沢渡さんがあそこまでのエンターテイナーだったとは…
ただ1人、闇堕ちフラグと顔芸が凄まじい人がいますね…心配で仕方ないです…
1/28 本文の段落整理と改稿を行いました。
遊園地は子供にとってパラダイスだ。夢の国と言ってもいい。観覧車、メリーゴーランド、ジェットコースター。多種多様なアトラクションが、子供達を魅了する。あちこちで弾ける、笑顔と歓声に、大人まで楽しくなってくる。それが、遊園地という空間だ。
「子供はいいな。ルース」
「あぁ。みているこっちまで心が洗われる様だぜ」
「俺達は子供達にこんな笑顔を届ける為に、仕事をしているんだ」
「あぁ、全くだ。俺もはやく子供が欲しいぜ。デュエルモンスターズで思いっきり遊ばせてやるんだ」
「だが1ついいか? ルース?」
「なんだ? ラルフ?」
「なんで俺達は、せっかくの休日に……男3人で遊園地に来ているんだろうな……」
「……」
「答えろ、答えてみろ! ルース!」
「あぁ! 答えてやるよ! テメェがせっかくの休日に、俺を遊園地に誘いやがったからだろうが!」
休日の遊園地のど真ん中で、喧嘩を始める男2人。ラルフ・アトラスとルース・フォックスターは、周囲の子供達の注目を集めていた。
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そもそもの始まりは、ラルフのもとに届いた一通の手紙だ。
『親愛なるラルフ・アトラスへ』
自分に手紙とは珍しい。若干警戒しながら、ラルフは封を切る。
そして、結果としてその警戒は正しかった。
『元気にペガサスの僕として働いているか? 今回貴様に手紙を出したのは、他でもない。我が海馬コーポレーションが誇る、最高のテーマパーク、『海馬ランド・アメリカ』がついに完成した。ついては貴様ら、インダストリアル・イリュージョン社からモニターとして3名を無料招待する。有り難く思うがいい。同封したチケットの他に、後日報告用紙を送付する。まとめたら、海馬コーポレーションまで郵送しろ』
海馬瀬人からである。
なるほど。海馬コーポレーションの『世界海馬ランド計画』は順調に進んでいるようだ。バトルシティまであと1ヶ月を切っている。ずっと働き詰めだったし、ここで休みをとるのもいいだろう。
「問題は誰を誘うか……だな……」
自分以外にあと2人。個人的な友人であるルースは誘うとして、もう1人。たまには職場の女性でも誘ってみるか、とそう思ったラルフだったが……
『PS.独身の貴様にデート感覚で行かれても、困るのでな。用意したチケットは『男』3枚だ。精々楽しみながら報告書をまとめあげるがいい』
「ふざけるなぁあぁ! なんの嫌がらせだ!?」
脳内で「ワハハハハ!」という幻聴を聞きながら、ラルフは手紙をビリビリに引き裂いた。
――――――――――――――――――――
「……というわけだったな」
「あぁ。俺達が争ってもしょうがねぇ。悪いのは全部あのクソ社長だ。ケンカするのはやめよう」
争いの原点を思い返し、クールダウンする2人。結局ラルフはルースに頼み込み、この遊園地……もとい『海馬ランド・アメリカ』に着いてきてもらったのだ。
「だが、そもそもなぜチケットに『男』や『女』があるのだ!?」
「確かに普通は『大人』とか『子供』だよな」
首を傾げるラルフとルース。そんな2人の元に、哀れな男3人の遊園地ツアーの、最後の1人が戻ってきた。
「なんだ……君達はそんなことも知らないのか……海馬ランドは、原則子供の入場料は無料の遊園地だ。しかしそれでは採算が取れない。そこで、海馬社長はチケットの種類に『大人』だけでなく、『男』と『女』を作り、女性のチケットの値段を安めに、男性を高めに設定した。アメリカはレディファーストの国だ。男性側が女性のチケットの値段を持つことも折り込み済み。また、男性だけで遊園地に行くことなど滅多にないが……女性だけならある。女というのは、他より少し値段が安いと、すぐ財布のひもが弛むからな。普通の経営者なら女性側を高くするんだろうが……この値段設定は世間の受けもいい。やはり海馬社長は策士だな」
