Muv-Luv Alternative The story's black side   作:マジラヴ

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新たなる始まり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは深く、暗い闇であった。辺りを見回しても、見えるものは何もなく、また聞こえる音も存在しない。否、改めて考えてみれば、そもそも肉体の感覚すら不明だった。

 

 

今感知している存在が何で、どうやって意識を保っているのかすら理解できていない。にも関わらず、意識を持って辺りを見回しているという感覚は、果たしてどういうことなのだろうか。

 

 

そんな風に考え出すと、次々に現在の状況への疑問点が沸き上がってくる。しかし、たとえ湧き上がってきても、現状ソレを知る術は存在しない。

 

 

こうしてソコにある以上、それがどうやっても解決できないことなのだと。不思議なことに、その意識の持ち主は理解することができていた。逆に言えば、それだけが唯一知りうる、最大にして最後の情報であった。

 

 

そんな状況が、一体いつまで続いていたのだろうか。否、そもそも時間の感覚というものが感じられるのかも不明な以上、その認識は間違っているのかもしれない。だが、そんな全てが理解不能な現状であっても、その感覚を例えるのであれば、長い長い時間の経過と例える他なかった。

 

 

・・・・・・ちゃ・・・

 

 

・・・る・・・・・・ん

 

 

小さな、本当に小さな音だった。肉体の有無が不明な以上、その音を捉える機関がなんであるのか知る術は相変わらずなかった。しかしそれでも、無音空間に響いた小さな音を捉えた以上、それを捉える器官、もしくはそれに代替する何かがあるというのが理解できた。

 

 

意識の持ち主は、その小さな、今にも消えそうなほどに掠れた音を拾う。その瞬間だった。音を捉えた意識の持ち主は、その音を聞いて激しく動揺した。理由は不明。理解も不可能。

 

 

動揺した理由は、全く持って理解不能だった。だというのに、捉えた音は激しく意識の持ち主の魂を震わせた。意識の持ち主は自分に問う。

 

 

何故、自分はこの音にここまで動揺を示すのだろうかと。答えは結局返ってこない。だがそれでも、その音の存在だけは無視してはいけないと、忘れてはいけないものだと。

 

 

そんな不明瞭な確信にも似た何かが、意識の持ち主に訴えかけた。故に、彼、又は彼女は音の聞こえた方に、存在するのかもわからない手を、感覚だけを頼りに伸ばす。そうしてその手が、音の聞こえた方角を捉えた瞬間、その存在は全てを理解した。

 

 

自分が何故、こうしているのか。その音の持ち主が、その意味が、何であるのか。そして、これからどうするべきであるのか。故にソレは、否、彼は決意する。己がこれからすべき事を、決して為し得て見せるのだと。

 

 

すると、今までうっすらとしかつかめていなかった意識が、ハッキリとした認識を持って保てるようになる。そこで改めて周囲を見渡すと、辺りが淡い光に包まれているのが理解できた。

 

 

そして、視線の先にはその光源であろう、光を放つ人型のシルエットが立っている。あまりの眩しさに顔は見えず、思わず目元を覆ってしまうほどのそれだが、唯一見える鮮やかな赤色の髪が、その持ち主を彼に認識させる。

 

 

「"―――――――"」

 

 

発したはずの言葉は、音を伴わなかった。しかしそれでも、掛けられた言葉を理解したのか、眩しい光に覆われた人型は、ニッコリと、しかし寂しげに笑ったように見えた。その瞬間、彼の認識していた世界が崩壊する。

 

 

ガラスが割れたかのような音を奏で、未だその世界に執着を見せる彼の未練を断つかのように。情け容赦なく動き出す破壊の奔流は、やがて彼をも巻き込み、その後完全に消失した。

 

 

そうして残される、光をまとった人型のシルエットも、やがてうっすらとその体を消失させていき、完全に消え去るその瞬間。

 

 

「頑張って、――――――」

 

 

そんな小さな呟きを残し、完全にそこから姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ッ!!」

 

 

ガバッと、ベッドに横たわっていた青年が跳ね起きる。それと同時、限界以上に体力を消費していた体が酸素を求め、張り詰めていた肺がそれを吸い込むと同時、青年は思い切り咽せる。

 

 

ゲホッゴホッと、唾を巻き込んで吐き散らかされる二酸化炭素。いきなりの衝撃に、思わず両目から滲み出る生理的な涙を右手の袖で乱暴に拭く。

 

