Muv-Luv Alternative The story's black side   作:マジラヴ

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今回少し短いです。
それではお楽しみ?ください。


episode2-4 武の勘ぐり、夕呼の内心

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11月11日15時30分。佐渡ヶ島ハイヴからのBETA本土上陸郡を殲滅し、武達A01部隊のメンバーは一人の欠員も出すことなく、国連軍横浜基地へと帰還した。

 

 

そして到着するなり、急ぎ足で戦術機を固定のハンガーに収納し終え、そこで漸く武はふっと張り詰めていた空気を緩和させた。

 

 

ゆっくりと、今まで握っていた操縦桿から手を放していき、次いで大きなため息をついて額にかいた汗をサッと拭う。この後は、直ぐ様各機体の整備が行われる手はずになっている。基地に到着したからといって、あまりゆっくりしている時間はなかった。

 

 

特に機体の整備については、いくら現地で簡単な整備点検を行ったとはいえ、そんな程度の事で機体の整備が完全に終わる筈がない。ハッチを開け、外に身を乗り出せば機体の整備を行う整備兵が、かなりの人数集まっていた。

 

 

これから、彼らの仕事が始まるのだ。そして恐らく、その作業は徹夜しても終わることは無いであろう。何せ、XM3を搭載した戦術機で暴れまわったのだ。XM3は優れたOSであるとは言え、その分上手く扱えなければ機体にかかる負荷はとんでもない事になる。

 

 

特に、今のXM3は未完成であるのだし、実戦で使用したのも今日が初めて。となれば、どの機体にも想像を絶する負荷がかかっている筈なのだ。そうでなくても、武は今回の作戦でかなりの量のBETAを相手に奮戦したのだ。

 

 

悪い意味ではないとは言え、機体の整備には他の機体以上に時間がかかる可能性がある。最悪、腕の関節部位は交換を考えなければならないかもしれない。

 

 

その事を考えれば、暫くは戦術機で出撃するような事態が起きないのを祈る他なかった。そんな記憶は武には無いとは言え、どのようにして未来が変わるかわからない以上祈る他ない。

 

 

しかし、それよりも今は報告が先だった。この後、予定としてはヴァルキリーズメンバーでのデブリーフィングが予定されているが、武に限ってはそちらに向かうわけにはいかないだろう。

 

 

どんな理由があろうとも、先ずは夕呼への報告が第一だ。横浜基地との通信で結果は通達してあるものの、盗聴や傍受の可能性がある機械通信手段では、その詳細を語ることはできなかった。その為、詳細な報告については本人と会う必要があるのだ。

 

 

武は戦術機から降りて、コンクリート張りの床に降り立った後、まずは事情をみちるに報告すべく彼女に声をかける事にした。

 

 

「伊隅大尉」

 

「ん? どうかしたのか黒鉄。この後は、デブリーフィングだぞ」

 

「いえ。その事ですが、俺はこの後香月副司令に報告に行かなければならないので、先に始めていてください。最悪は、そちらの報告よりも長引き、不参加という形になってしまうかもしれませんが」

 

「そう言う事なら、我々は副司令との用事が済むまで待たせてもらうことにしよう。幸い、私達にもやるべき事は沢山余っている事だしな」

 

 

そう言って、みちるは後ろに立っている自らの搭乗する不知火を指す。そこには既に整備兵が群がっていて、何やら悲鳴のような声が聞こえ始めているが、武は気にしなかった。その原因は、大凡自分の想像通りだからだろう。

 

 

内心小さくため息をつき、武は敬礼をして了解の意を示す。みちるもそれで用は終わったと判断し、部下達に大声で呼びかけて機体の整備に加わって言った。衛士は整備兵に比べると、対した整備ができるわけではないが、それでも使用する者として整備の知識はある。

 

 

とりわけ、伊隅ヴァルキリーズはそこらへんを徹底しているようだからこその、今回の提案なのだろう。ちらりとそちらを見ると、邪魔にならない範囲で各機体の整備を、整備兵に混じって行っている彼女達の姿が目に入る。

 

 

とりわけ、新任の少尉達の機体は甚大な疲労ダメージを蓄積しているためか、整備の困難さや大変さから、整備兵に混じって少女達の悲鳴も聞こえる。

 

 

今後は、今回の作戦のような激しい機動をしても、機体に負担をかけないような機体制御技術を学ぶことが重要となってくるだろう。

 

 

