Muv-Luv Alternative The story's black side   作:マジラヴ

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すいません。
番外編とか言いましたが、本編となりました。


episode2-3 11.11試作型XM3実戦証明作戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11月11日日曜、午前5時40分。静寂に包まれた、乗り手以外誰一人としていない戦術機のコクピット内。そこで武は、先程行われた作戦前の最終ブリーフィングの時の事を、ふと思い出していた。尤も、思い出すといってもブリーフィング内で、特別困ったことはなかった。

 

 

前日の励ましが効いたのか、実戦前だというのに新任の少尉連中達の雰囲気は、網膜投影によって映し出された映像越しの姿とは言え緊張は見られなかった。質問された事にも、きっちりとした口調と態度でもって答えを返していた程だ。

 

 

多少は虚勢もあるだろうが、それでも武やみちるの目から見ても大丈夫だと十分判断できる状態だった。否、寧ろ実戦前の空気としては最高に近いものであった程である。

 

 

実戦前に緊張状態に陥ってガチガチに固まったり、自身の力を過信するあまり慢心したりするような状態は決して良くない傾向だ。それに比べ、多少のマイナスイメージを持つことは戦場に挑む心意気としては決して悪くない。

 

 

そうでなくては、本当に危機に陥った時に死ぬどころか、動揺に味方を巻き込んで結果的により多くの人間の命を奪う事になる。特に、BETA大戦勃発以降はこのパターンが非常に多い。

 

 

武自身の考えとしては、純粋にBETAと戦って死んだ衛士よりこれらの要因で命を落とすことになった衛士の方が多いと思う位だ。動揺は、人の最も弱い部分に悪魔のようにスルリと入り込んで、ありもしない、起こりもしない猜疑心を兵士に抱かせ、その結果命を落とす。

 

 

初戦での死亡数が並外れて多いのは、この要因なのだと何処かで誰かが言っていたのを耳にした事を武は思い出した。全くもってその通りだったなと、内心で感心したようにため息をついた。

 

 

それと同時に、自身がほんの少しの緊張を覚えていたことに今更ながら気づく。今まで、それこそ数えるのが馬鹿らしく思えるほど戦術機に乗って戦場を駆けてきた。それでも、他人の命を背負う重みというものは何時になっても慣れないものだ。

 

 

否、それは慣れてはいけないものなのだろう。慣れてしまえば、部下を死なせる作戦が当たり前となってしまうのだから。それはもう作戦とは言えない。ただの無謀と、一般にそう言われるものへと成り下がる。

 

 

尤も、今まで散々そんな事を繰り返してきた自身が思うのは思い上がりなんだろうなと、今度は自嘲の笑みを口元にハッキリと表してしまった。なんだかんだ言っても、『この世界』での実戦は今日が初めてなのだから気など抜けるはずもないのだ。

 

 

それに加え、今回の作戦はただの侵攻してくるBETAを殲滅するだけのものではない。正式採用されれば、戦場で死なせる衛士の数を激減させる事ができるようになるであろうOSの評価試験でもある。そしてひいては、オルタネイティヴ4へと繋がる。

 

 

故に、失敗は、無様な結果は許されない。香月夕呼の腹心として、世界を救うと決意した人間としては、この程度こなして見せずにどうするというのか。武は一度両目をゆっくりと瞑り、動かしはしないものの操縦桿をグッと力強く握り、目を開くのと同時にゆっくりと離した。

 

 

大丈夫だ、問題はないと自身の状態を正確に把握してホッと一息。自身の音声が入るのを気にして切っていた音声入力を元に戻し、一言皆に呼びかけると、その事で多少の質問が投げかけられ、武も自身の緊張を和らげる意味も含めて会話に参加した。

 

 

それから約20分が経った頃だ。武とみちるの機体に、現在のBETA侵攻情報の更新を伝える一報が告げられる。それによれば、BETAの姿はもうすぐそこまで迫っているとの事。戦闘開始は、このままいけば約20分後、つまり6時20分になると言う情報を受け取った。

 

 

