Muv-Luv Alternative The story's black side 作:マジラヴ
願わくば、これが年内最後の更新とならん事を。
技術職って、年末年始クソ忙しいですよね。同じ境遇の方、心底同情します。
それでは、今回もよろしくお願いします。
―11月29日 シリンダールーム―
「・・・どうぞ」
「あ、ああ」
薄暗いシリンダールームの中、差し出された両手に絡まった赤い糸を見て、武は珍しく表情を分かる程に変化させて頷いた。目の前で毛糸を両手に絡めているのは、夕呼に呼び出された後でよく会う霞。武は現在、彼女とあやとりをしていた。何故そんな事をしているかというと、それもこれも実は自分で蒔いた種のせいだった。
数週間程前、まだ武がこの世界に来て直ぐの頃だ。暇そうに時間を持て余している霞を見つけて、武は思いつく限りの暇潰しの遊びを教えたのだ。一人でできる遊びから、武と二人でできる遊び。道具を使うものから、使わないもの。その思いつく限りを、武は必死に頭を捻らせて教えたのだ。
遊びについての説明は、霞の能力で言葉で詳しく伝える必要がなかった為に、大した苦労もなく教える事に成功した。しかし、そこは兎も角として霞の学習能力は底を知らなかった。そのせいで、次から次へと新しい遊びをどんどん覚えていき、今では武よりも上手くなってしまったものが多々ある。
特にジャンケンの類の遊びは、霞の能力と相まって凶悪な腕前となっていた。尤も、流石にリーディングをジャンケンで使われたら勝ち目がないので、その類の遊びはもうやっていないが。そんなわけで、今はあやとりをやっているのだが覚えてまだ5日と経っていないのに、複雑な形の物を武の目の前へと突き出している。
ハッキリ言うと、糸の取り方等皆目見当がつかなかった。命の掛からない遊びだというのに、武の背中を冷や汗が伝う。戦場で戦術機を操るその姿を知る者が見れば、最悪気絶するのではないかと思う様な姿だった。尤も、A01の隊員達、特に先任連中であれば約一名を除いて面白がる事は想像に固くない。
自分で想像して嫌になるのか、武は引き締めた唇の端を僅かに歪ませると、感に任せて両手の指で霞の持つ糸の端をゆっくりと引いた。しかし。
「あっ・・・」
「・・・すまない」
「・・・大丈夫です」
「・・・すまない」
大丈夫と言いながら、あからさまに残念そうな表情を浮かべる霞に、武は二度ほど間をおいて謝った。彼女の外見も相まって、その失敗は事の他胸を突く何かがあった。誰もいなければ、思わず胸の辺りを掴んで蹲ってしまいたい程だった。ある意味で、BETAより恐ろしい存在だった。勝てる気が素でしない。
そんな失礼な事を考える武。その一方で、霞は今度は一人で黙々と糸を操り、アゲハ蝶のような形を作り出していた。今の世界にアゲハ蝶がいない事は明白なので、恐らく夕呼に与えられた図鑑か何かで見た物なのだろう。実物を見た事も無いというのに、とんでもない表現力だった。
一人であやとりを続ける霞を見ていると、何となく居た堪れない気持ちになる。武は、そっと視線を青白く光るシリンダーに移し、その中に浮かぶ脳みそを見つめる。返事は返って来ない筈だが、その時にちょうど良くコポコポと気泡が浮かぶのを見ると、それが返事だったのではと思わずにはいられなかった。
特に、その持ち主が持ち主なのだから。シリアスな筈の空気が、何とも言えない空気に変わりそうになる。それはマズイと、根拠もなしにそんな事を思った武は、わざとらしく腕時計を確認してアッと声を上げた。
「・・・すまない霞。俺はこれから、ちょっと先生に用があるから」
「気にしなくても大丈夫です。黒鉄さんには黒鉄さんの、職務がありますから」
「・・・ありがとう」
武は自身の心意を受け取ってくれたであろう霞に、小さく頭を下げると部屋を後にする。残された霞は頭に付けられた耳をピコピコと動かすと、シリンダーの真横にコソコソと移動して、一人黙々とあやとりを続けるのだった。
