ルール改定に駆けた男のロード   作:龍流

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最近の遊戯王は本当に面白いと思います。
沢渡さんがあそこまでのエンターテイナーだったとは…

ただ1人、闇堕ちフラグと顔芸が凄まじい人がいますね…心配で仕方ないです…

 1/28 本文の段落整理と改稿を行いました。


07.「君の勇気に敬意を表する」

 遊園地は子供にとってパラダイスだ。夢の国と言ってもいい。観覧車、メリーゴーランド、ジェットコースター。多種多様なアトラクションが、子供達を魅了する。あちこちで弾ける、笑顔と歓声に、大人まで楽しくなってくる。それが、遊園地という空間だ。

 

「子供はいいな。ルース」

 

「あぁ。みているこっちまで心が洗われる様だぜ」

 

「俺達は子供達にこんな笑顔を届ける為に、仕事をしているんだ」

 

「あぁ、全くだ。俺もはやく子供が欲しいぜ。デュエルモンスターズで思いっきり遊ばせてやるんだ」

 

「だが1ついいか? ルース?」

 

「なんだ? ラルフ?」

 

「なんで俺達は、せっかくの休日に……男3人で遊園地に来ているんだろうな……」

 

「……」

 

「答えろ、答えてみろ! ルース!」

 

「あぁ! 答えてやるよ! テメェがせっかくの休日に、俺を遊園地に誘いやがったからだろうが!」

 

 休日の遊園地のど真ん中で、喧嘩を始める男2人。ラルフ・アトラスとルース・フォックスターは、周囲の子供達の注目を集めていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 そもそもの始まりは、ラルフのもとに届いた一通の手紙だ。

 

『親愛なるラルフ・アトラスへ』

 

 自分に手紙とは珍しい。若干警戒しながら、ラルフは封を切る。

 そして、結果としてその警戒は正しかった。

 

 

『元気にペガサスの僕として働いているか? 今回貴様に手紙を出したのは、他でもない。我が海馬コーポレーションが誇る、最高のテーマパーク、『海馬ランド・アメリカ』がついに完成した。ついては貴様ら、インダストリアル・イリュージョン社からモニターとして3名を無料招待する。有り難く思うがいい。同封したチケットの他に、後日報告用紙を送付する。まとめたら、海馬コーポレーションまで郵送しろ』

 

 海馬瀬人からである。

 なるほど。海馬コーポレーションの『世界海馬ランド計画』は順調に進んでいるようだ。バトルシティまであと1ヶ月を切っている。ずっと働き詰めだったし、ここで休みをとるのもいいだろう。

 

「問題は誰を誘うか……だな……」

 

 自分以外にあと2人。個人的な友人であるルースは誘うとして、もう1人。たまには職場の女性でも誘ってみるか、とそう思ったラルフだったが……

 

『PS.独身の貴様にデート感覚で行かれても、困るのでな。用意したチケットは『男』3枚だ。精々楽しみながら報告書をまとめあげるがいい』

 

「ふざけるなぁあぁ! なんの嫌がらせだ!?」

 

 脳内で「ワハハハハ!」という幻聴を聞きながら、ラルフは手紙をビリビリに引き裂いた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「……というわけだったな」

「あぁ。俺達が争ってもしょうがねぇ。悪いのは全部あのクソ社長だ。ケンカするのはやめよう」

 

 争いの原点を思い返し、クールダウンする2人。結局ラルフはルースに頼み込み、この遊園地……もとい『海馬ランド・アメリカ』に着いてきてもらったのだ。

 

「だが、そもそもなぜチケットに『男』や『女』があるのだ!?」

「確かに普通は『大人』とか『子供』だよな」

 

 首を傾げるラルフとルース。そんな2人の元に、哀れな男3人の遊園地ツアーの、最後の1人が戻ってきた。

 

 

 

「なんだ……君達はそんなことも知らないのか……海馬ランドは、原則子供の入場料は無料の遊園地だ。しかしそれでは採算が取れない。そこで、海馬社長はチケットの種類に『大人』だけでなく、『男』と『女』を作り、女性のチケットの値段を安めに、男性を高めに設定した。アメリカはレディファーストの国だ。男性側が女性のチケットの値段を持つことも折り込み済み。また、男性だけで遊園地に行くことなど滅多にないが……女性だけならある。女というのは、他より少し値段が安いと、すぐ財布のひもが弛むからな。普通の経営者なら女性側を高くするんだろうが……この値段設定は世間の受けもいい。やはり海馬社長は策士だな」