ペラペラと聞いてもいないことを喋るこの男。首からは海馬ランド限定の『ブルーアイズポップコーン』のケースを下げ、手にはマップガイド。頭には同じく海馬ランド限定の『ブルーアイズ・キャップ』を被っている。随分と楽しそうだ。この男は3人の中で唯一、純粋に、遊園地を満喫していた。
「……なぜお前は、そんなにエンジョイしているんだ……ジョン」
呆れ顔でラルフにそう問われた男、ジョン・ハイトマンは、ふんっと小馬鹿にした様に鼻を鳴らした。
「何を言っているんだ、ラルフ。僕は君に誘われたから仕方なく来ているんだ。別に楽しんでなどいないさ」
「そういうことは自分の格好を見てから言え……」
「ん? 遊園地に来てポップコーンを買うことの、何がおかしい?」
「いや……ポップコーンはまだしも……その帽子はねぇだろうよ」
「これかい? おみやげコーナーを覗いていたら、店員によく似合うと言われたんだよ……仕方なく買ってしまった」
「分かった、もういい……」
ラルフは元々、カード開発部のジョンとは、あまり仲が良くなかった。むしろ「なぜこんな効果でデザインしようとした?バカかお前は!?」などとケンカを繰り広げることも日常茶飯事である。故に…ジョンの隠されていた一面が、意外でしょうがない。どうせ断られるだろう、とダメ元でジョンに尋ねた時、「分かった。行こう」と言われた時は耳がおかしくなったのかと思った。
「さぁ、何をグズグズしているんだ。僕達は報告書を書かなければいけないんだろう? さっさとアトラクションをまわるぞ」
「な……に?」
「え……マジで?」
「マジだ」
アトラクションを全てまわる。それは要するに、家族連れやカップル、子供達の中に男3人で並ぶ……というわけで……
「「いやだ」」
「ダメだ。さぁいくぞ!」
スキップしそうな勢いのジョンに引きずられながら、ラルフとルースは、別のやつを誘えばよかった……と強く思った。
◇◆◇◆
「つ……疲れた」
「し……視線が痛かった」
あらかたのアトラクションを周り終わり、ラルフとルースはグッタリした顔で歩いていた。
「つうか、あの『ブルーアイズ・コースター』は迫力ありすぎだろ……」
「お前、意外と絶叫系苦手だったんだな……」
とりとめのない話をする、ラルフとルース。ちなみに2人の前を歩くジョンは、とても満足気だ。
「何をしているんだい? 次に行くよ?」
「はぁああ?」
「まだ行くというのか!?」
「当たり前さ」
胸を張るジョン。ふざけるな、と怒鳴ろうとするラルフだったが……
「きゃっ!?」
「おっと……!」
ラルフにぶつかり、よろけた女性をルースが支えた。ラルフとは違った、色の薄いブロンドの髪。華奢で小柄な体は、儚げな印象を受ける。
「おいおいラルフ。結構混雑してんだから、周りをみようぜ」
確かに改めて周りを見渡すと、午後になったせいか、かなり混雑している。さすが『海馬ランド』といったところか。ラルフはぶつかった女性に声をかけた。
「すまない。大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
その女性はラルフ達3人を見回すと、首を傾げる。すると、心底不思議そうに呟いた。
「え……と。男の方だけなんですか?」
グサリ。
ラルフとルースの心に、何かが音をたてて突き刺さった。倒れそうになる体を、ラルフはなんとか支える。
「あの……『ブルーアイズ・ショー・ステージ』って、どっちなんでしょうか……?」
そんなことは露知らず、道を聞く女性。場所の見当もつかない2人に代わって、ジョンが答えた。
「あそこに『アトランティス・スプラッシュ』が見えるでしょう? そこを左に行けば見えてきますよ」
