Muv-Luv Alternative The story's black side   作:マジラヴ

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今回、かなり短いかなとか思ってたら、結構長くなっちゃいました。
次あたり、ちょっと番外編を挟もうかなと思ってます。
次話でいよいよBETAとの戦闘だと期待したかとすいません。





episode2-2 試作型XM3実戦証明作戦発令

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕呼の執務室で、本土の新潟にBETAが上陸するとの情報を武が得てから既に2日が経った、本日11月10日9時である現在。武は、ヴァルキリーズのメンバーと共に、ブリーフィングルームへと集まっていた。理由は言うまでもない。当然、11月11日に起こるBETA上陸の作戦についてだ。

 

 

情報としては、11月8日の内に夕呼が既に伝達済みだったが、本格的なブリーフィングはこれが初めてであり、そして基地内で行われる最後のミーティングだ。

 

 

「さて、皆の注目も集まったところで本日のブリーフィングを開始する。尤も、今日のブリーフィングがいつもと少し異なるがな。理由については既に伝達済みだが、今からもう一度詳しく黒鉄大尉に話してもらう。貴様達、心して聞いて聞き漏らしのないようにしろよ」

 

『はい』

 

「良し、いい返事だ。では黒鉄、後はよろしく頼むぞ」

 

「了解」

 

 

みちるに言われ、脇に資料を持った武が前に出る。みちるは入れ替わるように場所を譲り、武は教壇の前に立って一度、メンバーの顔をさりげなく見回した。見た所、やはり新任の少尉連中は緊張が隠せていない。とは言え、無理もないことだ。

 

 

何せ、未だ新任の少尉は一度もBETAとの戦闘を体験しておらず、シミュレータを用いた訓練しか行ったことがないのだから。誰もが一度は経験する道であり、そして乗り越えられなければ散っていく大きな課題だった。

 

 

故に、初戦を生き残るにはここをどう乗り越えるかが重要となってくる。既にBETAとの戦いが日常となっていた武にとっては、どうということはない。だが、そのレベルの覚悟と境地を持たせるのは、新任の少尉達にはやはり無理がある。

 

 

だからこそ、武には武なりの考えがあった。故に、今日このブリーフィングで説明役を志願したのだ。期待と共に任せてくれたみちるを、裏切るわけにはいかなかった。

 

 

「皆も知ってのとおり、11月8日、香月副司令によって今からおよそ3日後、佐渡ヶ島から本土新潟にBETAが上陸することが発表された。上陸後のBETAの予測進路は壁面に映っている映像を見ての通りだ。最終的な目的地は、ここ横浜基地だと言う事が予測される」

 

「大尉!質問があります」

 

「発言を許可する、速瀬中尉」

 

「では一つ。今回のBETA本土進行の件、一体どのようにして副司令は予測できたのか。それについて尋ねる事は可能でしょうか」

 

 

速瀬の発言に、皆が武の顔に注目する。これは当然と言える質問だろう。武の予測の内であり、誰であっても容易に想像できる内容だった。武が逆の立場であれば、全く同じことを訪ねていたに違いない内容だ。だが、その問いについては答えるわけにはいかなかった。

 

 

故に、答えはノー。武は短くその事を告げると、速瀬は特に躊躇もみせず納得して閉口する。彼女とて、この答えは予測済みだったのだろう。それでも敢えて言った理由は、新任達に聞けばなんでも答えてくれるという考えを、キッパリと捨てさせる為か。

 

 

普段は巫山戯た様子もみせる速瀬だが、先任としてやるべき事はしっかりやっている。武はそれを確認すると満足そうに頷き、続きの言葉を口にする。

 

 

「話を続ける。今回の作戦で、我々がすべき事は大別して2つだ。1つはこのBETAを、同日作戦に参加表明を示してくれた帝国軍と協力し、一匹残らず全滅させること。2つ目は、俺達が使用している新OS"XM3"の有用性を、今回のBETAとの戦闘で証明することだ」

 