 

 ペラペラと聞いてもいないことを喋るこの男。首からは海馬ランド限定の『ブルーアイズポップコーン』のケースを下げ、手にはマップガイド。頭には同じく海馬ランド限定の『ブルーアイズ・キャップ』を被っている。随分と楽しそうだ。この男は3人の中で唯一、純粋に、遊園地を満喫していた。

 

「……なぜお前は、そんなにエンジョイしているんだ……ジョン」

 

 呆れ顔でラルフにそう問われた男、ジョン・ハイトマンは、ふんっと小馬鹿にした様に鼻を鳴らした。

 

「何を言っているんだ、ラルフ。僕は君に誘われたから仕方なく来ているんだ。別に楽しんでなどいないさ」

「そういうことは自分の格好を見てから言え……」

「ん? 遊園地に来てポップコーンを買うことの、何がおかしい?」

「いや……ポップコーンはまだしも……その帽子はねぇだろうよ」

「これかい? おみやげコーナーを覗いていたら、店員によく似合うと言われたんだよ……仕方なく買ってしまった」

「分かった、もういい……」

 

 ラルフは元々、カード開発部のジョンとは、あまり仲が良くなかった。むしろ「なぜこんな効果でデザインしようとした?バカかお前は!?」などとケンカを繰り広げることも日常茶飯事である。故に…ジョンの隠されていた一面が、意外でしょうがない。どうせ断られるだろう、とダメ元でジョンに尋ねた時、「分かった。行こう」と言われた時は耳がおかしくなったのかと思った。

 

「さぁ、何をグズグズしているんだ。僕達は報告書を書かなければいけないんだろう? さっさとアトラクションをまわるぞ」

 

「な……に?」

「え……マジで?」

 

「マジだ」

 

 アトラクションを全てまわる。それは要するに、家族連れやカップル、子供達の中に男3人で並ぶ……というわけで……

 

「「いやだ」」

 

「ダメだ。さぁいくぞ!」

 

 スキップしそうな勢いのジョンに引きずられながら、ラルフとルースは、別のやつを誘えばよかった……と強く思った。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「つ……疲れた」

「し……視線が痛かった」

 あらかたのアトラクションを周り終わり、ラルフとルースはグッタリした顔で歩いていた。

 

「つうか、あの『ブルーアイズ・コースター』は迫力ありすぎだろ……」

「お前、意外と絶叫系苦手だったんだな……」

 

 とりとめのない話をする、ラルフとルース。ちなみに2人の前を歩くジョンは、とても満足気だ。

 

「何をしているんだい? 次に行くよ?」

 

「はぁああ?」

「まだ行くというのか!?」

 

「当たり前さ」

 

 

 

 胸を張るジョン。ふざけるな、と怒鳴ろうとするラルフだったが……

 

「きゃっ!?」

「おっと……!」

 

 ラルフにぶつかり、よろけた女性をルースが支えた。ラルフとは違った、色の薄いブロンドの髪。華奢で小柄な体は、儚げな印象を受ける。

 

「おいおいラルフ。結構混雑してんだから、周りをみようぜ」

 

 確かに改めて周りを見渡すと、午後になったせいか、かなり混雑している。さすが『海馬ランド』といったところか。ラルフはぶつかった女性に声をかけた。

 

「すまない。大丈夫か?」

「はい。大丈夫です」

 

 その女性はラルフ達3人を見回すと、首を傾げる。すると、心底不思議そうに呟いた。

 

「え……と。男の方だけなんですか?」

 

 グサリ。

 ラルフとルースの心に、何かが音をたてて突き刺さった。倒れそうになる体を、ラルフはなんとか支える。

 

「あの……『ブルーアイズ・ショー・ステージ』って、どっちなんでしょうか……?」

 

 そんなことは露知らず、道を聞く女性。場所の見当もつかない2人に代わって、ジョンが答えた。

 

「あそこに『アトランティス・スプラッシュ』が見えるでしょう? そこを左に行けば見えてきますよ」

「ありがとうございます!」

 

 女性は頭を下げて、走り去って行った。

 