「ありがとうございます!」
女性は頭を下げて、走り去って行った。
「く……さっきの言葉は……痛い」
「気にすんなラルフ。お前だけじゃない。俺のメンタルポイントにも『昼夜の大火事』並みのダメージが入った」
「800ポイントか……」
「しかし、中々美しい女性だったな……誘えばよかった」
「おっ!? 珍しいじゃねぇか、ジョン。お前がそんなことを言うなんて」
「まあね。あの女性と僕達がこれから行く場所は、同じだからさ」
「「は?」」
思わず声が重なったラルフとルースに、ジョンはパンフレットを見せる。
「次に僕達が観に行くのは『ブルーアイズ・ショー・ステージ』で2時から始まる、『スーパー・カイバーマンショー』だ!」
再び固まるラルフとルースを、ジョンは意気揚々と引きずっていった。
◇◆◇◆
「ワハハハ! 今日はこの俺、カイバーマンの『スーパー・カイバーマンショー』によく来てくれたな!」
時刻は2時。このショーの主役である『カイバーマン』の登場で、会場は歓声に包まれる。
「「「カイバーマーン!!!」」」
「感謝!感激!感動! 声援ありがとう! ちびっこの諸君! 今日は心ゆくまで楽しんでいくがいい……クックク、フフフ……ワーハッハハハハハ!」
「想像以上の大人気じゃねぇか……すげぇな」
「当たり前だよ。『カイバーマン』は『海馬ランド』屈指の人気キャラクターなんだから。カイバーマーン! すごいぞー! かっこいいぞー!」
「……ルース」
「何も言うな、ラルフ。今は耐えろ」
歓声をあげるジョンの横で、ラルフは身を縮める。ルースに至っては、もはや神経が麻痺しているのか、何か悟ったような眼をしている。
「ふぅん……どうやら今日も、愚かな怪人が俺を倒しに来たようだ。しかし、俺は決して屈しない! この俺の未来へのロードは、こんなところで終わりはしない! 力を貸してくれっ! 会場の少年少女達よ!」
会場に現れる怪人達。子供達から「キャー!」という声が上がる。
「カイバーマン! 今日こそお前を倒させてもらう!」
「貴様らは5人の悪の大幹部、『ビッグ・ワルダーファイブ』か!?」
「フハハハ!会場の子供達を人質にとらせてもらうぞ……」
「おのれぇえ! どこまでも卑劣な真似を!」
カイバーマンの演技は非常にうまい。海馬瀬人の特徴をよく捉えている。しかしそれとは別に、ラルフには不思議に思うことがあった。
「……ルース。カイバーマンの声、どこかで聞いたことはないか?」
「ん? 気のせいだろ」
ラルフの質問をあっさりと否定するルース。しかしラルフは確かに、カイバーマンの声に聞き覚えがあった。いつだったか……その時聞いた声は、もっと怯えた感じだった気がする。
「……むぅ。誰だったか……」
「いや。気のせいだろ?」「気のせいか……」
その人物を思い出せず、悩むラルフだったが、考えることをやめた。とりあえずショーを楽しもうと、ステージに視線を戻した。
その時、
「テメェら、動くんじゃねぇええ! コイツがどうなってもいいのか!」
1人の男の怒声が、会場の楽しげな雰囲気を打ち壊した。
金髪の少女にナイフを突き付け、男がステージに上がる。突然の出来事に、どよめきが広がった。
「なに!?」
「おい!? ヤバいんじゃねぇか!?」
「……ショーの演出ってわけでもなさそうだね」
会場のあちこちで悲鳴があがる。ステージ上の怪人達も戸惑っていた。
「全員動くなぁ! 動いたらこいつを殺す!」
「……うっ、う」
まだ4才位の少女の首にナイフを当てるその様子は、とても正気には思えない。
「こいつを殺されたくなかったら、ありったけの金とレアカードを持ってきやがれ!」
男の言葉を聞いて、動き出す、会場スタッフ達。その様子を見ながら、ルースがジョンに話しかける。
「どうする? 俺らで取り押さえに行くか?」
