Muv-Luv Alternative The story's black side   作:マジラヴ

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今回、ちょっとスペース開けすぎたかもしれません。
見辛かったら、ご指摘お願いします。


episode1-2 始まり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、あんたの個人情報とかはこれで登録が終わったから、とりあえず着替えなさい」

 

「・・・は?」

 

「何よ?日本語が伝わらなかったの?」

 

「いえ・・・そういうわけでは」

 

 

そう言いつつ、武は今や余り感情を表に出すことのない表情を、訝しげに歪めた。と言っても、夕呼の言っていること自体がわからないのではない。問題なのは、着替えろとは言われたものの、肝心の着替える服を持っていない事だった。

 

 

何せ、武は自身の部屋で目を覚ましてから着の身着のままでこの基地へやって来たのだ。それに元より、鍛え上げて身体のサイズも色々と異なってしまったために、部屋に服があったとしてもそれは着ることができなかっただろう。

 

 

尤も、部屋に合った服はどれも私服であり、着ていたら着ていたで基地内では問題しかないであろうが。と、そんな事を武が考えていると、夕呼はそんな武を見て小さく吹き出し、冗談だと言って武の手にビニールに包まれた国連仕様の制服を手渡した。

 

 

それを言葉を出さずに受け取る武は、制服が新品なのには驚かないものの、サイズが自分の体とほぼ差異のないものであった事に驚きを覚える。明らかに用意が良かった。そして再び湧き上がる疑問。

 

 

しかし同時に、それを聞いても今は聞かなくていいことだと言われるのが明白なために、武は何も言わなかった。今は兎も角、着ている斯衛服を一刻も早く着替えることだ。幾ら夕呼の計らいがあるとは言え、緊急でこの部屋に誰かが入ってこないとは限らないのだ。

 

 

尤も、夕呼の執務室を訪れる人間が、妙な事を漏らすとは思えないが武からすれば、今の状況は落ち着けるものではないからだ。故に下らない問答はすべきではないと判断し、夕呼の前でサッと着替えを済ませるべく上着を脱いだその時だった。

 

 

「あら?」

 

 

カランという小さな音がして、武の斯衛服のポケットから小さな物体が床に転がり落ちる。サッと見るからに、それはどうやら記憶媒体のようだった。とは言え、そのような物に武は覚えがない。思わず疑問を表情に出してしまい、そんな武の表情をみた夕呼も疑問を浮かべる。

 

 

「何これ?アンタのかしら?」

 

「いえ、俺の記憶には何も」

 

「ふ~ん・・・見た限り、何かの記憶媒体ね」

 

 

落ちているソレを拾い、方向を変えて検証する夕呼。やがて、記憶媒体を調べていた夕呼は、険しい表情を浮かべて武を見つめる。

 

 

「ねぇ。これ借りていいかしら」

 

「は?」

 

「だから、これを私が調べてもいいかしらって言ってるの。あなたのなんでしょ?」

 

「・・・別に、構いませんが」

 

 

俺のだとは言っていないと、内心武はそんなことを思ったが口には出さなかった。夕呼が興味を示した以上、ソレに何かあると判断したからだ。この世界の夕呼は元の世界の夕呼とは別で、無駄なことをするような人物ではないのは理解している。

 

 

だからこそ、武に借りていいかと訪ねた以上は、それには夕呼が興味を引く何かがあるということだ。そう判断すると、武はソレについて考えるのは止め、さっさと渡された国連の制服に着替えた。

 

 

久方ぶりに袖を通す国連の軍服は、僅かな寂しさを感じさせ、歪みそうになる表情を必死に引き締めて耐える。

 

 

「どうかした?」

 

「いえ。何でもありません」

 

「そう。じゃあ、とりあえずこれで用は済んだでしょう。まりもにはこっちで話は通してあるから、とりあえずはそっちに挨拶してきたら?話は通信機で通しておくから、グラウンドに行ってきたらどうなの。あんたにとっては、別に初対面でもないんでしょう?」

 

「・・・・・・了解」

 

 

夕呼に言われ、武は複雑な心境を抱いたが辛うじて顔には出さずに済ませた。前の世界では、恩師でもある神宮寺まりもには失礼な態度を取ってしまった。その事が、内心では尾を引いているという事実に、武は未だそのような感傷を持てる自分に嫌気がさした。