「く……さっきの言葉は……痛い」

「気にすんなラルフ。お前だけじゃない。俺のメンタルポイントにも『昼夜の大火事』並みのダメージが入った」

「800ポイントか……」

「しかし、中々美しい女性だったな……誘えばよかった」

「おっ!? 珍しいじゃねぇか、ジョン。お前がそんなことを言うなんて」

「まあね。あの女性と僕達がこれから行く場所は、同じだからさ」

 

「「は?」」

 

 思わず声が重なったラルフとルースに、ジョンはパンフレットを見せる。

 

「次に僕達が観に行くのは『ブルーアイズ・ショー・ステージ』で2時から始まる、『スーパー・カイバーマンショー』だ!」

 

 再び固まるラルフとルースを、ジョンは意気揚々と引きずっていった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「ワハハハ! 今日はこの俺、カイバーマンの『スーパー・カイバーマンショー』によく来てくれたな!」

 

 時刻は2時。このショーの主役である『カイバーマン』の登場で、会場は歓声に包まれる。

 

 

「「「カイバーマーン!!!」」」

 

「感謝!感激!感動! 声援ありがとう! ちびっこの諸君! 今日は心ゆくまで楽しんでいくがいい……クックク、フフフ……ワーハッハハハハハ!」

 

「想像以上の大人気じゃねぇか……すげぇな」

「当たり前だよ。『カイバーマン』は『海馬ランド』屈指の人気キャラクターなんだから。カイバーマーン! すごいぞー! かっこいいぞー!」

 

「……ルース」

「何も言うな、ラルフ。今は耐えろ」

 

 歓声をあげるジョンの横で、ラルフは身を縮める。ルースに至っては、もはや神経が麻痺しているのか、何か悟ったような眼をしている。

 

「ふぅん……どうやら今日も、愚かな怪人が俺を倒しに来たようだ。しかし、俺は決して屈しない! この俺の未来へのロードは、こんなところで終わりはしない! 力を貸してくれっ! 会場の少年少女達よ!」

 

 

 会場に現れる怪人達。子供達から「キャー!」という声が上がる。

 

「カイバーマン! 今日こそお前を倒させてもらう!」

「貴様らは5人の悪の大幹部、『ビッグ・ワルダーファイブ』か!?」

「フハハハ!会場の子供達を人質にとらせてもらうぞ……」

「おのれぇえ! どこまでも卑劣な真似を!」

 

 カイバーマンの演技は非常にうまい。海馬瀬人の特徴をよく捉えている。しかしそれとは別に、ラルフには不思議に思うことがあった。

 

「……ルース。カイバーマンの声、どこかで聞いたことはないか?」

「ん? 気のせいだろ」

 

 ラルフの質問をあっさりと否定するルース。しかしラルフは確かに、カイバーマンの声に聞き覚えがあった。いつだったか……その時聞いた声は、もっと怯えた感じだった気がする。

 

「……むぅ。誰だったか……」

「いや。気のせいだろ?」「気のせいか……」

 

 その人物を思い出せず、悩むラルフだったが、考えることをやめた。とりあえずショーを楽しもうと、ステージに視線を戻した。

 

 その時、

 

「テメェら、動くんじゃねぇええ! コイツがどうなってもいいのか!」

 

 1人の男の怒声が、会場の楽しげな雰囲気を打ち壊した。

 金髪の少女にナイフを突き付け、男がステージに上がる。突然の出来事に、どよめきが広がった。

 

「なに!?」

「おい!? ヤバいんじゃねぇか!?」

「……ショーの演出ってわけでもなさそうだね」

 

 会場のあちこちで悲鳴があがる。ステージ上の怪人達も戸惑っていた。

 

「全員動くなぁ! 動いたらこいつを殺す!」

「……うっ、う」

 

 まだ4才位の少女の首にナイフを当てるその様子は、とても正気には思えない。

 

「こいつを殺されたくなかったら、ありったけの金とレアカードを持ってきやがれ!」

 

 男の言葉を聞いて、動き出す、会場スタッフ達。その様子を見ながら、ルースがジョンに話しかける。

 

「どうする? 俺らで取り押さえに行くか?」

「無理だろう。君達が荒事に慣れているのは知っているが、あんな小さな少女を人質に取られているんだ。賭けにしては分が悪い」

「……クソ」

 

 ナイフを持ったその男は、全身黒という服装。ギラギラとしたその眼は、いつなにをするか分からない。

 

「はやくしろ!!」

 

