Muv-Luv Alternative The story's black side   作:マジラヴ

4 / 17
初めに言っておきます。今回、ちょっとご都合主義がすごいです。
ですが、つっこまれるの覚悟でこの内容にしました。
なので、不快に感じられた方、残念に思ってしまった方がおられたらスイマセン。
叱責の方は受ける準備万端ですので、よろしくお願いします。


episode1-3 解明への糸口

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

「かたっ苦しい真似はいいわ。さっさと用件に入るわよ」

 

 

武が敬礼をしようとした矢先に、それを封じるかのように夕呼は面倒くさそうに言ってそれを封じる。今日で武がこの世界に来て今日で二日目。つまり、10月23日となる。

 

 

そして今の状況を簡単に説明すれば、武は今朝、何故か起こしに来た霞に夕呼が呼んでいるとの報を受け、着替えて直ぐに執務室に向かった。

 

 

それが今の状況だった。出鼻をくじかれた展開になるわけだが、夕呼の性格を知っている武は即座にそれに適応する。しかし、やはり斯衛としてやってきた習慣は抜けないのか、どこかぎこちなかった。

 

 

嘗ての軽い態度の武を知っている者がいれば、腹を抱えて爆笑するレベルであるが、残念だがそんな態度を取れる人物はここにはいなかった。

 

 

「アンタの所属に関しての事だけど、アンタには私の副官になってもらうのと同時に、私直属の部隊についてもらう事にするわ」

 

「先生直属の部隊、ですか?」

 

「何よ?未来から来たあんたでも、それは知らなかったの?」

 

「前の世界では、第4計画の廃止と同時に先生と関わる機会は殆どなくなりましたから。先生はそのまま第5計画に乗った形になりましたし、計画については殆ど知らされないままでした」

 

「成る程。じゃあ、あんたがあれこれ知ったのは、斯衛に入ってからだったってわけ?」

 

 

夕呼の質問に、武は無言を持って答えとした。というのも、武自身、それについては曖昧なところがあったからだ。武は確かに前の世界の記憶で、夕呼の目指していた計画の概要を知る機会があった。

 

 

しかし、それでもそれは断片的なものだった筈で、今武が知識として所持している物について、武自身何故知っているのかと思える物があるのだ。だからこそ、変な事を言って夕呼を混乱させるのは避けたかった。

 

 

そういった疑問は、計画の成功の目処が経ってから解消するのでも遅くない。今は何より、第4計画を成功に導くのが重要なことなのだ。その為には、あまり余計なことに時間を割くわけにはいかなかった。特に、それが武個人のものであれば。

 

 

「何よ?何か気になることでもあるわけ?」

 

「いえ。何でもありません。それより、直属の部隊というのは?」

 

「ああ、そうだったわね。まぁ、簡単に言えば私のというより、第4計画の為の極秘部隊ってわけよ。尤も、第4計画の要が私である以上、大して違いはないんでしょうけど」

 

「・・・・・・」

 

「名称はA01中隊。昔は連隊規模の結構大きな部隊だったんだけど、任務の都合上と嘗ての明星作戦の被害を受けて部隊は減りに減って、現在は中隊規模になったってわけ。ちなみに、部隊長はアンタと同じ大尉だから」

 

 

つまり、実質的な夕呼の右腕に相当するという事かと武は話を聞いて判断した。尤も、夕呼の事だ。本当の右腕というのは、今のところ存在しないのだろう。何せ、本当に重要なことは墓場まで持って行きそうな所がある。

 

 

前の世界でも、武は詳しい事は殆ど何も知らされていなかったのだから。それはただの訓練兵だったからというのもあるだろうが、本質的に香月夕呼という女は秘密は徹底的に上手く隠す傾向にあるというのは、既に理解していることだった。

 

 

「ちなみに、その隊の名前は?」

 