―香月夕呼執務室―
「失礼します」
武が一声掛けてから、夕呼の執務室に入室する。しかし、返ってくる返事はなかった。当然だ。何せ部屋の中は無人であり、室内の蛍光灯でさえ沈黙しているのだから。執務室の中には、今入室した少々呆けた感じの武の姿しかない。そう、パッと見た限りでは人の姿が見える事はない。
「・・・誰だ」
武の表情が一変し、冷たく殺気すら纏わせた気配を醸し出した。部屋の中の空気も変わり、温度すら低下したと錯覚する程だ。一般人であれば、否。例え訓練された軍人であっても、思わず構えずにはいられない程のものだった。そんな不穏な空気の流れる中、それを気にした風もなく、音も立てず物陰から一人の人間の姿がヌッと現れた。
室内に光源は無いが、開きっぱなしになっているドアの外からの光でその姿がうっすらと映し出される。ベージュ色のコートに、同じ色のボルサリーノを被った中年の男。詳しく顔を見なくとも、武には誰か理解できた。
「・・・帝国情報省の鎧衣さんが、何の御用で」
「おやおや、名乗っていないのに私の事を知っているとは」
「質問に―――」
「ちなみに、私の名前は鎧衣左近。君も知っての通り、207B分隊に所属する娘の様な息子、否。息子の様な娘だったか。兎も角、鎧衣美琴の父親だ。所属は帝国情報省外務二課課長だ。こう見えても―――」
そして、聞いてもいない物事をペラペラと喋りだす鎧衣。止めるタイミングを逃した武は、内心湧き上がるムカムカとした感情を必死に抑え込み、自身を落ち着けるように大きく深呼吸をした。前の世界で、直接の面識こそ無いものの情報として知っていた。しかしそれでも、実際に見えるとこうも頭に来るものなのかと、米神を震わせずにはいられなかった。
このままこのやり取りが延々と続けば、流石の武としても我慢できるとは確約できない。そんな時だった。
「ちょっと、何で許可なく入ってる不審者がいるわけ? 」
「これはこれは、香月博士。相も変わらずお元気そうでなにより」
「挨拶はいいわよ。さっさと用件を言いなさい」
「博士の美貌が失われるとあっては、全人類にとっての損失ですからな。是非とも、健康には気をつけて頂きたいものです。君もそう思うだろう?シロガネタケル君」
「・・・誰の事ですか? 」
「おや、失敬。どうやら間違えてしまったようだ。黒鉄武大尉だったかな」
鎧衣の言葉に、内心少し驚くものの表面上にはそれを出さない武。何故、そんな事を聞いてきたのか、何故その名前を出したのか等とは今は考えない。今考えてしまえば、その事が顔に出かねないからだ。生憎と、このような駆け引きは前の世界で嫌と言う程経験したのだが、目の前の男だけはそれが通用するかも怪しいからだ。
何せ、相手は対人戦においてはあらゆる意味でプロフェッショナルなのだ。本の少しの瞳の揺れ、或いは仕草の一つだったとしても判断されかねない。どの国の諜報部も警戒する程の存在、鎧衣左近とはそう言う類の人間なのだから。武個人の評価としては、心理戦や弁舌戦では夕呼と同等かそれ以上の存在なのだから。
今もこうしてとぼけた顔をしているが、内心ではどう思っているのか。残念ながら、今の武を持ってしてもそれは理解できない事だった。
「前置きが長いのよ。もう一度だけいうけど、こっちも暇じゃないんだから、さっさと用件を話してさっさと帰ってちょうだい。アンタと話してると、ただでさえ疲れてるっていうのに、余計に疲労が溜まって休みも取れないんだから」
「おお、それは大変だ。ではこちらもさっさと用件を話すとしましょう。生憎と、暇でないのは私も同じなので」
「だったら初めからそうしなさいよ」
夕呼が思わずつっこみを入れるが、対する鎧衣は知らんぷりを決め込んでいた。どころか、何故か意味ありげな視線を武に送ってくる。警戒しているのかと武は勘ぐるが、どうもそんな様子ではないし、向けられていた視線もあっという間に外され、再び夕呼に向け口を開いた。
「XG-70の件ですよ。ご興味ない? 」