 乾いた音が、ラルフ達の耳を打った。

 会場に轟いたのは銃声。男の手には、黒光りする銃が握られている。ラルフは冷や汗をかいた。

 

「まずい……あの男、銃まで持っているぞ」

「あいつ、いったいどうやって、武器を持ち込んだんだ?」

「小口径のオートマか……射程も精度も低いが、銃も持っているとなると……くそッ!」

 

 男の銃を分析しながら、ルースは手に持っていた缶ジュースを握り潰した。銃声に怯え、ざわつく観客達。

 そんな状況で、1人の男の子が声をあげた。

 

「やめて! 人質ならぼくがなる!」

 

 そう言って立ち上がったのは、茶髪の男の子だ。震える手には、デュエルモンスターズのデッキが握られている。

 

「やめろ、少年!」

「本気か、あのボウズ!?」

 

 ラルフとルースが叫ぶが、茶髪の少年は止まらず、ステージへ上がっていく。

 

 

「ぼくが人質になるから……妹を……明日香をはなして!」

「お兄ちゃん!!」

 

 どうやら茶髪の少年は、今人質に取られている少女、『明日香』の兄らしい。

 

「そういうことか……」

「まずいな、今はあの犯人を刺激したくねぇ……」

 

 犯人はニヤニヤとその少年を眺めると、左手のナイフを明日香に突き付けたまま、右手の銃で手招きした。

 

「やめろ貴様ぁ! 人質なら俺がなる!」

「おい!? なに考えてんだ、ラルフ!?」

「君が出ていって、どうする気だ!?」

 

 止めようとするルースとジョンを振り切り、少年の近くまでラルフは飛び出した。しかし、犯人がそれを見逃すわけもない。

 

「テメェには出てこいなんて言ってねぇぞ! オッサンはすっこんでろ!」

 

 バンッ! バンッ!

 2度、銃声が響いた。

 

「ッ!!」

「ラルフッ!!」

 

 ジョンとルースが眼を見張る。

 

「……狙うなら、もっとよく狙え」

 

 つぅ……と、ラルフの頬から血が滴り落ちた。あと少しずれていれば、頭に直撃。死んでいただろう。

 ジョンとルースは、思わずほっと息を吐いた。

 

「オッサンが無理してんじゃねぇよ。これはヒーローショーだぜ? 子供が主役なんだよ。オッサンはそこから動くなぁ!」

「……分かった」

 

 ラルフと犯人の距離は、もはや10メートルもない。さっきは動いていたから運良く外れたが、この距離ならもう外さないだろう。ラルフは、これ以上近づくのをあきらめた。

 

「……さ、そこの優しい優しい妹思いのお兄ちゃん。こっちに来な!」

 

 犯人に言われ、少年が近づいていく。とうとう、ナイフが届く距離になった。

 

「……明日香」

「お兄ちゃん……」

 

「美しい兄弟愛だなぁ……まぁ、人質には持ってこいか?」

 

 見つめあう2人の兄弟を小馬鹿にしたように、嘲笑う犯人。少年は犯人に向かってデッキをつきだした。

 

「……なんのまねだ? ガキぃ……」

「ぼくのデッキをあげる。お前、カードが欲しいんだろ……だから、明日香をはなして、ぼくを人質にして!」

「……はぁああ?」

 

 犯人の眼がつり上がる。

 

 まずい。

 会場の誰もがそう思った。

 

「俺は『レアカード』が欲しいんだよ!ションベンくせぇガキのデッキなんているか!」

「だったら……」

 

 少年がキッと犯人を睨む。

 

「ぼくの明日香をとにかくはなせっ!」

 

 その言葉とともに、犯人の足を思い切り踏んづけた。

 

「ッ!? このガキャア! 死ね!」

 

 犯人がナイフを振り上げ……

 

 突き刺さった。

 

「貴様ぁ!」

「伏せろラルフ!」

 

 犯人が動き出したラルフに銃を向けたのと、ルースが叫んだのは、同時。

 ラルフは反射で床に伏せた。

 

「オラァ!」

「んなっ!?」

 

 ルースが投げた『空き缶』が、犯人の顔に直撃する。

 その隙をつき、ラルフは立ち上がり、犯人に迫る。

 

 間に合わないか…?