短く了解の意を、武、みちる双方ともに告げると、情報を告げてきた帝国海軍中尉の通信が切れる。それと共に今聞いた内容を隊員に話すと、全員の空気が一瞬にして変わるのが感じ取れた。チラリと覗いて見た新任である少尉達の顔は、しっかりと引き締まっている。

 

 

緊張を僅かに残しながらも、しっかりとした覚悟を決めた兵士の顔がそこにはあった。よしと、武は内心呟くと各機の兵装の最終確認を促し、完了の報告を受けると黙り込んだ。それは他の隊員も同じで、スっと沈黙の時間が訪れる。

 

 

聞こえるのは、自身の息遣いの音とシステム音だけ。それ以外は、一切の無音空間となった。武は刻一刻と過ぎる時間を、網膜投影に表示される正確な時刻を確認しながら、戦術機の振動センサーに目をやる。反応が明確に示されるまで、ジッとそちらを睨みつけるように。

 

 

そして目端の時刻が、6時10分を過ぎた頃、帝国海軍の全ての準備が完全に整い、今発射体制をとっていること耳にする。それから更に5分が経過した時だ。戦術機の振動センサーが明確に反応を示し始め、それと同時に鳴るアラート音。BETAが本当に目と鼻の先まで来ているのだ。

 

 

咄嗟に、モニターに映る少尉達の顔をチラッと見てしまう武だったが、直ぐに目をそらし口元に小さな笑みを浮かべた。

 

 

「(無粋な心配だったな)」

 

 

操縦桿を握る手を、開いては閉じ、開いては閉じを繰り返し、想像した不安を払拭する。これならば最早、心に浮かぶ不安は何もない。あとは只、この戦闘を素早く終えて横浜基地に帰還するのみだ。

 

 

そんな時、ふとモニターに映るみちるが小さく咳払いをして口を開いた。

 

 

『貴様達、特に新任に言っておくべき事が三つの隊規がある。今から話す事は、私達ヴァルキリーズにとって達成すべき任務と同等に、守らなくてはいけない事だ。尤も、既にその内容はシミュレータ実習でも言っていることだがな』

 

『三つの隊規・・・それは』

 

『そうだ。一つ、死力を尽くして任務に当たれ。二つ、生ある限り最善を尽くせ。三つ、決して犬死するな。これは、私や私の同期、そして後輩である貴様達の先任達が最期まで命を張って守り続けたものだ。先任の速瀬達は言うに及ばず、新任共、そして黒鉄大尉。お前達にも、しっかりこれを守ってもらいたい。それでは復唱!! 』

 

『はい!! 』

 

 

そうして紡がれる、たった三つの、されど重く深い隊規が全員の口から紡がれた。それぞれが全員、口に出して確認することで必死に守ろうと心に刻む。そしてそれは、武も同じだった。

 

 

何故だかは知らないし、理解もできない。ただそれでも、その三つの隊規は何処か尊ばれるものであり、絶対に守らなければいけないものだと言う事を、武は心のどこかで感じていた。

 

 

やがて、それぞれが揃って隊規を言い終えると、再び静寂は訪れる。そんな中、武は目線を動かして網膜投影される画面の端へと目を向ける。

 

 

そこには、秒単位で数字を減らす時刻と、段々と波形の激しさを増す振動センサーがあり、武はキッと睨みつけ、何時でも発進可能なように軽くスロットルペダルに足をかける。

 

 

そして時刻が、6時19分から20分に変わった直後、拡大して覗いている海岸の景色を異色の影が覆い尽くし、第一波が完全に姿を現したのと同時に、海軍の軍艦が一斉に火を噴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『撃てぇーッ!!!! 』

 

 

第一次防衛線上に浮上する、今作戦に参加した帝国海軍の全てを取り締まる艦長が、腹の底から響かせた声を発する。通信機越しにも力強く発せられるその声は、今この瞬間にも発射し続けている艦隊ミサイルや砲弾の発射音に負けず劣らず響いていた。

 

 

艦内部に取り付けられているモニターに、発射されたミサイルと砲弾が真っ先に出現した、大量の突撃級の尽くを抹殺していく様を映し出す。それと共に、音声でもその効果の程が艦内部に伝えられる。

