Muv-Luv Alternative The story's black side   作:マジラヴ

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お久しぶりです。そして遅れて申し訳ありませんでした。




episode3-1 因縁

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

「来たわね黒鉄」

 

 

プシューッと、油圧式のスライドドアが音を立てて開き武が執務室に入室するなり、夕呼は書類の束をバサッとそちらに向けて言った。

 

 

それを見た武は、何とも言えない様な表情を顔に浮かべ、思わず何か言おうとしたが、冷静に考え直して口に出すのを控える。

 

 

夕呼には悪いと思ったが、いちいち彼女につっこんでストレス発散の道具になる気はない。代わりに、わざとらしく大きな咳払いを一つすると、先を促すよう視線を向ける。

 

 

すると、やけにガッカリとした様子の夕呼が大きなため息をついて、投げやりに返事を返した。

 

 

相変わらず、変な所で子供っぽい仕草や態度が残る夕呼。その面影には、この世界の夕呼とはあらゆる意味で差異があるというのに、物理講師だった彼女の姿を思い浮かべさせる。

 

 

しかしそんな感傷に浸っている暇はなく、武は頭を左右に振ると思考を切り返る。改めて夕呼を見た時には、既にいつもの表情の険しい武の顔があった。

 

 

「ふぅ、冗談も通じないようだし、さっさと用件伝えるわよ」

 

「お願いします」

 

「・・・昨日、207B分隊が総合戦闘技術評価演習をパスした事は聞いてるわよね? 」

 

「はい。というより、それを伝えたのは先生だったと思うんですが」

 

「そうだったかしら? まぁ、そんな事はどうでもいいのよ」

 

 

変な事につっこむなと、自分の事は棚に上げておいて言う夕呼。そんな態度を堂々ととる彼女に、少しばかり白い目を向けつつ、武は更に先を促す。

 

 

「これで207B分隊は訓練課程を戦術機訓練課程に移行。これ以降は、任官するまでは戦術機での訓練に従事する事になるわけだけど、その教官役はまりもと黒鉄。アンタ達二人にやってもらうことになるわ」

 

「それは承知しています。そもそも、それは俺が頼んだことですし」

 

「それは知ってるわ。私が言いたいのはこの後よ。アンタにはそれとは別に、まりもに対しても教官役をやってもらおうと思ってるわ」

 

「神宮寺軍曹に・・・ですか? 」

 

「ええ。と言っても、戦術機の操縦をどうこうなんて言わないわ。あれでもまりもは富士教導隊にいた程の腕前だし、アンタもそれは知ってるでしょう? だから、アンタがまりもに教えるのはXM3の事について。彼女含め、207B分隊の機体は最優先でOSをXM3へと換装させるわ。というより、まりもの操縦する機体はA01と同時期にOSを換装済みだから、もう変える必要はないんだけど」

 

 

何気なく言う夕呼だったが、武は内心驚いていた。まさか夕呼が、そこまで並行して事を進めさせているとは知らなかったのだ。よくよく考えてみれば、彼女ならやれる事であろうが、基本面倒を嫌う彼女が言われるまでもなくそこまで進めさせているのは意外だ。

 

 

今は何より、目下他の事で忙しいはずなのだから。それにXM3に換装させるというのも言う程楽な作業ではない。まりもの機体のOSを換装した時期といい、夕呼には207B分隊が総合戦闘技術評価演習をパスする事がわかっていたようだ。

 

 

武でさえ、本心では心配をしていた部分があったというのに、夕呼の思い切りの良さと勘の鋭さには舌を巻くばかりだった。

 

 

「続けるわよ。207B分隊の使用する機体については、アンタも知っての通りかなり状態の良い吹雪を5機搬入するわ。そのOSもXM3にこちらで換装するから、207B分隊は最初からXM3を使用する事になるわね。そういう事だから、実質的には教官になるのはアンタって事になるかしらね。まりもは補佐になっちゃうかもしれないわ」

