名も知らぬ君が、私の盾だった   作:あめぇp

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ソウルジェムに映った顔

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日曜の朝。

いつもの通学路、制服姿の少女たちが笑いながら通りすぎていく。

 

夏芽は人波から少し外れた場所で、ひとり、魔力測定装置のデータを見つめていた。

 

昨夜の戦闘ログ──そこには、柚依の戦闘パターンと魔力消費量の推移が出ていた。

 

彼女が使用する魔法はすべて“守る”ことに特化している。

圧倒的な展開速度、最小魔力での高密度結界。

 

けれど、その数値は──**“代償が大きすぎる”**ことを示していた。

 

「……これ、今のまま続けたら──」

 

柚依のソウルジェムが限界を迎える日が、遠くない。

 

 

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午後、夏芽は魔法機関の小規模支部を訪れていた。

 

「お願いです……! 柚依さんのソウルジェムを安定させる方法を……!」

 

係員は目を伏せるように、苦い顔をした。

 

「……あの子に渡されたグリーフシードの記録、見ましたか?」

 

「え?」

 

「1年で、150個以上。そのうち半数以上が他の魔法少女への分配にまわされた形跡なし」

 

「つまり、“自分の汚れを自分で処理し続けてる”ってことです」

 

「……普通、数ヶ月で壊れてますよ。

 あの子は……限界を越えた後でも、止まらなかった子なんです」

 

夏芽は、言葉を失った。

 

(自分のジェムの穢れを、自分で集めた魔女のグリーフシードで処理して、

 それでも足りないときは……)

 

(“壊れるまで戦ってる”ってことじゃん……)

 

そのとき、ふと記録に目が止まる。

 

ある一日のログ:

「戦闘後、柚依、自己切除式の魔力排出儀式を実行」

 

→ 「苦痛を伴うが、短期的なジェムの濁り軽減に成功」

 

「……自分の体、傷つけて……ソウルジェム守ってたの……?」

 

喉が詰まる。

 

震える手で端末を閉じた。

 

 

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夜。

夏芽は人気のない橋の上に立っていた。

魔力の痕跡を追い、ようやく柚依を見つけた。

 

白銀の光のなかに立つ少女は、どこか……遠くに見えた。

 

「柚依……」

 

柚依は、夏芽の姿を見ても驚かない。

 

「……来ないって言ったのに」

 

「……黙ってたら、私、何も知らないままでいたんだよ」

 

「自分の体、壊しながら守ってることも……

 誰にも言わずに一人で戦ってることも……」

 

「なんで……そこまでして、私たちを守ろうとするの……?」

 

柚依は黙っていた。

けれど、しばらくして口を開く。

 

「……ソウルジェムって、感情で濁るじゃん」

 

「私、もうずっと前から限界なんだよ。

 誰かを大切に思えば思うほど……、怖くて仕方ない」

 

「でもね、花守」

 

「あなたの泣いた顔だけは、**何度でも見たくなるんだよ」

 “守れなかった顔”を、二度と見たくないから」

 

夏芽は、息が止まった。

 

柚依の手が、懐からソウルジェムを取り出す。

 

割れたガラスのように、黒いヒビが走っていた。

 

「次、もう一回強いのが来たら……たぶん、壊れる」

 

「でも、それでも止まれない。

 止まったら、誰かが死ぬかもしれない」

 

「それが、私の“選んだ願い”だから」

 

沈黙。

 

夏芽は、一歩だけ踏み出して言った。

 

「……お願い。

 あなたを守らせて」

 

柚依の目がわずかに揺れた。

 

「今度は……私が、あなたの盾になる番だよ」

 

 

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