Muv-Luv Alternative The story's black side   作:マジラヴ

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今回、話がちょっと飛びます。ご注意ください。





episode3-4 異変

―11月28日横浜基地中央司令室―

 

 

「それではこれにて失礼させてもらいますよ、香月博士」

 

「ええ。どうぞ、お気をつけてお帰りください珠瀬事務次官」

 

「分かっておりますよ。黒鉄大尉も、娘の指導よろしくお願いします」

 

「事務次官の期待に添えるよう、微力ながら尽くさせてもらいます」

 

 

武はそう言うと、軍人らしく敬礼をして口を閉ざした。事務次官の珠瀬はその返答に力強く頷き、最後にもう一度夕呼と、横浜基地指令であるパウル・ラダビノット准将に深く一礼して、お付きの護衛2人と部屋を後にする。

 

 

その姿が完全に司令室から消え去り、更に十分に時間を置いてから、ラダビノットと夕呼は揃って大きなため息を吐いた。2人から一歩後ろに下がっている武も、表情こそ変えはしなかったが、その実内心では同じようにホッとしていた。

 

 

その主な理由は二つ。つい先程起こった、HSST落下騒動と珠瀬事務次官の来訪だ。前者は言うまでもなく、それこそ一時は基地中を騒がせるほどの騒ぎとなったものであり、武と夕呼の予定通り風間少尉による超長距離射撃で九死に一生を得た。

 

 

個人的意見を言えば、武は今の段階では前の世界の珠瀬より風間の方が経験という面を含めて上だと判断できた。狙撃手としては珠瀬より一歩劣るが、それでも風間の腕前は驚異的と言っても過言ではないだろう。

 

 

うかうかしていると、狙撃という面では武よりも上にいくかもしれない。本人の性格もあるのだろうが、どんな時でも冷静に物事をこなすというのは、狙撃手としては絶対必要条件だ。

 

 

行く行くは、珠瀬にも同じレベルに至って欲しいと武は思っている。任官すれば、必然的にポジションは風間と同じ場所になる事は既に決まっている。珠瀬にはその時に頑張ってもらおうと、武は先程の評価を終えた。そして残るもう一つ、珠瀬事務次官の忠告、否。ありがたい釘刺しというべきだろうか。

 

 

言い方はなんであれ、違いはそう大きくないが、要するに先の極光の件も含めて派手に動きすぎだと上層部からお小言が飛んできたらしい。先の新潟侵攻において、XM3という新OSが前線で戦っている衛士には喉から手が出る程に欲しい代物だという事が証明された。そこまではいい。

 

 

だが、そのXM3という最高の取引材料をあまり安安と使うなと言われたのだ。開発や考案は確かに夕呼と武が行ったものだ。だが、その研究費用や開発設備は決して2人の懐から出ているわけではない。無いのだから、先ずは上層部にも話を通しそれから行うべきだとの事。

 

 

帝国にならまだ話は解るが、アメリカにまで早々に手を回すとはどういう了見なんだと、政治やら利権問題に忙しい連中が面白くない顔をしているらしい。武としても、夕呼の行動は希に理解できない事がある。わざわざリスクの高い事をしてみたり、自分にとって都合が良すぎることをしてみたり。

 

 

少なくとも、前の世界での夕呼の行動を考えれば有り得ない事だ。本人は、武に死なれては困るから等と言っているが、その真意は何処にあると言うのか。武にはそれが未だ掴めずにいた。そんな事を考えていたからだろうか。

 

 

あまり意識していなかったせいか、思わずラダビノットと夕呼の気を引くほど、大きなため息をついてしまい、しまったと口元を覆う武。しかし、それは遅かった。嫌な汗を背中に感じて目線を前に向ければ、訝しげな表情で武を見る2人の姿が。それを見て、割と真剣にやらかしたと焦燥感に駆られると、深く頭を下げて謝罪を入れる。

 

 

そんな姿を見て、夕呼は兎も角、ラダビノットは意外そうな顔をして武を見つめ、次いで辛うじて響かない程度に笑い声を上げると、武の肩を力強く叩いた。

 

 

「そう堅くなる事もない黒鉄大尉。確かに今のため息には驚いたが、我々とてため息をつきたいのは同じ事だ。貴官は私達の代わりにやってくれたと思えば、それ程大した事でもあるまい。寧ろ、今日まで多大な苦労を掛けさせてきたからな。それ位の贅沢は許されよう」

 

「そう言っていただけると幸いです」

 