 

「・・・了解しました。神宮寺軍曹にはこの事は? 」

 

「既に通達済みよ。それに、XM3の資料については総合戦闘技術評価演習前に私から渡してあるから、基本知識は頭に叩き込んであるでしょう。総合戦闘技術評価演習中に、訓練で使うシミュレータについては大急ぎでXM3にOSを換装させたから、後でアンタから整備兵に礼を言っときなさい」

 

「了解しました」

 

 

そう言って、武は大きなため息をついた。これはいよいよ、整備班長から文句を言われるのは間違いない。尤も、今までの整備兵達の苦労を考えればそれも仕方ない事だろう。武は内心で覚悟を決めると、残りの話を片付けるべく再び夕呼に声をかけた。

 

 

「それで、神宮寺軍曹には何時? 」

 

「207B分隊の連中に座学を教えてる間は無理だから、必然的に訓練後となるわね。時間については、午後8時位からが丁度いいって言っていたから、その時間に強化装備を着用の上、訓練兵使用のシミュレータハンガーに向かいなさい」

 

「委細承知しました」

 

「よろしい。なら後は任せたわよ。私はまだやる事があるから」

 

 

そう言って、夕呼はそれっきり黙り込む。視線も武から書類に移り、思考は既に別の方向へと向いているらしい。武はそれを確認すると、嫌味がてらに敬礼をしてみた所、しっかりと反応して嫌そうな顔をするのだから、香月夕呼。空恐ろしい女である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕呼との用事が終わって以降、A01との訓練で時間を費やす事早9時間程が経った。武はみちる達と訓練後の反省点等を指摘し終え、ほっと一息吐いて給水パックのストローを口に含む。

 

 

中身は栄養剤のような物が入っており、この後はまりもとの訓練が控えている為に手早く済ませる。ゼリータイプの飲料はスルスルと喉の奥に入っていき、あっという間に食事を終えると、空になった容器をゴミ箱に放り込み、今日上がった反省点について考える。

 

 

先日の実戦では、先任、新任含めてXM3を搭載した機体への損害が想定よりも高くなっていた。原因は勿論、未だXM3を完全には上手く使いこなせていないという所だろう。

 

 

XM3の利点は動き回ってナンボというものだ。従来のOSを遥かに上回る操作性や、鋭い機動を可能とするXM3だが、物理的法則を無視できるものではない。無理をすれば無理をするだけ、機体への損害は大きくなっていくのだ。

 

 

基本的な操作については、最早言うべき所はそう多くない。これからの課題は、如何に機体に疲労を与えずに機体を制御するか。それに尽きる事は明白だった。このままの拙い機体制御では、ハイヴに突入するとなったら敵に殺されるより先に機体の方が参ってしまう事だろう。

 

 

とはいえ、一朝一夕にできるものではないのも確か。既に幾つもの実戦を超えている先任共は兎も角として、新任の少尉達は経験も訓練時間も未熟の域だ。XM3を搭載した機体での訓練を始めてから、1月も経っていない。結果を焦りすぎるのも、効率を考えれば損になるだろう。

 

 

「習うより、慣れろ・・・か。それしかないな」

 

「悩み事か黒鉄? 」

 

「伊隅大尉」

 

 

突如、声をかけられて武はそちらを振り向いた。常であれば、接近される前に気付けたであろうが、深く考え事をしていたせいか気が緩んでいたようだった。

 

 

「何か俺に用でも? というより、大尉は着替えないので? 」

 

「ふっ、私達はこの後も訓練を続ける予定だからな。いつまでも、黒鉄を悩ませるのも忍びないのでな」

 

「・・・すいません」

 

 

武が気まずそうに謝ると、みちるは何を謝ると口角をつりあげて笑う。武がどう言おうと、実際にみちる達が武を悩ませていたのは事実。しかし、それをあっさりと口に出して認め、更なる訓練に励むというのはそうできることではない。