「・・・1つ目は言うまでもないですが、2つ目も絶対条件ってところは変わらなそうですね」

 

「その通りだ。実際、今回のこの話に帝国軍が乗ってくれたのも、この新OSに釣られた理由が少なくない。副司令が盛大に触れ回ったらしく、その期待も高まっている。よって、必然的に我々への周囲の期待はかなりのものと言っていいだろう」

 

 

武のその言葉に、新任の少尉共はうっと声を詰まらせた。いきなりの実戦で、いきなりの重大な任務。本人達にかかるプレッシャーは、並みのものではない。それに、夕呼が触れ回ったというのだから、想像するにとんでもないことまで言っていることは確実だろう。

 

 

未だ、実戦証明はできていないのに多大に触れ回ったということは、相当ベテラン衛士の心の琴線と興味に触ったことだろう。無様な結果など残せるはずがない。

 

 

そんな事を、顔色に堂々と見せる少尉連中は、まるで猛獣の前にさらされた小動物のようだった。このままであれば、余計に硬くなって初戦で死ぬことは想像に難くない。そこで、武はそんな少尉達の肩の力を抜かせるために、落ち着いた言葉で語りかける。

 

 

「こんな言葉は言うべきでもないんだろうが、少なくともこの横浜基地に着任して以来俺はお前達を見てきた。そして、実力を見た限りお前達は十分に戦力足り得ると判断する。戦場で恐慌に陥ることがなければ、一人一人がエース足り得る力を秘めていると感じている。それに、お前達には"XM3"だけじゃなくて、頼りになる上官や仲間達もいるんだ。自信を持って事に当たればいい」

 

「黒鉄大尉・・・」

 

「誰だって初陣は恐ろしい物だ。訓練された軍人だろうと、いざとなれば死に対する恐怖は忘れられるものじゃないだろう。だが、それは決して悪いことじゃない。寧ろ、戦場では臆病な者ほど長く生き残れる。臆病な人間というのは、失うことの恐ろしさを知っているからだ。仲間を失う事の恐ろしさを、自分が死ぬ事で守れなくなってしまう命の事を」

 

「黒鉄の言う通りだ。貴様達、私も含め散々模擬戦では黒鉄にボコボコにされたじゃないか。あれが実戦なら、私達は既に何度も死んでいる。実際、模擬戦だというのに私は一瞬死を感じた事は少なくない。だが、だからこそもう充分な筈だろう。実戦を既に何度も経験している私からしても、BETA等より黒鉄との模擬戦の方がよっぽど肝の冷える気分を味わえると言える」

 

「伊隅大尉・・・」

 

 

武とみちる、二人の大尉からの言葉に体を強ばらせていた少尉達はその身体の震えを止め、その言葉の意味をしっかりと噛み締める。そして、ここ数週間の模擬戦や訓練の事を頭の中で反芻させた。その中では、幾度も戦死を味わいながら何度も悔し涙を仲間と共にのんだ。

 

 

特に、武との模擬戦では最初の内はほとんど何もできずに撃墜されることも少なくなかった。しかしそれでも、少しずつとは言え進歩してきたのだ。そして、今ではもっと強くなりたいという気持ちを持つことができた。

 

 

それもこれも、全てはBETAとの戦いの為への布石。だというなら、明日の実戦で発揮できなくて何のための訓練だったのか。それに加え、武の言う頼もしい上官や仲間という言葉も、勇気となって少尉達の心に火を灯す。

 

 

そうだ、ダメだった時のことなんて今から考えても仕方ない。寧ろ、そんなマイナス思考に囚われていてはそれに足を引っ張られ、本当に命を落とすことになってしまう。それだけは、そんな情けない結果だけは許せなかった。

 

 

「そ、そうですね。ダメだった時の事なんて、今から考えても仕方ないですね!!」

 

「そうだね。うん、ダメだった時の事なんてその時に考えればいい。私たちはただ、明日の初戦を生き延びて、ここに帰ってくる」

 

