ようやく出すことができる…
そんな第9話、どうぞ!
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人と人は協力し、仲間を集め、組織を作る。
お互いに協力することに疑問を感じなくなった時、それを『信頼』と呼んでもいいだろう。
では……その『信頼』を強引に得ることができるとしたら?
それはとても強大な力だ。
だが、ヴォルフ・グラントは考える。
「結局そんなものは仮初めにすぎねぇ……そんな『信頼』は脆すぎる」
故に、ヴォルフは『マリク・イシュタール』を恐れない。『千年ロッド』も恐れない。
「ヴォルフ様……何を言っているのです? 何故裏切ったのです?」
「テメェがあっさり操られてるんだろうが、ボケ。裏切られたのは俺だ。いいから、さっさとしろ。テメェのターンだ」
ヴォルフ LP4000 手札3
《モンスター》
デーモンソルジャー
《魔法・罠》
リバース1
グールズ幹部 LP400 手札2
《フィールド》
なし
《魔法・罠》
なし
「はぁはぁはぁ……」
「ヒャハハ……苦しいか? なら『この装置』は成功だな」
とある倉庫の地下にて繰り広げられている、ヴォルフとグールズ幹部の決闘。それは、通常の決闘とは些か違う様相を呈していた。
ヴォルフの左腕には当然『決闘盤』が取り付けられているが、その『決闘盤』は通常のものとは違うデザインをしている。カラーリングは黒で統一され、フォルムは鋭角化、最大の特徴として相手の『決闘盤』と『ワイヤー』で繋がっていた。
「どうだぁ? 俺が試作させた『衝撃増幅装置』の痛みの味は?」
「はぁ、はぁ……なぜ、こんなものを……?」
「そう言うなよ……地下決闘の見世物には丁度いいだろう? 中々楽しめそうだ……新商品として売り出すかぁ?」
「くそ……」
幹部が苦しげに呻く。ヴォルフが試作させた『衝撃増幅装置』はソリッドヴィジョンの衝撃に痛みを生じさせるものだ。しかし、これはまだ、ヴォルフが開発させた『装置』の機能の一部にしか過ぎない。ある意味研究途中に発見した、副次的な機能だ。
本当の目的は別にある。
「……私のターン、ドロー! 私は『戦士の生還』を発動。墓地から『切り込み隊長』を手札に戻し、そのまま召喚!」
グールズ幹部の場に、二刀流の戦士が現れる。その攻撃力は決して高いものではないが、強力な効果を備えている。
『切り込み隊長』
地/戦士族
ATK1200/DEF400
「私は『切り込み隊長』の効果発動! 手札からもう1体の『切り込み隊長』を特殊召喚!」
後続を着実に呼び込み、戦線を厚くする、堅実な効果だ。しかも『切り込み隊長』が2体揃えば、それだけでは済まない。さらに強固な布陣となる。
「『切り込み隊長』が場に存在する限り、相手は『切り込み隊長』にしか攻撃できない! これであなたは、私に攻撃できない!」
「………」
「私はさらにリバースカードを1枚伏せ、ターンエンド」
ヴォルフ LP4000 手札3
《モンスター》
デーモンソルジャー
《魔法・罠》
リバース1
グールズ幹部 LP400 手札0
《モンスター》
切り込み隊長
切り込み隊長
《魔法・罠》
リバース1
ライフ差は10倍。ヴォルフにはかすり傷1つ負わせることができていないが、『切り込みロック』が成立し、伏せカードは『聖なるバリア-ミラーフォース』
この布陣ならいくらヴォルフ・グラントでも容易に突破できないだろう。防戦一方の状況は変わらないが……グールズ幹部はほっと安堵の息を洩らした。