 

 

ましてや、幾ら技量が優れていようと武は新参者なのだ。そんな男の思っている事を、嫌味も言わずに清々しく自分から告白し皆を率いているのだから、これはみちるのカリスマというものなのだろう。流石に大尉を名乗るだけのことはあった。

 

 

「それより、黒鉄は急がなくて良いのか?この後、神宮司軍曹と用事があるのだろう?遅刻すると、例え上官であっても厳しい目で見られるかもしれんぞ」

 

「大尉は、軍曹の事をご存知で? 」

 

「知っているも何も、私達が訓練兵だった頃の教官だったからな。伊隅ヴァルキリーズの人員は、皆神宮司軍曹の子供という訳だ。そういう意味では、本当のヴァルキリーマムはあの人なのだろうな」

 

「そう・・・ですか」

 

 

みちるのその言葉に、武は複雑な思いを抱く。嘗ては、まりもの存在は自分にとっても同じであった。同じであった筈なのに、前の世界では命令だったとは言え、彼女に反発してしまったのだ。それどころか、その恩人に対して大した恩も返せずに決別してしまった。

 

 

その時の事は、今思い出しても完全には割り切ることができずにいたのだ。自分が最も不幸だと思い込み、他者の事情を考えもせずに命令だからと、そう言って結果的に自身に銃口を向けさせる事になってしまった。あの時のまりもの顔は、忘れる事はないだろう。

 

 

そんな風に、ネガティブな内面を表情に表していると、みちるは気まずそうに咳払いをして空気を変える。

 

 

「まぁそういう訳だ。黒鉄はさっさと向かった方がいいぞ。こちらの事は、私がしっかりと監督しておく。だから、黒鉄は黒鉄の為すべきことをやるべきだ」

 

「了解、です。それではこれで」

 

「ああ。それと、黒鉄は明日からは207B分隊の連中の指導に当たるんだったな。彼女達は任官後、私達の部隊に編成される事となる。せいぜい、それまでに使い物になるよう扱いてやれ」

 

「はい。失礼します」

 

 

敬礼はせず、軽く頭を下げて武はその場を後にする。時刻は既に午後7時40分を迎えている。まりもの性格を考えると、指定時刻の15分前には準備している事だろう。それを考えれば、今から向かえばちょうど良い時刻だ。

 

 

武はそれを確認すると、走らない程度に訓練兵専用シミュレータハンガーに向かい、丁度5分が経過した頃目的地へと到着した。すると、予想通りそこには強化装備を纏って準備を終えたまりもがシミュレータの前で立っていた。

 

 

そして、武の姿を確認するなり、ビシッと非の打ち所のない程見事な敬礼を向けた。それを見て反射的に武も同じく敬礼を返し、同時に手を下ろすと先に口を開く。

 

 

「遅れてすまない、軍曹。諸事情により少々遅れることになった」

 

「謝ることはありません大尉殿。こちらが早く来すぎただけですので」

 

「そうか。軍曹はXM3についての資料は既読だと聞いたが、それは確かか? 」

 

「はい。香月副司令より、総合戦闘技術評価演習前に受け取り内容は頭に叩き込んであります」

 

「了解だ。ではさっそく、シミュレータでの訓練に入るとする。軍曹は教官機、自分は0号機のシミュレータに搭乗する。時間は無駄にはできない、さっさと始めるぞ」

 

「了解であります!! 」

 

 

まりもは返事をすると、素早い動作で教官機へと搭乗する。武はそれを確認すると、自身も駆け足で0号機へと向かい、サッとコクピット内に乗り込んだ。

 

 

乗り込むなり直ぐ様ハッチを閉め、必要な処理を全て終えてシミュレータを起動する。然程時間はかからず起動は終わり、網膜投影システムが作動して様々なステータス画面が映し出される。

 

 

それを確認し、あらかじめ設定しておいた訓練メニューを確認すると、通信をONにして教官機へと乗り込んでいるまりもに呼びかける。

 

