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土曜日の夜、廃駅跡。
照明もない、崩れたホームに柚依はいた。
夏芽が魔法機関を通じて「個別連絡」を取ることができたのは、初めてのことだった。
ただし、彼女から返ってきた座標は、誰も来ないようなこんな場所だった。
「……来たんだ」
柚依は小さく言った。
いつもの無表情よりも、今日はほんの少しだけ──影が深い。
夏芽はゆっくりと彼女に歩み寄る。
「“願いの理由”を……教えてくれるって、言ってたよね」
柚依は、わずかに視線を落とした。
「……あのとき、“願った”のは──」
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まだ柚依が小学三年生だったころ。
一緒に住んでいたのは、病弱な双子の姉・柚花(ゆずか)。
二人は同じ顔、同じ声、同じ夢を持っていた。
「将来、一緒に魔法少女になろうね」
「絶対、二人で正義の味方になるんだよ」
その約束は、病室の白い天井に吸い込まれていった。
柚花の体は、もうもたないと宣告された。
時間は、あと一ヶ月。
泣いて、祈って、それでも何も変わらない世界。
その夜──柚依の前に“契約者”が現れた。
> 「ひとつだけ、願いを叶えるかわりに──君の魂を代償としてもらうよ」
迷わなかった。
「お姉ちゃんの病気を治して。命を助けて」
──その瞬間、ソウルジェムが生まれた。
柚花は、目を覚ました。
歩けるようになり、食べられるようになった。
笑った。走った。夢を語った。
けれどその命は、“延命”でしかなかった。
柚依が願ったのは「治す」ではなく「助ける」。
代償は、柚依の感情の一部と、回数制限のある魔力の核(ソウルジェムの崩壊期限)。
柚花は数か月後、事故で亡くなった。
助かった命は、ただ時間を引き延ばしただけだった。
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柚依は、呆然と姉の遺体を見つめていた。
契約の代償で涙も流れない。
「また、守れなかった」
それから彼女は、感情を閉ざした。
誰も好きにならないように。
誰も大事にしないように。
そうすれば、誰かを失っても、“壊れないで済むから”。
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回想が終わり、廃駅の闇が静かに沈黙を包む。
柚依は言った。
「……それが、私の“願い”の代償」
「私は、“誰かを救う代わりに”、誰かを愛する資格を失ったんだと思ってる」
「だから、花守に名前を呼ばれると──怖くなるんだよ」
「また、守れなかったらって思うと……怖くて、仕方ないんだ」
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夏芽の目に、涙がにじんでいた。
それは、彼女の代わりに流された涙だった。
「……それでも、あなたは……私を庇ってくれた」
「“好きにならないように”してるのに……助けてくれた……!」
「私……あなたのこと、もうとっくに好きになってたよ」
柚依は、微かに瞳を揺らした。
「……また、泣かせちゃったな」
「ごめんね、私のせいで」
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二人の間に、言葉はなかった。
ただ、止まった時間と、交わらない手だけがあった。
柚依は最後に一言だけ言った。
「ありがとう。私の過去を、逃げずに聞いてくれて」
そして、姿を消した。
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夏芽はしばらくその場に立ち尽くした。
“願い”は、本当は優しかったのに、
“結果”は、彼女を壊していっただけだった。
(こんなの、呪いと同じじゃん……)
夏芽は唇を噛んだ。
絶対にもう、彼女を独りにさせないと決めた。
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