「大尉と副司令が作り上げたXM3だってあるんだから、私達ならやれるよね!!」

 

「あ、茜ちゃんは私が守るんだから!!」

 

 

麻倉の言葉を初めに、他の少尉達に希望の光が伝播する。それぞれが、多少の不安は残したものの、それ以上の勇気を持ち言葉を発して明日の初戦への心意気とする。その姿を、武はどこか眩しい者でも見るかのような眼差しで見つめ、そして失いたくない、失わせたくないと心から思っていた。

 

 

不幸にも、前の世界では自分は何も守れなかった。他人に守られ、恩を返せる事はなく、気付いたときには全てが手遅れになっていた。だが、今回は違う。自分には守れる力があるのだから、今度は守ってみせると硬く覚悟を決める。

 

 

それを証拠に、武本人は気付いていないものの僅かに口角が吊り上がっていた。誰も指摘する者、気付く者はいないものの、しかしそんな武の変化が震えてばかりだった少尉達に、不思議と伝わったのかもしれなかった。

 

 

数秒後に武が彼女達を見た時には、そこには一人前の覚悟を決めた戦士の顔をした彼女達がいた。絶対に生き残ってやるという、生に貪欲でいて、どこまでも眩しい光を宿した兵士が。

 

 

「いい顔だ。それならば、戦場の心得について言えることは一つだけしかない。訓練校では、初陣において衛士が生き残れる平均時間は8分と言われ、それを超えてからが一人前の衛士だと、そう教えられている筈だ。違いないか?」

 

「はい!神宮寺軍曹に、これでもかという程しこまれております!」

 

「そうか。だが、俺はそうは考えない」

 

『え・・・?』

 

 

いきなりの武の否定の言葉に、少尉達はおろか先任の隊員まであっと驚いたような表情をする。しかし、武は構わず続けた。何故なら、次の言葉が武の答えなのだから。

 

 

「8分じゃない。戦場を生きて帰ってこそだ。それが出来て、漸く半人前、スタートラインに立てるんだ」

 

『!!』

 

「8分を超えて気を抜けば、あっという間に死に至るケースなんて珍しくもない。当然だ。人間っていうのは与えられた目標をこなしてしまえば、慢心してしまう生き物だからな。だが、それじゃ駄目なんだ。8分生きれば満足なのか?そうじゃない。8分を超えて、生きて帰ってこそ初めて目標達成なんだ。生きてここに、横浜基地に帰ってこそ意味が有る。だから、少尉達、否。皆もそれを忘れないで欲しい」

 

 

武の言葉に、一同黙り込む。とは言っても、決して悪い意味ではない。生きて帰ってこそが、本当の初戦。それは、考えてみれば当たり前のことなのだから。その言葉は、少尉達は当然のこと、先任の連中にとっても重い一言となったようだ。

 

 

やがて、それぞれがその言葉をしっかりと実感できたのか、揃ったように見事な敬礼を武に向かってしてみせた。それを見て、しっかりと頷く武。これならばもう大丈夫だと、しっかりと実感できたのを感じる。

 

 

先程までとは違い、しっかりとその表情に僅かではあるが、皆にもわかるように微笑を浮かべつつも、真面目さを感じさせる雰囲気を感じさせつつ武は作戦概要について話し始めた。

 

 

「作戦決行は明日11月11日。時刻については、これはBETAの進軍速度にも関わってくるため、正確な時間は言えないが副司令の研究成果での予測によれば侵攻開始は0600前後との事。詳しくは、第一次防衛戦上に展開する海軍のレーダーによって判明するであろうが、少なくとも0530には、戦術機部隊は各陣営完全装備の上で待機とする。よって、ここを出る時間も作戦決行時間も相当早い時間となるが、寝ぼけた頭で出撃することはないように」

 

『了解!!』

 

