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今回は原作にはない回になります。
俺のために開かれた合格を祝したパーティー。
星歌さんが良かれと思って催してくれた。
皆、笑顔で俺のことを褒めてくれる。
『おめでとう』
そう言って俺に笑いかけてくれる。
なのに俺は
俺の胸には、喜びよりも重たい感情が居座っていた。
それは———
数時間前の出来事が原因だった。
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ひとり「———私と一緒にいて、欲しい、です…!」
———ガシャンッッ!!
響木「っ!?」
なんだろう。今の音は。
食器が割れたような、そんな音。
まるでタイミングを図ったような
響木「…ひとりちゃん。」
ひとり「は、はい…!」
響木「…ごめん。ちょっと見に行ってくる。」
ひとり「…え?」
誰かが怪我をしてるかもしれない。
それが結束バンドのメンバーだったら尚更。
こんなことで、俺みたいなやつのパーティーなんかで怪我なんて
そうして俺が立ち上がった時だった。
ひとり「い、嫌!!」
俺はひとりちゃんに手首を掴まれていた。
でも、ひとりちゃんにも聞こえていたはず
なのに俺を離そうとしてくれなかった。
その瞳は、まるで焦点が合っていないみたいだった。
荒い息が俺の手首にかかるたび、体温が染み込んでくる。
ひとり「…今は、私のことを見て欲しい、です…」
響木「でも誰かが怪我してたら「そんなの!」っ!」
ひとり「そんなの…店長さんとか、虹夏ちゃんとか、喜多さんとか…誰かがきっと…」
響木「ひとり、ちゃん?」
様子がおかしい。
ひとりちゃんは挙動がおかしい時はあるけれど本当は心優しくて、色んな人に気を遣える良い子だ。
けれど、今のひとりちゃんは自分が中心にいるみたいで、周りを蔑ろにしている。
いつものひとりちゃんじゃないことは明白だった。
響木「と、とりあえず離して」
ひとり「い、嫌です…だ、だって、だってこのまま離したら…響木くんが、私のそばにいてくれる保証なんて…」
握る力が強くなっていく。
それは骨が軋むほどだった。
響木「な…何言って「じゃあ私のそばにずっといてくれるの!?」え…?」
大粒の涙がぽとぽとと俺の腕に落ちて、熱い。
響木「ひとり、ちゃん———」
言葉を選び、彼女の涙を拭おうとした時だった。
「何やってるんですか?先輩、とひとりちゃん。」
背後からの声に、心臓が跳ねた。
響木「うわっ!?———喜多、さん?」
後ろに立っていたのは喜多さんだった。
響木「き、喜多さんはどうしたの?」
喜多「いえ…私の不注意でお皿割っちゃって…掃除用具取りにきて…って、え!?ひとりちゃん!?ど、どうしたの!?」
響木「あー…俺が泣かせちゃったみたいで…」
ひとりちゃんに非は無い。
最近、忙しくなり始めた結束バンド。
これから行われるイベントに向けて、少し心が不安定になった。
その心に俺が寄り添えなかったんだ。
喜多「…何となく、分かりました。ひとりちゃんは私がそばにいるので、響木先輩…申し訳ないんですけど食器の片付け、お願いしてもいいですか?」
何も言わないひとりちゃんを見て察してくれたのか
そう俺に指示を出した。
でも、何となく、何となくだけど喜多さんをひとりちゃんのそばに置くのはまずいような気がして俺がそばにいるよ、と言ってみた。
けれど
喜多「…先輩。私がひとりちゃんを見ておきますから。」
響木「でも」
喜多「ね?」
その目は笑っていたけれど、笑っているのは口元のように見えた。
そんな俺は喜多さんの圧に負けて、俺はそのまま食器を片しに向かった。
響木「…はぁ」
それ以来、俺はひとりちゃんと話していない。
響木「はぁ…」
誰にも気づかれないように溜息だけを吐く
パーティーも気が重いし、散々だ———。
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【視点:喜多郁代】
