Muv-Luv Alternative The story's black side   作:マジラヴ

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今回、夕呼を説得する事や、武のデータベースのことなど色々つっこみどころがあるかもしれませんが、ご容赦ください。


episode1-1 邂逅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「懐かしいな・・・この、景色も」

 

 

自宅だった場所から歩き続け、歩みを止めることなく進み続けた武は、荒れ果てた町並みを見て呟いた。現在武が歩いている場所は、国連太平洋方面第11軍横浜基地のすぐ真下。丁度、坂道が続く中腹だった。

 

 

眼下に見える荒れ果てた大地は、嘗て横浜に落とされたG弾の影響で天然の草木は1本残らず枯れ果てている。この横浜は、BETAがこの地に襲来されて以来、綺麗だった町並みも、栄えていた文化も、纏めて瓦礫の山に変えてしまったのだ。

 

 

武がいた元の世界とは比べるまでもなく、またそうでないこの世界のBETA襲来前の横浜と比べても廃墟といっていい現在の横浜は、冬が近い故の寒さと風を妨げる障害物がないのもあり、一層寂しさを誘発させる。

 

 

しかし武は、そんな現在の横浜の有様を見ても不思議と懐かしさと暖かさを感じていた。それというのも、この地が嘗ての207Bのメンバーと過ごした記憶が起こさせる、懐古の念というものせいなのか。

 

 

未だ20数年しか生きていないのに、そんなものを感じるというのも不思議な感覚であったが、今のご時世ではそんなものは当たり前の認識なのだ。それに、未来の悲惨な有様を見てきた武にとっては、未だ絶望に陥るほどのものではない。

 

 

陥るとすれば、それは以前の世界で起きた第4から第5計画に移行したであろうあの忌まわしきクリスマス。いつも毅然としていた恩師を、泥酔させるほどの絶望に突き落としたあの悪しき日。それを、今度こそは絶対に起こさせるわけには行かない。

 

 

その為に、武は再びこの坂道を上がるのだ。今度こそ、希望の未来に繋ぐために。閑散として、虫の鳴き声一つ聞こえない街並みを見て、今一度覚悟を決める。

 

 

そうして再び歩み出し、やがて基地前のゲートと見張りの2人の姿が、見え始めた辺りで武は一度立ち止まる。そして、これからどうするべきなのかを、道中決めた段取りを思い出し一つ大きく深呼吸をする。

 

 

懸念すべきことは多数ある。しかし、それでも武が考えた策は比較的成功率は悪くないであろうと、頭の中でシミュレーションを繰り返した結果が告げる。今思い浮かべている作こそ、最善のものであると。

 

 

故に、最早迷う理由はない。第4計画が廃止されてから、あの地獄のような日々を生きた経験を活かす。ハッタリ、誤魔化し、そして今現在の自分の身なりを利用した策の数々。武は一度、グッと右の拳を強く握り、そしてゆっくりと解く。

 

 

それから大きく深呼吸を一つして、瞳を鋭く冷たく尖らせる。失敗した時の不安など心に残さない。あるのは、香月夕呼を釣り出すという成功への確信のみ。伊達に斯衛を勤めていたわけではない。

 

 

今こそそれを発揮すべき時だと、武は覚悟を決めると真っ直ぐ正門へと歩みだした。

残り十数メートルという距離はあっという間に詰まり、武は自身を見て驚愕の表情を浮かべる白人のMPの前で立ち止まった。

 

 

「任務ご苦労」

 

「なっ!?て、帝国斯衛!?」

 

「こ、これは失礼しました大尉殿!!」

 

 

武に声をかけられ、慌てて敬礼をする、白人と黒人の伍長二人。それを見て、武も二人に習い敬礼をすると、余計な言葉は漏らさずかけるべき予定の言葉を淡々と告げる。

 

 

「堅苦しい真似はいい。俺はこの横浜基地に所属する、香月夕呼技術大佐相当官に用があってきた」

 

「こ、香月副司令にですか!?しかし、そのような報告は受けておりませんが」

 

「博士の研究に関わる事案だ。通信や文通で安易に連絡を交わせば、記録が残る。だからこそ、できるだけ記録が残らない真似をしている。ただでさえ帝国と国連の溝は深い。そのような証拠を残せば、どちらにとっても不都合なことになる」

 

 

武が淡々と言葉を吐くと、伍長二人は納得したのか、謝罪の言葉を述べて再び敬礼した。それというのも、武の言動が淡々と吐かれるものであったのと、身に纏っている軍服が正式な斯衛の服装だからだろう。

