名も知らぬ君が、私の盾だった   作:あめぇp

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誰も、死なせないって決めたのに

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瓦礫の雨が降る夜だった。

 

小さな市街地の一角、

アーケードの天井は崩れ、空が裂け、

漆黒の化け物が人々を追い回していた。

 

魔法少女・花守 夏芽(はなもり なつめ)──中学2年。

細身で力もないが、心だけは負けないと信じてきた。

 

けれど──

 

「ッ……!」

 

飛び込んでくる瓦礫から、倒れた親子をかばった瞬間、

目の前には、牙を剥いた異形が迫っていた。

 

──魔力、ゼロ。

──バリア、再展開、間に合わない。

──ああ、ここで終わるんだ。

 

誰かを守りたかった。

誰も死なせたくなかった。

 

その願いが、何の意味も持たなかったことを思い知らされる刹那。

 

「動くな」

 

耳元で、少女の声がした。

 

そして次の瞬間、魔物は塵になって消えた。

 

爆音。衝撃。焼け焦げた空気。

そして、そこに立っていたのは──

 

真っ白な髪。小さな背中。

まるで絵本から出てきたみたいな、小学生くらいの少女。

 

「……あんた、何してんの?あんな雑魚に殺されそうになるなんて」

 

唖然とする夏芽に、少女はふぅと溜息を吐いた。

 

「弱いくせに、正義ヅラしてんじゃないよ。死んだら意味ないでしょ」

 

言葉は冷たいのに、その声は、どこか怒っていた。

 

夏芽は息を呑んだ。

 

「……誰、なの……?」

 

けれど、答えは返ってこなかった。

少女は、そのまま歩き去った。

 

振り向きもしないまま、闇に溶けるように。

 

ただ一言だけ、残して。

 

「名乗る価値ないよ、私なんて」

 

 

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その夜。夏芽は震えながら変身を解いた。

助かった命。だけど、それをくれた“彼女”の顔すらよく見えなかった。

 

その小さな背中が、何よりも大きく、そして──何よりも遠かった。

 

 

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夜が明けた。

 

街はいつもの喧騒を取り戻していたが、

夏芽の胸の内には、静かな焦燥が広がっていた。

 

昨日、自分を助けたあの少女──

名前も、所属も、何も知らない。

けれど、その小さな背中が脳裏に焼き付いて離れない。

 

「……どうして、あんな子が……」

 

学校の屋上。制服のまま、フェンス越しに空を見つめていた。

 

自分は、この街のために魔法少女になった。

けど──あの子は、自分の何倍も強くて、冷静で、何より圧倒的だった。

 

「私……何してるんだろ」

 

正義の味方。

誰かを守るために力を使う。

そのはずだった。

 

でも、実際は──守られてばかり。

 

「情けないよね……っ」

 

ギュッと制服の袖を握る。

あの子にもう一度会えたら、きっと何か言える。

お礼?謝罪?それとも……尊敬?

 

分からない。

けれど、このままじゃ、何も変われない気がした。

 

 

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その日の夜。

魔力探知のアラートが鳴る。

 

《Bクラス魔力反応:南第七区、交戦発生中》

 

変身して現場へ急行した夏芽が見たのは、

瓦礫に押し潰されかけた子どもたちと、猛然と迫る異形──

 

「……っ、間に合わない──!」

 

足がすくんだ。怖かった。

誰か、また助けて──

心の中で、助けてほしい名前を──

 

その瞬間。

 

「どいて」

 

空から、爆光が落ちた。

 

あの子だった。

 

真っ白な髪。まるで影ひとつない無機質な瞳。

そして、地響きとともに着地するほどの火力。

 

「……また、会ったね」

 

言葉をかける余裕もないほど、一瞬で魔物を蒸発させた。

 

子どもたちは無事。

だけど夏芽は、また立ち尽くしていた。

 

「どうして……どうしてまた、私なんかを……」

 

ようやく、声が震える。

 

彼女は、ふと目を細めた。

その瞳に、何か一瞬、感情のようなものが浮かぶ。

 

「それが、私の役目だから」

 

夏芽は堪えきれず、叫んだ。

 

「私、魔法少女なのに……! なんで、年下のあなたにばっか守られて……!」

 

「それに……私、まだ……名前も、聞いてないのに……!」

 

沈黙が落ちる。

白髪の少女は、一歩だけ夏芽に近づいた。

 

そして、低く、短く言った。

 

「柚依(ゆい)。私の名前」

 

「でも呼ばないで。名前で呼ばれると……“好きになりそう”になるから」

 

そう言って、彼女は背を向けた。

 

魔法陣が展開される。

 

「次に会っても、きっと私はまた、あなたを守るよ」

 

「それが、私の選んだ“願い”だから」

 

そして、彼女は光に包まれて消えた。

 

 

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夏芽はその場に崩れ落ちた。

泣きたくなんか、なかったのに。

強くなりたかったのに。

 

でも、胸が痛かった。

 

自分なんかのために、あんなに無表情で戦う子がいて──

それを、何も返せずに見てることしかできない自分がいて。

 

夏芽は、拳を握った。

 

「私、変わりたい」

 

「今度こそ──誰かを守れる、魔法少女になりたい……!」

 

 

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