友人とはどのような関係か。
その答えを明確に決めることは難しいだろう、顔を合わせ、喋るだけでも友人と言えるかもしれない、自分の完璧な理解者であることを友人に望むこともあるかもしれない。
その解釈は人によって異なるものだ。
人は往々にして明確な答えを求める、この問いもまた、私たちが頭を悩ませる問題の一つなのだろう。
あなたは自信をもって友人だと主張できる関係をもっているだろうか?
「今日一日を乗り越えた俺たちの頑張りと!」
「ともに酒を飲める俺たちの健康に。」
「「乾杯!」。」
ここは酒場リュモチナヤ。あらゆる階級の国民たちが集う酒場である。
その客の多くは、まじめで稼ぎのある”模範的”なカゾルミア労働者たちによって占められている。
今日もまた、静かで落ち着いた店内で彼らは酒を飲み、談笑していた。
「いやーやっぱ仕事の後の一杯は違うねぇ。こう、体の芯に沁みるって感じがあるよ。」
「お前は何飲んでも同じようなこと言うよな。酒杯の中身を水にしても気づかなそうだ。」
仕事を終えたドルークとユランはその雰囲気の中、客として飲みに来ていた。
「ところで妹ちゃんはいいのか?遅くなったらまた叱られるんじゃね。」
「誘ってきたやつが言うセリフじゃないだろ...大丈夫だよ。今日は遅くなるって伝えといたしな。」
「マメだねお前さんも、奥さんの尻に敷かれた旦那にしか見えねぇな。実は結婚してて夫婦でした、なんて言われても俺は驚かない自信があるね。」
ドルークは肩をすくめて冗談なのか本音なのか分からないようなことを口にした。
「仕方ねーだろあいつ怒ったら怖いんだから。....まぁ兄としちゃ、俺なんかよりずっといい男を見つけてほしいんだけどな。」
「へぇ、お前さんよりいい男ってなると、それこそ最高指導者くらいしかいないんじゃねぇの。」
ドルークは誰が聞いてもわかる”爆弾”を放り投げる。
「....最高指導者は恐れ多すぎるな。恐れ多すぎてマルフーシャは預けられない。」
そもそも、最高指導者が5等級国民であるマルフーシャと出会うなど本来あり得ないはずなのだがそれを抜きにしても、ユランは絶対に嫌だと言外に伝えていた。
「違いない。」
そう言って笑うドルークに、ユランはムッとした表情を見せる。
「そういうお前はどうなんだよ。」
「どうって?」
「”コレ”だよ、”コレ”。」
ユランは小指を立て、意趣返しとばかりにニヤリと笑う。
「あぁ.....俺はそういうのはねえな。」
「んなことはないだろ。ご自慢の口先を使って入れ食い状態なんじゃねえの。」
「いや、ないんだよ。なんなら口先も舌先も使う気はないね。」
冗談交じりに言ってはいるものの、ユランは込められた拒絶の意思を感じ取っていた。
「俺のことはいいんだよ。それにお前さんだって浮いた話の一つもできないだろうが。」
「そりゃ俺は家に帰ったらマルフーシャがいるしな。作る必要がないんだよ。」
「シスコンめ。」
「ほっとけ、あいつが妹なら誰だってそうなるっての。」
だが、少し気まずくなった空気も、ドルークの冗談めかした言葉によって吹き飛ばされる。
「ま、俺達とマルフーシャちゃんのこれからを祈ってってことでいいだろ。」
「За вашу и нашу!、か....。ま、俺たちの場合は神に祈るんじゃなく、最高指導者に祈ることになるんだがな。」
「確か....神は死んだ。だったか?よく言うねぇほんと。」
カゾルミアでは宗教全般が軍からの圧力によって下火になっており、神の存在自体が認められていない。故に、”神に祈ること自体”が違法なのだった。
「やめだやめ。酒がまずくなる、別の話をしよう。」
「そうだな。....そういえば、お前聞いたか?前に俺のところが受け持った仕事でーー
こうして彼らは、夜が更けるまで飲み明かしていくのだった。
なお、マルフーシャは遅く帰ってくるとは伝えられていたが、夜が更けるまで帰ってこないとは伝えられていない。
....ユランが家に帰れば、全く目が笑っていないマルフーシャに出迎えられることになるだろう。
哀れな男である。