暑い夏の熱にやられてしまいました。皆様もお気をつけください。
第11話になります。
UA9,000件突破、ありがとうございます。
かなり心身共に疲弊がひどく、誠に勝手ながら
現在の更新が週3回更新ペース→次週より週2回更新ペースに変更させていただきます。
更新日は水曜日、土曜日になります。
読者の皆様には突然の変更となり、ご不便をおかけしてしまうこと、大変申し訳ございません。
これからも応援していただけますと幸いです。
あれから数日が経っていた。
俺はバイトを休み、勉強に集中する日々を過ごしていた。
そして数日前、ついに大学受験を迎えた。
結果がどうであれ、一区切りには違いなかった。
実を言うとその間にも、結束バンドのMVは何度か見ていた。
1号さんのセンスもすごい。
ただそれ以上に彼女たちの“らしさ“が映像に滲み出ていて、気づけば再生回数も伸びていた。
星歌さんからは、たまにロインが来ていた。
『そろそろ戻って来れそうか?』
『受験日っていつだっけ?』
『響木。自分の実力を出せよ。ちゃんと見守ってるから。』
忙しさにかまけて既読スルーが続いてしまっていたけれど、昨日ようやく
「そろそろ行きます」
と、だけ返した。
それだけなのに
「分かった。遅れんなよ。」
すぐ返信が来て、何だか胸がくすぐったかった。
———そんなわけで、今日。
俺は久々にSTARRYへと足を運んでいた。
店の扉を開ける。
懐かしい音と、少し乾いた、まだ寒い空気。
ようやくいつもの日常が戻ってきた気がして、少しだけ力が抜けた。
———そのとき。
星歌「…」
PAさん「…」
響木「え…っと?」
星歌さんとPAさんがこちらを凝視している。
まるで睨みつけるように。
星歌「“えっ…と“じゃねーよ。今日は何の日だか分かってんのか?」
響木「あ……あー……」
その瞬間、思い出した。
今日、大学の合否発表日だ。
星歌「お前…あれだけ言っておいて忘れてんじゃねぇだろうな!?」
PAさん「今ってもうネットで見れちゃうんですよね〜?」
響木「そうですね。確かリモートでも…」
(あぁ、やばい。)
この全方向からのプレッシャー。
慣れてない。
スマホを取り出して、ポチポチと動かして自分が受けた大学サイトへと飛んでいく。
が、混雑しているのか、なかなかページが表示されない。
虹夏「こんにちわ〜…って、え?なになに?どうしたの?」
入り口のドアが開き、結束バンドの4人が入ってきた。
本当に、いつも一緒にいるんだな。
虹夏ちゃんが俺の前まで駆け寄ってきて、スマホを覗き込む。
虹夏「響木くん、何かあったの?」
響木「今日、俺の受けた大学の合否発表なんだよ。それ見てる。」
虹夏「えぇ!?なんでそんな大事なこと教えてくれなかったの!?」
響木「いや、普通に忘れてて…」
虹夏「響木くんでもそんなことあるんだ…」
少し呆れたような、でも安心したような笑顔。
なんか…変な気持ちだった。
その時、俺のスマホはまだ読み込み中だったのに、スッとリョウがスマホを差し出してきた。
リョウ「ねぇ。響木の番号いくつ?」
響木「え、710048だけど。」
リョウ「———あった。受かってたよ。」
響木「…って、なんでリョウが見つけてんだよ。」
リョウ「つい、出来心で。」
そう言って目を逸らすリョウの表情はどこか照れくさそうに。
けれど嬉しさが滲み出てそうで何だか俺も嬉しくなり、思わず吹き出しそうになった。
虹夏「ほんと!?ほんとに!?」
喜多「本当ですか!?おめでとうございますっ!すごいですっ!響木先輩っ!」
PAさん「あ〜…やっぱ若いっていいですねぇ…。未来に向かって一直線って感じで…羨ましいですね…」
星歌「何言ってんだ。おっさんくせぇ。ま、良かったよ…」
そう呟いた彼女の表情には確かに安心と安堵が混じっていた。
そしてその奥に、ほんの少しだけ“嬉しさ“が滲んでいるようにも見えた。
星歌「……ま、受かんなかったらシフト増やしてこき使ってやろうって思ってたけどな。」
響木「奴隷じゃないですか…」
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ひとり「…」
賑やかな祝福ムードの外。
少し後ろで、1人佇んでいた。
皆、響木くんを祝福してる。
嬉しそうに、はしゃいでる。
私はその中に、その輪の中に
———入れなかった。
ひとり(響木くんは…やっぱりすごいな…)
歓声の中、ただ私は呆然と見つめることしかできない。
ひとり(私だったら、怖くて、結果なんて見れない…)
指先が、微かに震えているのを自分でも感じていた。
ひとり(受験って、今までの努力とか、才能とか、色んなものが試されるでしょ…それに“期待されること“がすごく重たくて…)
ぐっ、と喉の奥が詰まった。
ひとり(私は、私の音ですら、まだまともに向き合えてないのに。)
そうして、ようやく私は
誰にも聞こえないように息を吐いた。
ひとり「怖いよ、響木くん…」
また私より先に行っちゃうの?
離れちゃうの?
遠くに行ってしまうの?
私はギターヒーローなんかじゃない。
だって、本当のギターヒーローは
私を変えてくれたのは
他でもない、響木くんなのだから。
でも、言えない。
こればかりは、誰にも言えない。
だって、こんなの、依存と一緒だ。
自分が情けない。
以前にも虹夏ちゃんに嫉妬のようなものをぶつけてしまった。
あんなに優しくしてくれて、私を受け入れてくれたのにも関わらず。
喜多ちゃんにも響木くんのような優しい言葉をかけてあげられなかった。
むしろ自分が特別視されていることに優越感を抱いてしまっていた。
自分が醜い。
でも響木くんはいつでも私を見てくれて、認めてくれた。
昔、出会った時も、音楽を勧めてくれた時も。
“ギターを初めて褒めてくれた時も“
今はどうだろう。
あの時、認めてくれた響木くんは自分で努力して、色んなプレッシャーに勝って、新しい道を行こうとしてる。
私は?
ずっとこのまま?
嫌!!嫌だよ!!
私は、私は、響木くんと一緒じゃないと、認めてくれないと…
もう…怖くて、前に進めそうにない…?
響木「ひとり、ちゃん?」
ひとり「ふぇ…?」
あれ?
さっきまで、皆に祝われてたんじゃ…
響木「今からSTARRY貸切にして、合格パーティーだってよ。ひとりちゃんの好きな揚げ物とかも用意あるらしいし…」
揚げ物、私は大食漢野郎だと勘違いされている?
けれど、それ以上に何で私に
ひとり「え、っと…?」
響木「ん?どうしたの?」
ひとり「に、虹夏ちゃんとか、喜多さんとか、リョウさんは…?」
響木「…皆、手伝いとか買い出し。ちょっとだけ、ひとりちゃんと話したくて。」
ひとり「っ!///」
忘れられていなかった。
響木くんの中に、私がいた。
それだけでも嬉しい。
ひとり「響木、くん…」
ひとり「え、っと…合格おめでとう…」
響木「はは。ありがと。嬉しいよ「あと!」…?」
言わないと、言わないと響木くんはまた遠くに行ってしまう。
なら、もう今言わないと。
ひとり「これからも、ずっと、私と一緒にいて、欲しい、です…!」
———その時だった。
遠くで食器が割れる音が、私の耳を劈いた。