「……たりねぇ」
「なに?」
「こんなんじゃ……駄目なんだよ。つまらねぇ……くだらねぇ……面白くねぇ……」
ぶつぶつと呟くヴォルフ。その異様な雰囲気にグールズ幹部は、思わず1歩後ずさる。
「こんな決闘じゃ……腹の足しにもならねぇじゃねぇかぁあ! 俺のターン!」
狂った様に叫びながら、ヴォルフはカードをドローする。
「あぁ……せめて俺の『魔力(ヘカ)』も差し出して……足しにするしかねぇよなぁ!? 儀式魔法発動『エンド・オブ・ザ・ワールド』」
フィールドが一変。青く揺らめく炎に包まれる。
「こ……これは!?」
「俺は手札から『ツインヘッド・ケルベロス』と場から『デーモンソルジャー』を生け贄に捧げる……」
炎に呑まれ、消えて行く生け贄達。その断末魔の叫びは、新たな悪魔を呼び出す糧となる。
「『終焉の王デミス』降臨!」
漆黒の鎧を纏い、その手には巨大な戦斧。薄気味悪い笑みを浮かべながら、悪魔の王はフィールドに降り立つ。
そしてヴォルフも、デミスと同じ笑みを浮かべる。
「俺はライフを2000支払い……デミスの効果を発動!」
「2000のライフコストだとっ!?」
『終焉の王デミス』
闇/悪魔族
ATK2400/DEF2000
「エンド・オブ・ザ・ワールド」により降臨。フィールドか手札から、レベルの合計が8になるようカードを生け贄に捧げなければならない。2000ライフポイントを払う事で、このカードを除くフィールド上のカードを全て破壊する。
「あぁああ……効くなぁ……」
笑みを絶やさず、ヴォルフは失った2000ポイント分の痛みを受け入れる。
ヴォルフ LP4000→2000
「消し飛べぇ! 破滅の蒼炎!」
『終焉の王デミス』が腕を振るい、ヴォルフのライフから得た力を解放する。 その炎は、一瞬でフィールドを包み込み、破壊をもたらした。
もはや、『デミス』以外にフィールドには何も残っていない。
「こんな……バカな」
「あぁ……すっきりしたな」
フィールドにも、手札にもカードはなく。そこにあるのはただ絶望。
「せめて……最後の一滴まで、テメェから『魔力(ヘカ)』を吸いとらせてもらうぜ」
「ひっ……」
「やれ。デミス」
デミスが巨大な斧を振り上げ、躊躇なく降り下ろした。
グールズ幹部 LP0
「がっ……あぁああ……」
激しい痛み。しかし、それだけではない。全身から力が抜けていく。
これは、なんだ?
グールズ幹部は、冷たいアスファルトに倒れこんだ。
「さて、セレス。これで全部かぁ?」
「はい。マリクが洗脳していた26名、全員片付けました」
「で、何割いったよ?」
「2割程度です」
「……少ねぇなぁ、オイ」
なんだ?こいつらは何の話をしている?
お前達の目的は何だ?
私の体から何を奪った?
グールズ幹部はそう言ったつもりだったが、口がパクパクと動いただけで、声が出ない。
「しょうがねぇな……残りはバトルシティで集めるしかないか。いい『魂(バー)』を持ってる奴がいればいいんだが……」
「はい。『魔力(ヘカ)』の資質は個人の『魂(バー)』によって違うので、大物を狩れば……」
バー? ヘカ? なんだそれは?
「やっぱ『デュエル・エナジー』なんて呼び方は慣れねぇよな」
「この『装置』の開発者が『魔力(ヘカ)』のことをそう命名したのですから、いた仕方ないでしょう」
デュエルエナジー?
お前達は何をしようとしているんだ?