「ま、指令の言葉じゃないですけど、ため息を吐きたくなるのは本当ですからね。上の連中の煩い事ときたら」

 

「彼らには彼らなりの職務があると、そういう事だろう。現場の我々には、理解もしたくない職務ではあるがな」

 

 

ラダビノットは冗談めかして言うと、笑うのを止めて表情をいつものようにしっかりと引き締めた。その眼差しと豹変っぷりを見ると、武は嫌でも前の世界での事を思い出させられた。前の世界では、ラダビノットとの間にはいい思い出がない。何せ、オルタネイティヴ4から5への移行を告げたのが、他ならぬ彼だった。

 

 

ラダビノット自身も、第4計画の支持者であった事は確かであったが、上からの命令には逆らえなかったのだ。それが軍というものだと、地位のない者の無力さについて嫌でも教えられたのだ。

 

 

その為、正直に言えば武はラダビノットとの間にいい思い出があるとは言えない。しかし、彼を恨んでいても仕方のないのが事実。この世界に、前の世界での遺恨を持ち込んだ所で詮無い事なのだから。軍人としては、ラダビノットが猛将であるのは事実。その力を、是非戦場で奮って貰える事を今は祈るしかないのだ。

 

 

「しかし、意外・・・ではあったかな、博士」

 

「国連の上層部と、米国側の反応ですか? 」

 

「うむ。今回のHSSTの一件は、紛れもなく例の計画の一派の仕業だろう。大方、こちらの計画が上手くいっていないと判断してか、ほぼ直接的に潰しに来たようだが、それはまぁ阻止したからいい事だ。しかし、国連の方は兎も角として、米国の反応が些か顕著過ぎるのが気に掛かる。これを博士の働きによる結果と捉えて良いのか、若しくは悪巧みの最中と考えるべきか」

 

「詳しい事は、今は未だ言えないでしょう。ですが、警戒しておいて損はないと思いますわ。単に米国と言っても、彼の国は何枚もの派閥を持ってますから、一概に良しとも悪しとも言えないのが事実です」

 

「確かにな。願わくば、これが嵐の前の静けさと成らねば良いが。我々の計画成就の暁には、今よりやりやすくなるだろう。それまでは、力強く耐えねばならん。博士にも、これまで以上に苦労を掛ける事になるだろう」

 

「本望ですわ。計画遂行の任こそが、私がこの横浜に居る理由ですから。それに、指令も付き合ってくださるのでしょう? 」

 

 

夕呼がニヒルな笑みを浮かべて問うと、ラダビノットは堪らず小さな笑みを漏らし決意の程を言葉なくして語る。そんな2人を少し下がって見る武は、自身もまた確かな覚悟を己が内で決める。これから起こるであろう出来事に、全力を持って当たり最良の方向に導く事を。

 

 

それ以降、中央司令室での会話は途切れる。三者が三者とも、自身がやるべき事をしっかりと見定め、その道を誤らない様に。数分後、指令であるラダビノットが中央司令室を後にしたのを皮切りに、武も夕呼の後を追って執務室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

―香月夕呼執務室―

 

 

「それで? アンタから見て、仕上りの程はどうなわけ?」

 

「予定より遥かに速いペースで、それぞれ上達していると言った所でしょうか。A01にしても、207Bにしても正直な所驚くぐらいの成長ぶりです」

 

「ふーん・・・まぁ、戦力が向上するなら私にとっても、アンタにとっても損はないでしょう。今はありがたいと思って、鍛えておけば? それで、アンタの方はどうなわけ? "極光"を触った感想は」

 

「・・・これも言っては何ですが、想像以上に良い機体だと思います。開発衛士だった例の少尉の着眼点も良い。XM3を搭載した極光であれば、性能は旧OSの武御雷を上回ると言っても過言ではないと思いますよ。ですが、設計や仕様を考えると、国連軍に属する衛士には使いやすいでしょうが、帝国側の方にとっては異色があるのは事実でしょう。感情的面も考えれば、どちらにせよこの極光は普及までに時間がかかると思います」

 

「そこの所は、アンタが最終的に詳しく纏める事ね。未だ決定はしてないけど、近いうちに巌谷中佐本人から招聘がかかるかもしれないから、そのつもりでいてちょうだい」

 

「了解しました」

 

 

夕呼の言葉をしっかりと聞きつつ、頭の中ではその時に答えればいい事をしっかりと並行処理する。昔では一つのことしか考えられなかったが、今ではマルチタスク出来る様になったのは進歩の一つだろう。並行処理できるようになって、処理できるようになった情報の量も増えた為に、視野を広く持つ事ができ、それは戦略面でも生きてくる。