「無理だろう。君達が荒事に慣れているのは知っているが、あんな小さな少女を人質に取られているんだ。賭けにしては分が悪い」
「……クソ」
ナイフを持ったその男は、全身黒という服装。ギラギラとしたその眼は、いつなにをするか分からない。
「はやくしろ!!」
乾いた音が、ラルフ達の耳を打った。
会場に轟いたのは銃声。男の手には、黒光りする銃が握られている。ラルフは冷や汗をかいた。
「まずい……あの男、銃まで持っているぞ」
「あいつ、いったいどうやって、武器を持ち込んだんだ?」
「小口径のオートマか……射程も精度も低いが、銃も持っているとなると……くそッ!」
男の銃を分析しながら、ルースは手に持っていた缶ジュースを握り潰した。銃声に怯え、ざわつく観客達。
そんな状況で、1人の男の子が声をあげた。
「やめて! 人質ならぼくがなる!」
そう言って立ち上がったのは、茶髪の男の子だ。震える手には、デュエルモンスターズのデッキが握られている。
「やめろ、少年!」
「本気か、あのボウズ!?」
ラルフとルースが叫ぶが、茶髪の少年は止まらず、ステージへ上がっていく。
「ぼくが人質になるから……妹を……明日香をはなして!」
「お兄ちゃん!!」
どうやら茶髪の少年は、今人質に取られている少女、『明日香』の兄らしい。
「そういうことか……」
「まずいな、今はあの犯人を刺激したくねぇ……」
犯人はニヤニヤとその少年を眺めると、左手のナイフを明日香に突き付けたまま、右手の銃で手招きした。
「やめろ貴様ぁ! 人質なら俺がなる!」
「おい!? なに考えてんだ、ラルフ!?」
「君が出ていって、どうする気だ!?」
止めようとするルースとジョンを振り切り、少年の近くまでラルフは飛び出した。しかし、犯人がそれを見逃すわけもない。
「テメェには出てこいなんて言ってねぇぞ! オッサンはすっこんでろ!」
バンッ! バンッ!
2度、銃声が響いた。
「ッ!!」
「ラルフッ!!」
ジョンとルースが眼を見張る。
「……狙うなら、もっとよく狙え」
つぅ……と、ラルフの頬から血が滴り落ちた。あと少しずれていれば、頭に直撃。死んでいただろう。
ジョンとルースは、思わずほっと息を吐いた。
「オッサンが無理してんじゃねぇよ。これはヒーローショーだぜ? 子供が主役なんだよ。オッサンはそこから動くなぁ!」
「……分かった」
ラルフと犯人の距離は、もはや10メートルもない。さっきは動いていたから運良く外れたが、この距離ならもう外さないだろう。ラルフは、これ以上近づくのをあきらめた。
「……さ、そこの優しい優しい妹思いのお兄ちゃん。こっちに来な!」
犯人に言われ、少年が近づいていく。とうとう、ナイフが届く距離になった。
「……明日香」
「お兄ちゃん……」
「美しい兄弟愛だなぁ……まぁ、人質には持ってこいか?」
見つめあう2人の兄弟を小馬鹿にしたように、嘲笑う犯人。少年は犯人に向かってデッキをつきだした。
「……なんのまねだ? ガキぃ……」
「ぼくのデッキをあげる。お前、カードが欲しいんだろ……だから、明日香をはなして、ぼくを人質にして!」
「……はぁああ?」
犯人の眼がつり上がる。
まずい。
会場の誰もがそう思った。
「俺は『レアカード』が欲しいんだよ!ションベンくせぇガキのデッキなんているか!」
「だったら……」
少年がキッと犯人を睨む。
「ぼくの明日香をとにかくはなせっ!」
その言葉とともに、犯人の足を思い切り踏んづけた。
「ッ!? このガキャア! 死ね!」
犯人がナイフを振り上げ……
突き刺さった。
「貴様ぁ!」
「伏せろラルフ!」
犯人が動き出したラルフに銃を向けたのと、ルースが叫んだのは、同時。
ラルフは反射で床に伏せた。
「オラァ!」
「んなっ!?」
ルースが投げた『空き缶』が、犯人の顔に直撃する。
その隙をつき、ラルフは立ち上がり、犯人に迫る。
間に合わないか…?
