「ここの夜景って綺麗だよな。」
風呂からあがり、銀髪を濡らしたままの頭でユランはそう言った。
「いやそんなこといいから、兄さん髪乾かして。」
そう間髪入れずに注意したのはマルフーシャである。
なお、マルフーシャは兄より先に風呂に入ったため、お風呂シーンはない(無慈悲)
と、いっても彼女もついさっき風呂からあがったばかりのようだ、髪は艶やかに濡れ、頬は多少上気しているように見えた。というか彼女の服装が問題だった、どう見てもTシャツ一枚である。
これ下着着けているのだろうか。何だかいろいろと危ない匂いがする。
しかもサイズが合っていないようでダボダボだ、どうやらユランのTシャツを借りたらしい。
これがいわゆる、彼シャツならぬ兄シャツと言われるものなのだろうか。
そんな見る人が見れば、尊さで死人が出るようなマルフーシャの状態を見て、兄であるユラン
はというと。
「いや、でもやっぱここの夜景ってかなり綺麗だと思うんだよ。海近いから余計に映えるし。」
いまだに夜景の話をしていた。色気のかけらもねぇ、お前船降りろ。
「まぁ確かに、ここの夜景は綺麗だと思うけど....兄さん髪乾かさないの?」
「だろ?やっぱここから見える夜景は最高だよなぁ....あと髪は乾かすの面倒くさい、ほっとけば乾くだろ。」
彼は一体いつまで夜景の話を引っ張るのだろう。そんなにカゾルミアの夜景というのは
素晴らしいものなのだろうか?
「はぁ....私が乾かしてあげるからちょっとソファーに座って。」
「ほんとか、じゃあ頼む。いやー俺の妹はやっぱ優しいな!カゾルミア一優しい!」
「こういう時だけほんと調子いいんだから....。」
そうぶつぶついいながら、マルフーシャはドライヤーを手に持ってユランの髪を乾かし始めた。
....これ、ドライヤーの音で何も聞こえないな?
仕方ない、今のうちにカゾルミアの夜景の話でもしておこう。
この兄妹はアパートの5階に暮らしていて、窓の外から街を見下ろすことができる。
夜になると町中に張り巡らされた電熱線が淡く発光し、夜景の中に赤い線を彩る。
明るい時間だと、暗くさびれた印象を持つ下級市街も、夜景の一つとしてみれば趣が出てくるようだ。それと、ついさっきユランが言った通り、このカゾルミア東地域は海に面しているため、海面に月明かりが反射することにより、より幻想的な光景を観ることができる。
....ふむ、なかなかにいい光景だ、確かにあれだけ褒めるだけのことはあるのかもしれない。
と、いってもあそこまで長く引き延ばすのは過剰だがーー
おや?
どうやらマルフーシャはユランの髪を乾かし終わったようだが....何かあったようだ。
「兄さん....。」
私は今、兄さんに膝枕をしていた。
と、いっても意図したものではない、私が兄の髪を乾かし終わった後、急に兄が態勢を崩し、こちらに倒れこんできたのだ。確かに髪を乾かしてる途中で舟をこいでいるようにも見えたが....そのまま寝てしまうとは思わなかった。
「疲れてたのかな。」
兄さんは休み以外はほとんど仕事に行っていて、毎日忙しそうにしている。
最近は特に遅くに帰る日が続いていて、疲労がかなり溜まっていたのかもしれない。
「動かしたら....起きちゃうよね。」
疲れて寝ているのに、起こしてしまうのも忍びない。
ーーだから仕方ない、よね?
そんな風に言い訳をしながら、私は膝の上に乗せた兄さんの銀髪を弄り始める。....ちょっと固くて、ごわごわしてる、男の人ってこんな髪なんだ。
「ふふ。」
...寝顔かわいい、いつもはそこまで表情が変わったりしないけど、寝顔は子供みたいなんだ....かわいいね。
...膝枕なんて初めてしたけど、なんか、癖になりそう。
なんだか新しい扉を開いてしまってる気がする。
....こんなことをしてしまってもいいのだろうか。少しだけ罪悪感を感じる、だがー
ーーたまにはこんな日もいい、かな。
私はそんなことを思いながら、夜が更けるまで兄さんの髪を弄り続けるのだった。