名も知らぬ君が、私の盾だった   作:あめぇp

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君の名を、私は呼べない

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放課後の教室。

窓から差し込む光が、まぶしくも重たかった。

 

花守夏芽は、ノートの端にある文字を何度も見つめていた。

 

「柚依」

 

彼女が名乗ってくれた、唯一の言葉。

けれど、それを口に出すことはできなかった。

 

──「呼ばないで。好きになりそうになるから」

 

その一言が、胸に刺さって抜けない。

 

(“好き”って、あの子……)

 

意味を考えようとして、すぐに思考を止めた。

頭が熱くなって、心臓が跳ねたからだ。

 

 

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日が落ちて、街の一角に魔力反応。

 

夏芽はすぐに現場へ向かった。

だが、着いたときにはもう、敵は殲滅されていた。

 

血ひとつ流れていない。

代わりに、焼け焦げたアスファルトと、

白銀の羽のような魔力の残滓。

 

(……また、あの子だ)

 

会えないことに、安堵している自分と、

会えなかったことに、落胆している自分がいた。

 

 

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数日後、任務のために協力要請が出た。

 

機関の魔法少女との合同戦闘。

そこに指定されたのは──「柚依」

 

夏芽は目を見開いた。

 

 

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同日・夜:合同任務開始

 

夜の廃ビル。

立ち並ぶ影、濁った魔力の群れ。

 

柚依は、まるで指揮官のように魔法を展開していた。

 

「前に出ないで、花守。あんたじゃ死ぬ」

 

夏芽は一瞬、言葉を呑んだ。

 

(呼ばれた……名前で)

 

でも、自分は──呼べない。

“柚依”と、どうしても口に出せなかった。

 

代わりに、彼女を見ながら叫ぶ。

 

「私も戦える……! 私だって、誰かを守りたい!」

 

柚依は、ふっと笑ったような気がした。

 

「じゃあ……死なないで。勝手に死んだら、許さない」

 

 

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その戦いの中で、夏芽は何とか自分の役目を果たした。

初めて、彼女の力に頼らずに。

 

戦いが終わったあと。

 

柚依は一人で夕暮れのビルの屋上にいた。

夏芽は、そっと近づく。

 

「……あの、ありがとう。今日、一緒に戦えて嬉しかった」

 

柚依は、空を見上げたまま、短く答えた。

 

「別に」

 

「でも……私、あなたの名前、呼んでいい?」

 

風が止まった。

 

柚依は振り返らなかった。ただ、静かに言った。

 

「……呼ばないで。やっぱり、だめだ」

 

「花守と私が仲良くなったら、きっと……守るのが怖くなるから」

 

「“守る”って、感情じゃなくて、職務でやらなきゃいけないんだよ」

 

夏芽はそれを聞いて、初めて“柚依”という少女の孤独を感じた。

 

「それでも……いつか呼ぶよ。あなたの名前」

 

「そのとき、あなたが好きになっても……私は嬉しいから」

 

柚依は一瞬だけ、振り返った。

 

その目は、寂しく、でもどこか温かく──

 

「……バカだな、あんた」

 

魔力の風が吹き、彼女の姿はふっと消えた。

 

 

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夏芽はしばらく、夜空を見上げていた。

 

彼女の名前を心の中で何度も呼びながら。

その声が、きっと、どこかに届くと信じて。

 

 

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