 

「そちらの準備は出来ているか? 出来ているなら、これよりXM3訓練プログラムを開始するので、返答を頼む」

 

『はっ! 神宮司機、全ての準備を終え待機中であります。いつでもいけますので、よろしくお願いします大尉殿』

 

「了解だ。これより、XM3のシミュレータ訓練を開始する。それとこれは注意だが、XM3は資料にあった通り従来のOSよりも機動性能が格段に上がっている。その為、これまで通りに操縦すると痛い目を見ることになる。機体制御は繊細に扱うことを心がけろ」

 

『委細了解であります』

 

「よろしい。それでは、XM3の演習プログラムを開始する」

 

 

武はそう言うと、一旦口を閉じる。そして訓練プログラムの開始を行うと、ブォンという鈍い機械音を立てて訓練プログラムが起動した。

 

 

それと同時、網膜投影上に所々破壊されているものの幾つもの建物が聳え立つ市街地の風景が映し出される。その瞬間だった。

 

 

『えっ!? って、きゃっ!? 』

 

 

突然のまりもの、女性らしい悲鳴。それを聞いた瞬間、やはりと武は予想していた事態が発生した事を悟った。映像を見ると、まりもが搭乗している撃震が無様な格好を晒していた。

 

 

「どうした軍曹? 訓練プログラムが始まってから、まだ1分と経っていないぞ」

 

『も、申し訳ありません!! ですが、これは・・・』

 

「冗談だ、軍曹。皆まで言う必要はない、これは予想できていた。初めに言っておくが、軍曹の機体が転倒したのは決して不具合のせいではない。XM3は特徴的な機動を行う為に、以前のOSで自動化されていた行動をマニュアルで操作しなければならない部分がある。今の不具合は、その影響の一つだ」

 

『・・・成る程。資料は頭に叩き込んでいたつもりでしたが』

 

 

映像上のまりもが、悔しそうに表情を歪めるのを見て武は内心悪いことをしたかなと、苦笑してしまう。それというのも、今のは資料には載っていないことだったからだ。

 

 

まりもに渡された資料には、XM3の特徴、従来のOS以上の機動ができるといった、特徴は網羅されているが、その実今のような事は記載されていないからだ。

 

 

XM3の資料を最終的に纏めたのは夕呼だが、その前段階で武がXM3についての内容を纏めている。その時に、敢えて武は起動時気を付けないとまりものような事故が起きるというのを、記載していなかった。

 

 

それというのも、XM3を扱うに当たっては知識よりも実際に乗って慣れろという考えからだ。これは、武が理論派ではなく実践派というのが大きな理由でもあるが、実際にXM3の繊細さを、搭乗者には理解して欲しかったからだ。

 

 

最初に失敗しておけば、どの衛士も慢心といった油断を捨て去るであろうから。これが実機であれば、整備問題に成りかねない事だが初めはシミュレータ実習での慣らしを指示されている以上、実機ほどには問題にはならない。

 

 

ならばこそ、練習の段階で慣れさせ実機に乗った時にはこのようなヘマをしないよう、心がけさせる。それが、武の考えたプランの一つだった。しかしそれでも、あらかじめ言っておかなかったことはやはり謝るべきかと考えると、武は口元に小さな笑みを浮かべてまりもに呼びかけた。

 

 

「気に病むことは無い。これは元々、資料には書いていなかった事だ。軍曹のように、知識だけを叩き込んだのでは限界があるからな。今回のようなサプライズを用意した」

 

『つまり、大尉殿の言い分ですと、習うより慣れろと? 』

 

「気に障ったようなら謝る。だが、XM3は遥かに機動性が向上し複雑な機動も簡単にできるようになった代わりに、従来のOSより繊細さが求められるものだ。初めにこのような事態にあっておけば、自ずと身も引き締まるというものだろう? 実際、OSの性能は非常に高く有効なものとなったが、今までのように扱っていては機体にとって優しくないからな」