 

 不意をつかれ、銃を取り落とした犯人だったが、倒れている兄を起こそうとする明日香に手を伸ばす。

 

 

 

 このままでは……届かない。

 

「くそがっ! ガキを殺すぞ!」

 

 犯人の手が明日香を掴み……

 

「させるかぁああぁああ!」

「がぁ!?」

 

 犯人の後頭部へ、強烈な回し蹴りが入った。ラルフではない。今の今まで存在を忘れられていた、このステージの本来のヒーローが放ったものだ。

 

 『カイバーマン』である。

 

 ステージの下まで、犯人は吹っ飛んだ。

 

「今だっ! 取り押さえろ!」

「子供達は無事か!?」

 

 犯人を取り押さえ、拘束するスタッフ達。ラルフはカイバーマンに駆け寄った。

 

「ありがとう。俺では間に合わなかった……さすがヒーローだな」

「いえ、あなたが気をひいてくれたお蔭で、犯人の後ろに近づけました。こちらこそお礼を言います、ラルフ・アトラス」

「……俺の名前を?」

 

 これまでとは打ってかわって、丁寧な口調で話すカイバーマン。やはりラルフは、この男とどこかで会っているのだ。丁寧な口調……海馬コーポレーション……海馬?

 

「まさかあなたは、いそ……」

 

「ふぅん! なんのことだ! 俺はカイバーマン! それ以上でも、それ以下でもない!」

 

 そう言って、カイバーマンは足早に去る。正体は知られたくないのだろう。今はそれでいい、とラルフは思った。

 

「そういえば……子供達は!?」

 

 周囲を見渡すと、既にルースとジョンがスタッフと一緒に、子供達のところにいた。

 

「ルース、ジョン! 子供達は? 少年が刺されただろう? 容態は!?」

「落ち着け。あのボウズは刺されてねぇよ」

「は……?」

 

 ルースが肩をすくめながら見せたのは、犯人が使っていたナイフ。そこには、何枚かのカードが刺さっていた。

 

「あの少年は、デッキをつき出していただろう? そのデッキにナイフが刺さったらしい。やれやれ。不幸中の幸いだね」

「まったくだぜ」

「そうか……よかった」

 

 ラルフは心から安堵の息を吐く。見れば、明日香と呼ばれていた少女は大泣きし、少年に抱きついている。

 

「お兄ちゃーん……よかった……お兄ちゃんがケガしなくてよかった……うぅ……」

「ぼくも明日香が無事でよかったよ」

 

 笑いながら、明日香の頭を撫でる少年。しかし、その表情はどこか悲しげだ。

「でも、でも……お兄ちゃんのデッキが……」

 

 床に散らばっているのは、切り裂かれたカード達。デュエルモンスターズカードが紙にしては丈夫でも、ナイフに刺さればひとたまりもない。無事なカードは、ほとんどないだろう。

 

「デッキはまた作れるけど、明日香は1人しかいないんだ。気にすることはないよ」

「お兄ちゃん……」

 

「おい、少年」

 

 ラルフは、その茶髪の少年に声をかけた。

 

「あ! 助けてくれてありがとうございました」

「……俺はなにもしていない。礼ならあとで、カイバーマンにでも言ってくれ」

「でも、おじさんもぼく達を助けようと……」

「俺はおじさんではない! お兄さんと言え!」

「ひぇっ! ごめんなさい!」

「怒るところはそこかよラルフ……」

 

 頭を抱えているルースは放っておいて、ラルフは少年と同じ目線になる様にしゃがんだ。

 

 

「少年。名前はなんという?」

「……吹雪。天上院吹雪」

「吹雪か。歳はいくつだ?」

「6歳……」

 

ラルフはふむ、と頷くと……

 

「とりあえず……吹雪。お前はバカだぁ!」

「うわっ!」

 

 ゴツン、と。

 吹雪の頭に、ラルフの拳骨が落ちた。

 

「いったぁい……」

「あんな危険な犯人に、自分から近づいて行くやつがあるか!」

「だって……明日香を助けたかったから……」

「だってもくそもあるか! 運がよかったからケガもないが、刺されていたかもしれんのだぞ!」

「うっ、うっ……うぇえええん!」

「泣かないでお兄ちゃん…うっ……うぇええええん!」

 

 堰を切った様に大泣きする吹雪。その様子を見て、明日香もますます声をあげて泣いた。

 

「あぁ~あ。なに泣かしてるんだよ、お前……」

「ふん! この位の歳なら、泣いている方がお似合いだろう」

「いや……確かにそうだけどよ……」

 