しかし、それを問うことはできず、グールズ幹部の意識は、そこで途切れた。
◇◆◇◆
日本の電車は素晴らしい。時間通りにきちんと到着する。日本人の勤勉さは交通機関にまで表れている。
ラルフ・アトラスはそんなことを考えながら、電車の窓から外の風景を眺めていた。平日の昼間なので電車内は空いているが、ラルフは座らずに扉の側に立っていた。
「ねぇねぇ……あの人」
「わ……すごい」
やはり外国人は珍しいのだろうか。先ほどから若い女性の視線をラルフは集めていた。いや、正確にはラルフが外国人なだけでなく、その魅力的な外見に注目が集まっているのだが、ラルフ本人はそんなことは欠片も気にしていない。我関せずといった風に、流れている景色を見詰めている。
ラルフが今向かっているのは、『童実野町』である。3日後に迫った、バトルシティの為に実際に現地を歩いてみよう、と考えていた。途中で、海馬コーポレーション本社にも寄らねばなるまい。
「……ん?」
あと一駅で童実野町、という時にラルフの眼が妙なモノを捉えた。
ラルフから最も離れた車両の扉。そこにラルフと同じ外国人の女性がいた。少し薄めの金髪をポニーテールにし、スーツ姿のラルフと違い、ジーンズにシャツというラフな格好だ。もちろん妙なモノとはその女性の事ではなく……女性の後ろにいる、小太りの男性である。なんというか、あまりにも金髪の女性と距離が近すぎるのだ。
「……嫌がってるな」
思わずそんな呟きが漏れた。ここからでは女性の表情は見えないが、明らかに男性の事を避け、離れようとしている様に見える。
他の乗客は気づかないのか?とラルフは思ったが、車内の女性の目線は10代から60代まで、全て彼に釘付けであり、後は優先席でうつらうつらとしている老人しかいない。端的に言うならば、ラルフしか気づいていなかった。
『次は童実野町~童実野町~お降りの方は左側の扉をお使いください。え~お降りの際は、お忘れものに~ご注意ください~』
車内に到着を告げるアナウンスが響く。
男の手が女性の下半身に伸び……触れた。
これは……アウトだろう。
『童実野町~童実野町~』
左側の扉が開く。その瞬間に、脱兎の如く駆け出そうとした男は……
「ぐふぇえ!?」
勢いよく駅のホームに転がり落ちた。
つまずいたわけでも、自分からホームにダイブしたわけでもない。
ラルフが、男を後ろから蹴り飛ばしたのだ。
「な……何をするんだ!?」
「ふん。そのセリフはそっくりそのまま貴様に返してやる。そこの女性に何をしていた? 随分と密着していたな?」
ホームに降りながらそう言うと、男の顔が真っ青になっていく。気付かれていないとでも思っていたのだろうか?
「ち……違う! 俺は……」
「おいお前! そこ動くな」
「痴漢か!?」
「捕まえろ!」
ラルフの言葉で事態を察し、ホームにいた男達が小太りの男を組み伏せた。これでもう大丈夫だろう。後は駅員が来て、対処してくれるはずである。
「あ……あの!」
「ん?」
声をかけられ振り返ると、被害者の女性がいた。やっと正面から顔を見ることができたが、中々の美人である。薄い金髪に華奢な体と相まって、儚げな印象を受ける……とそこまで考えて、ラルフは何か胸につっかかる様なものを覚えた。
デジャヴである。
「……失礼だが、俺とどこかで会っているか?」
「え……と。『海馬ランド・アメリカ』でお会いしてます。道を聞きました」
そこまで言われてようやく思い出す。海馬ランドでラルフがぶつかった女性だ。あの時は今のポニーテールと違って、髪を下ろしていたので気がつかなかった。髪型だけで女性の印象は随分と変わるものだ。
「あの……ありがとうございました! 助けて頂いて……」
「気にすることはない。当然の事をしただけだ」
頭を下げる女性。ラルフは彼女の足下を見て、ふと気がついた。