 

『了解です。それと、先の様な無様な姿をお見せしてしまい申し訳ありませんでした。これより先は、無様な姿を見せないように精進しますので、ご指導の方よろしくお願いします』

 

「了解だ。それでは今度こそ、訓練を開始する。先ずは基本からだ。基本だからといって、気を抜くなよ」

 

 

そう言って、武は返事を待たず訓練を開始した。初めはそれこそ初歩の初歩から、段々とXM3で初めて利用可能となったキャンセルを利用した簡単な機体操作の連続。

 

 

傍から見れば、それこそ訓練兵がこなすような初歩的なものだ。何も知らないベテラン衛士が見れば、おちょくっているのかと文句の一つでも飛んできそうな訓練だ。

 

 

『神宮寺、行きます!!』

 

 

しかしまりもは、武によって用意されたそんな基本的な訓練プログラムを、文句一つ漏らさず淡々とこなしていく。実際に機体を制御しているまりもには、XM3の繊細さとその操作性の有用さが次第に理解できるようになっていったからだ。

 

 

それと同時に、機体を大事に扱わなければならないという感覚も理解し始めた。激しい機動ができる分、それに比例して疲労も溜まっていく。下手に扱えば最悪に、上手く扱えば最良の結果にと。

 

 

特に、まりもの扱う機体は第一世代機である装甲重視型の撃震。その機体重量ともなれば、着地一つとっても上手く扱った時とそうでない時の差は、結果を見るまでもなく明らかだ。

 

 

それを感覚で感じ取った時、まりもは即座に理解する。今のままでは、XM3を完全には使いこなせていないのだと。

 

 

そうなると、まりもは妥協しなかった。元来そういった事にムキになる性質に加え、教官という訓練兵に教えを説く立場の人間として中途半端は自分に許さない。他人に厳しく、自分にはもっと厳しく。鬼軍曹というその言葉を、まりもはまさに体現していた。

 

 

そしてその機動の見ている武は、更に驚かされていた。とてもではないが、シミュレータで触れるのが初めてとは思えない程だったからだ。

 

 

まりもが富士教導隊出身のエリートだという事は理解していた。しかしそれでも、まりもの成長速度は武を持ってしても感嘆せずにはいられない。

 

 

突然現れた障害物に対して、キャンセルをうまく利用して撃墜する機体制御。予測していたのではないかと思う程の、咄嗟の判断力と、機体にかかる衝撃を計算しての見事な機動。

 

 

一見無謀とも取れる行動の数々。それらを、未だ拙いながらもXM3の機能を最大限利用して迅速に行っていく。

 

 

気が付けば時刻は深夜2時になり、訓練を始めてから6時間程経過した事になる。しかしそれでも、まりもは訓練を止めようとはしなかった。途中から武も混じり、見本となったり敵となったりして訓練プログラムには参加していったが、流石にそろそろ限界だ。

 

 

武は大きく咳払いをすると、まりもに向かって呼びかける。

 

 

「そこまでだ軍曹。今日の、というより今回の訓練プログラムはここまでだ」

 

『はっ! ですが自分は未だ』

 

「今日も訓練があるだろう? 軍曹程の者ならば、訓練兵との訓練で無様を晒す事はないだろうが休むのも軍人の仕事の一つだ。それに少々はしゃぎ過ぎた。シミュレータの整備兵も困らせるわけにはいかないからな」

 

『そう・・・ですね。申し訳ありません、失念していました』

 

 

しょんぼりと、まりもが自責してか両目を瞑って頭を下げる。どうやら頭は冷えたようだ。武はそれを確認すると、訓練プログラムを終了させまりもに指示した後に、順番通りにシミュレータの電源を落としていく。やがて全ての操作を終えると、ハッチを開放してコクピットから降りる。

 

 