「正式名称はA01部隊で通ってるけど、本人達の名称としては隊長の、伊隅みちるの名前を取って伊隅ヴァルキリーズなんて呼ばれてるわ。今は女性衛士しかいないし、実に理にかなってる名前だとは思うけど」

 

「そうですか・・・」

 

「何?知り合いだった?」

 

「いえ。初耳です」

 

 

そう言って、武は再び黙り込む。夕呼としても、余計なつっこみがないのは話しやすいのか、それとも話がスムーズに進むのは楽でいいのか、徹夜明けだと思われるのに気分良く対応していた。

 

 

そんな夕呼を見て、武はふとお願いしようとしていた事案を思い出し、機嫌のいい内に頼み込むことにした。そう、前の世界ではついぞ完成に至ることはなかったOSについてだ。

 

 

「先生」

 

「何よ?まだ隊について知りたいのかしら?」

 

「いえ、隊については特に。今度は、技術大佐相当官である先生に対してお願いしたい事があります」

 

「・・・・・・成る程。いいわ、話してみなさい」

 

 

武の言葉を聞いて、僅かながら悩んでみせたが夕呼は話を聞くことを選択した。それに内心ホッと安堵のため息をつき、武は未来で体験しその問題に直結したOSの話を夕呼に話した。

 

 

色々つっこまれるのを覚悟した武だったが、話の途中には一切夕呼は口を出さず、相槌を打つだけだった為に、話は比較的スムーズに進んだ。そんな夕呼の態度を見て、僅かな違和感を覚える武だったが断られていない以上気にしないことにする。

 

 

これが上手くいけば、夕呼にとってもいい手札が増えることは確実なのだ。だからこそ、夕呼を説得して製作してもらうために武は自身の考えを全て話し終えた。結果。

 

 

「いいわ、あんたの言うOS。作ってあげようじゃないの」

 

「・・・・・・ありがとうございます」

 

「何よ、歯切れ悪いわね」

 

「いえ、俺の予想だと先生なら細かく利点の追求をしてきそうな気がしてました。それがすんなり返事をもらえたので、少しばかり・・・」

 

「へぇ。何よ、意外に鋭いじゃない」

 

 

武の言葉に、笑みを持って答える夕呼。その表情には、何か悪魔的というべき何かが含まれているように感じた。これは訪ねておくべきかと、一瞬躊躇った武の先をいき、夕呼がパソコンから何かを引き抜いてそれを武の目の前に翳してみせた。

 

 

「それは・・・昨日の」

 

「そう、あんたの斯衛服から転がり出てきた宝物。ああ、斯衛服の方はこっちで処理しちゃったけど良かったのよね?」

 

「構いません。それより、先生の持っているそれは・・・」

 

「見ての通り、というか想像通り記憶媒体だったわ。内容については今は多くは語らないけど、この世界を救う種になるかもしれない代物ってだけは言っておくわ」

 

 

ふふんと、その豊かな胸を持ち上げて得意げに語る夕呼。見る限り、今までで一番機嫌が良さそうな様子だ。前の世界では、ついぞ見ることのできなかった夕呼の心から喜んでいる表情に、武は複雑な何かを感じたが何も言わない。

 

 

まだ夕呼の話は終わりではないと、判断したからだ。夕呼としても、自分の話の途中で遮られないことは喜ばしいことなのか、饒舌といっても過言ではない程に、話を続ける。

 

 

「でもまぁ、それなり・・・というか、閲覧するにはかなり厳重なセキュリティーがかかっててね。それを解除するのに一晩かかったわけなんだけど、出てきたのがこれ」

 

「・・・これは」

 

「見ての通り、あんたのいう新OS・・・それの内容が記されている内容書ね。ご丁寧に、OSデータまで入ってたわ」

 

 

その夕呼の言葉に、武はハンマーで頭を殴られたかのような衝撃を受けた。

 

 

「そんな・・・馬鹿な」

 