不意をつかれ、銃を取り落とした犯人だったが、倒れている兄を起こそうとする明日香に手を伸ばす。
このままでは……届かない。
「くそがっ! ガキを殺すぞ!」
犯人の手が明日香を掴み……
「させるかぁああぁああ!」
「がぁ!?」
犯人の後頭部へ、強烈な回し蹴りが入った。ラルフではない。今の今まで存在を忘れられていた、このステージの本来のヒーローが放ったものだ。
『カイバーマン』である。
ステージの下まで、犯人は吹っ飛んだ。
「今だっ! 取り押さえろ!」
「子供達は無事か!?」
犯人を取り押さえ、拘束するスタッフ達。ラルフはカイバーマンに駆け寄った。
「ありがとう。俺では間に合わなかった……さすがヒーローだな」
「いえ、あなたが気をひいてくれたお蔭で、犯人の後ろに近づけました。こちらこそお礼を言います、ラルフ・アトラス」
「……俺の名前を?」
これまでとは打ってかわって、丁寧な口調で話すカイバーマン。やはりラルフは、この男とどこかで会っているのだ。丁寧な口調……海馬コーポレーション……海馬?
「まさかあなたは、いそ……」
「ふぅん! なんのことだ! 俺はカイバーマン! それ以上でも、それ以下でもない!」
そう言って、カイバーマンは足早に去る。正体は知られたくないのだろう。今はそれでいい、とラルフは思った。
「そういえば……子供達は!?」
周囲を見渡すと、既にルースとジョンがスタッフと一緒に、子供達のところにいた。
「ルース、ジョン! 子供達は? 少年が刺されただろう? 容態は!?」
「落ち着け。あのボウズは刺されてねぇよ」
「は……?」
ルースが肩をすくめながら見せたのは、犯人が使っていたナイフ。そこには、何枚かのカードが刺さっていた。
「あの少年は、デッキをつき出していただろう? そのデッキにナイフが刺さったらしい。やれやれ。不幸中の幸いだね」
「まったくだぜ」
「そうか……よかった」
ラルフは心から安堵の息を吐く。見れば、明日香と呼ばれていた少女は大泣きし、少年に抱きついている。
「お兄ちゃーん……よかった……お兄ちゃんがケガしなくてよかった……うぅ……」
「ぼくも明日香が無事でよかったよ」
笑いながら、明日香の頭を撫でる少年。しかし、その表情はどこか悲しげだ。
「でも、でも……お兄ちゃんのデッキが……」
床に散らばっているのは、切り裂かれたカード達。デュエルモンスターズカードが紙にしては丈夫でも、ナイフに刺さればひとたまりもない。無事なカードは、ほとんどないだろう。
「デッキはまた作れるけど、明日香は1人しかいないんだ。気にすることはないよ」
「お兄ちゃん……」
「おい、少年」
ラルフは、その茶髪の少年に声をかけた。
「あ! 助けてくれてありがとうございました」
「……俺はなにもしていない。礼ならあとで、カイバーマンにでも言ってくれ」
「でも、おじさんもぼく達を助けようと……」
「俺はおじさんではない! お兄さんと言え!」
「ひぇっ! ごめんなさい!」
「怒るところはそこかよラルフ……」
頭を抱えているルースは放っておいて、ラルフは少年と同じ目線になる様にしゃがんだ。
「少年。名前はなんという?」
「……吹雪。天上院吹雪」
「吹雪か。歳はいくつだ?」
「6歳……」
ラルフはふむ、と頷くと……
「とりあえず……吹雪。お前はバカだぁ!」
「うわっ!」
ゴツン、と。
吹雪の頭に、ラルフの拳骨が落ちた。
「いったぁい……」
「あんな危険な犯人に、自分から近づいて行くやつがあるか!」
「だって……明日香を助けたかったから……」
「だってもくそもあるか! 運がよかったからケガもないが、刺されていたかもしれんのだぞ!」
「うっ、うっ……うぇえええん!」
「泣かないでお兄ちゃん…うっ……うぇええええん!」
堰を切った様に大泣きする吹雪。その様子を見て、明日香もますます声をあげて泣いた。