 呆れ顔のルースとは対照的に、ラルフは満足気に頷いて、吹雪の頭に手を置いた。

 

「吹雪。お前はまだ子供だ。兄として強がりたいのは分かるが、無理をするな。泣きたい時は泣け!」

 

 泣かせたのは、お前の拳骨と怒鳴り声だろう……とルースは思ったが、水をさすようなので、黙っておく。

「……ごめんなさい」

「……確かにお前は無謀だった。だが、妹を救いたいという強い気持ち、勇気は大したものだ。さすが兄だな」

「……えへへ」

 

 誉められて純粋に嬉しかったのか、吹雪は泣き止み、笑顔をみせる。ラルフも微笑した。

 

「吹雪、デュエルモンスターズは好きか?」

「うんっ! 大好き!」

「そうか……俺はインダストリアル・イリュージョン社で、デュエルモンスターズに関わる仕事をしている」

「本当に!?」

「ああ、本当だ」

「すごい!」

 

 僕達も同じ仕事をしているんだが……とジョンは思ったが、やはり水をさすようなので、黙っておく。

 

「でも……ぼくのデッキなくなっちゃった。しばらく決闘できないや……」

「……心配するな。こいつをやる」

 

 ラルフが手渡したのは、自身のメインデッキ。そして、その先頭にあるカードは――

 

「うそ!?これって『真紅眼の黒竜』……本物なの!?」

 

 伝説と呼ばれる黒き竜に、吹雪は驚きで目を見開いた。

 

「ああ。正真正銘、本物の『真紅眼の黒竜』だ」

「すごい……」

 

 吹雪はキラキラとした眼で『真紅眼の黒竜』を見詰める。いつの間にか明日香も泣き止み、吹雪の後ろから眺めていた。

 

「おいおい……ちょっと待てよ、ラルフ!」

「君は正気か?」

「うるさい。黙っていろ」

 ルースとジョンの言葉を、ラルフは跳ね返した。その様子をみて、吹雪は不安な顔になる。

 

「本当にもらっていいの? おじ……お兄さんにとっても大事なカードなんじゃ……」

「当たり前だ。『真紅眼の黒竜』だからな」

「じゃあ……」

「子供が細かいことを気にするな。欲しいのか? 欲しくないのか? どっちだ?」

「欲しい!」

「なら……もらっておけ。俺は、君の勇気に敬意を表する。この『真紅眼の黒竜』はその証だ」

「あかし……?」

 

 吹雪は不思議そうに首を傾げる。ラルフは立ち上がり、言葉を続けた。

 

「妹を助ける為に犯人に立ち向かう、その行動力。その勇気。大事にしろ。だが、勇気と無謀は違う。それも忘れるな」

 

 そう言って、ラルフは立ち去って行く。吹雪は慌てて叫んだ。

 

「お兄さん! 名前を教えて!」

「……ラルフ。ラルフ・アトラスだ」

「ラルフさん! いつか……ぼくと決闘してくれる?」

「……ああ。いつでも相手になってやる」

 

 ラルフと、それを追う2人。彼らの姿が見えなくなるまで、吹雪は立ち尽くしていた。

 

「お兄ちゃん?」

「明日香……ぼくは強くなるよ。明日香を守れる位強く。このカードに恥じない位に、強くなる」

 

 後にデュエルアカデミアにて『カイザー』『丸藤亮』に並び立つと言われた男。

 

『ブリザードプリンス』

『天上院吹雪』

 

 この日が、彼の相棒である『真紅眼の黒竜』との出会い。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「で、続けてくれよ?勝手に部下を動かして、海馬ランドに行かせて、なんだって?」

「いえ……動いたのはその新入りの独断でして……」

「あぁ、はいはい。独断……独断ね……」

 

 薄暗い倉庫の一室。ソファーに1人の男が座っていた。髪の色は銀。耳にはピアス。どうみても一般人には見えないその男は、一定のペースで机の上に『ドミノ』を並べていた。もう1人の男は、銀髪の男よりかなり体が大きかったが、自分のミスを報告しているせいか、縮こまり、怯えている。

 

「申し訳ありません。しかし、早い段階で『海馬コーポレーション』の評判に泥を塗っておけば……」

「あのなぁ……誰がそんなこと頼んだ? そういうお前の考えを『独断』っていうんだよ」

 