 

 

しかし、その前の世界での感傷をこの世界に持ち込むことは、いい方向には向かわない。それは自分にとってもであり、相手にとってもだ。武は自身を無理やり納得させると、必要はないと言われるのも承知で敬礼をし、執務室を退室した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・行った、わね」

 

 

ふぅと、武が執務室から退室し、十分時間をおいて夕呼は大きなため息をついた。武が来る前に淹れたコーヒーは、既に冷め切っていて口に含んだ夕呼は、その不味さからかそれ以外の要因か。何れにせよ、傍目に見ても余裕で理解できるほどに、その美貌を歪めて不快感を露わにした。

 

 

「全く・・・どうかしていたわね、私も」

 

 

既に飲む気が失せた、コーヒーが半分程入ったカップをコースターの上に置き、夕呼は深く椅子に腰掛ける。脳内に浮かんでいるのは先程の武との邂逅と、今朝方目を覚ます要因となった不思議な夢。

 

 

そう、夢はただの夢でありそれを現実と捉えるなどどうかしていると、夕呼自身自嘲してしまう。しかし、結果的にはその判断が正しかったことは、何という皮肉なのだろうか。科学者でありながら、夢に縋るというその行為は傍から見れば道化にしか見えないだろう。

 

 

夕呼自身、そう思っている。否、思っていたのだから。夕呼が武の話をあっさり信じた理由。それが夕呼が久しぶりにとった睡眠で見た夢と、同じ展開になっていたからだった。

 

 

夢の中でも夕呼は白銀武と出会い、今日と全く同じ話をしていた。否、それは正しくはない。正確に言えば、夕呼が夢で見た通りに喋ったからそうなったと言うべきか。

 

 

「白銀武・・・か。私も、アレの存在がなければ信じなかったでしょうけど」

 

 

フッと、再び自嘲して笑みを浮かべる夕呼。脳内に浮かんでいるのは、この基地でもかなり高いセキュリティーランクで遮断されている部屋の向こうの存在。淡く光るシリンダーの中に浮かぶ者。

 

 

「カガミ・・・スミカ」

 

 

ポツリと、夕呼は小さく呟いた。呟かれた言葉は、一人となった部屋に小さく響き、そして消えていく。

 

 

「これは・・・貴方が私に見せた、予知夢って奴なのかしらね」

 

 

夕呼はクルッと回転式の椅子を回し、机に向き直る。机上には、あちらこちらにびっしりと文字が書き込まれた書類が積まれ、持ち主である夕呼でさえパッと見では、どこに何があるのかわからない状況だ。

 

 

しかし、そんな中でも夕呼の正面だけは綺麗に片付けられ、またそこに同じく、だが比較的綺麗に積まれた厚さ数十枚の紙が置かれ、そして一番上の紙面には太字で書かれた文字が目に入る。00ユニットと、書かれた文字が。

 

 

夕呼はそれを厳しい表情で睨み、そして先程武の斯衛服から転がりでた記憶媒体をその上に置いた。

 

 

「この媒体も、あなたの仕業なのかしらね」

 

 

その呟きには、一人となった執務室に返ってくる答えなどない。しかし、それでも呟いた夕呼には確かな答えを聞いたような気がしていた。そして、武の話に出てきたサンタクロースの話を思い出す。

 

 

「もし、この中に入っているものが"そう"なのだとしたら・・・サンタクロースになるのは私ではなく、貴女・・・なのかもしれないわね」

 

 

フッと笑って、立ち上がる夕呼は記憶媒体を白衣にしまい込みクルッと背後に向き直る。そこには、でかでかと世界地図が貼られており、各地に赤い点が穿たれていた。少なく見積もっても、20以上はある赤い点。

 

 

そんな中でも、他と比べて一際大きく穿たれている赤い点を、夕呼は険しい表情を浮かべて睨みつける。その場所は中国領土であり、喀什。人類が初めて地球に建造することを許した、BETAの基地であるオリジナルハイヴ。

 

 

「何の悪戯かは知らないけど、降って沸いたチャンス。白銀武が言う、最悪の未来を阻止して未来を掴む。その為に、地獄の底まで付き合ってもらうわよ」

 

 