 

 

こういった要素は、小隊長レベルには必須の条件な為に、前の世界では207Bで隊を結成した頃に培われたものだ。今となっては、武が本当に感謝しているスキルの一つである。何も知らない学生気分だった頃には、そういった点を夕呼やまりも、部隊内でよく注意された事を武は思い出していた。今では逆に、教える立場に居ることは軽い皮肉にも思える。

 

 

「どうかしたの? 気持ち悪いわよ」

 

「申し訳ありません。少し昔の事を思い出し、馬鹿だった頃の自分と今の自分を比べて呆れてしまったのでつい」

 

「今でも十分馬鹿だって所は思い当たるけどね」

 

「先生からすれば、誰だって同じようなものでしょう? 比較対象が、最初から間違っていますよ」

 

 

心の底から思っている事を真顔で武が言うと、照れを隠すかのように前髪を手でクシャクシャと撫で付け、小さくないため息を夕呼は吐いた。少し意地悪だったかと、多少自覚があった武は内心頭を下げたが、しかし決して言葉にはせず小さく口元を歪めた。その様を見た夕呼が、頬を引きつらせて思わず文句を言おうと身を乗り出そうとした時だった。

 

 

「痛ッ―――!!」

 

「先生? 」

 

 

小さな悲鳴を漏らし、急に頭を片手で押さえでその美貌を苦痛の色で染める夕呼。武は顔色をサッと青ざめさせ、夕呼に駆け寄ろうとするも寸での所で夕呼で手で制した。

 

 

「何でもないわ。ちょっと頭痛がしただけよ」

 

「ちょっとって・・・今のは」

 

「いいから、大人しく従っときなさい。私だって人間なんだから、体調不良位起こすわよ。それとも何? 天才である私の言葉が、そんなに信用できないわけ? 」

 

「・・・分かりました。そういう事にしておいます。ですが、この後ちゃんと医務室に行って衛生兵に看て貰って下さい。今ここで先生に倒れられたら、それこそ洒落や冗談じゃ済まされないんですから」

 

「はいはい、わかったわよ。だからあんま煩くしないでちょうだい、頭に響くから」

 

 

やたら大きなため息を吐いて、追っ払うように手を払う夕呼。本音を言えば心配しているが、これ以上噛み付いても更に機嫌を悪くするだけだと悟った武は、大人しくその場は引き下がる。どうせ、明日には夕呼との時間を午前中一杯にとってある。

 

 

差し当たって、どうしても伝えなければならない事は今の所無いのだから、それよりA01の隊員に声をかけるべきだろう。特に、今日の落下するHSSTを見事狙撃してみせた風間には、武としても直接礼を言っておきたかった。

 

 

A01の隊長という立場では無いものの、隊に携わっている者としては、労いの言葉くらいかけるべきなのだから。

 

 

「それでは俺はこれで失礼します」

 

「はいはい。わかったから、さっさと行きなさい」

 

「明日の約束の時刻は変更は無しですよね? 」

 

「ええ。約束通りの時間でいいわ。それじゃあ今度こそおしまい。さ、行った行った」

 

 

夕呼はそう言って、今度こそ完全に口を閉ざし、視線を武から逸らした。そうなると、最早武が何を言おうと反応する事はないだろう。武は一瞬悩んだものの、結局は何も告げずに部屋を立ち去ることにし、去り際、申し訳程度に頭を下げて執務室を後にした。それをしっかりと確認し、夕呼はそっと大きなため息を吐いた。

 

 

部屋の中と外の音を、完全に遮断する夕呼の執務室は、廊下に響いているであろう武の足音を伝える事はない。しかしそれでも、優呼は最新の注意を払ってそれから更に5分程が経過してから、もう一度ため息をついてから右手で額の辺りを押さえて呟いた。

 

 

「ッ!! 相も変わらず、この感覚には慣れないわね。味わったことは無いけど、脳を揺らされるのってこんな感覚なのかしら」

 

 

忌々しそうな表情で吐かれた言葉に、返事を返す者は執務室内にはいない。しかしそれでも、夕呼は何とも言えない奇妙な感覚を覚えて、先程から断続的に襲い来る鈍く重い頭痛と吐き気を耐える。本音を言えば、胃の中身を吐き出してしまいたい気分だったが、思いのままにすると後が面倒くさい事に成る。