「気持ちはわかるわ。あんたの話を聞いていたら、私も疑問に思ったことではあるし」

 

「では・・・これはどういう」

 

 

詰め寄る武に、夕呼は両目を閉じて考え込む素振りをする。それを邪魔しては悪いと、武も同じように黙り込むが、1分もすると夕呼は両目を開け再び口を開いた。

 

 

「詳しいことはわからないし、確信をもって言えるわけではないけど。それでもいいなら聞く?」

 

「お願いします」

 

「じゃ、話すわよ。端的に言えば、これは貴方の物であって、貴方自身の物ではないって事」

 

「・・・・・・」

 

 

夕呼のその一言に、武は言葉を失って表情を固める。そして湧いてくるのは、からかわれているのかという不快な感情だった。この期に及んでの夕呼の言動に、流石の武も思わず何か一言言わずにはいられなかったが、その瞬間武の脳内にある考えが閃く。

 

 

普通に考えればありえない考えだ。まともに聞けば、余りにもふざけていると笑われてもおかしくない話。しかし、それを否定することは武には、武だけにはできなかった。何故なら、今考えている武の考えの根拠の一つが、武自身の存在なのだから。

 

 

「その様子じゃ、何か閃いたのかしら?思いついたなら言ってみなさい。あんたが言う、先生らしく採点してあげるから」

 

「・・・俺の物であって、俺自身の物ではない。それはつまり・・・先生の言う、エヴェレット解釈論で説明できる事なんじゃないですか」

 

「まぁ、回答としては不十分だけど概ね正解と言ってもいいわね。あなたの考えているとおり、この記憶媒体は恐らく未来の・・・というより、並行世界においてオルタネイティヴ4が成功した世界の貴方が持っていた物なんじゃないかと推測できるわ」

 

「計画が・・・成功に終わった世界の?」

 

「この記憶媒体を解析していて、そうじゃないかと思われるデータが抽出できたのよ。尤も、今現在抽出できたのは貴方の言うOSについてのデータと、私が一番欲している情報の極一部だけ。まだ明確な根拠が出てきたわけじゃない」

 

 

しかしそれでもと、夕呼は自信を持って武に言葉を告げる。何が夕呼にそこまで言わせるのか、それについては武は理解が及ばない。とはいえ、夕呼が本当に根拠がないのにここまで言うとは思えない。

 

 

だからこそ、ここまで言う夕呼の言葉に嘘があるとは思えないし、間違っているとも思えなかった。しかし万が一ということも有り得る。だからこそ、ここはなるべく情報を把握しておくべきだと武は判断する。幸いにして、夕呼の機嫌も良いのだから。、

 

 

「データの抽出というのは・・・」

 

「今回引き出せた、OSのデータについては比較的セキュリティーが高くない部類だったから、一晩明かす程度で済んだけど、ここから先はそう簡単にはいかないでしょうね。何せ、かけられたセキュリティーが尋常じゃないほどだし。データの抽出には、それなりに時間がかかるでしょう。まぁ、情報の漏洩については問題ないでしょうけど」

 

「・・・それは」

 

「私のパソコンを見るのは言うに及ばず。仮にこの記憶媒体を持ち出しても、厳重なセキュリティーが働いていて。私のパソコン以外で開いたら全部消えちゃうようになってるみたいだから」

 

 

そんな事にはならないでしょうけどと、夕呼は含み笑いを浮かべて武に告げた。それを聞いた武は小さくため息をつき、それ以上考えるのを止めた。夕呼もそれはわかったのか、この話はこれで終わりとばかりに切り上げる。

 

 

また必要になれば、夕呼の方から話すということだろう。とりあえずは、先ずは抽出できたというOSのデータの事だ。

 

 

「先生」

 

「わかってるわよ。抽出できたOSの事でしょう?とりあえず、完成されたOSのデータは情報としては残っている。けど、肝心の完成されたOSのデータについては入ってないのよ。このOSの仕様をデータで見る限り、試作版からバグ取りやら何やらをこなして完成させろってことが書かれてるのよ」

