Muv-Luv Alternative The story's black side 作:マジラヴ
ですが、ここで切らないと長くなってしまい、読者の皆様が読むのが疲れてしまいそうなので、こうしました。スイマセン。
あと、前回の話について感想を下さった方、本当にありがとうございました。
そして、いつの間にか3000PV超えてたので、ここに御礼申し上げます。
本当にありがとうございます。かなり嬉しいです。
仕事の疲れも忘れちゃいます。
模擬戦が早々と終わり、夕呼との新OSの試作データの換装作業の話を終えた武は、今日ばかりは早めの昼食を摂る事ができる事となった。
尤も、昨日一昨日より時間は早いとは言え、既に時計の針は1時30分を過ぎていて、比較的に早いという余計な文字がつくのだが。
さりとて、その程度でどうこうなる程人間の体は貧弱ではないし、軍人ともなれば尚更である。特に不都合は感じなかった。
尤も、この後新OSを使った試作テストがある事を考えれば早めに昼食を終わらせる事は重要である。
主に、幾ら既に慣れた事とはいえ、食べて直ぐシミュレータに揺らされたくないのと、少しはゆっくりとした時間を過ごしたいというのが理由だ。通り過ぎる度に交わされる、同じ国連軍の整備兵や一般兵からの敬礼を返しながら、PXに向かう事10分。
距離的にはそうではないものの、気分的にはやや気疲れしたような感覚を武は感じていた。それというのも、模擬戦が終わってから続けられた夕呼とヴァルキリーズメンバーによる、質疑応答等の結果だろうか。
特に、夕呼の話は愚痴やら何やらが混じっていて、決して任務に関係があるものばかりとは言えなかったので、それが一番の原因なのだろう。そしてそのせいだったのか。
PXに入って少し経った頃、武はそこにいた訓練兵にしては遅めの昼食を摂っている207B分隊の姿を、向こうから声をかけられるまで気付かなかった。
「く、黒鉄大尉!!」
一番最初に気づいた榊が、誰よりも早く武の姿に気付き、そして昼食を食べていた手を休めて立ち上がる。それに続き、冥夜、彩峰、珠瀬が続き、武はやや遅れて敬礼を止めるよう手で制した。
そして、ちょうどいいと自身の手に渡った合成食品の鯖味噌定食を持ち、空いている御剣の前の席に腰を下ろした。それに驚愕の表情を浮かべる4人だったが、文句を言うわけにはいかず、何か釈然としないものを感じつつも武に視線を向けた。
「・・・どうかしたのか?」
「あ・・・い、いえ、何でもありません!!」
「もしかして、邪魔・・・だったか?」
すまなそうに、目尻を下げて謝る武だったが、それを慌てて否定して逆に謝り出す榊。他の3人、マイペースな彩峰でさえ申し訳なさそうな顔をしているのだから、武としては意外だった。
ただ、武としてもただ見かけたから昼食を一緒に摂ろうとしたわけではない。実は先程すれ違ったまりもと会話を交わし、チーム内の連携が上手くいっていない事を偶然に耳にしたのだ。
それを聞いて、そんな事もあったなと武は思い出し、会えたなら少しでもフォローしようと考えていたのだ。それは、前の世界のまりもに対する贖罪の気持ちもあったが、個人としても解決できるなら解決させたいと思っていたからだ。
どれだけ過酷な戦場や酷い現実を見て摩耗しようと、白銀武という人間の芯はやはりどこか甘さと優しさを内包しているのだ。尤も、それが白銀武という人間の引きつけて止まない魅力という物なのだという事は、本人以外の周知の事実であったが。
こんな過酷の世界だからこそ、武のような考えを持つ人間が一人でもいるのは好ましいと、そういう事なのだろう。そういった本質から、武はこの世界でも彼女達の為にできることは決してやめないのだ。
例えそれが、自身が嫌われ憎まれる結果となったとしても。故に、武は回りくどい言い方や聞き方はせず、直球で4人に尋ねることにした。
「神宮寺軍曹に聞いた」
「え?」
「近々、総合戦闘技術評価演習が行われるというのに、チーム内のごたごたが頻繁に起こっていると嘆いていた。本当なのか?」