特に、この新OSであるXM3は、武の推察通りならハイヴ内戦闘でこそ本当の有効性が発揮される事になるだろう。そして、ハイヴ内での戦闘ともなれば、大きくなればなる程戦術機の稼働時間は多くなる。

 

 

そうなれば、今回のような旅団規模で負担をかけすぎる戦いは、絶対にやってはいけないのだ。これからはもっと、そういった面に気をつけて戦術機の操縦を心がけさせるべきだろう。

 

 

XM3の欠点があると言うならば、機体を扱うのが下手であれば、その分の負担が戦術機にかかってしまうという点なのだから。

 

 

武はそんなことを考えつつ、自身の機体を見ている整備兵らに一報して、足早に夕呼の執務室へと向かった。

 

 

幸い、A01の機体を整備している戦術機ハンガーは夕呼の執務室とそう離れていない。そのおかげで、軍人として鍛えられた脚力をもってすれば、早足気味に歩けば3分程でたどり着く事ができた。時間にしても、基地に到着してこの時間。決して遅いとは言えない。

 

 

セキュリティーをパスし、入室前に一言声をかけた武はそのまま執務室に入る。そしてそんな武を見た夕呼は一言。

 

 

「遅かったわね」

 

「・・・・・・」

 

 

そんな、冗談とも本気とも取れる声色で武に言った。尤も、夕呼の憎まれ口に慣れている武は文句一つ言わなかったが、内心で呆れる位の悪態は許して欲しいと思っていた。

 

 

「結果は通信で聞いたわ。良くやってくれたわね。おかげで、帝国軍は斯衛含めて今回の結果に興奮を抑えられてない様子よ。さっき向こうから連絡があってね、色々と尋ねられたわ。全く、うるさいったらありゃしない」

 

「・・・帝国の興味を惹きつけられたなら、結果としては良かったのでは」

 

「まぁね。でも、でかい魚を釣れた代わりに、余計なおまけも付いてきそうだけど」

 

「反オルタネイティヴ4派・・・オルタネイティヴ5促進派の動きも、それについてきたと? 」

 

「勿論、表立って行動を起こすような事は、今はまだしていないわ。とは言え、直ぐ様思いつくような嫌がらせの対処は簡単だろうけど。世の中、ローリスク・ハイリターンなんて甘い事はないでしょうから」

 

 

夕呼のそんな投げやりとでも取れるような言い様に、武は重々しく頷いた。夕呼は簡単に言っているが、その実とてつもなく重く深い内容だ。それは、肯定するだけでも重く伸し掛ってくる。ここからが、本当の戦いなのだ。

 

 

BETA大戦等と名目上言われているが、その実人間同士の戦いも裏では同じ程度の規模の大きさで起こっている実情であり、その結果が人類生存への分かれ道となる世界規模での政治戦争。そのスタート地点に、漸く武は立ったのだ。軽々しく頷ける筈もなかった。

 

 

「ま、そんな事は今はどうでもいいわ。それより、今回の試作型XM3実戦試験の結果だけど、今も言った通り向こうの興味は随分惹けたわけだから、大成功ってことでいいでしょうね」

 

「光線属種がいない状況下とはいえ、A01の損害は各機体への負担だけで、死亡者はいませんでしたから、そう捉えていいかと」

 

「これなら、XM3が完成次第、完成版XM3での評価試験もやりやすくなるわ。本当なら、トライアルではそれ以外にも利用価値はあったんでしょうけど、それもなくなるでしょうね。今回の結果を見るに、予想通り完成版のXM3が生み出された暁には、横浜基地への注目は高まり、最前線だというのにどこか緩みきったこの基地の雰囲気も吹っ飛ぶわよ」

 

「・・・俺としても、幾ら自覚を持たせるためとは言え、BETAをこの基地に放つのは得策とは思えなかったので」

 

 

そう言って、武は小さくため息をついた。そう、当初の夕呼の作戦としては、今回のBETA侵攻郡の中から一部を捕獲してこの横浜に移送する予定だったのだ。理由は簡単。今の横浜基地の緩みきった空気を、基地のBETA襲撃という事態をもって払拭させるためだ。

 

 

ただでさえ日本は最前線であり、目と鼻の先には佐渡ヶ島ハイヴというフェイズ4に分類されるハイヴが存在していながら、今の横浜基地の空気は緩んでいた。

 

 

基地全体には形ばかりの緊張感があるだけで、その実最前線だという自覚をあまり持たない、国連軍の兵士達や、最近までは訓練兵という立場に甘えきっていた207B分隊の彼女達。

