THE CHERRY BLOSSOM AND THE RAIN   作:さーもんありなん

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チャン一の発言により石田ァの血の気の多さ&短気さが“証明”されてしまい今年度初笑い
しかも弁が立つんだよなこのインテリヤンキー……質悪すぎる……
学パロもそのうちやりたいナ!



第二十四話 Scherzo3[Countdown to The End:Start]

 

 

 四番隊の綜合救護詰所、地下救護牢の一角にて。

 牢で目覚めた茶渡は、同じく牢に捕らえられていた岩鷲と情報を共有していた。

 

 瀞霊廷に侵入すると同時に仲間達とはぐれてから丸一日以上が経過している。その間、茶渡が隊長を含めた数人と戦ったように、岩鷲や岩鷲と行動を共にしていた一護も熾烈な戦いを繰り広げていた──ようなのだが。

 

「桜が……!?」

 

 驚愕を露わにした茶渡に、左腕を包帯で真っ白にした岩鷲が重々しく頷く。

 

「ありゃ……酷かった。いっときは優勢だったんだけどよ、あいつが──朽木白哉が卍解して、」

「卍解?」

「死神の斬魄刀解放の第二段階だ。第一段階の始解とは、霊圧も何もかも比べもんにならねえ、反則じみた力だよ」

 

 身震いする岩鷲の様子から、その力の壮絶さが窺い知れる。

 自分が対峙した隊長は最後に刀を抜いただけだったが、本気でぶつかっていたら茶渡もこの程度の怪我では済まなかったかもしれない。……とはいえ、胸を袈裟に斬られた茶渡はかなりの重傷である。現状、腕を裂かれただけの岩鷲が一番傷が浅い。

 

「……あっという間だった。正直何が起こったのかもわからねえ。気づいたら桜ちゃんが血まみれで転がってて……俺はそれを見てる事しかできなかった」

「……」

 

 岩鷲が顔を歪め、強く拳を握り締めた。

 悔恨の滲む表情に、下手な慰めの言葉をかけることすら憚られる。

 

「俺はいつの間にか気絶させられちまって、目が覚めたらここだったからあの後どうなったかはわかんねえ。けど近くには桜ちゃんの霊圧はねえし……」

 

 同じ施設内に桜の霊圧は感じられない。自分達と同じように霊力を封じられる手錠をかけられているために霊圧を補足できないという可能性もあるが、おそらく捕らえられてはいないのだろう。

 だとすると、彼女の現在の安否がますます心配になるところだが……ひとまず希望的観測を口にする。

 

「……俺達がこうして拘束されてるんだ。桜も……他の奴らも殺されてるって事はないだろう」

「そうだな。……しかし、こんな時に隊長が暗殺されるとはな! 嫌な偶然だぜ」

 

 ……偶然。

 果たして本当に偶然だろうか。

 

 牢の中で過ごす間、隊長の一人が暗殺されたという話が耳に入ってきたが、少々怪しく思う。

 なんというか、タイミングが良すぎるのだ。旅禍の侵入は数百年ぶりと聞く。そんな時に、隊長の暗殺という未曾有の事件が同時に起こるだろうか?

 当然、茶渡達には一切関係のない話だが、護廷側はそうは思わないだろう。だからこそ自分達はこうして牢に入れられている。

 

 ルキアを奪還するために尸魂界に乗り込んだが、しかし。随分と事態はきな臭くなってきた。

 

 

 

     /

 

 

 

 広い肩。硬い手触りのシャツ。

 背中を支える大きな手。

 規則的な振動と温かい体温。

 

 目を閉じたまま、そういうものを感じていた。

 

 ──たぶん、誰かに抱えられている。ざくざくと地面を蹴る音がするから、きっと歩いてるんだろう。

 誰だろう。お母さんかな。でもお母さんの手はこんなにゴツゴツしてない。

 じゃあ師匠(せんせい)? せっかく師匠が秘密の隠れ家に来てもいいって言ってくれたのに、寝ちゃったんだ、ぼく。

 

 ……ああ、まだ眠い。これ以上寝たら、夜眠れなくなるからダメなのに。

 そう思っても、体を包むものが温かくて、力が抜けて、とても起きていられない。

 

 心地良い微睡みの闇に落ちる寸前、手探りで、その人の硬い服をぎゅっと掴んだ。

 

 ──ふいに、煙草の匂いが香る。

 

 ……そうか。

 じゃあ、このひとは────

 

 

     ︙

 

 

 目が覚めてからも、意識が完全に覚醒するまでの間、石田はぼうっとしていた。──随分、懐かしい夢を見ていた気がする。

 夢の名残りを追いかけて指がぴくりと動くが、爪先が引っ掻いたのは固く冷たい床だった。

 ぼやける視界に映る高い天井は見慣れない木造で、剥き出しの太い梁は黒ずんでいる。漆喰の壁はひんやりとした空気を放っていて、少し埃っぽい。

 

(ここは──どこだ)