足が震えている。
当然か。見ず知らずの男に触れられて、怖くない女性などいない。男性に対して恐怖心も沸くだろう。何か安心させてあげられる方法はないか……と考えて、ルースが言っていたことを思い出した。
『これさえやれば、女性は安心だ。お前はみてくれもいいから、一発だぜ!』
「大丈夫だ。世の中はあんな男ばかりではない」
「え?」
「俺が貴方を助けたのは男として、当然の事だ。
紳士たるもの、レディには常に尊敬の念を」
そう言うとラルフは女性の足下に膝まづき、手をとって口づけた。
一瞬の沈黙。
「キャ~」
「おいおい……あの外国人やるなぁ……」
「助けた女性にプロポーズかよ!?」
「ヒューヒュー!」
「羨ましい……私も痴漢されれば良かった……」
「それは違うでしょ……」
一部始終を見ていた人々が思い思いの感想を述べる。ホームは沈黙から一転、一気にうるさくなった。
なんだ、日本人はこの程度で騒がしい。そう思ってラルフが顔を上げると、女性の表情も一転。真っ白な肌は朱の色に染まり、顔を背けている。
「……どうした?」
「…………キャアァアアアアアアァ!!」
フワッとした感覚の後、視界が反転。ラルフの背中に激しい衝撃がはしる。
「ガッ……?」
意識は一瞬で途絶えた。
ホームにいた人々は語る。
ある人曰く、痴漢を撃退した男性が、被害者の女性に見事な一本背負いをされた。
ある人曰く、プロポーズしたら返事が一本背負いなのは、あまりにも残酷だと感じた。
ある人曰く、華奢に見えた女性の、どこにあんな力があったのか、不思議でしょうがない。
また、ある柔道家曰く、外国人であの一本背負いはすばらしい。ぜひ、うちの道場に来てもらいたい。
最後にとある女性曰く、あんな技を持ってるなら、痴漢にお見舞いしてやれよ。
だ、そうである。
後々この話は、童実野町駅の語り草となるのだが、もちろんラルフはそんなことを知るよしもなく、駅員室に運び込まれて行った。
◇◆◇◆
「本当に本当に本当にすいませんでしたっ!」
「いや……その……なんだ……もう気にするな……」
2時間後、女性とラルフの姿は童実野町の喫茶店にあった。駅員室で目覚めたラルフに女性がひたすらに謝り、そのままお礼とお詫びをする、と無理矢理連れてこられた形だ。ラルフとしては喫茶店の様な場所で女性に頭を下げられ、注目を浴びている方が恥ずかしい。
「フィーネさん……でよかったか?」
「いや、もう本当に私なんて呼び捨てで結構です……」
ラルフの正面で、しおらしく項垂れている彼女の名は『フィーネ・アリューシア』
日本には観光で訪れたらしい。
「……なら、フィーネ。もう謝るのはよしてくれ。こんな場所で女性に頭を下げさせるのは、それこそ俺の主義に反する」
「……はい」
小柄な体を更に小さくしていたフィーネだったが、ラルフの言葉で顔を上げる。やっとまともに会話ができそうになったので、ラルフは気になっていたことを聞いた。
「本当にあの男を許してよかったのか? 警察にもつき出さないとは……」
「私、観光で来てますし……事情聴取とかで時間を取られるのも、嫌なので……」
「そうか……」
結局、駅員室で土下座した男を彼女は許し、解放したのだ。それでは甘い、とラルフは思ったが、それを決めるのは自分ではないのでしょうがない。
さて、フィーネが謝るのをやめたのはいい。しかし……
「………」
「………」
話題がない。会話が止まり、気まずい空気が流れる。
「え……と。この喫茶店のコーヒーおいしいですね!」
「ふん。この程度のコーヒーがなんだ。俺が淹れた方が断然うまい」
「え……と……」
もしこの場にルースがいたら「だからお前は女ができないんだ」と言われただろう。ラルフはいつもこんなことを言っては女性との出会いを潰しているのだが、本人は全く気にしていない。