夕呼の呟きに、答えるものはやはりいなかった。しかし、それでも夕呼には返事が聞こえていたかのように笑みを浮かべ、まずはやるべき事の一つを終わらせるべく、執務室の通信機に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕呼の執務室から出ること10分。武は言われた通り、グラウンドにいた。目の前には懐かしくも、見慣れた顔ぶれが4人並んでいる。

 

 

冥夜を除けば、前の世界では比較的早く戦場で散っていった3人は、武にとっては若く見えた。

 

 

そして変わらないのは、武の横に立って敬礼をしている神宮寺まりも軍曹。その厳しさを過分に含んだ表情の内側が、本当は誰よりも優しい人格を持っている事を知っている。そんな5人を順番に見て、思わず歪みそうになる表情を顔の筋肉を必死に引き締め、無表情を保つ。

 

 

やがて、武がそれぞれ訓練兵の顔を全員分確認し終えたことを確認したのか、まりもが姿勢を正したまま挨拶を始める。

 

 

「これより、大尉殿に207B分隊のメンバーの紹介を始めさせてもらいます。よろしいでしょうか」

 

「構わない。それと、必要以上に硬くなる必要はない。俺は階級が上とは言え、軍曹たちの直属の上官ではない」

 

「はっ、しかしそれは・・・」

 

「俺は副司令の直属の部下の扱いとなっている、と言えば理解してもらえるか?」

 

 

武が改めて言い直すと、まりもは困ったように眉を顰め、しかし上官である武の言い分には逆らえないと悟ったのか、肩の力を若干緩め、しかし口調だけはきっちりとしたもので説明を続けた。武もそれ以上は無理かと察すると、それ以上は何も言わず既に必要のない紹介を受けることにした。

 

 

「右から榊訓練兵、御剣訓練兵、珠瀬訓練兵、彩峰訓練兵。貴様等、各自大尉殿に挨拶しろ」

 

 

「はっ。ご紹介に預かりました、207B分隊分隊長を勤めております、榊千鶴訓練兵であります!よろしくお願い致します、大尉殿!!」

 

 

「207B分隊副隊長を勤めております、御剣冥夜訓練兵であります!よろしくお願い致します、大尉殿!!」

 

 

「に、207B分隊珠瀬壬姫訓練兵であります!よろしくお願い致します、大尉殿!!」

 

 

「207B分隊彩峰慧訓練兵であります!よろしくお願い致します、大尉殿!!」

 

 

「207B分隊教官の神宮寺まりも軍曹であります!改めて、よろしくお願い致します、大尉殿!!」

 

「紹介に預かった、黒鉄武大尉だ。貴様等の訓練に専属されるわけではないが、訓練を見る機会があるやもしれない。その時はよろしく頼む」

 

 

武が最後に締めくくり敬礼をすると、他の5人もそれに倣って返礼し、武がまりもに指示すると再び4人は訓練に戻る。武はそんな4人のグラウンドを走る後ろ姿に懐かしさを感じずにはいられず、そっと視線を逸らした。

 

 

そして、まりもはそんな年甲斐もない反応を見せる上官である武に、不思議な感情を抱きつつもそれについては尋ねなかった。代わりに、失礼しますと言って再び見事な敬礼をすると、4人の後を追って走り出した。

 

 

必然的に1人残された武は、ほんの少しばかりその様子を無言で眺めていたが、訓練の邪魔になると判断したのだろう。やがてその場を無言で立ち去った。

 

 

向かう先は一つしかない。前の世界では挨拶の前に訪れ、邂逅する事となる小さな少女と後になって知った、変わり果てた幼馴染がいる薄暗い研究室。グラウンドからはとんぼ返りになるが、来た時とは異なり戻る時は大して時間もかけず研究フロアに辿り着く。

 

 

シリンダールームに続く、鈍い照明が照らすうす暗い通路と階段を登り、やがて扉の前に辿り着く。あとは再びセキュリティーコードを通すだけという所で、武は立ち止まり顔を俯かせた。

 

 

内心で渦巻く葛藤は多々あるが、それを言ってもしょうがないことはわかっている。これより先にいるのは幼馴染であって、幼馴染の姿とは言えないものなのだから。知らずと力を込めていた右拳は固く絞られ、掌に爪が食い込んで出血しているのに気付く。