「答えが分かっている質問を、いちいち私にする意味があるのかしら? 面倒だから、その勿体ぶった言い回しは止めて話して頂戴」
「これは失敬。では、単純に内容を纏めて話す事としますよ。博士のご所望のアレですが、どうにも雲行きは微妙な所でしてね」
「微妙ってどういう事よ? 私にとっては重要でも、向こうにとっては使い様が無いガラクタでしょうよ」
「博士こそ、解っているのに訊いて来るとは人が悪い。相手にとってはガラクタでも、こちらが欲しがっているともなれば出し渋る。それも立派な政治ですからな。とは言え、完全に反対意見ではないのも事実。有効に使ってもらえるのなら、使えない所に置いておくより使える者がいる場所に送ってやりたいという意見もある様で。その真意は見え透いていますがね」
「つまり、現状ではまだ何ともって事? 」
眉を吊り上げて夕呼が言うと、鎧衣は何も言わないものの困った様に小さく笑声を上げ、答えを示した。夕呼としては、それはあまり面白いものでは無いのだろうが、しかし表立って文句を言う程の問題では無いらしい。少し経った後、素っ気なく返事をしてその件については追求を止める。
そうすると、漸く会話が切れた事を察した武は、小さな咳払い位を一つしてから、今の会話で出てきた理解できなかった単語について訊ねるべく声を掛けた。
「先生、XG-70と言うのは」
「おや? 君は博士の腹心に近い者と想像していたが、まさか知らなかったのかね? 」
「一々全部説明するのが面倒だっただけよ。タイミングもいいし、伝えておこうかしら。詳しくは未だ言わないけど、XG-70ってのは戦術機の一種よ」
「戦術機ですか? 」
「ええ。尤も、アンタが想像している戦術機とは大きさの規模が違うわ。どちらかというと、アレは戦術機というより移動要塞とでも言った方が適切でしょうから」
「そんなものが・・・」
前の世界でも聞いた事がなかった情報に、武は驚きを示した。夕呼にして、移動要塞等と言う言葉が口に出る程の物だ。武には、想像も出来ない話だった。とは言え、いつまでも驚いているわけではなかった。寧ろ驚きはすぐに覚め、そんなものがあるのなら何故もっと早く取り寄せないんだという考えが、頭に浮かんでくる。
尤も、そんな事は武の顔を見れば理解出来る事なのか、武が訊ねるまでもなく夕呼の方から説明をしだした。
「まぁ、そんな移動要塞とも言える代物だけど、現状ではまともに動かすことが困難だから使えないのよ。正常な機動をさせる為には、重要な要素が必要なんだけどそれが向こうは用意できない。だからガラクタ。でも、私にはそれが出来る可能性がある。だから、こっちで有効活用してやるって向こうに言ってるんだけどね」
「中々首を縦に振らないと。ちなみに、向こうと言うのは米国ですか」
「それ以外に何処かあるわけ? 」
「いえ・・・馬鹿な質問をしました」
武は謝罪し、口を閉ざす。夕呼はそんなタケルを見て、小さくため息をつくと次の話題を話すように視線を鎧衣に投げつけた。それを受け取った鎧衣は、意味あり気に笑ったが予想に反して無駄話をする事なく、用件を素直に話した。
「実はここ最近、帝国内部においてやたら不穏な動きが見られるようになりまして。どうやら、何か良からぬ事を企てている様子。何でも、戦略研究会なる勉強会まで結成される始末。流石に表立って何かをする、といった様子は今の所見られませんがきな臭いのは事実です」
「それは・・・近い内に、この日本、いえ。日本の中心である帝都で、何かが起こると? 」
「確証を持っては言えないが、そうでないかと私は見る。あって欲しくは無いものだが、仮りに私の思っている様な事態に陥った場合、日本は政治的にも軍事的にも、重大な空白が生まれるのは明白。そうなれば、日本に巣食う他の勢力とて黙ってはいないでしょう。ここぞとばかりに動き出し、戦火は瞬く間に広がり、日本全土を巻き込んで炎上する」
「そんな最悪の事態には、絶対にさせるわけにいかないでしょう」