ふった話題を一蹴され、フィーネが更に気まずい顔になる。
「あ……あの、ラルフさんはなんで日本に?」
「ああ……俺は会社の出張できた」
「失礼ですが、どこに勤めていらっしゃるんですか?」
「インダストリアル・イリュージョン社だ」
「……え?」
所在なさげにスプーンでコーヒーをかき回していた、フィーネの手が止まる。ラルフの顔をまじまじと見つめた。
「あの……もしかして、デュエルモンスターズ関連のお仕事を?」
「一応、ルール開発部でチームリーダーをやっている」
「えぇっ!?」
眼を丸くし、驚きの声をあげる。フィーネはバッグに手を伸ばし、ゴソゴソと中身を探り、中からラルフが見慣れているものを取り出した。
「私、デュエルモンスターズ大好きなんです!」
そう言ってフィーネは、はじめて笑顔をみせた。
「はい! やっぱり女性プレイヤーとしては、かわいいカードは魅力的ですよ! イラストで選んじゃう子とかいますし」
「やはりそうなのか……女性プレイヤーの増加はインダストリアル・イリュージョン社の課題だ。こういう形で意見が聞けるのはありがたい」
「今だと女性プレイヤーで有名なのは、日本の孔雀舞さん位ですもんね……」
「ハーピィ使いの孔雀舞か。決闘王国でも優秀な成績を修めているな」
「私も孔雀さんみたいに大会で活躍したいです……憧れます……」
デュエルモンスターズという共通の話題のお陰で、ラルフとフィーネの会話は非常に盛り上がっていた。
「そういえば、君のお気に入りのカードはなんだ?」
「えっ? 私のお気に入りですか?」
「ああ。イラストが好きといのでもいいし、効果が好きというのでもいい。デッキにいれてなくても構わない」
「ん~私のお気に入り……」
女性プレイヤーの意見を聞ける貴重な機会だ。色々な質問をしておいた方がいい。フィーネはしばらく手持ちのカードとにらめっこしていたが、意を決した様に1枚のカードを選び出し、ラルフに渡した。
「この子……ですかね?」
この子、と言う位なのだから、やはり『カワイイ系』か。そう思ってフィーネから渡されたカードを見たラルフは……眼を見張った。
「……本当にコイツか?」
「はい。デッキには入ってないんですけど……この子が好きです!」
『モリンフェン』
闇/悪魔族
ATK1550/DEF1300
長い腕とかぎづめが特徴の奇妙な姿をした悪魔。
ラルフは思った。
コメントしづらい。
「……どこが好きなんだ?」
「え……と。確かにモリンフェンちゃんはステータスが高いとも言えないし、新しく制定された『生け贄召喚』のルールでも、1体の生け贄が必要なので使いにくいんですけど……」
それでも、とフィーネは『モリンフェン』のカードを撫でながら、言葉を続けた。
「なんというか、この長い腕と……う~ん、なんて言えばいいんだろ……掴み所のないデザインがすごくいいんです。体の形も独特で、足はないの?腰はどこなの?って感じの、ミステリアスさがなんとも言えないんです」
フィーネの言葉を聞きながら、ラルフは微動だにしなかった。楽しげに話すフィーネの横顔をじっと見つめている。
「う~ん。でもやっぱり実戦で使ってあげるのは難しいですよね……どうにか使ってあげたいんですけど……」
「………」
「ラルフさん?」
少し熱を入れて話し過ぎたのだろうか。フィーネは不安になった。
「……君はかわいいな」
「……ふぇ!?」
なんの脈絡もなくそんな事を言われ、フィーネの口から、思わず素頓狂な声が漏れる。
「な、な……何言ってるんですか!? いきなりなんですか!?」
「1枚のカードに対して、そんな風に色々な思いを込めて語ってくれるプレイヤーは中々いない。カードを大切に思ってくれているのが、伝わってくる。俺はカード開発部ではないが、デュエルモンスターズの開発に携わる者として、こんなに嬉しいことはない」