「襲来するBETA郡の規模は、多く見積もっても旅団規模であり、多少の誤差が生じても師団規模に届くことはないと予想される。尚、今回の進行では光線属種の存在は無いものと考えられるため、必然的にBETAとの物量戦になる事が判明している。つまり、"XM3"の機動を活かす実戦証明にはうってつけとも言える状況となる」

 

「光線属種の存在がいない分、動き回るにしても飛び回るにしても、有利って事か。悪くない状況ね」

 

「新任共の初戦、自信をつけるという意味合いでは確かに悪い条件ではない。それに、BETAの脅威が数だということを、実感できるいいチャンスだ。貴様達、降って沸いたこのチャンス、逃すんじゃないぞ!!」

 

『了解!』

 

 

武と、時折混じるみちるの冗談のような口調のおかげか、隊の雰囲気は悪くない。明日、実戦を前にすればまた緊張はするであろうが、それを考えても今の隊の雰囲気は最高といっても過言ではない。

 

 

「続いて、今回の作戦に参加する部隊を紹介しておく。まずは、先にも話したが海上に引かれている第一次防衛戦上の帝国海軍日本艦隊。BETAが上陸すると同時、各艦隊が砲撃を開始する任を担っている。だが、今回彼らの活躍はあまり期待できないと言っていい」

 

「え?何でですか?」

 

「詳細は伏せるが、副司令の言によると近々大規模な作戦を決行する予定だから、消費兵力はなるべく少なくさせたいという事だ。尤も、それはあくまで理由の一つであり、本当の所は"XM3"の有効性を示すため海軍に出張られすぎるのは困るからだろう。それに、近くには佐渡ヶ島がある。弾幕を張りすぎれば、そっちからの光線属種による援護が行われるかもしれない」

 

「あ・・・し、失礼しました」

 

「気にするな。作戦についての疑問は、答えられる範囲で答える」

 

 

武がそう言うと、質問した高原はホッと安堵の息を吐いた。

 

 

「続けるぞ。続いて、帝国本土防衛軍第12師団。彼らは艦砲射撃によって生き残ったBETA郡と交戦することになる。そして、A01はここで交戦開始となり先陣を切る。艦砲射撃の結果が良いものであれば、奴らの陣形にも乱れが生じているだろう。そこを、A01が叩くというわけだ。尤も、全てを相手にしていればこちらも全滅は必死。よって、ここで第12師団が行動を開始する。中央をA01が固め攻撃を開始した後、前方の右翼から後続のBETA軍を攻撃。これにより、BETAの動きを分断させ、戦力の集中を避ける」

 

 

「って事は大尉、私達が艦砲射撃で漏れたBETAを全滅させちゃったら、帝国軍はお役御免ってことですね」

 

「やれやれ、流石は速瀬中尉だ。そこまでしてBETAと戦いたいとは。いっそ、BETAとお付き合いでもしてみたらいかがですか?」

 

「死んでもごめんよ!!!!」

 

「ふっ、速瀬の軽口は兎も角、実際問題そう簡単にはいかないだろう。我々が幾らXM3搭載機とはいえ、そんな簡単に殲滅できるのであればとっくにしている」

 

「いえ、そうとも言えないかもしれません」

 

 

みちるの正論に、武はキッパリと言い切った。その言葉に、速瀬ですら言葉を無くして武を見る。だが、武の顔には一切の冗談や虚勢は見られない。ではまさか本当に、A01だけで殲滅を可能だと言っているのか。それは勿論、否である。当然のことだ。

 

 

たった10機前後の部隊で、艦砲射撃で減るとはいえ師団規模のBETAを殲滅するなんていうのは困難な事だ。そんな事ができるのであれば、人類はとっくにハイヴの1つや2つ落としているだろう。では何故、殲滅できるかもしれないと言ったのか。

 

 

その理由は、先陣を切るのがA01だけではないからだ。A01の他にも、先陣を切ると言って作戦参加を希望した部隊が、今回の作戦にはいるのだ。

 

 

そしてそれは、武にとって切っても切れぬ縁を持つ部隊。前の世界で、彼はその中の大将とお側付きの部下となって戦っていた。それが示すところは一つだ。つまり。

 