「それは当然。だからこそ、こうして私がここに来たのですから」
ボルサリーノの鍔を掴んで下ろし、目元を片目だけ露出させて口元に厭らしい鎧衣。影が落ちた男の顔には、何とも言えない悪意が感じられたが、その眼光だけは澱んでいる事は無く、夕呼に似た感覚を感じた。日本刀の様な鋭さを持つ鎧衣の眼光は、それこそ鋭く武や夕呼が隠している内容まで切り裂いてきそうで、本当に油断ならなかった。
「更に詳細な情報が入り次第、博士には追って伝えるとしましょう。今このタイミングで、帝国にバタバタされるのは博士とて面白くない筈」
「つまり、今迄散々手を貸してやったんだから、万が一の際には是非ともって事でしょ? ムカつく言い方ねぇ。そんな事言わなくたって、万が一になればこっちにも命令は下るでしょうに」
「ハッハッハ、念を押すなんてとんでもない。私はタダ、博士の事を思って伝えたまで。博士の美貌が失われる事は、全人類にとって損失ですからな」
「それ、さっきも言ってたわよ」
「大事な事は念を押せと言うのが、我々、外務二課のスローガンですので。おっと、そんなに怖い顔をしなくとも、今日はお暇しますよ。これから少々、所要がありますので」
夕呼に割と本気で睨まれ、演技だろうが焦った様子で両手を挙げて数歩下がる鎧衣。その演技が、如何にもと言う位わざとらしいものだった為か、夕呼だけで無く武までもイラッとさせられた。有り得ない事ではあるが、仮りに意思疎通が可能ならばBETAでさえそう感じるのではないかと思う程だ。
話術が上手いという噂は、情報として頭に入っていた武だったが、これは話術というよりも鎧衣の性格にも由来するのではと、ほぼ確信を抱いていた。それを思うと、この男と交渉をしてきたであろう各国のトップや、それに連なる者達に本の少しだけ同情を抱くに至るってしまう。そんな事を考えていると、武はふと視線を感じてそちらに振り向く。
気が付けば、鎧衣が数歩の距離を隔てて武のほぼ真横に立っていた。その手には、大きな茶色いモアイが握られている。それは何だと、武が口を開く前に鎧衣が小さな笑みをもって答えた。
「イースター島のお土産だ。君にあげよう」
「・・・どうも」
「それでは今度こそ失礼させてもらいますよ、香月博士」
「さっさと行きなさい」
「ハッハッハ」
最後まで、その場にいる夕呼と武を苛々させて去っていく鎧衣。フザけた言動とは別に、その佇まいは背後から見ても見事という他なかった。夕呼が気付いているのかそうでないのかは分からないが、武には鎧衣が相当な練度を持った戦士である事を改めて自覚していた。今はこうして背後を見せているが、何かあれば直ぐ様反転して反撃できるだろう事は容易に想像できる。
やはり、煌武院悠陽の懐刀と言うだけあって、そう簡単にはいかないという事だ。武は気疲れからか、そっと気付かれないように小さく深呼吸をして体の中の空気を入れ替えた。僅かに緊張していた体の筋肉が解され、脳も正常に動き出す。武が夕呼を目線だけで見てみると、彼女は呆れからかそれとも別の要因からだろうか。
兎も角、思い切り顔を顰めて嫌そうに頭を振ってペンを回す。そして、思い出したかの様に武からモアイをぶん取ると、部屋の内部に取り付けられているダストシュートに放り込んで背中を深く椅子に預けた。そして訪れる、気まずい沈黙。静寂な空気は、そのまま5分程続いたがそれも警戒の為だろうと予測していた為、武は何も言わなかった。
それから更に5分が経った頃、漸く夕呼が大きなため息をついて、通信機を片手に口を開いた。
「入ってきていいわよ」
『・・・わかりました』
執務室ないが静かだった為か、通信機からの音声が武の耳にも入ってくる。声の持ち主は、先程まで武と遊んでいた霞のものだった。
「霞に読ませていたんですか? 」
「ええ。用心に越した事はないでしょう? 今後の状況が、未来情報と少しもズレずに起こるとは限らないのだから、手に入れておくに越した事は無いでしょう」