顔を赤くし、あたふたとしているフィーネを他所に、ラルフは淡々と語った。
「そ、それは……ただ私はこのカードが気に入ってるだけで……」
「だが、今のデュエルモンターズのプレイヤーには弱いカードに見向きもせず、強いカードばかりを求める者達が少なからずいる」
強いカード。弱いカード。それが存在するのは紛れもない事実だ。
デュエルモンスターズはチェスや将棋とは違う。決闘者として向き合った時点で、彼らのデッキにはよくも悪くも『差』が生じる。デュエルモンスターズは完全に『フェア』なゲームではないのだ。故に貪欲に勝つことを求めるプレイヤー達は、レアカードを欲する。
「ゲーム開発に携わる者として『強いカード』が存在することは否定できない。だが同時に『強いカード』だけに拘って欲しくもない。綺麗ごとかもしれんが、どんなカードにも存在意義がある。俺はプレイヤーに自分にとっての『1枚』を見つけて欲しい」
最初とは打って変わって、饒舌に喋るラルフ。フィーネはその様子を、ポカンとして聞いていた。
「……すまない。俺の方こそ喋り過ぎだな」
「いえ……とても素敵だと思います」
「ん?」
「デュエルモンスターズが大好きなんですね……すごく伝わってきます」
だから、こんなにも熱く語ってくれるのだ。フィーネには、その熱さが心地よかった。
「……でも今の話って、私が『かわいい』っていうのと、なんの関係もないですよね?」
「ああ、すまない。それは純粋な感想だ」
「じゅ……純粋な感想!?」
その言葉に、またもやフィーネが頬を桃色に染めた。
最初は1時間程度で済むはずだった『お礼』の時間は、いつの間にか2時間を回っていた。
◇◆◇◆
「今日は楽しかった」
「こちらこそ。助けて頂いた上に楽しいお話まで。でも……」
フィーネはラルフに顔を近づけると、イタズラっぽく笑った。
「喫茶店のコーヒーに文句があるなら、ラルフさんのコーヒーを飲ませて欲しいですね!」
ラルフの顔が固まる。珍しく、ためらいがちに口を開いた。
「……次はあるのか?」
「え?」
今度は、フィーネの顔が固まる。
「もし……俺のコーヒーが飲みたくなったら、ここに連絡をしてくれ」
そう言ってラルフはフィーネに、プライベートの連絡先が書かれたメモを渡す。
「では……失礼する」
「え……あの、ちょっと!?」
振り返らず、すたすたと歩いていくラルフの背中が見えなくなるまで、フィーネはメモを握ったままだった。
「……いい人だったな」
自然と、そんな呟きが口から漏れてしまう。メモをみてみると携帯の電話番号とメールアドレスが書かれていた。助けた女性とはいえ、自分が悪い人間だったら悪用されてしまうかもしれないのに。
「ああいう人がデュエルモンスターズを作っているんだ」
いいな、と思う。ラルフの事を知って、フィーネはまた少し、デュエルモンスターズが好きになった気がした。
「……あ!」
余韻に浸っていて気がつかなかったのか、携帯電話が鳴っている。慌ててバッグから取り出した。
「すいません!……はい。少しトラブルに遭って……はい。分かりました。空港まで御迎えに上がります」
電話に応答しながら、髪を纏めていたゴムをほどく。薄い金髪が風でなびいた。
「了解しました……では、失礼します。ヴォルフ様」
電話を切り空を見上げると、雲一つなかった青空が、いつの間にか赤に染まっていた。
もう夕暮れだ。
「……残念だけど、もう会えないな…」
手に持ったメモを見る。彼には申し訳ないけれど、自分は『悪い人間』だ。
「……ごめんなさい」
フィーネ・アリューシアはメモを粉々に引きちぎった。
紙片は風に舞い上げられ、血のように赤い空の向こうに消えて行く。
バトルシティまで、後3日。