「っ!!それ、は・・・」
武の飾りも無駄もない直球の一言に、代表として尋ねられている榊は息を飲んだ。それで答えは聞かなくてもわかる。否、元より答えはわかっていた。分かっていて、武は聞いたのだから。そう、榊達の過ちを直接認めさせる為に。
そして、訓練には直接携わる機会があまりないと、そう言った武本人にいきなりこうもつっこまれるというのが意外な事なのか、尋ねられた榊は視線をある方向へと泳がせている。視線の先は追わずとも武には分かっていた。
理由は簡単。前の世界でも同じ事だった。分隊長である榊と、彩峰の意見の不和。それが、この小隊の状態を悪くしている要因の一番大きなものなのだろう。勿論、他の理由も上げていればキリがないだろうが、それが最もであるのは武には明らかだった。
何せ前の世界では、戦術機に乗る頃になってもそれは続き、その2人と組んで模擬戦をやる時に手こずったものだからだ。今思い出しても、あれは武にとって苦い思い出であり、そして懐かしい思い出だった。
だが、この世界でそんな悠長に事を構えるわけにはいかなかった。武個人としては、戦わずに平和に暮らしてくれることを祈っているが、今のご時世そんな平和など数えるほどしかありはしない。
あったとしても、それをこの場にいる4人が望まないことは明らかだった。時には弱腰になっても、必ずそれ以上に強気になった彼女らの姿が、武の脳内には刻み込まれているのだから。それは前の世界の出来事だが、前の世界でできていたなら、この世界でできない道理はない。
だからこそ、武は多少厳しい言い方をしてでも気付かせる。彼女達に、後悔させないために。そして、今度は自分達の足でたってもらうために。
「・・・207B分隊が、それぞれ特殊な立場に置かれていることは、情報として知っている」
『ッ!!?』
「その上で言わせてもらう。お前達が本気で衛士を目指したいというのなら、その考えや固執を捨てない限り、決して正規兵になる事はできないだろう」
「・・・ッ!!ですが」
「前回の総合戦闘技術評価試験の結果と、教官から見たお前達の評価も聞いた。これは、その上での俺の考え、否。正規兵としての考えだ」
何かを言おうとした榊の口を封じるように、再び武は言った。只管に、只々残酷なまでに正しい真実を。武の言葉が4人の心を抉る。
その核心を直接突き刺すような言い方に、やはり何か耐えられない者を感じたのだろう。4人は、特に榊と彩峰は、上官である武を睨みつけるように見る。
しかし、そんな程度の事に動揺する武ではない。寧ろ、素直に受け入れられないのを承知で、更に言葉を続ける。
「軍と言うのは、仲良しごっこをする所じゃない。戦場においては、何時如何なる事情があろうと、時に理不尽な命令は下され、個人的感情を無視するような任務は当たり前だ。それが、多数の命をかけた時となれば頻繁に」
「そ、それは理解しています!!失礼を承知で進言させて貰いますが、いくら上官とは言えど、この件に関しては―――」
「そうやって、上官に対して意見できるのも訓練兵の立場までだ。任官すれば、特別な立場なんて地位がなければ足枷になり、ただの嫉妬に成り下がる。まして、それがお前達のような若い兵士なら尚更だ。日本のような最前線において、無駄に時間をかける個人的感情を含んだ意見を言い続ければ、最悪銃殺だって有り得る。尤も、お前達の場合は軍を強制的に退役される程度で済まされる場合もあるかもしれないが、それが軍という組織だ」
『・・・・・・』
「日本のような最前線でありながら、訓練兵に長い訓練期間を設ける事は、未熟な兵士を戦場に送り出し犠牲を増やすのを嫌うだけじゃない。戦場において、部隊内同士で起こりうる衝突を避けるための精神を持たせる意味もある。任官すれば、意見が合わない者と戦場を共にするのは当たり前だ。そんな時、気に食わないからといって命令を無視するという事は絶対に起こってはいけない事なんだ」