「あぁ~あ。なに泣かしてるんだよ、お前……」
「ふん! この位の歳なら、泣いている方がお似合いだろう」
「いや……確かにそうだけどよ……」
呆れ顔のルースとは対照的に、ラルフは満足気に頷いて、吹雪の頭に手を置いた。
「吹雪。お前はまだ子供だ。兄として強がりたいのは分かるが、無理をするな。泣きたい時は泣け!」
泣かせたのは、お前の拳骨と怒鳴り声だろう……とルースは思ったが、水をさすようなので、黙っておく。
「……ごめんなさい」
「……確かにお前は無謀だった。だが、妹を救いたいという強い気持ち、勇気は大したものだ。さすが兄だな」
「……えへへ」
誉められて純粋に嬉しかったのか、吹雪は泣き止み、笑顔をみせる。ラルフも微笑した。
「吹雪、デュエルモンスターズは好きか?」
「うんっ! 大好き!」
「そうか……俺はインダストリアル・イリュージョン社で、デュエルモンスターズに関わる仕事をしている」
「本当に!?」
「ああ、本当だ」
「すごい!」
僕達も同じ仕事をしているんだが……とジョンは思ったが、やはり水をさすようなので、黙っておく。
「でも……ぼくのデッキなくなっちゃった。しばらく決闘できないや……」
「……心配するな。こいつをやる」
ラルフが手渡したのは、自身のメインデッキ。そして、その先頭にあるカードは――
「うそ!?これって『真紅眼の黒竜』……本物なの!?」
伝説と呼ばれる黒き竜に、吹雪は驚きで目を見開いた。
「ああ。正真正銘、本物の『真紅眼の黒竜』だ」
「すごい……」
吹雪はキラキラとした眼で『真紅眼の黒竜』を見詰める。いつの間にか明日香も泣き止み、吹雪の後ろから眺めていた。
「おいおい……ちょっと待てよ、ラルフ!」
「君は正気か?」
「うるさい。黙っていろ」
ルースとジョンの言葉を、ラルフは跳ね返した。その様子をみて、吹雪は不安な顔になる。
「本当にもらっていいの? おじ……お兄さんにとっても大事なカードなんじゃ……」
「当たり前だ。『真紅眼の黒竜』だからな」
「じゃあ……」
「子供が細かいことを気にするな。欲しいのか? 欲しくないのか? どっちだ?」
「欲しい!」
「なら……もらっておけ。俺は、君の勇気に敬意を表する。この『真紅眼の黒竜』はその証だ」
「あかし……?」
吹雪は不思議そうに首を傾げる。ラルフは立ち上がり、言葉を続けた。
「妹を助ける為に犯人に立ち向かう、その行動力。その勇気。大事にしろ。だが、勇気と無謀は違う。それも忘れるな」
そう言って、ラルフは立ち去って行く。吹雪は慌てて叫んだ。
「お兄さん! 名前を教えて!」
「……ラルフ。ラルフ・アトラスだ」
「ラルフさん! いつか……ぼくと決闘してくれる?」
「……ああ。いつでも相手になってやる」
ラルフと、それを追う2人。彼らの姿が見えなくなるまで、吹雪は立ち尽くしていた。
「お兄ちゃん?」
「明日香……ぼくは強くなるよ。明日香を守れる位強く。このカードに恥じない位に、強くなる」
後にデュエルアカデミアにて『カイザー』『丸藤亮』に並び立つと言われた男。
『ブリザードプリンス』
『天上院吹雪』
この日が、彼の相棒である『真紅眼の黒竜』との出会い。
◇◆◇◆
「で、続けてくれよ?勝手に部下を動かして、海馬ランドに行かせて、なんだって?」
「いえ……動いたのはその新入りの独断でして……」
「あぁ、はいはい。独断……独断ね……」
薄暗い倉庫の一室。ソファーに1人の男が座っていた。髪の色は銀。耳にはピアス。どうみても一般人には見えないその男は、一定のペースで机の上に『ドミノ』を並べていた。もう1人の男は、銀髪の男よりかなり体が大きかったが、自分のミスを報告しているせいか、縮こまり、怯えている。
「申し訳ありません。しかし、早い段階で『海馬コーポレーション』の評判に泥を塗っておけば……」