 

 

その報告を受け、砲撃開始の命令を発した艦長は満足そうに、しかし重々しく顎を右手で撫でると頷いてみせた。

 

 

蓄えられた白い髭を右手で撫でるその様は、その凶相と相まってその厳つさを感じさせる。眼光は鋭く、ただ一心に映像に映し出される砲撃の様子を、例え砂の一粒程の違和感すら見逃さんとばかりに見つめていた。

 

 

「先ずは彼奴ら目に一発喰らわせることには成功したか。旅団規模であるBETA郡の事を考えれば、成果としては上々といった処だな。唯一、佐渡ヶ島からの攻撃が不安だったがどうやらそちらについては心配無用だったようだな」

 

 

「そのようですね。尤も、今回我らが海軍の役目はそう多くありません。指示された内容も鑑みれば、この後直ぐにでも砲撃をやめるべきでしょう」

 

「確かにな。あまり削りすぎては、国連の要請を無視したと見られ、作戦終了後に非難の一つでも飛んできかねんか」

 

「多少思うところは有りましょうが、それを晴らすのはまた次の機会とするべきでしょう。横浜の連中の言う、新OSを搭載した機体がどれほどのものか。こうして高みの見物と洒落込むのも、悪くはありませんよ」

 

「ハハハッ!!確かにな。海軍たる我々が、こうして呑気に見ていられる機会などようありはしない。与えられた機会、しっかりと堪能しておかなければ罰が当たるか」

 

 

そして再び笑う艦長。隣にいる補佐官も、それに釣られて豪快に笑ってみせた。普段であれば、作戦中という事を考えればとんでもない会話だが、BETA郡侵攻に対する、本作戦の一番槍の任を見事遂げてみせ、今回与えられた任務を終えつつあるのだ。文句や罵声等、上がるはずもなかった。

 

 

それに、こうして会話していながらも両者、全く視線をそらさずモニターの変化を見続けているのだ。軽口は言いつつも、しっかりと任務を全うしている事は疑いようもなかった。

 

 

やがて、時間が7分と経過し時刻は6時27分となった。既に使用するだけの兵器は使いきり、後は念のためにと用意された予備兵力のみ。だが、今の状況を見るにそれを使用する事はなさそうであった。

 

 

その為、その指示を艦長は補佐官に告げる時だけ視線を少しずらし、告げ終えると再びモニターに視線をやった。そこには、あらゆる方面から映し出されたカメラの映像が表示されていて、どれを見るべきかと視線を右端にやったその時、1台の不知火が目に入る。

 

 

「あれは・・・」

 

 

艦長は小さく呟いて疑問を浮かべるが、モニターに映し出される不知火は、疑問に答える事無く真っ直ぐにBETA郡へと向かっていく。左右に装備した74式長刀を、戦術機では珍しい二刀流使いとでも言うかのように構えて。

 

 

しかし何故だろうか。この時艦長には、見た事のない筈のない不知火の機体が、全く別の機体に見えたような気がしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うォオオオオオオオ!! 」

 

 

艦隊による艦砲射撃が止み、その砲撃に身を晒される事無く生き残ったBETA郡に突っ込み武は咆哮する。砲撃に晒される事は無かったとはいえ、それによって陣形を崩され疎らとなったBETA郡目掛けて武は容赦なく攻撃を開始した。

 

 

初めに仕留めたのは、要撃級と戦車級。すれ違いざまに左右の長刀で要撃級を両断し、そのまま加速しながらも背部に展開したマウントアームの2門の銃撃で固まった戦車級共々銃撃を叩き込む。

 

 

その結果はあまり確認せずとも手応えを感じ、前方に未だ陣形を崩されて疎らに展開するBETA軍を斬り刻み、銃撃で滅多撃ちにしながらも、常に前進する。尤も、あまり前進しすぎても孤立してしまう為に位置情報はしっかり確認しながら、要領よくBETA郡を葬っていく。

 

 