 

「・・・一つ疑問があるのですが、何故完成されたOSが入っていなかったんでしょうか」

 

「そりゃあ、完成されたデータをいきなり開発しましたなんて言って公表したら不自然だからじゃない?幾らなんでも、極秘ってことだけじゃ誤魔化しが聞かないこともあるでしょうし。それに、いくら並行世界のアンタの発案で出来たかもしれないOSだと言っても、厳密にはアンタ自身の発案じゃないわけだし。確認の意味も込めて、初めからやれってことじゃないかしら?」

 

 

夕呼のその説明に、やや疑問が残る点がないでもないが、細かいことなので武は最早何も言わなかった。武としても、幾ら別世界で保証されているとは言え、初めから完成した物でやるより、試作段階の物から作り上げていくほうが好ましい。

 

 

時間の問題も考えればリスクになるかもしれないが、それでも命を預ける物となる以上自身で確かめたほうが都合のいいのは確か。その上、完成品を使うより試作段階から始めることで新たな発見を得られるかもしれない。そう考えれば、多少のリスクには目を瞑るべきだ。

 

 

幸いというべきか、未だ確証がないとは言え計画完成の目処は付くかも知れないのだ。

 

 

「今やるべき事を・・・やるべきか」

 

「ま、そういうことね。未来から来た、それも第5計画が実行された未来から来たアンタに向かって、焦るなとは言わない。けど、計画完遂が対BETA戦争を即終了させるものではない。あくまで第4計画の完遂は、この絶望的戦争に勝利の希望を持たせる意味のものであり、成功させなきゃいけない絶対条件でしかない。つまり・・・」

 

「この戦争に勝つための終止符を打てるかどうかは、計画完遂後にあるという事ですか」

 

「そういう事よ。だから、あまり先ばかりを見て行動して足元を掬われる、なんて事にはならないように気をつけなさい」

 

「・・・了解」

 

 

夕呼の言葉に、武は不要と言われるであろうが敬礼をして覚悟の程を改める。これで少なくとも、第5計画の執行は無くなる筈なのだ。そう、何の妨害も起こらなければだ。勝って兜の緒を締めろとは言うが、その言葉は正にこの状況にこそふさわしいというものではないだろうか。

 

 

武は緩みそうになった自身の心に楔を打ち、より一層の冷たさを持たせる。邪魔する者がいれば、どんな手を使ってでもそれを排除する。そう、前の世界でもそうだったように。武の表情が険しく、目は鋭く尖っていく。例えるならば、剥き出しの日本刀のように。

 

 

そんな武を見て、夕呼はほんの少しばかり複雑そうな表情を一瞬浮かべるが、直ぐ様その表情を消し去り、伝えるべき事を全て伝えていない事に気付き、再び口を開いた。

 

 

「ま、OSについてはその通りよ。で、今から話すのはアンタの配属先の話の続きよ」

 

「A01部隊についてですね」

 

「そうよ。アンタにはまず、腕試しの意味も含めてA01部隊と模擬戦をしてもらうわ。私はアンタの腕については、疑ってはいない。何せ、黒の斯衛服を着ていたぐらいだったしね」

 

 

黒の斯衛服は、実力で斯衛に選ばれた人間の証だ。家柄ではなく、その実力を持って政威大将軍を守護する矛となり、盾となった存在の証。その実力が、生半可ではないことは衛士ではない夕呼でも分かることだ。しかし、それは夕呼についてと限定される。

 

 

武の身分を公にできない以上、A01のメンバーにこいつは強いから認めなさいと言っても、認められるものではないだろう。だからこその、夕呼が命令する模擬戦。これは謂わば、入隊テストのようなものであった。

 

 