「とは言っても、アレでは効果は薄そうですが」
「だから、あまり期待はしてないわね。それよりも、こっちはいよいよとなってきたんだから、詳しい話しをしとくわよ。アンタには、当日A01じゃなくて207Bを引っ張って貰うんだから」
そう言って、夕呼は纏めておいた資料を乱暴に手渡す。少しばかりシワがよったが、文字を読むのに支障はないので文句も言わず武は流し読みしていく。資料の中には、沙霧の他にも見知った名前が幾つか見受けられ、中には前の世界で共闘したメンバーの名前も記されてあった。それを見る度、正直複雑な念を感じざるを得なかったが、一々口に出すようなマネはしない。
結局、資料を読んでいる間は武は言葉を一言も発する事なく、2分程でその全てを読み終える。読み終えた資料を、順番通りに並べて直してから返すと、受け取った夕呼は数枚の紙をクシャクシャと丸め、ライターで火をつけて書類を焼却処分する。
火の点いた紙は、あっという間に燃え上がりその存在を灰に帰して、完全に証拠隠滅となる。それをしっかり確認した後、夕呼が数秒の間を置いて言葉を発する。
「内容は以上よ。質問は ?」
「質問はありませんが、納得の言った事はありましたよ」
「極光の事かしら? 」
「はい。正直、優れた戦術機を回すとは言っても、わざわざ複座型という所まで同じにするのは妙だと思っていました。前の時は、クーデターについても概要にしか触れられていなかったので、漸く納得がいきましたよ」
小さくため息を吐いて、感心の意を示す武。先の先まで考えている事は、既に承知していたがまさかこうもいいタイミングで、このような機体が存在し、そしてそれをこちらに回してくる手腕は見事だった。それが例え、向こう側から持ちかけてきた提案でもだ。
言っては無礼に当たるであろうが、武としても自身の膝の上に殿下が乗るのは気持ちが落ち着かなかった。男女の意味でではなく、身分の差からくる威圧感は、前の世界で斯衛に属していたという事実が重く伸し掛る。こういう所は、武本人にしても自身の変化を感じざるを得ない所だろう。
何せ、以前までの自分であれば、そんな事は微塵も気にせず礼儀に反する行動をとりかねない性格だったのだから。しかし、感心してばかりではいられない。問題点も、やはり一つ、いや二つあった。
「しかし、先生。これについては問題点も少々あるかと。 殿下を俺の機体に乗せるというのは賛成でも、強化装備まで用意しているのは流石に後で向こうに余計な勘ぐりを抱かせるのでは? 」
「そこの所は、幾らでも誤魔化しがきくでしょう。アンタが殿下を拾うのは、搭ヶ島離城。あの場所は、知っている人間はそれこそ帝国の上層部も上層部の人間だけでしょうけど、将軍殿下とそれに連なる人間達専用の避難鉄道がひかれてるのよ。未来情報では、将軍殿下をそこで拾った様だし、後方の待機と言う名目でアンタ達はそこに配備されたとの事。後者の理由を考えれば、恐らくそこで殿下を拾うであろう事を私は承知していたのね。何でその時、殿下用の強化装備を用意していなかったのかは正確には分からないけど、そこはいいわ。兎も角、こればかりは未来情報に頼ってばかりでは安心できないわ。将軍殿下が加速度病で死ぬなんてのは最悪な結果なわけ。それを考えれば、安いもんよ」
「そうですか。それではもう一つ。途中、合流する事になる米国陸軍第66戦術機甲大隊指揮官のアルフレッド・ウォーケン少佐のことです。彼は信用できますが、残りの隊員達についてはそうではないでしょう? それを考えれば、階級の差は痛いです。俺は大尉ですし、一つとは言え少佐と大尉では差が大きい。 それに、今回の件は、何も知らない米国の兵士からすれば腹が立ちこそすれ、快くなんて有り得ない。ましてやそれが、階級の下の者に強く言われれば、面倒は避けられない・・・です・・・し・・・・・・。成る程、それで殿下ですか」