 

 

武はそんな葛藤を誤魔化す様に、首を振って掌をズボンに擦りつけると、セキュリティーコードを通し部屋の中に入室した。そして目撃する、過去に見た脳髄が収められた淡く青色に発光するシリンダー。

 

 

JFKハイヴ攻略時にも見たそれは、嫌でもあの時の感情を呼び起こすが、武は直様それを封印して更に歩みを進める。そして、物陰に隠れたつもりでいるうさ耳を隠しきれずにいる少女を見て、僅かに頬の筋肉を緩ませた。

 

 

「久し・・・初めまして、だな。霞」

 

「!!」

 

 

霞と、武に呼ばれた物陰に隠れていた少女は、名前を呼ばれたからかびくんと飾り物の耳を大きく震わせて姿を現した。その表情には、やはり驚きの色が浮かんでいて、それと同時に武を怖がるように数歩後ずさった。

 

 

そんな懐かしい反応を見て、内心では小さく笑ってしまう武。だが、それは決して表情には出ることはなく、それがより一層霞を不安にさせたのか警戒を強めてしまった。小さい体を更に小さく縮こませて、しかしそれでも逃げることはなく武をじっと見つめていた。

 

 

そして訪れる、無言の時間。1分、2分と時間が過ぎていき、まるでいつまでもこの無言の空間が続くと思われた頃、意外にも口を開いたのは霞の方だった。

 

 

「貴方・・・が」

 

「・・・え?」

 

「貴方が、武ちゃん・・・ですか?」

 

 

ドクンと、霞の言葉に武の内心は激しく揺るがされた。くっと、武の唇から苦悶の声が漏れ、視界が僅かに滲む。いけないと思いつつも、泣く資格などないのだと自分を繕いつつも、武はそれを抑えることができなかった。

 

 

せめてもの抵抗が、今の情けない表情を霞に見えないように下を俯く事だけだった。情けなくもその体を震わせ、静かに、しかし激しく漏らす嗚咽に、霞は何も言えず同じようにして下を俯いて黙り込んだ。

 

 

それから再び言葉が止む時間が訪れ、5分と経った頃だろうか。今度は、取り繕った武の方から霞に言葉を投げた。

 

 

「すまない、見苦しい姿を見せた」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「・・・そうか」

 

 

武はそう言って、自分から口を開いたにも関わらず黙り込んでしまった。何をやっているんだと思いつつも、それ以上の言葉が出ない以上どうしようもなかった。そんな武の葛藤を知ってか知らずか、再び霞が口を開いた。

 

 

「社霞です」

 

「え?」

 

「私の名前です。知っているかもしれませんが」

 

 

霞がそう言うと、武は彼女の言いたいことをハッと察して、言葉を返すべく口を開こうとするが、上手く言葉が出てこない。しかしこのまま黙っているわけには行かず、何度か失敗しながら、震えそうな声でやっと言葉を続けた。

 

 

「白銀武だ。副司令の前以外では・・・」

 

「わかってます。黒鉄さんで、いいんですよね」

 

「ああ。それと・・・ありがとう」

 

「はい」

 

 

ぺこりと、可愛らしく頭を下げる霞を、武は久しぶりに浮かべる穏やかな笑みで見つめた。久しく忘れていた、本当に心からの笑みを浮かべて。そして、そのまま視線をずらしシリンダーの中に浮かぶ脳髄を見つめる。

 

 

「(純夏・・・俺は)」

 

 

言葉には出さず、まるでテレパシーで伝えるかのように、思ったことを伝えようと祈るように内心で言葉を吐露する。伝わるはずがない、応えてくれるはずがないというのも分かってはいるが、それでも思わずにはいられなかった。

 

 

そうして、三度無言の空間が訪れ、やがて短い挨拶を交わして部屋から立ち去る武。その後ろ姿を、扉が遮断して見えなくなるまで霞はじっと見続け、扉が閉まるとそっとシリンダーに目を向けた。

 

 

相変わらず、シリンダーの中の脳髄に変化はない。しかし、それでも霞にはその持ち主が確かに武に何かを伝えようとしていたと、そんなことを思わずにはいられなかった。

 

 

 




今回短かったかもしれません。
それと、敬語がおかしかったらすみません。

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