そこまで言って、武は一旦言葉を切る。ここ数年、こんなに長く話すのが久しぶりだったためかやけに疲れていた。おまけに、嘗ての仲間にここまで言わなければならないという事実も、重くのしかかる。
しかしそれでも、真面目に聞いてくれている4人を見ると、やはり最後まで言わなければならないという気持ちが勝った。それが、今生き残っている武の責務でもあるからだ。
「本来であれば、訓練兵は羞恥心を無くす為、前線の空気を感じさせる為と言って、男女区別の意識を無くさせ、風呂やトイレも全て一緒にするのがお前達の立場だ。それが無いお前達は、その点だけで言えば優遇されているというより、やはり被害者という意味合いのほうが大きいんだろうと思う。普通であれば理解できるものを、理解する場を与えられなかったんだから」
「大尉・・・ですが」
「軍における責任のとらされ方っていうのは、大きく分けて2つに別れると俺は思っている」
「2つ・・・でありますか?」
ゴクリと、武の言葉に何か嫌なものを感じたのか、御剣が息を飲んで聞いた。他のメンバーも、言葉にこそ出さなかったものの同じような事は感じているらしい。顔に不安の表情がありありと出ていた。それをしっかりと確認した武は、湯呑に入った合成玉露を一口、口に含んでからゆっくりと言った。
「1つ目は、部隊内のメンバーを管理できなかった上官への重罰。2つ目は、1人の罪が連帯責任という最も辛く重い責任の取らされ方だ」
『ッ!?』
武に告げられ、心の底では理解していたものの、改まって告げられた言葉に息を呑み驚愕する4人。しかし、その4人が4人とも、異なる驚き方を見せていた。榊は恥じ入るような表情を、彩峰は何かを思い出したかのような表情、珠瀬は大きく肩を落とし目端に涙さえ浮かべていた。
そして、冥夜はその言葉に彼女達以上の何かを感じてか、苦悶の声を漏らして俯いてしまった。皆、今の一言に相当参っているようだ。しかし、武はまだ止める気はない。
ここで終わらせるわけにはいかない。現実を直視させなければ、何時までたっても変わることはできないであろうから。
内心、何処かがズキリと痛む感覚を感じながらも、武は続ける。
「前線における罰がどのようなものか、それは言うまでもないだろう。だから、それについては詳しくは言わない。だが、これだけは覚えておいて欲しい。どんな状況でも、どんな気に食わない相手だとしても、同じ部隊にいる以上そいつは仲間であり、そして戦友なんだ。その戦友に、誰かを撃たせるような真似だけはさせないで欲しい。俺から言えることはそれだけだ」
「黒鉄大尉・・・」
「色々とすまない。情報としてしか知らないお前達の事情を、軽々と自分の言葉で語ってしまった」
「い、いえ!!謝罪など不要です、黒鉄大尉!!全ては・・・全ては大尉殿の」
「それでも、謝らせて欲しいんだ」
武は御剣の言葉を途中で切り、頭を下げた。その光景に、落雷を受けたかのような衝撃を受ける榊、御剣、珠瀬、彩峰の4人。それは一体どうしてだったのか。詳しい理由はわからない。何せ、黒鉄武という大尉と出会ったのは先日が初めてだったのだ。
今日も合わせれば、それはたったの2回。そう、たったの2回なのだ。そんな、たった2回という僅かな回数しか関わっていない人間が、ここまで親身に自分達の事を考え、そして頭を下げる真似までしているのだ。衝撃を受けないはずがない。
否、本当はそれだけではなかった。何故だろうか。今そこにいる4人は、黒鉄武という存在に対し、不思議な懐かしさを感じていた。
会ったことなどないのに、過去に話したことがあるわけでもない。だというのに、自分達にそんな事を言わせてしまった自分達が、堪らなく嫌に感じてしまったのだ。
だが、それなのにそれ以上の言葉は出ない。喉が引き攣り、上手く言葉を発せない。それはたった数秒の事だったのに、まるで永遠にも感じられる時間だった。やがて、何も言えない4人の心中を慮ったのか武は頭を上げ、すまなかったと謝罪する。