 

 

特に、今夕呼の目の前にある書類や機器の群れは重要な物ばかりだ。それを、自分の吐瀉物で汚したり壊したりするわけにはいかない。それに何より、吐き出せばその匂いが部屋に充満し、不愉快な気分が更に不愉快に成りかねない。夕呼はそんな思いもあり、必死にその衝動を抑えきると、白衣に忍ばせていた薬瓶を取り出して数錠の錠剤を手に乗せ、水も無しに口に含んで嚥下する。薬は即効性の物ではあるが、飲んで直ぐ効くようなものでもない。

 

 

その為、効果が現れるまで夕呼は軽く瞼を閉じ、背もたれ付きの椅子に深く腰掛けると、そっと重心を後ろに傾ける。そしてそのまま、無言の時間が暫し訪れる。ともすれば、眠っているのではと思われかねないが、意識は嫌でもというくらいクリアに保たれていた。

 

 

そのせいで、自分で考えている事なのに改めて香月夕呼という人間の残酷さが、頭の中をこれでもかという程駆け回っていた。次第に、自然と襲い来る頭痛や嘔吐感よりもそちらの考えのせいで来る嘔吐感に嫌気がさし、頭を振って今考えている内容を振り払う。この程度の事で、何を気を遣っているんだと。

 

 

香月夕呼という人間の卑しさを、何を今更になって自覚しているのだと、自身を叱責する事で冷静さを取り戻す。

 

 

「本当、何を今更になってナーバスになっているんだか。しっかりしなさいよ、香月夕呼」

 

 

ベシッと、両の頬を強く叩いて立ち上がる。こんな感覚に苛まれるのは、全てを終わった後でいい。香月夕呼と言う人間が、周囲に罰せられるのを許される時が来るとしたら、全てが成就した時。その時以外他には無いのだから。故に、それまでは何が何でも今の畜生の道を突き進まなければならないのだ。

 

 

夕呼は改めて覚悟を決めると、目下に広がっている見るのも嫌になる位の紙の束を、しっかりと見つめ直して今やるべき事を改め直す。日本を襲い来る悲劇の時まで、最早時間はそう残されていないのだ。そして、夕呼は武の後を追う様に自身も執務室を後にする。今度こそ、誰一人としていなくなった執務室の中に訪れる沈黙。

 

 

やがて自動で消える照明が、その部屋の中を真っ暗の闇へと包み込む。その直前、夕呼のデスクに積み上げられた紙の束が、重さに耐え切れなくなったかのようにドサドサと崩れ落ちる。

 

 

デタラメに広げられる書類の一枚一枚が、それぞれ机の上やその周囲に広がった中で、その内の一枚がやけに存在感を放って机の上に鎮座していた。日本語以外の難しい文字や数字がびっしりと書き込まれている中、一番上に記された"00ユニット製作書"という文字が、誰の目にも止められる事無く、闇の中に消えていった。

 

 

 

 

―11月28日 A01ブリーフィングルーム―

 

 

 

「あ、黒鉄大尉! 」

 

「涼宮少尉、それに伊隅大尉達も。急いだつもりですが、待たせましたか? 」

 

「心配する必要はないぞ。こちらも、先程までブリーフィングを行っていた所だ。それに、仮に遅れた所で副司令との要件があったのだろう? だったら、私達の口から非難できる事はない」

 

「そう言っていただけると助かります」

 

 

久しぶりに話すにも関わらず、その事について文句を言われる事がなくてホッとする武。内心、幾ら207Bの訓練兵達に付きっきりだったとは言え、速瀬や宗像辺りなら何か言ってくるだろうと予想していたのだが、それが無くて本当に助かった気分だった。

 

 

武は、彼女達2人のノリにはどうしてもついていけない事があるので、本当に助かった。

軍人として既に何年も職務について来た身でも、ヴァルキリーズのような自分以外女性隊員しかいないのは、やはり何処か慣れなかった。

 

 

207Bの時は、前の世界で付き合いが深かったから気になる事はなかったが、正式に関係が築いてから日が経っていないと、こういった雰囲気は慣れ難いものがある。

 

 

「黒鉄もやって来た事だし、そろそろ話の続きといこうか」

 

「助かります」

 

「それでは、全員~整列ッ!!」

 

『了解!!』

 

 

伊隅の言葉に、素早く従う隊員達。きちんと整列するまでに数秒と掛からず、全員が揃って並んだのを確認すると、伊隅は小さく頷いて武から一歩離れて横に立つ。準備ができたと武も確認すると、一度全員の顔をしっかり見てから楽にしていいと指示を出し口を開いた。