先の艦砲射撃により、初めは突出して包囲網に穴を開ける突撃級はその数を多く減らし、生き残っても死体が邪魔をして進軍を阻まれるために極端に機動力を奪われているのだ。

 

 

元々方向転換をあまり得意としないその特性が、要撃級や戦車級を先に行かせる結果となってしまったというわけだ。武はその結果に満足しつつ、しかし安堵はせずに目にかかるBETA郡を無理なく効率的に、その特異な機動とXM3の効果を最大活用して葬り去る。

 

 

それでも、中には葬りきれずしぶとく生き残っている個体も見受けられるが、それは一歩遅れて付いてくるヴァルキリーズがきちんと全てを葬っている。特に、初戦だというのに新任の少尉達の活躍が目覚しい。

 

 

『やぁあああああ!!』

 

『高原!!そっち10匹行ったよ!!』

 

『ヴァルキリー8了解!! ヴァルキリー8、フォックス3ッ』

 

 

漏れ出たBETA郡は勿論のこと、次々と襲いかかるBETAの群れも見事な連携でお互いカバーしながらも漏れなく葬っていた。初めての実戦にしては悪くない、否。

 

 

とても良い状況だった。接敵して未だ5分程度しか経っていないものの、その勢いは衰えるところを見せない。

 

 

その様子を視界の端で確認して、武は小さく笑みを浮かべた。これならば、今は心配する事はない。自身の仕事をきっちりとこなすだけだと、BETAを処理して穴の空いた地面に着地し、側に寄ってきた腕と感覚器官を落とされて尚、しぶとく生き残っている要撃級数体を即座に片付ける。

 

 

そして少し先に見え出す、遅れて進撃してきた突撃級の群れ。数にして、50程度。それを確認すると、承知してはいるだろうが一応通信で指示を出す。

 

 

「各機、眼前700に見える突撃級に注意しろ。上空に跳んで背後から36mmを叩き込め。俺は右の要撃級35を片付ける」

 

『了解! 』

 

 

武の言葉に返事を返すヴァルキリーズ。その返事を聞くよりも前に、武は動き出し右に存在する要撃級の群れに突っ込んだ。加速力を活かした重い斬撃を先ずは数体に叩き込み、振りかざされる手腕による攻撃を見事に躱しながら、マウントアームからの射撃で弱らせた要撃級を確実に仕留めていく。

 

 

一気に減らせた数は10体前後。まだ半数も減らせていないが、数秒の出来事と考えれば結果は上々。特に、要撃級はそのしぶとさが厄介なのだ。仕留めたと思いきや、実は生きていたなどという事は度々ある事象だ。その為、戦闘が長引き集中力を減らした後に撃墜されるというのが、多いパターンと言える。

 

 

故に、必要なのは忍耐力。特に、武は今遊撃という立場で戦っていて、望む支援は滅多に受けられない。必然的に、個での戦いを求められるのだから、それに応じた戦いをする必要がある。急いてことを仕損じれば、それこそ自身の命を奪いかねないのだ。

 

 

 

「確実に。少しずつでも、削り取っていく」

 

 

言葉とは裏腹に、ごっそり持っていく武。仮に言葉通りだったとしても、幸いなことに、後続にはヴァルキリーズがついている。先程の戦いぶりを見た限り、新任達も十分戦力として戦えている。

 

 

ならば、後ろの心配は必要ない。武は堪らず小さく笑声を漏らし、先程の戦法を2回繰り返し要撃級を撃破仕切る。

 

 

そして目端で確認する、デジタル表示されている時刻。既に、死の8分と言われる時間はとっくに超えていた。だが、その事を指摘する気はない。それを指摘するのは、作戦が終わった後でいい。今はただ、このXM3を搭載した不知火でBETAを滅ぼすだけ。

 

 

偶然視界の端に映った、左翼に展開する斯衛部隊の事を気にかけつつも直ぐに頭から捨て、自身のやるべき事を思い直す。損害だけで言えば、少なくともA01と斯衛部隊には未だ出ていない。しかしそれでも、分断して後続の小型及び大型種を相手にしている帝国軍の被害は少なくない。