 

そして先の二の舞にならぬよう、自身の呼吸をゆっくりと落ち着かせると、青年はゆっくりとベッドから降りて、自身の顔が映る窓ガラスに視線を向けた。

 

 

そこには紛れもなく、自身の顔が映し出されていた。最低限に整えられた、男にしては長い茶色の髪に死人の様でいながら鈍く輝く光る瞳。そして全身を包む、ほぼ黒一色の服装。

 

 

それを確認すると、改めて自身の今いる小さな空間をゆっくりと見渡し、状況を再確認した。

 

 

「俺・・・は・・・帰って、きた・・・のか」

 

 

小さく呟いて、青年、白銀武は再びその両の眼涙を溢れさせた。嗚咽はなく、体を震わせるような激しさはない。しかしそれでも、武は魂を震わせ、透き通った涙を流し続ける。そしてそのまま、幾許かの時間が経過する。

 

 

「くっ・・・」

 

 

自身がそれなりの時間、涙を流していたことを認識し慌ててそれを拭う武。しかし、既に枯れ果てたと思っていた涙が、これほどまでに流れ出た動揺のせいだろうか。

 

 

上手く涙を拭うことができず、袖だけではなく首元や腹部分までに涙が飛んでしまい、武は情けなくそれを左袖で払う。

 

 

そしてそのまま落着き払うこと数分。十分に落ち着いたことを確認すると、ひとつ大きな深呼吸を終えて武は閉じた眼を開いた。

 

 

「俺は戻ってきたのか?あの、10月22日に」

 

 

呟いて、壁にかけられたカレンダーが目に止まる。それには、まるで現在の日時を証明するかのように、10月の22日部分に赤いマーカーで丸く囲まれていた。

 

 

それを認識すると、武はもう一度目を閉じ考え込むように下を俯く。それから数秒後、武は閉じていた瞼を開き、部屋のドアノブに手を伸ばしそれを捻る。

 

 

開いた先には、過去に見慣れた階段が下に伸びていて、迷うことなくゆっくりと下に下り、階段を下り切った先には玄関が目に入った。

 

 

そこで少し立ち止まる武だったが、直ぐにその迷いを断ち切ると素早く玄関の扉を開いた。そして、外の光とともに飛び込んでくる灰色の光景。それを見て、武はやはりという思いを顔に浮かべ、そのまま一歩二歩と前へ進む。

 

 

家の敷居から完全に出て右を見ると、そこには記憶通り破壊された撃震の下半身のみが突き刺さる、崩壊した家屋が目に入る。そして数秒後には、砂利と家の残骸の少しを巻き込んで傾く撃震。

 

 

全てが、曖昧になりつつある過去に体験した事と相違なく起こっていた。

 

 

「俺は再び・・・戻ってきた。この・・・いかれた世界に。戻ってこれたんだ、この10月22日に」

 

 

言葉に出して、武はギュッと両の拳を痛いほどに握り締めた。込められた力は強く、拳を伝い黒い斯衛服に身を包んだ武の身体全体を震わせる。そして気の済む僅かな時間、その喜びを噛み締めるとフッと全身の力を抜き、死にかけていた瞳に険を込めてある方角を見据える。

 

 

「行くしかない、横浜基地に。会って、全てを」

 

 

そうと決めると、武は意思を持って嘗て仲間と共に過ごしたあの場所、横浜基地へと足を向けて歩き出す。その背中には迷いの姿勢はなく、ただ真っ直ぐとやるべきことを決めた人間が持つ意志を宿っていた。

 

 

だが、そんな武がふと何かを思い出して一度歩みを止めて後ろを見る。そう、自身の家の隣にあった廃墟を見つめるべく。だが、それも一瞬のことだった。直ぐにやるべき事を思い直し、再び前に向けて歩き出す。

 

 

「(行ってくるよ、純夏。だから、待っていてくれ)」

 

 

言葉には出さず、ただ胸中でのみ吐き出し、武は思い人が待つであろう彼女の元へ足を向けた。今度こそ、立ち止まることはなく。

 

 

 




プロローグです。
TDAの武ちゃんは、未だ情報が少ないのでちょっとつかみにくいですね(汗)
なので、かなり想像入っちゃうと思います。
そんな武ちゃんでも許して頂ければと、心の底から祈ってます。

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