「あのなぁ……誰がそんなこと頼んだ? そういうお前の考えを『独断』っていうんだよ」
銀髪の男が、ドミノを並べる手を止める。それと同時に大男の体が―――
「ぐっ……うぅ……く、首が……苦しい……」
―――宙に浮いた。
「苦しいか? 俺も苦しいぜ。信頼してた部下に期待を裏切られてなぁ……新人1人の研修もまともにできねぇ……無能だったとはなぁ」
銀髪の男はソファーに座ったままだ。部下の大男に指一本触れていない。それなのに大男の体は宙に浮いている。まるで『みえない何か』に掴まれた様に。
「どっ、どうか……お許しを……」
「あぁ、そうだな……もういいよ」
銀髪の男の言葉に、ほっとする大男。銀髪の男はニヤリと笑って続けた。
「もういいよ。やっぱいらねぇわ……お前」
「お……お待ちを」
部屋に響いたのは絶叫ではなく、何かが折れたような音で。
大男は床に崩れ落ちた。
「おおっと。あぶねぇ、あぶねぇ。折角並べたドミノが崩れるところだったぜ」
男は倒れている部下には目もくれず、ドミノの位置を調整していく。すると、見計らったようにドアをノックする音が耳に入った。
「おう。入れ」
新たに部屋に入ってきたのは、長髪の男。冷やかな瞳で床に転がっている男を眺めた。
「……また処分なされたのですか?」
「わりぃな。でも使えないんだから、しょうがねぇだろ?」
「マリク・イシュタールの『千年錫杖(千年ロッド)』で、こちらの手駒は次々と洗脳されているのです。あまり簡単に処分しないでください」
「あぁ…悪かった…気をつけるよ。セレス」
それを聞くと、セレスと呼ばれた長髪の男は、銀髪の男に書類を手渡した。
「オーダーされていた、報告書です」
「おう、サンキュー」
銀髪の男はダルそうにペラペラと紙をめくった。
「あぁ……やっぱ、『オベリスク』は『セト・カイバ』の手に渡っちまったか」
「そのようです」
「うぜぇなぁ。だから俺、イシズは嫌いなんだよ……」
セレスの表情が『嫌い』という単語に反応してピクリと動く。
「始末しますか?」
「あぁ、まだいい。ほっとけ、ほっとけ。あの女は未来が見えるだけで、なんにもできやしねぇよ」
さらに書類をめくっていく。が、特に目新しい報告はなかったようで、セレスに向かって書類を放り投げた。
「開催地は予定通り、童実野町……と。いいねぇ……童実野町。名前がいい」
「名前……ですか?」
「あぁ……」
「並べる準備は大変だが、ちょいと指で押してやれば……」
机の上に並べられた、ドミノに向かって手が伸びる。
「すぐに音をたてて……崩れちまうだろ?」
銀髪の男は、カード強奪集団『グールズ』において偽造カード製造総責任者の地位についていた。
名は『ヴォルフ・グラント』
「あぁ……楽しみじゃねぇか、バトルシティ。久々に燃えてきたぜ」
そう言ってヴォルフは、指でドミノを弾く。
ドミノはヴォルフの言葉通り、音をたてて崩れていった。
《今日の問題カード》
ルース「やっちまったな~ラルフ~」
ラルフ「……」
ルース「渡しちまったな~『真紅眼の黒竜』」
『真紅眼の黒竜』
ラルフ「…真紅眼は青眼に比べると攻撃力は2400、レベルは7と少々扱いが難しい」
ルース「けど、レベル7っていうのがミソだな。エクシーズに使える。世界に広がるビッグな愛や、幻征竜ドラゴサックをよびだそうぜ」
ラルフ「……ペガサス会長になんて言おう?」
ルース「つうかお前、切り札どうするんだよ?」
ラルフ「…『レッド・デーモンズ・ドラゴン』は?」
ルース「ダメに決まってんだろ」
ラルフ「…漫画版は?」
ルース「一発殴ってやろうか?」
ラルフ「ふん!このラルフ・アトラス!こんなところで挫けはしない!」
ルース「急に元気になったな」
ラルフ「俺は新たな切り札を見つけてみせる!さらばだ!!」
ルース「……そういえば、また決闘なかったな…」
おわり