「日取りについては、明日にでもやってもらおうかしら。シミュレータを使った模擬戦だから、機体については問題ないわ。尤も、貴方が乗る機体は武御雷じゃなくて不知火になるけど」

 

「別に構いません。必要な事であれば、俺はこなすだけです」

 

「OSについてはどうする?一応、このXM3に換装しておきましょうか?」

 

「いいえ、今回は変えなくても構いません。俺も、使い慣れたOSの方がやりやすいですし」

 

 

OSの換装を1日でともなれば余計な手間を増やさせることになる。夕呼に手間はかけさせたくないと、武は判断した。それに、使い慣れたほうが良いというのも本音だ。幾ら並行世界の自分が関わっていたものとは言え、今の自分には関係のない話なのだから。

 

 

実力を見せる意味でも、同じコンディション、同じステータスで挑んだ方が良いのだ。できるだけ、面倒事は避けたいというのが武の本心である。

 

 

「わかったわ。セッティングはこっちでしておくから。そうね、明日の午前10時・・・1000って言うんだっけ?軍隊って言うのは、回りくどい言い方するもんね」

 

「了解」

 

「あっ、アンタの強化装備のフィードバックデータはないっていうのは分かってるか。その点だけは、注意しときなさい」

 

「了解」

 

 

武はどうでもいいと言わんばかりに、短く返答した。夕呼も、いちいち自分の吐く言葉にめんどくさいつっこみが無いのはありがたい。余計なことは尋ねず、今知るべき情報だけをしっかりと取捨選択する。そんな言葉を体現している武は、ビジネスパートナーとしてもやりやすかった。

 

 

訓練を受けていない夕呼でも、武が雰囲気から甘ったれではないことは理解できる。つまり、今夕呼の目の前にいる白銀武という青年は、知識量を除けば非情さという意味でも、その他の意味でも対等と言っていい関係だった。

 

 

そういう関係は、夕呼としても望ましい事であるから、是非ともこの調子で頑張ってもらいものだと、内心でそんな言葉を吐きながら先程淹れたコーヒーを口に含んだ。

 

 

それ以降はやるべき事も、伝えるべきことも殆ど存在せず、武は明日の勝負前に不知火を触っておきたいという事を打診し、それの手続きに移ることとなった。

 

 

そうしてやるべき事が全て終わった武は、無意識に敬礼しそうになるのを抑え、短く退室の言葉を告げると強化装備を受け取るべく足を向けた。1人となった夕呼は満足そうに笑みを浮かべ、しかしこれからの事を思うとより一層忙殺されるであろう研究の内容に、大きなため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなところか」

 

 

シミュレータのコクピット内部で武は小さく呟き、機械を停止させた。夕呼の執務室から退室し、強化装備を受け取ったりシミュレータ使用の許可を受け取ったりするのに午前中を費やし、その後昼食も取らずにシミュレータに乗り続けた武。

 

 

強化装備のフィードバックデータもない状態では、如何に戦術機適正が高い武とは言えやはり疲労を感じずにはいられないものだった。とはいえ、BETAとの戦闘に比べれば疲労の具合は比べるまでもなく、武にしてみればそれ程ではないのも確かだが。

 

 

故に、本音を言えば疲労を感じたのはその部分ではない。実際にはシミュレータを使用する前。如何にこの横浜基地の副司令、香月夕呼のお墨付きがあるとはいえ、上官とは言えいきなり現れた大尉に対する整備兵らの空気は、良いものとは言い辛い物があった。

 

 

おまけに、武の機動は周りの者からとんでもない謂れを付けられる程の機動なのだ。如何に実機ではないとは言え、この後の事も考えるとシミュレータの管理を行っている整備兵から、明日の模擬戦後は文句も飛んできそうだ。

 

 

明日の模擬戦は今日のような馴らしとは違い、相応の動きは取らざるを得ないだろうというのは、武の予想だがそれを裏切ることはないだろう。夕呼直属の部隊と言う程なのだから、帝国で言う斯衛と同じような意味合いを持っていると言っても過言ではない。