すると、武より早くシミュレータから降りたまりもが駆け寄ってきた、ビシッと息を上げながらもきっちりとした敬礼を向けてくる。それに倣い武も敬礼を返すと、連絡事項を伝えるべく構えを解いて楽にするよう指示をし、まりもが従った事を確認すると口を開く。

 

 

「今回の訓練だが、正直俺の想像以上に軍曹の成長が早く、予定していた訓練を次々と終わらせる結果となった。腕前もそうだが、飲み込みの速さだけで言っても、軍曹は教えた中で一番の猛者と言えるだろう」

 

「ありがとうございます!! ですが、自分などまだまだ若輩の身であります。結局、大尉殿には全く及びませんでしたから」

 

「そう簡単に、追いつかれては俺としても立つ瀬がない。しかし、世辞を抜きにしても軍曹は良くやった。機体を労わるという部分ではまだまだと言えるだろうが、少なくとも新しく導入された概念等については既に頭に入っているようで感心した。とても撃震の動きとは思えなかったからな」

 

「過分な評価、恐れ入ります」

 

「数時間後には、訓練兵共の訓練が始まる。その間、しっかりと体を休めて訓練に備えておけ。自分も本日の訓練から、参加することになっているから、その時はよろしく頼む。以上だ、解散」

 

 

ビシッと、武とまりもが同時に敬礼をして訓練は終わる。それからまりもは駆け足で既に整備を始めている整備兵に声をかけ、頭を何度も下げながらハンガーを後にする。

 

 

退室する際に、律儀にも武に再度敬礼をする所を見ると、態度は違えど性格は変わらないんだなと懐かしい気持ちに不覚にも陥った。

 

 

しかし、いつまでもその場に固まっている訳にはいかない。このままここにいては邪魔になる。そう考えた武は、整備兵に一礼して立ち去ろうと考えたが、数歩歩いて考え直す。

 

 

「(このまま寝るのも・・・申し訳ないか。最近は、整備兵にも苦労かけっぱなしだからな)」

 

 

誰に言うでもなく、武は一人頷くと意を決して整備兵の下に向かう。武にも、シミュレータの整備の知識は前の世界で得ている為最低限あった。それを活かすべく、整備兵に声をかける。

 

 

すると、最初こそ驚いたような表情をしていた整備兵だったが、何を言っても譲らないために武は自身の使用したシミュレータの整備を行う事となった。

 

 

尤も、武の使用していたシミュレータについては整備する部分が少なく、まりもの方に手伝いにいくことになり、見事徹夜をすることになる。

 

 

その結果、一緒に作業をしていた整備兵と僅かな交流が生まれたのは決して悪い事ではないのだろう。数時間後の訓練兵5人の訓練において、不思議と清々しい気分で訓練を終えた武は、本当に久々にそんな気分を味わえたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




終了です。クオリティ低くて申し訳ないですが、これにてepisode3初っ端の話は終わりです。


それにしても、まりもちゃんの実際の実力って本当どうなんでしょうね。本編では、結局忌々しい白キノコがやらかしたお陰で、BETA戦での活躍は見れませんでした。

ですが、第一世代機の撃震でクーデター軍と渡り合っていた所を見ると、相当な腕前だと思いますし、富士教導隊にいたエリートだったわけですからね。あれで吹雪や不知火に乗っていたらどうなるのか。まぁ、TDAではその実力の程が見れたわけですが、あれは龍浪サイドが主役だったために、そこまでスポットライトが当てられなかったのは残念でした。


仮りに、彼女が生き残っていたとしたら、佐渡ヶ島で戦死したのは伊隅大尉ではなく、まりもちゃんになっていたかもしれませんね。柏木も、まりもなら絶対に残さなかったでしょうし。


と、本編に関係ない話はここまでです。次回更新はまた、ちょっと遅れそうです。申し訳ありません。
それと急に寒くなりました。みなさんも、体には気をつけて生活してくださいね。尤も、既に風邪をひいている作者が言っても、説得力はありませんが・・・

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