———気づいたら先輩を目で追っていた。
以前はそんなことなかった。
まさかリョウ先輩目当てで行ったバンドに男の人がいるなんて思いもしなかった。
共学には通っているものの男子に慣れることはなく。
告白されることはあってもどこか警戒していた。
無理して明るくしてるわけじゃないけれど常に明るいままというのは気が滅入る。
けれど世間での“喜多郁代“は明るくて、可愛いから魅力になっている。
世の中の男子高校生というのはクラスメイトのこういう子に惹かれるのも分かっている。
だから、牽制してしまうのだ。
先輩も同じだと思った。
きっと世間に受け入れられている“喜多郁代“が好きなんだと。
けれど違った。
彼の目は誰に対しても平等だった。
良い意味で人に期待していなくて、悪い意味で自分に期待していない。
そんな感じ。
そんな彼を見ていたら自然と私を見て欲しいと、期待して欲しいとそう思った。
一度は逃げ出してしまったけれど、もう一度。
もう一度だけ、今度は先輩に少しでも私を見て欲しいと思った。
前には初めて素の自分を出したこともある。
そんな私にも先輩は優しい表情で受け入れてくれて、“響木先輩の喜多郁代“になれる
はずだったのに———。
「———私と一緒にいて、欲しい、です…!」
喜多「…ひとり、ちゃん?」
それはほんの少し遠くから聞こえた話し声だった。
誰だろうと気になって、近づいた時にはひとりちゃんが響木先輩に迫っている途中だった。
それからはあまり覚えていない。
けれど体が勝手に動いていたんだと思う。
気づいたら私は、その2人の目の前に立っていた———。
泣いていたひとりちゃんをよそに私は先輩を見る。
先輩はひとりちゃんを泣かせてしまったことを悲しんでいるような目で私を見ていた。
でも、先輩は悪くない。
だって勝手にひとりちゃんが暴走して、玉砕して、挙句の果てにまるで縋り付くように泣いているだけなのだ。
“もうとっくに先輩は心に決めた人がいるのに“
でも私は良い子だから。
先輩の前で悪い子にはなれない。
だから
慰めてあげなくちゃ(諦めさせてあげなきゃ)———。
喜多「ひとりちゃん。」
ひとり「…すみ、ません。お見苦しい姿を…。」
唇を強く噛み締めながら、ぽつぽつと小さく息を吐くように言葉を紡ぎ始めた。
とてもさっきまでのひとりちゃんとは思えない。
喜多「ううん、大丈夫よ。でも…一体何があったの?」
ひとり「…わ、たしが悪いんです…。響木くんに、重荷を、背負わせてしま、って…」
喜多「重荷?それってどういう…」
ひとり「……きっと響木くんは私のこと、ずっと離さないって、そばにいてくれるって思って、でも———」
少しずつひとりちゃんは小さく話し始めた。
今までのこと、昔のこと、リョウ先輩や伊地知先輩が響木先輩のことを狙っているんじゃないかってことも。
ひとり「だから、不安だったんです。このままだと私のそばにはずっといてくれないんじゃないかって…」
喜多「…」
私は何も言い出せなかった。
別に私に関係のないことであれば明るく振る舞えていたはず。
けれど、話の中心は響木先輩のこと。
だからこそ私はひとりちゃんに対して大丈夫とも言えないし、きっとそばにいてくれるよ、なんて甘い言葉は吐けなかった。
ひとり「…やっぱり私って重たい、ですよね。響木くんにも、迷惑かけちゃいましたし。」
喜多「それは…」
重たい、と言われればそうだろう。
私が男だったらここまでの愛情は逆にプレッシャーだ。
でも、ふと自分に立ち返った時に思うのは私も同じだ、ということ。
私は今まで見てこなかった。
リョウ先輩も、伊地知先輩も、ちゃんと“やること“はやってるんだなってこと。
私は先輩とこれから清い関係を築けるようにとなるべく抑えていたのに。
そんな感情が出てきてしまえばあとは同じ。
ひとりちゃんと同じようなことをしていただろう。
これはきっと。
立場が違っただけ———。
喜多「…」
ひとり「…」
慰めにもならない永い永い沈黙がただただ続いた———。