 

 

「考えていても、仕方がないか」

 

 

思考を切り替える為に、考えていた事を切り捨てるように大きなため息を吐く武。コクピット内でやれる後始末を全て終え、電源が確実に落ちたのを確認した後、機体を降りて近くにいる整備兵に連絡を終える。

 

 

暫くして整備兵の驚きのような声を背後に、武は流した汗をシャワーで流すべくその場を後にした。それから10分程経った頃だろうか。

 

 

武と入れ替わるように、十数人の女性の姿が施設内に入ってくる。女性らしく、多少喧しさを含んだ声は施設内にやけに響き、その中の纏め役である大尉の階級章を付けた20代前半と思われる女性が、慌ただしく整備を行う整備兵を遠巻きに見ている同じ整備兵に声をかけた。

 

 

「何やら慌ただしく整備を行っているようだが、何かあったのか?」

 

「こ、これは大尉殿!!失礼しました」

 

「構わん。それで、質問の答えをもらえるとありがたいのだが」

 

「これは失礼しました。伊隅大尉の仰るとおり、実は・・・」

 

 

困ったように笑い、整備兵は伊隅と呼んだ大尉に事情を説明する。内容はもちろん、武が使用したシミュレータの整備のことだ。その話を聞く内に、大尉の階級章と衛士である事を証明するウイングマークを付けた若い女性衛士、伊隅みちるは興味深そうな笑みを浮かべた。

 

 

それについて何か引っ掛かりを覚えた整備兵だったが、そういった事は珍しくないのか、疑問は浮かべただけで言葉にはせず端的に説明を終える。そして言葉を語り終えたあとには、伊隅だけではなく、同じく後ろに待機していた中尉の階級章を付けた女性衛士も面白そうに声を上げた。

 

 

「何だか、面白い事になってるみたいですね~大尉」

 

「整備兵にとっては、笑い事じゃないみたいだがな速瀬」

 

「無駄ですよ大尉。こうなった速瀬中尉は、何を言っても止まらないのはいつもの事でしょう」

 

「ふ、確かにな」

 

 

言って、可笑しそうに笑う伊隅。最初に声をかけたのは速瀬水月、そして後から声をかけたのは宗像美冴。二人共、女性であり若き中尉の階級を持つ優秀な衛士だった。尤も、BETA大戦が始まって以降、男性の衛士が激減し女性ばかりになっている今、それを考えればおかしな事でもないのだが。

 

 

そして、彼女ら3人を含め、後ろにいる女性衛士全てが夕呼の言うA01部隊のメンバーである。つまり、明日の模擬戦の武の相手だった。そんな女性ばかりで固められた部隊の中、傍目に見ても言動から好戦的な雰囲気を隠しもしない速瀬が、野性的な感を働かせたのか含み笑いを浮かべながら口を開いた。

 

 

「もしかして、アレを使ってた奴が副司令の言う明日の模擬戦の相手なんですかね」

 

「かもしれないな。何れにせよ、そうだとしたら中々興味深い相手ではありそうだ」

 

「流石速瀬中尉。戦闘で性欲を発散させるという、奇特な趣味を持つだけあって感が鋭いようで」

 

「ぬぁんですって~?む~な~か~た~」

 

 

気障っぽく笑う宗像に、怒り心頭な様子の速瀬を追い回す。普通なら注意をするところだが、注意しない伊隅の様子を見るにこれはいつもの事として片付けらてているのだろう。

 

 

それを証明するように、そんな戯れあいは直ぐにおさめられ、真面目に明日の模擬戦の事を話し合う隊長達。切り替えが速いのは見事だが、戯れあいの様子を見るとどうにも女子会のような雰囲気に感じられる。

 

 