 

 

このままでは、大きな作戦が実行に移されるとき必ず支障が出てくる。そう考えた夕呼は、最初そう考えたのだ。しかし、武がその話を聞いた際にその作戦を反対し、代わりにXM3の有用性を示す事によってこの横浜基地に注目を集めるという策を提案した。

 

 

こうしておけば、XM3が実装されるとなった時に、新OSが開発されたのは横浜基地であり、そこに属する国連軍衛士の手によって生み出されたという実績が立つ。そうなれば、横浜基地の衛士達も、他の軍人達もうかうかはしていられないだろう。

 

 

なにせこのXM3という新OSは、未来情報によれば奇跡のOSとまで呼ばれる事になる代物なのだ。武自身もそれを使用し、実感したからこそ言えることがある。この新OSは、紛れもなく言葉通りの代物だと。そうなれば話は簡単だ。

 

 

日本中、いや世界中からXM3が生み出された横浜基地は注目を浴び、他の軍人達からも興味を大きく惹くことは想像に難くない。そんな注目を浴びた基地の軍人達が、今のような雰囲気や態度でいられるわけがない。

 

 

XM3を世に生み出した基地として、そしてそこに属する軍人として、衛士であろうとなかろうと、無様な姿を見せられるはずがない。

 

 

必然的に、基地の様子も最前線に相応しいものへと変わる事だろう。軍人というのは、良くも悪くもプライドに拘る連中が多くいるのだから。

 

 

 

そうなれば、XM3トライアルの時に、BETAを放って無駄な犠牲を生むような事態はなくなり、戦力も備えられる。そして今回、武の提案通りにXM3へ興味を向ける事ができたのだ。

 

 

実戦配備されるにはまだ時間がかかるだろうが、それも数週間とかからないだろうし、完成された暁には真っ先に横浜基地の戦術機に順次換装される予定だ。時間は十分ある。だからこそ、そこについて考えるのはそこまででいい。

 

 

今度はまた、それ以外のこれからについて話すべきだ。武はそう決めると、一度深く頷いて次の話をするべく夕呼を見る。すると、夕呼の方もそれに気づいたのか、ニヤリと口角を上げて話題を切り替える。

 

 

「それじゃあ、今度はこれからの事についてだけど、あなたからは何かある?あなた自身が体験した、変わらないであろう未来の情報についてはあるのかしら」

 

「・・・思い当たる節は幾つかありますが、率先して対策する事案はありません。ただ、一番近く起こる事態といえばこの横浜基地目掛けて、爆薬を大量に積んだHSSTが落ちてくるという事位かと」

 

「ああ、それね。そう言えば、BETAが佐渡ヶ島から侵攻してくるって情報と一緒に引き出せたの忘れてたわ」

 

「国連軍所属の珠瀬事務次官がこの基地に来訪し、その最中にHSST落下の報が伝えられました。だから恐らく、HSSTが落下してくるとしたら、事務次官がこの基地に来訪してくる日になると思います。それに今にして思えば、あの事件自体オルタネイティヴ5促進派の工作だったのかもしれません」

 

「かもしれないじゃなくて、確定でしょ。それ以外、何の目的があって爆薬満載のHSSTが偶然このオルタネイティヴ4主導の横浜基地に落ちてくるんだか」

 

 

本当に嫌そうに言って、大きく肩を落とす夕呼。若干の皮肉が武に向けられている気もしたが、反応するとまた長くなるのでいちいち返事を返すような真似はしない。代わりに、それについての対策を浮かべるが、選択肢は一つしかなかった。

 

 

前回は珠瀬の緊張癖を克服させる為、このHSSTを1200mmOTH砲での超長距離射撃で撃墜させる事になった。だが、今回はこの方法をとらなくても良いと、武は考えていた。それというのも、理由は二つある。

 

 

一つ目は、まりもの話によって最近は207B分隊内の雰囲気がチームとして纏まってきているとの報告を受けている事。小さなぶつかり合いは勿論起こりうるが、それによって部隊内の雰囲気を悪くさせるような事態にはなっていないようだ。

 

 

どころか、不満点が見つかれば、分隊内のメンバーでお互いにそれを指摘し合って、悪い点を少しずつでも克服しているとの事だ。特に、最近では珠瀬の射撃の腕前が以前にも増して神がかっているらしい。

 

 

