく全力で取り組む。たとえ大嫌いな昆虫族だとしてもな……)
「あぁ~もう! とっとと動けよ、このカマキリ! 動作が分からないっす! さっさと逃がしたいのに!」
サイトウは虫カゴを覗きながらぼやく。創司はその姿をじっと見つめる。そういえば、ペガサス会長は自分をスカウトする時に、なんと言っていたか?
『ユーの様々なイラストをもっとみてみたいのデース!』
様々なイラストを……
自分の描いた、様々なイラストを……ペガサス会長は望んでくれた。それはきっと『キュートなカード』だけではない。
「分かりました」
創司が立ち上がる。当然ダンボールからは出た。突然現れた2人に、サイトウはびっくり仰天だ。
「うわっ!? 創司さんと……ラルフ先輩!? な……なんでダンボールに?」
「サイトウさん! ありがとうございました! サイトウさんの仕事に対する姿勢、学ばさせてもらいました!」
「へっ? え? 姿勢……? どういうことっすか?」
「ラルフさん! ボクはこれで失礼します!」
「ああ」
意気揚々と出ていく創司。もうネガティブなオーラなど微塵もない。やる気に溢れた、1人のイラストレーターの姿がそこにはあった。もう大丈夫だろう。だから、ラルフは最後に1つだけ、言うことにする。
「創司」
「はい?」
「お前のイラストは本物だ。自信を持て! ジョンを見返してやれ!」
「……はい!」
意気揚々と出ていく創司の背中を見送ってから、サイトウは呟いた。
「なんか、俺……ダシに使われました?」
「滅多にないことだ。誇れ」
「……やれやれだぜ」
まるでルースのように肩を竦めるサイトウは、やはりどこか楽しげだった。
◆◇◆◇
翌朝。出社したラルフを待っていたのは、朝から廊下に溢れ返り、盛り上がる同僚達だった。
「どうしたこれは!? なにがあった?」
「おぉラルフ。遅かったな」
「ルース! これは一体なんの騒ぎだ!?」
「おう、ラルフ。あの自信なさげなボウズが、随分と大胆なことをしてくれたぜ」
ルール開発部とカード開発部をつなぐ廊下。その壁一面に、オールカラーのイラストが貼り出されていた。
「すご~い。カワイイ~」
「こっちの戦士族っぽいモンスターなんか、すげぇかっこいいぜ!」
「ひゃふぅ~朝から萌えイラストがたくさんっす!」
「これ、あの日本人が描いたんだろ?」
「遠藤創司……ペガサス会長が引き抜いただけあるな」
「それにすごい量だわ。気弱そうに見えたけど、ガッツもあったのね!」
「こっちの機械族なんか、男のロマンをよくわかってるっす!」
「グゥレイトだぜ!」
貼られているイラストは、女性モンスターだけではなかった。機械族、ドラゴン族、昆虫族、恐竜族、爬虫類族。昨日の創司のスケッチブックにはなかったモンスターが、大量にいる。
「えぇい邪魔だ! 通してくれ! なんの騒ぎだ!?」
盛り上がる社員達をかき分け、出てきたのはジョン・ハイトマンだ。壁に貼り付けられたイラストに眼を見張る。
「これは……」
「ボクがやりました」
「君が……?」
「はい」
ジョンと同じく、社員達の中から出てくる創司。目元にはクマができ、疲れた顔をしているが、昨日はなかった凄みがある。イラストの作者の登場に歓声が上がった。
「勝手にこんなことをして……」
「はい。すいませんでした。昨日のことを含めて、謝罪させてください」
「謝罪……?」
ジョンは困惑する。この男は何を言いたいのか?
