名も知らぬ君が、私の盾だった   作:あめぇp

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この街を、あなたが守っていた

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昼休み。

夏芽は魔法少女としての記録閲覧申請を出していた。

 

魔法機関の“限定許可ログ”──

一般魔法少女でも、ある条件を満たせば過去の戦闘履歴にアクセスできる。

もちろん、個人情報や所属名は削除されているが。

 

彼女は、確認したかった。

あの子が──柚依がどれだけこの街を守ってきたのか。

 

 

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画面に映し出されたのは、信じられない数の戦闘ログ。

 

同一魔力波形による“単独討伐”──82件。

重傷者ゼロ。被害地域ゼロ。全件解決済み。

 

そして、どれも**“正式報告に記録されていない非公開任務”。**

 

夏芽は息を呑んだ。

 

(ずっと……ずっと前から、この街を守ってたんだ……)

 

自分が魔法少女になってから、一年半。

その間に自分が救えた命は、指で数えられるほど。

 

けれど彼女は、その何十倍もの命を──しかも、誰にも知られずに──守ってきた。

 

その記録に、名前はない。

称賛も、感謝も、何も残っていない。

 

「……なんで……」

 

手が震える。

目の奥が熱くなった。

 

(なんで誰も、あなたのことを知らないの……?

 なんで、こんなに頑張ってるのに……)

 

 

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その夜、また魔力反応が出た。

 

けれど、そこに夏芽が到着したとき、戦闘は終わっていた。

焼けた地面。ひび割れたビル壁。

そして、ほんのわずかに残る“白銀の光”。

 

「あ……」

 

柚依が、いた。

 

地面に片膝をついていた。

息が乱れている。肩が震えている。

 

「……柚依!」

 

駆け寄ろうとした瞬間、彼女は手を上げて止めた。

 

「来るな」

 

その声は、いつもより少しだけ、弱かった。

 

「……魔力、使いすぎた……問題ない……休めば、すぐ回復する……」

 

だけど夏芽には分かった。

その言葉が嘘だってことも。

 

柚依の背中、ほんのわずかに、ヒビのようなものが見えた。

 

(……ソウルジェム、あんな……)

 

「あなた……限界、超えてるんじゃないの?」

 

柚依は視線を逸らした。

 

「強い人は、無理しない。私なんかが限界なんて言ってたら、守れない」

 

「私の命で守れるなら、何人だって、安い」

 

「それが、魔法少女ってもんでしょ?」

 

夏芽の喉が詰まった。

 

「……そんなの、違う……!

 あなたの命は、そんな風に安くなんかない!!」

 

「私は……あなたのこと、ちゃんと知りたいよ……!

 “柚依”っていう、一人の子として……!」

 

柚依は立ち上がった。

 

その顔に、少しだけ迷いが浮かぶ。

 

「……知られても、どうせ……怖くなるよ」

 

「私を知れば知るほど、遠ざけたくなる。

 “壊れる前に逃げたい”って思うようになるんだ、みんな」

 

「それでも……知りたいって、言えるの?」

 

夏芽は目を見開いたまま、一歩前に出た。

 

「言えるよ……!

 私は逃げない……あなたが、どんなに怖い過去を持ってても!」

 

「……だから、あなたも……もう一人で背負わないでよ……!」

 

沈黙。

長い、重い、沈黙。

 

そして、柚依はぽつりと呟いた。

 

「……じゃあ、今度、ひとつだけ教えてあげる」

 

「私が、“なぜ願ったのか”──その理由」

 

「それを聞いて、まだ“逃げない”って言えるなら……」

 

その言葉と共に、柚依は再び光に包まれて消えた。

 

夏芽は、動けなかった。

ただその場で、胸を押さえていた。

 

“逃げない”と言いながら、今の自分には……

 彼女の手を、どうしても掴めない気がした。

 

 

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