そして、残っていた合成玉露を一気に飲み干すと、同じく残っていた昼食をさっさと掻き込み、トレーを持って立ち上がる。そんな武の姿に、何か言おうとした4人だったがそれを制するように先に口を開いた。
「最後に一つアドバイスをしておく」
「え・・・?」
「これは軍人だけに言えることではないが、神宮寺軍曹が厳しく叱責する時。それは、お前達が感じている以上に重く辛い責務を負っている筈だ。今後はその事をしっかりと頭に叩き込んで、各々訓練に当たれ。一刻も早く、お前達が任官する事を、衛士になる事を望むのなら」
そうして、武は今度こそ4人に背を向けて歩き出す。使い終わった食器をカウンターに置き、そのまま夕呼の執務室に向かう。
武の姿が完全に消えた後も、4人は残っている昼食を食べもせずにずっと固まっていたが、やがてその場の4人共、ビシッとした敬礼を去った武の背中に向けた。
「あら、どうかしたの?神妙な顔しちゃって」
「・・・少し、色々あっただけです」
「はぁ?少し色々って、思い切り矛盾してるじゃない」
何言ってんのと、言わんばかりに眉を顰める夕呼に武は無言を持って返答とする。それを見てやけに大きなため息をつくと、夕呼は忘れるように頭を振って手に持った紙をバサバサと揺らす。
「それは?」
「アンタがこの後使う、試作OSの仕様書よ。さっき自分で言ってたじゃない」
「・・・拝見します」
数十枚に纏められた厚い紙を武は受け取り、パラパラと適当に捲って見る。適当に読んでいるように思えるが、軍人として訓練してきた中に、与えられた情報をいかに素早く読みきれるかという内容も、斯衛の中にはあった。その他にも、訓練校では教わらなかった様々な訓練をこなしたのだが、何れにせよ役に立ったということだ。
尤も、元から細かく読むような内容はあまり存在しなかった為に、武はものの数分で読み終える。そして、読み終わった資料を夕呼に返す。
「あら、いいの?一応あんたのために用意したんだけど」
「構いません。元々、俺は習うより慣れろが似合っていましたし、別の世界とは言え俺が考案したOSなら、触っていれば慣れると思います」
「ふ~ん、そういうもんかしらね。じゃ、これは後で伊隅に渡しておこうかしら」
「そうしておいて良いかと。OSを換装したシミュレータの準備は、規定時間通りにできているんですよね?」
「ええ、概ねその通り。アンタが使ってたシミュレータの整備に時間がかかって少しズレたけど、この後行ってもらって構わないわ」
「了解」
夕呼の手前、敬礼はせずに言葉だけで肯定の意を示す武。言葉だけでも堅苦しさは抜けないものの、敬礼されないだけマシだと思ったのか夕呼は満足そうに笑みを浮かべる。こんな風に機嫌がいいのも、多大な苦労はしても計画成功の目処が立っているからなのか。
自分の覚えがない持ち物で、それが成されるというの気持ちの良いものではないが、目処が立っているだけでもマシなのだ。武は割り切ることを決め、新型OSであるXM3の試作型を試すべく、強化装備に着替えるためにドレッシングルームに向かうのだった。
今回は短かったですね、すいません。
そして次回は、少し時間が飛びます。
具体的に言えば、武がXM3での作業をある程度終え、バグ取りを追え、ヴァルキリーズも実機でXM3を試せる程度になったところです。
何故そのようにするかというと、武があまり戦術機前の207B分隊に関わらないからです。ここの武は、自分の考えでは言われなきゃ気づけないより、実際に経験を積んで実感させたいからです。
言われてからじゃなければ気づけないと、いざという時どうにもならないですからね。特に、A01の任務内容が過酷だと知ったので、そのくらいの状況判断はできるようにならねばと思ったからです。そうでなければ、あっさり戦場で散ってしまうと考えました。
もし、XM3に慣れるところを読みたいと思う方がいれば、書いてくれると助かります。一通り落ち着いたら、番外編として上げたいので。
次からはepisode2になります。ちょっとゴタゴタしますが、付き合っていただけると嬉しいです。