 

 何度か瞬きをして焦点を合わせようとするが、なかなかピントが合わない。なぜだろう、と考えて、ようやく自分が眼鏡をしていないことに気づく。

 眼鏡を探そうとした石田はぎこちなく顔を横に向けて、次の瞬間ぎょっとした。

 

 ──見知った少女が、自分の隣で眠っていた。

 高いところから淡い光が落ちていて、彼女の陶器のような滑らかな肌と、床に散らばる長い髪を白く照らしていた。宝石もかくやという大きな瞳は瞼に隠され、長いまつ毛が頬に影を落としている。どこもかしこも真っ白な中で、薔薇色に色づく小さな唇がひと際に目を惹いた。

 空気中をゆったりと舞う埃が陽光を受けて煌めく。それがちょうど横たわる彼女の上で起こっているものだから、その光景はよくできた絵画としか思えない。

 

 石田はそれを呆然と見つめ、 

 

(──僕って死んだのかな)

 

 と思った。

 

 人は死んだら尸魂界に行くはず。今いる場所が尸魂界という事は間違いないが、生きたまま尸魂界に突入したのも間違いないので、自分が死んだわけではないだろう。

 そういえば、生者が霊子体になって尸魂界に行き、そこで死んだ場合はどうなるのだろう。魂魄であることは確かだし、やはり霊子となって大地に還るのだろうか。

 ……というか、ちょっと綺麗すぎないかこの子。

 

 そんな事をつらつら考えながら、ぼうっと彼女の顔を眺めていると。

 

「──起きたの」

 

 何の前触れもなく、その目がバチッと開いた。

 

 ……もの凄く驚いたのだが、思いっきり寝起きだったので声が出なかった。

 目を見開いたまま硬直している石田を他所に、桜はすっと身を起こし、しっかりした声で尋ねてくる。どうやら目を瞑っていただけのようだ。

 

「具合はどう? 痛いところは? 意識ははっきりしてる?」

「────」

「石田くん?」

 

 身を起こした桜は死覇装を着ていて、その襟の合わせの下から白い包帯が覗いている。

 石田は乾いた唇を何とか動かして、口を開いた。

 

「桜さん、」

「うん?」

「君、怪我して──」

 

 心配そうにこちらを覗き込んでいた彼女の顔からスッと表情が消えた。見る間に目がつり上がったと思ったら、やれやれと言わんばかりに首が振られる。

 

「────呆れた。あなたのそれって筋金入りね。正直どうかと思うわよ」

「え、ええと……?」

「こういう時はまず自分の心配をしなさい。いいわね?」

「えー……」

「返事は」

「はい! すみません!」

 

 低い声で凄まれて思わず謝罪が口から飛び出た。なぜかはわからないが、かなり怒っているようだ。

 

 ひとまず体を起こして、すぐそばにあった眼鏡をかけた。クリアになる視界に、段々頭が冴えてくる。

 戦いの後、桜に助けられた事は覚えているが、あれからどうなったのだろうか。

 見下ろすと自分は真新しい死覇装を纏っていて、その下を服越しに探ると、負ったはずの傷は跡形もなく消えていた。痛みひとつ残っておらず、包帯すら巻いていない。

 

「もう大丈夫だと思うけど、どこか違和感があるなら言って。丸一日寝てたのよあなた」

「そんなに……!?」

 

 唖然とする。

 確かに我ながら無茶をしたと思うし、結構な緊張状態を強いられていたから、糸が切れてすこんと眠り込んでしまったというのは考えられるが。

 

「……ちょっと待って。丸一日って……君その間ずっとここにいたのかい? 自分の治療(こと)は後回しで?」

 

 内装から察するにここはどこかの蔵の中らしい。おそらく夜明け近くであろう淡い光が差し込むだけの薄暗い空間の中で、彼女は一人で石田の介抱をしていたという事か。

 しかも胸元に包帯を巻いていて、現世から着てきたワンピースではなく死覇装を着ているということは、服が駄目になるほどの攻撃を受けたのではないか。もしや自分と同じように隊長格と交戦したのでは──。

 

「まあ……必要なものは持ってきて貰えたから外に出る必要もなかったし。あなたの方がよっぽどまずかったし」

「僕の事なんていいから、自分を優先してくれ!」

 

 血相を変える石田に、桜は何とも言えない顔をする。

 

「……はあ」

 

 彼女がため息をついた時、ギィと重たげな音がして、石田は咄嗟に背後を振り返った。

 開いた扉の隙間から、光と一緒に見知らぬ少年が顔を出している。石田を見ると、彼は目をしばたたいた。

 

「あ、目が覚めたんですね。良かったです」

 

 すわ敵かと思いきや、その声には敵意が微塵も感じられない。

 当惑する石田に対し、桜は落ち着き払っている。

 

「あら山田くん。お疲れ様」

「はい。桜さんもお疲れ様です」

 