 

「今回の作戦に、異例ではあるが帝国斯衛軍第16大隊の面々が、大隊全てではないが我々と共に先陣を切る役目を負うことになっている」

 

「え・・・えー!?て、帝国斯衛軍ですか!?な、何で?」

 

「本当か?黒鉄」

 

「はい。副司令が作戦を考案し、帝国側にその旨を伝えたところ、正式に斯衛軍から参加希望の一報を受けたというところです。理由としては、副司令が開発したXM3に興味を示しているというのが大きなものだろう。だが・・・」

 

 

武はそこで言い淀む。それも当然の事だ。何せ、今から話そうとしているのは人物は、前の世界ではいかなる理由があろうと、紛れもなく自身の直属の上司だったのだから。軍人として、そして斯衛として戦ってきた武には、軽々しく口にできるものではない。

 

 

それに、物知り顔で話せば後で不都合な事にもなりかねない。今現在、緊張の糸で張り巡らされている状況に、これ以上余計な危険を招くことは避けたかった。故に、言い淀んでしまった以上話はするが、内容については適当に話すことにする。

 

 

「大尉?どうかしたんですか?」

 

「いや、何でもない。今回参加を申し出てきたのは、斯衛軍でも精鋭と名高い第16大隊だからな。少し、話していいものかと悩んだだけだ」

 

「そ、そうですか・・・そんなに凄い斯衛の人達も、XM3に反応しているんですね」

 

「元々、副司令が研究している物が日本にとっても重大な意味を持つということだろう。この日本の中枢たる斯衛が興味を持っても、不思議ではないさ。それに、噂を聞いた限りではその大隊の指揮官、五摂家の一角である斑鳩崇継閣下は幼少の頃よりやんちゃ好きだったという事だ」

 

「つまり・・・今回の作戦参加の理由にも、その噂の一部が関係していると?」

 

 

宗像の言葉に、武は返答を返さなかった。両の瞼を下ろし、考え込むように黙り込む。要するに、口にはできないということだ。実際問題、彼を知る武としては間違いなく彼の気質故の参加の線も捨てきれていなかった。

 

 

帝国内部では、夕呼の事を牝狐やら極東の魔女等と言って、敬遠する輩が少なくない。そんな中、斑鳩崇継という男は公にこそしなかったものの、彼女の実力を高く評価していた。特に、バビロン作戦が実行されユーラシアが水没した後では。

 

 

「何れにせよ、戦力で言えば斯衛の部隊は紛れもなく、今作戦における最強部隊と言っても過言ではないだろう。だから、間違ってもBETAに押し負けることは無い。そうなれば、我々がするべき事はただ一つ」

 

「黒鉄大尉が考案し、副司令が作り上げた新OSである"XM3"の有用性をこの作戦で示し、我々の力を魅せつける。そういう事だな」

 

「はい」

 

「ふっふっふ。いいじゃない。まだるっこしい考えはしないで、私達はただBETAを殲滅すればいい。今回の作戦のメインは私達なんだから、斯衛部隊には目に物を見せてやればいいのよ」

 

 

鼻息荒く、凶悪な笑みを見せる速瀬に、宗像が大げさに肩を落としてぼやく。しかし彼女とて、速瀬の事は強くはいえまい。何せ、その宗像でさえニヤケた表情を隠しもせずにいるのだから。そしてそんな先任達を見て、少尉達も活気付く。

 

 

難しい事は考える必要はない。自分達はただ、向かってくるBETAを命令終了の報が下るまで狩り続ければいいのだからと、ポジティブに思考を持っていく。

 

 

士気は十分、覚悟も十分。これならば最早、今この場で武がアドバイスできる事は無い。

 

 

「これを持って、一応は本日のブリーフィングを終える事とする。更に細かい内容、詳しい作戦については、この後に予定しているシミュレータでの実戦想定演習の際に追って連絡する。最終的な決定については、横浜基地出撃前と作戦準備が完全に整って待機している際に、確認の意味を含めてする事になる。以上だ、これ以降の質問は受け付けない」