 

 

以前はほんの小さなことから疑問を持たれ、制服の違いに気づかれたが今回はそんなことはない。何せ、武が来ている服は紛れもなく本物の斯衛のものであり、階級章も紛れもない本物のものなのだから。

 

 

武はその事実に内心小さくため息をつき、続けて言葉を吐く。

 

 

「とは言え、いきなり俺が博士に直接合わせろというのも無理な話だ。だからこそ、伍長の持っている通信機を貸してもらいたい。博士の番号を聞けば、後はこちらで連絡を取り、博士の指示を仰ぐ。その後、俺の言葉が偽りでないか伍長に確認をとってもらいたい」

 

「り、了解しました!!」

 

「ご配慮、感謝致します!!」

 

 

武が斯衛だからなのか、必要以上に堅苦しい態度を取る伍長2人だったが、武はそれ以上態度に対しては何も言わなかった。そんなことに時間を費やすのも、無駄だと判断したからだ。何はともあれ、ここまでは問題なくうまくいった。

 

 

武は通信機を受け取り、番号を黒人の伍長から聞くと、二人から距離をとり話が聞こえない様に口元を手で覆った。それから通信機のボタンを教えられた番号の通りに押し、コールすること数秒。

 

 

ガチャリという音がして、気だるそうな声で声の主が返事を返した。

 

 

『はいはい、一体何のようかしら伍長?何か問題でも・・・』

 

「単刀直入に言わせてもらいます。第4計画、第5計画、そしてシリンダーの中に収まっているものについて話がしたい」

 

 

武がそう言った直後、電話の向こうで息を詰まらせ声を飲み込む驚きの気配が電話越しに伝わってきた。そしてそのまま無言が数秒続き、やがて電話の向こうの声の主がたっぷりと間を置いて返事を返す。

 

『・・・・・・あんた、誰?』

 

「俺のことについては、会って頂ければ話します」

 

『名前も明かせないやつに対して、私が会うとでも?まして計画のことについて知っているなんて、怪しさ満載じゃない』

 

「万が一にでも、俺の個人情報が通信記録に残るような真似はしたくないだけです。施設内に入ればともかく、こんな通信装置では盗聴されてもおかしくはありません」

 

『・・・・・・あんたが刺客ではないという証明はあるの?』

 

「俺が刺客というのであれば、わざわざ正門から堂々と現れてMPに姿を見られた挙句、記録を残してまでして暗殺に及ぶのは間抜けな話です」

 

『・・・・・・ま、それもそうね。おまけに、わざわざ斯衛の服装で現れて目立つ真似するのも馬鹿らしいし』

 

 

フンと、電話の向こうで鼻で笑う夕呼。斯衛の服ということから、どうやらカメラか何かで見られているらしい。できる限り記録に残るような真似はしたくない武だったが、夕呼がわざわざ白状する以上、簡単に処分できる映像なのだろう。

 

 

未だ完全に信用を得るとはいかないものの、少なくとも刺客ではないというのは理解を得たようだ。武はそれを聞いて小さくため息をつくと、先ほど告げた通り伍長に通信機を渡し、通話で夕呼の確認を得たのを確認した。

 

 

通話を伍長が切り、改めて敬礼をしたので武もそれに習い敬礼を返すと、開いた正門のゲートをサッと通り抜け、基地の扉の前に立つ。それから数秒後、内側からドアが開き通話の声の主、香月夕呼が姿を現した。

 

 

そして武の姿を見るなり、やや眉をひそめて険のある声で言葉を吐く。

 

 

「さっさと入りなさい。諸々の検査は、私の権限でなんとかなるから。話の方も、さっさと聞きたいしね」

 

「了解」

 

 

夕呼の姿を見て、一瞬瞳を揺らす武だったが、余計な言葉を一切省いた返事には動揺を示さなかった。夕呼の方も、余計な言葉は一切吐かない。

 

 

代わりに、警戒しているのは変わらないらしく、前を歩けと言って道を指示し、数分後、自身の執務室へとたどり着いた。

 

 

部屋に辿り着くなり、夕呼はさっさと自分の席に居座り、鋭い眼光を武に向け口を開いた。

 

 

「で、話してもらいましょうか。あなたの言っていた内容と・・・まずは名前からかしらね」

 

「わかりました。俺の名前は―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・成程ね、じゃあなに?今の説明を聞くと、あんたは未来から来たってわけ?」

 

「結論から言えばそうなります」

 

「それも、私の第4計画が失敗して、第5計画が実行されて最悪な状況に陥った未来から?」

 