 銀髪の男が、ドミノを並べる手を止める。それと同時に大男の体が―――

 

「ぐっ……うぅ……く、首が……苦しい……」

 

 ―――宙に浮いた。

 

「苦しいか? 俺も苦しいぜ。信頼してた部下に期待を裏切られてなぁ……新人1人の研修もまともにできねぇ……無能だったとはなぁ」

 

 銀髪の男はソファーに座ったままだ。部下の大男に指一本触れていない。それなのに大男の体は宙に浮いている。まるで『みえない何か』に掴まれた様に。

 

「どっ、どうか……お許しを……」

「あぁ、そうだな……もういいよ」

 

 銀髪の男の言葉に、ほっとする大男。銀髪の男はニヤリと笑って続けた。

 

「もういいよ。やっぱいらねぇわ……お前」

「お……お待ちを」

 

 部屋に響いたのは絶叫ではなく、何かが折れたような音で。

 大男は床に崩れ落ちた。

 

「おおっと。あぶねぇ、あぶねぇ。折角並べたドミノが崩れるところだったぜ」

 

 男は倒れている部下には目もくれず、ドミノの位置を調整していく。すると、見計らったようにドアをノックする音が耳に入った。

 

「おう。入れ」

 

 新たに部屋に入ってきたのは、長髪の男。冷やかな瞳で床に転がっている男を眺めた。

 

「……また処分なされたのですか?」

「わりぃな。でも使えないんだから、しょうがねぇだろ?」

「マリク・イシュタールの『千年錫杖(千年ロッド)』で、こちらの手駒は次々と洗脳されているのです。あまり簡単に処分しないでください」

「あぁ…悪かった…気をつけるよ。セレス」

 

 それを聞くと、セレスと呼ばれた長髪の男は、銀髪の男に書類を手渡した。

 

「オーダーされていた、報告書です」

「おう、サンキュー」

 

 銀髪の男はダルそうにペラペラと紙をめくった。

 

「あぁ……やっぱ、『オベリスク』は『セト・カイバ』の手に渡っちまったか」

「そのようです」

「うぜぇなぁ。だから俺、イシズは嫌いなんだよ……」

 

 セレスの表情が『嫌い』という単語に反応してピクリと動く。

 

「始末しますか?」

「あぁ、まだいい。ほっとけ、ほっとけ。あの女は未来が見えるだけで、なんにもできやしねぇよ」

 

 さらに書類をめくっていく。が、特に目新しい報告はなかったようで、セレスに向かって書類を放り投げた。

 

「開催地は予定通り、童実野町……と。いいねぇ……童実野町。名前がいい」

「名前……ですか?」

「あぁ……」

「並べる準備は大変だが、ちょいと指で押してやれば……」

 

 机の上に並べられた、ドミノに向かって手が伸びる。

 

「すぐに音をたてて……崩れちまうだろ?」

 

 銀髪の男は、カード強奪集団『グールズ』において偽造カード製造総責任者の地位についていた。

 名は『ヴォルフ・グラント』

 

「あぁ……楽しみじゃねぇか、バトルシティ。久々に燃えてきたぜ」

 

 そう言ってヴォルフは、指でドミノを弾く。

 ドミノはヴォルフの言葉通り、音をたてて崩れていった。 

 




《今日の問題カード》

ルース「やっちまったな~ラルフ~」

ラルフ「……」

ルース「渡しちまったな~『真紅眼の黒竜』」


『真紅眼の黒竜』


ラルフ「…真紅眼は青眼に比べると攻撃力は2400、レベルは7と少々扱いが難しい」

ルース「けど、レベル7っていうのがミソだな。エクシーズに使える。世界に広がるビッグな愛や、幻征竜ドラゴサックをよびだそうぜ」

ラルフ「……ペガサス会長になんて言おう?」

ルース「つうかお前、切り札どうするんだよ?」

ラルフ「…『レッド・デーモンズ・ドラゴン』は?」

ルース「ダメに決まってんだろ」

ラルフ「…漫画版は?」

ルース「一発殴ってやろうか?」

ラルフ「ふん!このラルフ・アトラス!こんなところで挫けはしない!」

ルース「急に元気になったな」

ラルフ「俺は新たな切り札を見つけてみせる!さらばだ!!」

ルース「……そういえば、また決闘なかったな…」


おわり
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