何せ、鬼軍曹としての評判が名高いまりもが想定した、極限状態での射撃演習を実行した所、対物ライフルでの超長距離狙撃を全弾成功させたとの事。まりもをして、極東一のスナイパーと言って過言ではないと言わせたのだから、最早その心配をすることはない。

 

 

そして、今回の総合戦闘技術評価試験演習で落ちることはないだろう。そうなれば、戦術機に乗って訓練をこなすことになるが、緊張というコンプレックスは乗り越えていると推測される為、HSST狙撃事態をやらせる必要がない。

 

 

二つ目の理由としては、ヴァルキリーズの狙撃手、風間祷子の実力を見ておきたかったからだ。一応、シミュレータ実習ではその実力を見てはいるものの、危機的状況においてどの程度の範囲成功させられるのかというものは、知っておいて損はない。

 

 

失敗すればアウトではあるが、武自身の勘と今までの実習結果を見るに外すことは無いと確信していた。珠瀬と比べれば、狙撃手としての実力は劣るかもしれない。だが、経験を積んでいる衛士と言う点から考えれば、風間は十分HSSTを撃墜できると判断した。

 

 

故に、これは実績を積ませる為、武自身の目で見て確かめる為だった。そしてそれを、今夕呼に武が伝えた所、特に悩む事無く彼女を頷かせる事ができた。それというのも、A01の資質というのが関係しているという事実は、今は未だ武は知らない。

 

 

その為、夕呼が了解の印を出した理由については勘違いをしたままだったが、特に重要でもない為に夕呼は言わなかった。代わりに、HSST落下についての詳しい対応策を事前に決めて、そこで一旦話は終わる。

 

 

「で、こっちからも一つ連絡することがあるわ」

 

「先生からですか? 207B分隊の総合戦闘技術評価演習の日取りでも決まったので? 」

 

「それは明後日から・・・って、そうじゃないわよ。報告っていうのは、もしかしたら近々アンタ用に新しい機体が届くかも知れないわ」

 

「新しい・・・機体ですか ?現状の不知火でも、十分戦力たり得てますが・・・」

 

「私だって、別にアンタにただ機体をあげるかもってわけじゃないわ。これは電磁投射砲に関わった帝国側のお願いという形かしら。是非とも、そのXM3をXFJ計画で作り上げられた不知火弐型で試してみて欲しいと」

 

 

夕呼のその言葉に、武は顔を顰めた。要はその提案、不知火弐型の宣伝も兼ねてみて欲しいと言っているようなものだからだ。別にこの提案自体に文句があるわけではないし、寧ろ優秀な機体が貰えると言うなら儲け物だろう。

 

 

違和感を感じたのは、夕呼がそんな提案を素直に呑んだところだ。善意で引き受けるような人間じゃないが、これもまた何か考えがあってのことだろうかと、そんな事を勘ぐってしまう。

 

 

一方で、そんな武を見る夕呼の内心は、何かにつけて勘ぐるその姿に悪魔的な笑みを浮かべていた。要するに、完全にからかっているというべきか。

 

 

常に表情をほとんど変えず、弄り甲斐がない相手を弄ぶ。要するに、夕呼はどこまで行っても、どの世界においても夕呼だったというべきか。

 

 

残念ながら、それに気付く事ができない武は終始困ったように表情を顰め、その姿を見る夕呼はここ最近溜まったストレスを、そんな大人げない行動で紛らわせるのだった。

 

 

それから15分程経った後、今話すべき報告を全て終えて武は執務室を後にする。次はヴァルキリーズの隊員達と、今回の作戦のデブリーフィングの時間だ。

 

 

となれば、先ずは彼女達がいる戦術機ハンガーに行くべきだろう。武はそこまで考えると、珍しく大きなため息をつきつつ、何気に気になっている207B分隊の総合戦闘技術評価演習の事が頭をよぎり、目を瞑ってそれを頭から消し去る。

 

 

いずれにせよ、前途多難なのはこれからだ。考え出したらキリがないため、武は取り敢えずはデブリーフィングの内容を考えつつ、悲鳴と怒号で賑わう戦術機ハンガーへと足を向けるのだった。




あとがきです。
今回、自分で見て短かッ!!
と叫んでしまいました。クオリティも低くて申し訳ないです。

とりあえず、今回も3日で更新することができました。これからも、この調子で投稿できたらと思います。

後、お気に入り数600突破、20000PV超えることができました。これも皆様のおかげです。
作者の拙作をここまで支持してくれた方々、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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