「はい。話が信じられないようでしたら、更に持っている情報を話しますが」

 

 

武が淡々と告げると、夕呼はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。それから苛々とした様子を隠しもせず、はしたない様子で貧乏ゆすりまで始め、やがて勢いよく机を叩いて立ち上がった。

 

 

「ふざけた話じゃない!!」

 

「ですが、それが事実です。俺が体験した出来事の。尤も、先生自身については地球を旅立ってからのことは俺も知り用がありませんが」

 

「その先生って私のことを言うのは、あんたがいう・・・」

 

「元の世界の話です」

 

「フン・・・BETAのいない世界ねぇ。まさか、こんな形で私の因果律量子論が立証されようとはね。最悪の皮肉だわ」

 

 

ドカっと、隅に積まれた埃をかぶった本をハイヒールで蹴りつける夕呼。武はそんな彼女の姿に、嘗ての夕呼の姿が一瞬かぶって見え、その嫌な想像を即座に首を振って捨てる。

 

「俺はその最悪な未来を回避するために、ここにきました。今度こそ、第5計画を実行させないために」

 

「・・・・・・それはつまり、あんたと私は利害が一致している。そう考えてもいいわけ?」

 

「俺はもう、あんな未来を認めるわけにはいきません。だから、先生の第4計画が人類にとっての突破口となるなら、その為ならばどんな事でもやってみせます」

 

「口で言うのは簡単よ。どんな戦場よりも、酷い現実を直視するかもしれない」

 

「確かに。ですが、地獄ならもう見ました」

 

 

武のその言葉に、夕呼は息をつまらせた。尤も、単純に言葉自体に衝撃を受けたのではない。衝撃を受けたのは、その言葉を語る武の表情を見たからだ。未だ20を超えたばかりの青年に、死人のように冷たく、無機質な目をさせてしまう程の現実。

 

 

武が言うところの地獄というのが、こんな目をさせてしまったということだろう。現実を見たという面で捉えれば、第5計画を目の当たりにした武は、夕呼なんかよりもよっぽど地獄を見たということだ。

 

 

夕呼はそんな武の覚悟を実感すると、小さなため息をついて立ち上がった。

 

 

「わかったわ。あなたを、私の協力者として認めましょう。尤も、完全に信用した、というわけではないけれど。それでいいでしょう?白銀武?」

 

「それで構いません。ですが、一つだけ」

 

「何よ?この期に及んで、まだ何かあるの?」

 

「いえ。前の世界で、俺はこの横浜基地のハンガーで、斯衛の月詠真那中尉と居合わせた時言われました。死人が何故ここにいる、と。下手にデータベースを弄れば、そこから感づかれ、余計な荒波が立ちかねません」

 

「・・・そうね。戸籍に関して言えば、城内省の管轄だし、迂闊な真似は避けたほうがいいかもしれないわね。でもだったらどうするの?あんたの姿は、MPの二人には見られてるのよ?」

 

 

夕呼のその指摘に、武は暫し黙る。しかしこれも、既に対策は考えてあるしうってもいる。

 

 

「MPに関しては問題はありません。あの2人には、博士の研究に関することなので一切の口外を禁じると固く口止めしてあります。口外すればどうなるか、わからない2人ではないでしょう」

 

「なるほど。カメラに関しては、私の方で手を打てばいい。施設内では、あんたの希望通り、人に会わないようにここまで来たわけだし」

 

「・・・そのことについてですが、やけに準備が良かったですね?前の世界、初めて来た時は営倉に入れられたあと、解放される時も検査やら手続きやらで時間を取られたんですが」

 

「ん?ああ、そのこと?まぁ、それについては強いて言うなら、女の勘とでも言うべきかしらね?」

 

 

夕呼が、意地悪く笑って武に告げた。一瞬、そんな夕呼に何かを感じた武だったが、その疑問に対しては口に出さなかった。夕呼が今言わなかったということは、今言うべきことでもないと判断したからだ。

 

 

以前までの武ならばしつこく聞いたかもしれないが、生憎と地獄をくぐり抜けてきた武には情報の得るべき時というのは弁えてきた。

 

 

今はっきり言わないということは、夕呼が今は言う必要がないからか、若しくは夕呼自身判断の付いていない何かがあったということだ。

 

 

そう捉えれば、今は聞く必要がない事だとスッパリ武は切り捨てる事ができた。今はそれより、名前の事についてだ。

 

 

「名前については、いっそのこと存在しない人物をでっち上げたほうが安全だと思います」

 

「ちょっと・・・それって、何を言っているかわかってる?」

 