尤も、内容は至極真面目な事であるため、誰もそれに対して何も言うことはないが。後ろにいる少尉連中も、作戦内容については混じって入り、それぞれポジションやフォーメーションについての話し合いを続け、それから30分もした後だろうか。

 

 

話は纏まり、隊長である伊隅が一括すると各員シミュレータに乗り込みそれぞれ訓練の準備に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『準備はいいかしら?黒鉄』

 

「いつでも」

 

 

シミュレータに乗り込み、機体状態を確認し終えた武は短く返事を返す。既に心は模擬戦の事で冷え切っている。恐ろしく冷静でいて、動揺や緊張の様子も見られない。

 

 

それをバイタルモニターで確認した夕呼は小さく笑みを浮かべ、隣に待機するピアティフ中尉に合図を送る。

 

 

そして、武の相手である伊隅ヴァルキリーズの隊長である伊隅にも、確認の合図を送ると準備完了の返事を受け取った。そして起動する、風景プログラム。網膜投影システムを通し、武と、そしてヴァルキリーズの面々に半壊した街の風景が映し出された。

 

 

そして、演習開始を知らせるカウントダウン表示。それが、30から1つずつ一秒ごとにカウントを減らしていく。それを視界の端で確認しながら、武は操縦桿を握る両手を開閉し具合を確かめる。

 

 

一度、二度と繰り返すたびに操縦桿がミシリと音を立て、しかし壊れることなく、故障の様子も無く、その感触を武にしっかりと伝えてくる。その感触と感覚に満足を覚えた武は、大きく、ゆっくりと吸った息を吐き出して準備を整える。

 

 

そして、肺に溜まった空気を吐き出した頃には、普段から鋭く尖らせた刃物のような双眸は、より一層凄さを増していた。並の者ならその眼光だけで怯み、普段の調子を出せなくなるほどの緊張を纏わせて。

 

 

やがて、カウントダウンの表示が10を切り、秒読み表示がピアティフの通信機を通した肉声に切り替えられ、武は投影された景色を睨みつける。戦力差は1対10。数的不利は優に及ばず、相手の力量も不明。しかし、そんな事は武にとって大した事ではない。

 

 

そう、第5計画の後、数々の地獄のような戦場を、対人、対BETA関わらずくぐり抜けた武にとっては。故に、焦りも恐れもない。あるのは、一秒でも早く、刹那より早く相手を屠るだけ。

 

 

そうして、カウントダウンがゼロになり、演習開始のブザーが鳴った瞬間。武はただ、スロットルペダルを踏みしめ突撃した。




まず一言、すいませんでした(土下座)
いや~、計画の為の数式やら何やらを考えるのがちょっとアレでして。ここだけ、○○様の助けを借りることにしました。スイマセン。ドリルミルキィはご勘弁を。

というのも理由はあります。まず、武ちゃんが数式を取りに戻ろうにも色々と無理があると感じたからです。作者の脳内には、武ちゃんはTDAの姿が網膜投影されているので、それでも戻ったらヤバイだろ。というのが一つ。

二つ目としては、TDAの武ちゃんって、あんなレイ○目になっちゃって心が病んでそうなのに、元の世界のことを正確に覚えているのかなぁと考えてしまったからです。

決して、決してそこらへんをうまくまとめるのがめんdげふんげふんなわけではありません。それにぶっちゃけ、本編でも大変だったのは数式手に入れた後だったわけで、そこらへんを考えていただけると幸いです。はい。


今後、このようなご都合主義はあまり発生させないつもりです。物語上、どうしても必要という時は、断片的にでるかもしれませんが。それ以外は出さない予定です。


衛士としては、あの時代最強ですから戦闘力を底上げする必要はありませんしね、武ちゃん。


では、苦情、ご指摘、叱責の方お待ちしています。

PS.文章中、名前表示なのと氏名表示な人間がいますが、統一したほうがいいでしょうか?それともこのままでいいでしょうか?その点についてだけ、答えてもらえると助かります

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。