 

 

できるだけ、XM3の実戦証明の為にもこちらにもう少し引きつけておく必要がある。武は即座に思考を切り替え、その場を跳ぶ。

 

 

レーダーに映る戦況は、帝国軍12師団に限って言えば決して良いとは言えないのだ。それに、そちらにばかり気を取られるわけにはいかない。

 

 

目先に迫る巨大な敵の姿が、その事を告げていた。要塞級が3体。高さ66mを誇る、BETA郡の中でも例外を除けば、否。知られているBETA郡の中では、最も巨大なサイズを誇る怪物だった。

 

 

戦闘力についても、その他の個体とは一段違うといっても過言ではないその個体。しかしそれは、あくまで常識に囚われた人間の認識。武にとっては、要塞級でさえ他のBETAと同じ程度の認識でしかない。

 

 

「そこを退け!! 」

 

 

最初と同じように、怒りの咆哮を上げて恐ろしい速度で接敵する。武の存在を脅威と認定し、要塞級は多くの衛士を仕留めたその触覚を武目掛けて鞭のように振るう。

 

 

その触覚は、接触すれば強力な溶解液を持って戦術機であろうが問答無用に溶解させるだけの酸性を持っている。当たればどうなるかは、言うまでもない。

 

 

しかしそれは、当たればの話だ。どんな強力な恐ろしい攻撃も、当たらなければ無用なものでしかない。速度を維持しながら、武は失笑するように笑みを歪めて操縦桿を握り、向かってくる鞭のような触覚をXM3によって操作性が軽やかになった機動で軽々と躱してみせる。それどころか、躱しながらも攻撃の手は緩めなかった。

 

 

接近初めにその厄介な触覚を、蜂でいう尾の部分を切断して無効化すると、そのまま斬撃を浴びせていき、最終的に右腕部の関節部分を切断する。

 

 

それによって、その大きな巨体のバランスを取れず崩壊し、下にいた小型種を要塞級でもって圧殺する。しぶとい要撃級は兎も角、装甲が柔らかい戦車級はそれに巻き込まれ巻き添えを食った様子が覗えるだろう。

 

 

しかしそれを確認もせずに、武は再び残っている要塞級を裁断にかかり、2体をあっという間に平らげ更に見え出すBETA郡目掛けて殺到する。

 

 

『す・・・凄い』

 

『訓練の時とまるで違う・・・』

 

『あわわわわ・・・あんなおっきいのを、殆ど一瞬で片付けるとか!? 』

 

 

突撃級を片付け、少し余裕を持っていた新任達が武の戦い様を見て圧倒される。しかしそれは、隊長であるみちるや先任達にも言える事なので仕方のない事と言えるだろう。違いがあるとすれば、驚きつつも残ったBETAをしっかりと片付けている余裕くらいか。

 

 

 

『何だかなぁ・・・どっちが化物なんだか、わからなくなっちゃうね』

 

 

周囲に居るBETAの、最後の1匹となる既にズタズタになっている要撃級を打ち抜き、死亡を確認した柏木が小さく呟く。そんな彼女の軽口に、ヴァルキリーズの隊員達は戦闘中だというのに揃って笑声を上げてしまう。

 

 

普段は張り合う速瀬も、今も尚先陣において無理なく孤立奮闘する武の姿を見ては張り合う気すら失せたようだ。代わりに、再度迫りつつある数百のBETAの群れをレーダーで確認し小さくため息をつく。

 

 

『さてと、それじゃあ私達も仕事に戻りますかね』

 

『そうだな。我々も、さっさとお客さん達を出迎えるとしよう。横浜の戦力は、黒鉄の不知火だけでは無いと周囲に知らしめるぞ!! 新任共!! しっかり付いて来い!! 』

 

『了解!! 』

 

 

そうして、再びみちるたちも戦闘を再開する。XM3を搭載した彼女達の働きは目覚しく、モニターでその様子を見る海軍将校達はその働きにあんぐりと口を開けて驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしいな!! 一体誰が乗っているのだ、あの不知火は!! 」