「ボクは今まで、自分の好きな様に、好きなイラストを描いてきました……」
これまではそれで良かった。イラストを描くことは、ただの趣味だったのだから。しかし今は違う。今、遠藤創司は……
「ボクは今、インダストリアル・イリュージョン社、カード開発部の社員です」
仕事には責任が伴う。昨日、創司はサイトウに教えてもらった。自分の長所を会社で活かすのに、仕事の選り好みなんてしていられない。
「どんなイラストでも、全力で描きます。認めてくれる様なイラストを描いてみせます」
創司が手に持ったスケッチブックを広げる。そこには大剣をもった『竜破壊の剣士』さらに、屈強な体つきをした『雷撃の戦士』が描かれていた。全くタッチが違うイラストを描く創司の画力は、見事と言う他ない。
「『バスター・ブレイダー』と『ギルフォード・ザ・ライトニング』です」
「……すごいじゃないか。で、僕にどうしろと?」
「……今朝、ペガサス会長に会ってきました」
「会長に?」
「はい。この2つのイラストのカード化と……『ブラック・マジシャン・ガール』を『武藤遊戯』に送る件で話をしてきました」
社員達に驚きが広がる。『武藤遊戯』といえば、決闘王国でペガサスを破った、今や最強の呼び声が高い決闘者だ。確かに『ブラック・マジシャン』を切り札として扱う彼ならば、『ブラック・マジシャン・ガール』を使いこなせるだろう。
「だから……」
「……あぁ! 分かった! 分かったよ!」
ジョンはまるで、降参だ、と言いたげに両手を上げた。
「僕が悪かった。昨日はすまなかった! 君のイラストは素晴らしい。認めよう!君は我がカード開発部の一員だ!」
創司を包み込む拍手。晴れてカード開発部に迎え入れられた創司を見て、ラルフは嬉しかった。
「あ、そっちじゃないです」
「……は?」
その場を包む沈黙。
「いや、その……もちろん開発部の一員として認めて頂けるのは、嬉しいんですけど……」
固まっているラルフ達をよそに、ポリポリと頭をかく創司。
「昨日、ジョンさんは決闘に萌えは必要ないって言ってたじゃないですか……」
そんなこと言ったっけ……と、記憶を探るジョン。頭に血が上っていたので、よく覚えてないが、言った様な気もする。
「他のモンスターのイラストも手は抜きません! 全力で取り組みます! 決闘に萌えは必要です! だから……」
その日1番大きな声で、創司は叫んだ。
「ボクに萌えカードを描かせてくださいっ!」
そっちかよ。
その場にいた全員が、そう思ってずっこけた。
◇◆◇◆
その日の夜、ラルフは社内の廊下を歩いていた。まだ12時をまわってないので、家に帰ろうと考えていた。
「ん?」
左の方から光が漏れている……完全にデジャヴである。
「まさか……な」
光が漏れている方へ進んでいく。ここまでは一昨日と完全に同じ流れである。
「いや~嬉しいっす。『ブラック・マジシャン・ガール』のグラッフィックデザインと動作プログラムをやらせて貰えるなんて!」
「とんでもないです。サイトウさん以外に任せられる人はいませんよ」
「はっは~! そうすか? 照れるっすね~」
……1人増えている。ラルフはまた怒鳴りこもうと考えたが……やめにする。
「仲間が増えるのは……いいことだ」
今日は見逃してやろう。そう思い、立ち去ろうとしたラルフだったが……
「ちょ、ダメですよ! サイトウさん。そんなポーズは……」
「まぁまぁ、かたいことは言わずに……ほれ、こんなのはどうすか?」
「いや……本当に……ダメ……すいません。もっとやってください」
「そうっすよね~二次元なのに三次元! ソリッドヴィジョン万歳!」
「万歳!です」
……そうだな。やはり止めだ。
バァン!!
勢いよく扉を開くラルフ。部屋の中には、なんというか……あられもないポーズをした『ブラック・マジシャン・ガール』とそれに興奮する男(バカ)が2人。
「何か言い残すことはあるか?」
「ラルフ……先輩」
「ラルフ……さん」
後退する2人。うしろの『ブラック・マジシャン・ガール』がホッとした様な表情をみせているが……気のせいだろう……
「え~と」
「なんというか……」
サイトウと創司は顔を見合せ、口を揃えて言った。
「「萌えって最高ですね!」」
「ふざぁけるなぁあぁあああ!」
深夜のインダストリアル・イリュージョン社に、ラルフの雷(サンダー・ボルト)が轟き、落ちた。