カゾルミアでは、銃というのは日常に最も近い物の一つである。
国民一人につき一丁、国民拳銃と呼ばれるものまで配られているほどだ。
それだけ、銃とは彼らカゾルミア国民では慣れ親しまれたものであり、故に、国民全員が銃による射撃が可能という軍事国家らしい面も見せていた。
「耳が痛え。」
仕事が休みだったユランは、マルフーシャと一緒に国民射撃場に来ていた。
と言っても彼は椅子に座り、マルフーシャが撃っているのを後ろから眺めているだけなのだが。
「もう、兄さんったら。だからイヤーマフしてって言ったのに。」
「あれつけてると銃声がよく聴こえないだろ?俺は銃声聴いてると銃撃ってんなーって思えていい気分になるんだよ。」
「そもそも兄さん撃ってないでしょ。」
「まぁ、な。」
ユランは銃声を聴くのは好きだが撃つのは好きではなかった。
それはーー
「兄さん射撃下手だもんね。」
「はっきり言うな、妹よ。兄の心はガラスでできてるんだ。」
「ガラスはガラスでも防弾ガラスだと思うよ。」
彼は射撃がめっぽう下手なのだ。
正確には、中~遠距離の射撃精度が終わっていた。近距離ならばまた違った結果になるのだが
国民射撃場に近距離の的はそもそも存在しない。詰みである。
「なんで兄さんはちょっと距離が空いたら当たらなくなるんだろう....。」
「おいおい、お前の言うちょっとはちょっとじゃないんだよマルフーシャ。兄さんだって”普通”の中距離くらいならそこそこ当てられるんだぜ?」
確かにユランは世間一般の中距離であるならば、銃によってはそこそこの精度を出すことができた。だが、それはユランからの視点の話であり、マルフーシャからしてみればそれは全く違ったものだった。
「兄さんの中距離ってほとんど近距離みたいなものだと思うけど....。」
「お前の中距離が長すぎるんだよ。自認しろ自認。」
例によって話をしよう。例えば”自称一般人”であるユランが中距離と認識している距離は、およそ300メートルほどである、だが、マルフーシャが中距離と認識している距離はおよそ600メートルほどだった。数字にして約二倍である、この差はとてつもなく大きいのだ。
「.....むぅ。でも兄さん射撃の練習あんまりしてないでしょ、苦手なら苦手なりに練習するべきだと思うけど、なんでしないの?」
「それを言われるとなぁ....。」
ユランは射撃が元々下手なのもあるが、性格である面倒くさがりもその下手さに拍車をかける要因の一つだった。
だがここにきて彼は、ただただ面倒くさいから練習したくないと言ってしまえば兄としての威厳がなくなってしまうと思い、必死に言い訳を探していた。
.....最初からあるのかどうかは怪しいものだが。
「ほら、俺って近距離の射撃ならかなり上手い方だと思うし。これで中距離や遠距離まで上手くなったらみんなに悪いなーとか思って」
「面倒くさいだけだろ。」
「はい、そうです。」
ユランが絞り出した言い訳はマルフーシャによってきれいにぶった切られた。
.....兄としての威厳?なにそれおいしいの?
「はぁ.....。まぁいいや、とりあえず私が撃つから、見ててね兄さん。」
「おぉ、ならハイスコア更新できたら兄さんがアイスおごってやるよ。」
「ほんと!?」
「ほんとほんと。」
「じゃあ私、射撃に集中するから兄さんがスコア数えてね。」
「おーけー任せとけ。」
その言葉の後マルフーシャは銃を構え、的を狙って引き金を引き始めた。
(やっぱ上手いな)
ユランはマルフーシャの射撃を見ながら、そんなことを考える。
(間違いなく天才のそれだよなぁ....これ)
マルフーシャの射撃の異常性は先ほど書いた通りだが、ほかにも”例外”な話は沢山あるのだ。
その一つが、どんな銃だったとしても一定の射撃精度と対応距離を維持することができる、というものである。端的に言えば、彼女はどんな武器であれ使いこなすことができるということだ。
ーー苦手武器が存在しない、それが戦場でどれだけ恐ろしいことなのかをユランは知っている。
彼女が戦場に出るようなことがあれば、瞬く間に頭角を現し、優秀な兵士として戦うことになるだろう。
(ま、俺がそんなことはさせないんだけどな。)
たとえどれだけの天才であっても、かわいい妹を戦場に送り出す気など彼はさらさらなかった。
たとえその妹が”血がつながっていなくても”、それは変わらない。
そんなことを考えているうちに、マルフーシャは最後の的を撃ち終わっていた。
「兄さん、終わったよ。スコアはどうだった?」
「え、あーー....。」
ーーやばい、考えるのに夢中で数えるの忘れてた。
何かうまい言い訳はないかとユランは必死に頭を働かせるが、彼のそんな様子を見てマルフーシャが黙って待ってくれてるはずもなく。
「もう!兄さん!!!!」
「まじすいませんでしたーーーーーーー
余談だが、結局ユランはへそを曲げたマルフーシャの機嫌を直すため、アイスを2個買うことになったそうな。