「言いたいことはわかります。ですが、今のご時世を考えればそう難しいことではないでしょう。最悪の場合、先生の研究に関わる極秘人物とでも言っておけばいい」

 

「計画の重大な事実を握っているからこそ、個人情報で割れるような経歴を持っていない方がいいって事?成程ね、ま、それもありっちゃありか。下手に真実を表にだそうとするから、危うくなる」

 

「前の世界で、俺の情報をデータベースを改竄してまでしてねじ込んだのは、俺を訓練兵にするためでした。今回はその必要をないと考えれば、その問題も対して浮かび上がらないでしょう。先生の極秘任務中において死亡して、万が一死体が残って不都合なことが流れないような人物。そう言うふうに銘打っておけばいい」

 

「・・・・・・わかったわ。採用しましょう、その案」

 

 

軽い口調で夕呼は決めて、その話題については終わらせる。武も、つっこまれない以上は答えることはない。だが、夕呼が次は何をすべきかと頭を悩ませた直後、武に聞いた話を思い出しそれについて尋ねることにする。

 

 

「でも、それならいいの?あんた、前の世界じゃ207Bの訓練兵だったようだけど?今回は何?あっさりスルーってわけ?」

 

「・・・いいえ、それについても考えてあります」

 

「へぇ?でも、関わるとなると"保護者"の方は黙ってないんじゃない?特に、御剣についてるのなんて、真っ先に勘ぐりそうだけど」

 

「分かっていて聞いてますね?そもそも情報がない以上、幾ら探っても無駄でしょう。存在しない者を存在しないと証明するのは、遥かに難しいことですから」

 

「悪魔の証明ってわけね。弄りがいがないわね」

 

 

つまらなそうにいう夕呼に、武はあからさまにため息をつく。何はともあれ、身分のことはこれでどうにかなるだろう。

 

 

以前武が怪しまれたのも、既存の記録を改竄して訓練兵に紛れ込んでいたからだ。それに対して、今回は存在しないものを、全くのでっち上げで作り上げるのだ。

 

 

嘗てより、歴史の裏で存在した暗殺者や忍者と呼ばれる者も今の武と同じようなものだ。極秘の任務に就くために、失敗した時のことを考え身分を証明するような公式の資料は何も残さない。それと同じだ。

 

 

夕呼の第4計画も、極秘中の極秘事項だ。そのような存在が影にいたとして、怪しまれたとしても、そのようなものだと言ってしまえばそれで良い。下手に聞けば、被害は大きいと判断すれば迂闊に突っ込むことはできなくなる。

 

 

斯衛であれば、それも尚更だ。現在の帝国に関していっても、そのような存在がいないとは言い切れないのだ。そこを突かれれば、痛いのはそちらも同じ。だからこそ、怪しみこそすれ深く追求は許さない為にも、そうとわかれば黙っているしかないのだ。

 

 

そんな事を頭の片隅で考えつつ、武はこちらをまっすぐ見ている夕呼に気付き、続く言葉を口にする。

 

 

「俺の名前は、黒鉄武とでもしておいて下さい」

 

「何か本名とそう違わない気もするわね」

 

「全く同じでないなら、問題ないでしょう」

 

 

武がそう言うと、夕呼は本人がそう言うなら問題ないかと小さく呟いてその話題を告げる。ちなみに、階級については変わらず大尉とすることになった。下手に階級を高くすれば悪目立ちし、低くするとそれが原因できな臭いことにもなりかねないからだ。

 

 

幸いというべきか、この横浜基地には階級が一番高くとも准将である基地司令しかおらず、左官についても殆どいないといっていい。大尉という階級は、それを考えれば都合のいい階級だった。

 

 

 

データベースに情報を上げることに関しては、過去にやらかして問題を起こしていない以上、今回横浜基地に戻ってきた事で、裏でやることがなくなり表舞台に立つようになったとでもしておけばいい。過去のことは、都合上全て削除されたとでもしておけば良いことだ。

 

 

第4計画に関して言えば、夕呼に一任されていると言っても過言ではない状況。下手な追求は受けないからだ。こうして、現状真っ先にやるべき事はやり終えた。

 

 

武はそれを確認すると、小さくため息をつき内心で胸をなで下ろす。とりあえずは、第一関門は突破できた。後はこれからやっていくべきことをやるだけだ。

 

 

武はそれを再認識すると、もう一度、今度は先程より大きなため息をついたのだった。




データベースのことに関して言えば、完全なご都合主義です。すいません。低脳な作者には、この辺が限界でした

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