 

『了解!!』

 

「では伊隅大尉は、皆を束ねてシミュレーションルームへと向かって下さい。俺も、追って向かいます」

 

「了解だ。先に行って始めているぞ」

 

 

お互いに敬礼を返し、それぞれ向かうべき場所に足を向ける武とみちる。武は涼宮(遥)を連れて夕呼の部屋に、みちるは残ったメンバーを連れてドレッシングルームへと向かった。

 

 

そうして、夕呼が今現在いるであろう、横浜基地の通信司令室へ向かう最中の事だ。武の後ろを、一歩遅れてついてきている涼宮が、前を歩く武に声をかける。

 

 

「あの・・・黒鉄大尉」

 

「・・・涼宮少尉の事か?」

 

「!!」

 

 

何も言っていないのに、言いたい事を察する武に涼宮は驚愕の表情を浮かべる。しかし、武はそんな彼女を安心させるように、表情は変えずに穏やかささえ感じる声色で、浮かべている不安を払拭する。

 

 

「いざとなれば、先任でもある俺が援護をする。安心しろと気軽には言えないが、それでも信じて欲しい。俺と、そして妹である涼宮少尉を」

 

「黒鉄大尉・・・ありがとうございます」

 

「気にしなくていいし、礼を言う必要もない。部隊内の仲間を助けることは、当然の事だからな」

 

 

ぶっきらぼうな武の言い方だが、言われた涼宮は初めて見る妙な幼さを感じさせる態度に、笑声を漏らしてしまった。そんな彼女の笑声を聞くと、何とも言えない感覚に陥るのだから武は遣り辛かった。思えば、初めて話した時からそうだった。

 

 

会話は事務的なもので、特に何か特別な事を話したわけでもなく、それ程長く話したわけでもない。だというのに、武は何故か彼女と話していると不思議な感覚を覚えるのだ。

 

 

それは例えるならば、喪った筈の大切な何かが、自分の元に帰ってきたかのような感覚だった。そしてそれは、彼女限定ではない。

 

 

A01の、話した事など在る筈の無いメンバーと、顔を合わせる度、短い会話を続ける度に訪れる寂寥の感とも言うべき感覚。それは、武がこの世界で目を覚ましてから続いていた奇妙な感覚だった。

 

 

未だ、それについては詳しい事は何一つ分かっていない。そして、これから先も理解することができないのかもしれない。しかしそれでも、武はその奇妙な感覚を心の何処かで狂おしい程望んでいるのかもしれない。こんな、幸福より狂った悲劇が多い世界で。

 

 

「本当に・・・どうかしてる」

 

「何か言いましたか、大尉?」

 

「いいや・・・何でもない」

 

 

涼宮の問いに、短く答える武。考えても仕方の無い事だと、今は明日の作戦を成功させるだけだと割り切り、武は頭の中をスッと切り替えて夕呼の待つ通信司令室への残りの道を、涼宮を連れて向かったのだった。

 




終わりです、後連絡です。
年末にかけ、仕事が殺人的なまでに忙しくなっております。
最近の平均睡眠時間は3時間ちょっとで、身体的にも結構来てますハイ。
なので、今後、少なくとも年が明けるまでは不定期更新になります。
週に一度は更新しますが、初めの頃のように毎日は更新できなくなると思います。
なので、そこの所をご了承下さると助かります。
焦って書いて、内容が変で読者様の心を傷つけることはしたくないですしね。

そして、まえがきでも書いた通り次の話は番外編、というか閑話ですね。
ちょっとほっこりするお話を書きたいと思ってます。
尤も、作者が本編を気にしすぎて予定が変更するかもしれませんが。

このタイミングで閑話入れるとかザケンナーとか言われると、作者も同じ気持ちですが、リアルでちょっと大変なので、小説の中だけでもほっこりしたいんです。
ごめんなさい。






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