 

 

興奮冷え切らぬ声で、自身は戦闘行動を絶えず実行しつつ呟いた。その声の主、斑鳩崇継は先程から孤立しながらも一切の撃墜の気配を見せぬ不知火を見て、感嘆の念を感じていた。

 

 

『閣下。あまり他所見なされると、うっかり撃墜なされる事もありえます故、どうかほどほどにお願いします』

 

 

「すまない。だが、私も五摂家の一角を背負って立つ身なれば、そのような愚は犯すまいさ。ふっ!! 」

 

 

言いつつ、斑鳩は迫っていた要撃級を武御雷を操り、装備した長刀で一刀両断する。ドシャッと嫌な音を立てて崩れ去る要撃級の死体。それで、ここら一体のBETA郡は打ち止めとなっていた。

 

 

数だけで言えば、仕留めた総数は全体の2割半に上ろうかという数を、斯衛16大隊の隊員(参加しているのは36機中15機)は片付けていた。それは、かかった時間を考えれば戦果としては上々といえよう。

 

 

しかもこの戦果は、あくまで力を抑えたものなのだ。本気でやっていたなら、どれほどの数を平らげていたか。如何に機体が日本最強の機体とはいえ、操縦の腕も確かでなければここまではいかない。

 

 

その上、彼らはXM3を積んでいない上に損害0という結果をたたき出している。これでもしXM3だったらと思えば、その実力は如何程のものか。

 

 

しかし、そんな彼らであってもやはり武の扱う不知火には興味を持っていたようだ。先程斑鳩を諌めた真壁介六助も、他の隊員もそこについては同じ意見のようだ。

 

 

周囲に居るBETAを殲滅し終えた事で、余裕を持って見れるモニター越しの隊員の姿が、その表情に如実に表れていた。

 

 

「それに、驚くのはあの不知火だけではないな。後続の中隊、A01と言ったか。聞いた話によれば、あの部隊には半数近くの実戦未経験者がいるとの報告だが、とてもではないがそうは見えんよ。彼の香月博士の言う新OSの力、しかと見せてもらった。見た限り、従来のものより遥かに操作性が優れているのが伺える。」

 

「確かに。流石は、日本主導の計画の最重要人物といったところですね。我々とは、否。他の誰と比べても、その頭脳は他の追随を許さないと言えるでしょう」

 

「我々日本人としては、香月博士の掲げる第四計画をなんとしてでも実行してもらわねばならない。その為の手助けとなればと、そんな思いもあったのだがな。此度の援護、余計なお世話になってしまったかな? 」

 

『ご冗談を』

 

 

言って、小さく笑みを浮かべる真壁。それに続いて、斑鳩も健やかさを感じさせる笑い声を挙げた。ここは戦場、油断は何時如何なる時も許されないが少なくとも戦局は見えた。どう見ても、これ以降の流れが変わることはない。

 

 

「こちらは終わるな」

 

『ええ。我々の勝利ですね、閣下』

 

「そのようだ。我々も、横浜のA01も共に損害0で終わりそうだな。となれば、未だ奮戦している12師団の方を手助けせねばなるまい」

 

 

斑鳩は満足そうに笑みを浮かべ頷いた。視線の先には、今最後の要塞級を片付けた不知火がゆっくりと地面に足をつける姿が目に入った。その姿を瞳に焼きつけつつ、斑鳩は部下を率いて第12師団の援護に向かう。

 

 

それから約15分後の事、此度のBETA侵攻は未然に防がれることとなった。途中相手をすべきBETA郡を全て片付け、ヴァルキリーズ及び武も戦線に加わり全ての戦術機部隊が一丸して始末。

 

 

その結果、BETA侵攻を殲滅するという作戦において、旅団規模とはいえ歴史的快挙を日本は成し遂げる事となった。




今回はこれで終わりです。
BETA戦にしては味気ない気もしましたが、11.11に関しては情報も少ないのでこうしました。

投稿ペースは3日、4日になりそうです。今のところはですが。
感想の返信、皆様遅れて申し訳ありませんでした。
では失礼します。

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