 

 

「先ずは、今回の任務皆ご苦労だった。特に風間少尉だ。貴官の狙撃のお陰で、横浜基地は壊滅を免れたのだから」

 

「ありがとうございます、黒鉄大尉。ですが、私は自分の任務をこなしただけですし、私一人の功績というわけではありません。CPの涼宮中尉やピアティフ中尉、万が一の事態の時にと一緒に備えてくれた柏木少尉のおかげでもあります」

 

「そうだったな。涼宮中尉に柏木少尉、共にご苦労だった。それに、先の様な緊急事態に際しても、取り乱すことなく冷静に万が一の事態に際しての非難活動を試みてくれた諸君にも礼を言う。ラダビノット基地司令も、手際の良さには感心していたぞ。A01の任務の特性上、表立って賞賛される事はないが囁かな礼を込めてと言う事で、今夜はPXで好きな物を頼めとの事だ」

 

「そういう事なら、受け取らないわけにはいかないな。だが貴様達、はしゃぎすぎて周りに迷惑をかけるなよ。でなければ、天国から地獄に叩き落とされることになるぞ」

 

『了解であります、伊隅大尉殿!!』

 

 

隊員一同、声を揃えて返事を返す。ムードメーカーな速瀬や宗像は、その言葉を聞いて早くも何かを企んでいるようでニマニマと厭らしい笑みを浮かべている。その顔を見ると、武は嫌な予感を感じずにはいられなかった。確定してもいないのに、その思惑の方向が自身に向いている気がしてならない。

 

 

 

表面上は冷静沈着な武だったが、内心はその為冷や汗を流さずにはいられなかった。とは言え、まだ話が終わったわけではない。その事を考えると、邪魔が入る前に全て言い終えるべきだと判断して続きを口にする。

 

 

「続いて連絡だが、訓練兵の訓練が予想を大分上回って進んでいる為、今後は一日置きにA01の訓練にも参加する事になった。伊隅大尉と相談して、訓練メニューを厳しくしていく予定だ。公にはされずとも、XM3の実証部隊としてこれからも気の抜く事など無いように、訓練に努めてもらたい。以上だ」

 

「当然だな。貴様達も、今の黒鉄の言葉を魂まで刻み込んで精進しろ。全員、ヴァルキリーズ隊規復唱ッ!!」

 

『死力を尽くして任務に当たれ!!生ある限り最善を尽くせ!!決して犬死するな!!』

 

「・・・よし。それでは、部隊解散ッ!! 」

 

 

伊隅と武が揃って敬礼をすると、他の全員も揃って敬礼して今回の短いデブリーフィングは終了する。それと同時に、それぞれ今日のPXでの夕食をどうするかなどと、そんな事を騒ぎながら相談し始める。

 

 

その様子を見ていると、何とも言えない柔らかな感情を抱き、武はそっと頬を緩ませる。ここから先は、本当に油断ならない事が起きる。こんな小さな穏やかな光景も、それが片付く迄は本当の意味で訪れる事はないだろう。

 

 

だからこそ、武は今この光景を瞳に強く焼き付け覚悟する。密かに決めた、夕呼にさえ話していない決意を貫く事を。そんな覚悟を決めたその日、武は一人夢を見る。儚くも眩い、所謂理想と呼べるような明るい未来の夢を。

 

 

翌朝、その夢の内容を覚えている事はなかったが、その夢で感じた感覚だけは武の胸に強く焼きついて消える事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




HSST迎撃の辺りは、丸っとすっとばしてしまいました。申し訳ありません。
何というか、ここら辺はネタがあまり浮かばないので、書いているとグダグダして終わってしまうので。賛否論はあると思いますが、ご了承ください。

ただ、それでも賛成論があまり出そうにないというのも作者の考えなので、少しの間(仮)と題名につけさせてもらいました。変な意味に捉えてしまった方、どうも申し訳ありませんでした。

それと皆さん、近頃天候が荒れているので是非気を付けて下さい。特に、天候大荒れの新潟の方は、くれぐれも気をつけて。作者は中学の頃、滑って転んで骨にひび入ったので。あれは本当に恥ずかしかったです。


と、無駄話はここまで。今回はこれで。失礼します。

―追記―
月間ランキングなるもの見たら、29位に食い込んでいました。
これというのも、皆様が評価して下さったおかげです。本当にありがとうございます。

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