「ええ。向こうとしても、流石に日本のトップと言っても過言では無い存在は無視できないでしょう。それに、一応アンタには昇進辞令が来てるわ。本日付けで、アンタを大尉から少佐に格上げよ。おめでとう」
「・・・・・・」
パチパチとわざとらしく手を叩く夕呼だが、武の方はその内容に驚愕して固まった。そんな話は、全く聞いていなかったのだから。しかし、思い当たる点がないわけでもない。よくよく考えてみれば、武は夕呼の腹心ではあってもA01の人間として登録されているわけではないという事だろう。
XM3の発表の時も、考案者として名前を出している。それらの点を改めて考えると、武はA01に所属していると思い込んでいただけであって、実際にはそれに近しいだけという事になる。
「・・・先生、人が悪いですよ」
「あら? 今頃気付いたのかしら? その様子じゃ、今の今まで自分がA01の人間で登録されていると信じ込んでいたみたいね。確かに言葉じゃ配属するって言ったけど、A01に登録したわけではないのよ」
「もういいですよ。どちらにせよ、このタイミングではありがたいという他無いですよ」
「そ。なら質問は、今はこれで終わりってわけね。それじゃあ、今日はここまで。ここでの用は終わりだから、アンタはアンタの職務に戻りなさい。明日はA01と訓練なんでしょ? 訓練兵相手で馴らしたら」
意地の悪い事を言って、口元をニヤケさせる夕呼。武は呆れてモノも言えないとばかりに、わざと大きくため息を吐いて敬礼をして執務室を後にする。残された執務室には、夕呼と霞が二人だが、夕呼は既に書類を眺めていて霞が目に入っていない様子だ。それを確認した彼女は、先程の事を思い出してか、それとも別の何かを思い出したのか。
滅多に浮かべない、小さな笑みを口元に浮かべるとテトテトと可愛らしい足音を立てながら移動し、目の前に立っても何故か反応しなかった自動ドアに頭をぶつけて、兎の様にその場に震えて蹲っていた。
話が全然進まなかったですね。
武ちゃんの昇進は、この本編ではこれで最後になるでしょう。少なくとも、中佐への昇進は考えていないので、ご安心?を。
今回も、本編内では書けなかった事がいくつかありました。その為、疑問点が沸く方がいらっしゃるでしょう。その場合、感想欄にて質問してくださると幸いです。
それと、前書きでも書いたとおり、年内中に次話を上げられるかはかなり微妙なラインです。無理をすれば1話位いけそうな気もしますが、正直今はあまり無理はしたくないので年明けになると思います。そこの所、ご了承ください。
なので、事実上これが今年最後の本編の話というわけです。ですので、今年はお付き合い頂きありがとうございましたという挨拶と、よいお年をという挨拶。そして、来年も又お付き合い下さいという挨拶を述べさせてもらいます。
PS.クリスマスの存在は忘れました。作者は異性関係においては非リア充ですが、趣味面についてはリア充のつもりです。ですが、クリスマスは子供がいればわかりませんが、どう考えても前者の為にあるような物だと思うので、メモリーからは消去になったのです。はぁ、ご褒美に戦術機のプラモ買い漁るか。
今まで時間がなくて手をつけられなかった、武御雷シリーズ解禁しようではないか★そして、初詣には来年中にクロニクル05が出る事を祈るんだ。
Ps2.武がA01に正式に所属していないという点について、説明を少し。
一応、本人やその他の周りの人間は所属していると思っています。ですが、登録データには武は夕呼の腹心の部下と登録されている事になっています。
これについては、夕呼がわざと言わなかったのと、夕呼の腹心の衛士=A01だと思ってしまったからですね。とは言え、改めて最初の文章を見てみると、編入されたや所属等の言葉を使っていました。
なので、疑問に感じられた方は、作者の説明不足からくる矛盾と言うことで、ご納得ください。伏線的には、XM3の発表者の時に名前を晒しているという部分がキーになっておりました。以上、矛盾についての弁明でした。