 そう言いながら中に入ってくる少年は、どうやら桜と顔見知りのようだ。

 

「彼は……?」

「山田花太郎くん。一護くんに同行してたとかで、あなたが寝てる間に協力を申し出てくれたの。包帯とか、これ持ってきてくれたのも彼」

 

 これ、と言ったところで桜は自身の死覇装を摘まんだ。

 

「あ、あなたの着替えは山田くんにやってもらったから。一応ね」

「…………それは……お気遣いいただいて……」

 

 そこまで気が回っていなかったが、言われて心底ほっとする。

 そばに膝をついた花太郎は上から下まで石田を眺めると、ほっと胸をなでおろした。

 

「石田さんは、もう大丈夫そうですね。──桜さんは怪我の具合はどうですか?」

「平気。元々かすり傷程度だったし」

 

 平然と告げる桜に、花太郎が目を剥いた。

 

「何言ってるんですか! 朽木隊長にズタズタに斬り刻まれてたじゃないですか!」

「きっ──」

 

 思わず言葉を失うと、桜がじろりと花太郎を睨んだ。

 

「余計な事言わないでくれる? あんなの紙で指を切ったようなものよ、大袈裟にしないで」

「ほんとに何言ってるんですか!? 強がりが過ぎますよ!」

「治った怪我は怪我に数えないの」

「まだ治りきってませんよね!? 一護さんといい、メチャクチャですね……」

 

 花太郎は頭が痛そうな顔で額に手を当てた。この様子だと、一護にもかなり手を焼いたのだろう。

 彼は石田に向き直ると、ぺこりを頭を下げた。

 

「改めて、山田です。一護さんから皆さんの話は聞いてます。ボクも朽木さんの処刑を止めたくて……、それで一護さんと一緒にいたんです」

 

 山田は事の経緯を簡単に説明した。

 彼は懺罪宮で身柄を拘束された後、四番隊の隊舎牢に投獄されたらしいのだが。

 

「脱走してきたんです」

「脱走」

「はい。ボクは旅禍に脅されて無理やり従わされてたって隊の人には思われてたみたいで。だから当面の処置として投獄されただけで拘束もされなかったので、抜け出すのは簡単でした」

 

 気弱そうな見た目に反して大胆である。

 花太郎は悔やむような響きで続けた。

 

「ボク……ルキアさんを助けに行ったのに、岩鷲さんや桜さんが朽木隊長と戦うのを見てる事しかできなくて……。だからボクに出来る事なら何でもしたかった。そうしたら桜さんの霊圧が移動してるのを感じて。すごい大怪我だったし、助けに行った方がいいんじゃないかと」

 

 石田は思わず桜の方をまじまじと見た。

 彼女は涼しい顔で、石田の視線を受け流している。

 

「それでこの辺りをうろうろしてたら桜さんに声をかけられて──」

「使いっ走りになって貰ったの。ここから動けなかったから助かったわ」

「──そうだったのか……色々ありがとう」

 

 頭を下げると、花太郎はわたわたと体の前で手を振った。

 

「そんな大した事では……! それに石田さんの傷はほとんど治ってて、むしろ──」

 

 ちらりと桜に目を遣る花太郎に、彼女は視線を散らすように顔の前で手を振った。

 

「もうその話はいいでしょう。──それより朽木さんの処刑時刻が変更になったって本当? さっきそんな会話が外から聞こえたんだけど」

「何だって?」

「ああっ、そうでした! それをまず伝えなきゃって思ってたんです! ──ルキアさんの処刑時刻は、今日の正午です!」

 

 瞠目する。

 今日の正午。──今は夜明けだ。つまり、あと六時間程度しか猶予はない。

 桜がすっと腰を上げた。

 

「じゃあもうもたもたしてる時間はないわね。石田くん、動ける?」

「勿論」

 

 言って、その場で立ち上がる。

 身体は眠りに落ちる前とは比にならないほど軽く、眩暈も痛みもない。──ただ、戦うための力だけが致命的に欠けていた。

 

「一護くん……はちょっとどこにいるかわからないけど、井上さんの霊圧が結構近いから、合流するならそっちね。岩鷲くんと茶渡くんは同じところにいるみたい」

「あ、その二人なら四番隊の詰所の救護牢にいるって聞きました」

「ならまずは井上さんのところね。……なんで十一番隊の隊舎にいるのかしら」

 

 霊圧を探って行き先を決めた桜に続いて蔵の外に出ると、朱色と薄い青が混じる暁の空が広がっていた。淡い光が辺りに漂っている。清々しい空気の中で、雀の鳴き声が聞こえた。

 

「桜さん」

「何?」

 

 呼びかけると、桜が振り返る。

 

「言い忘れてた。──ありがとう、助けてくれて」

 

 彼女は虚を突かれたようにわずかに動きを止めて、やがて微笑んだ。

 それは、どこか困ったような笑みだった。

 

「…………どういたしまして」

 

 




花太郎、護廷勢で七番目くらいに好き
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