ぼっち•ざ•ぼーい!   作:希望03

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第14話になります。
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俺と郁代と、裏切りと

あれから数日が経った。

リョウへの返事も返せていない。

バイトの時には普段通りで特に変わった様子もない。

少し変わったといえば喜多さんの様子だ。

 

喜多「先輩っ!今度の路上ライブ来てくれるんですよねっ!」

 

駆け寄ってきた喜多さんの距離は以前よりも近くなっており、お互いの手が触れ合うほどに。

相変わらずの陽キャっぷりだけどここまで警戒されていないのは正直、驚きだ。

 

響木「うん。予定もないし、元々俺も携わってたからね。未確認ライオットまでも時間ないだろうし…」

 

喜多「絶対、最高のライブにしてみせますから!“私“を見ててくださいねっ!」

 

響木「え、あ、うん…?」

 

リョウ「郁代。練習始めるよ。」

 

喜多「あ、はーい!じゃあ先輩またあとで!」

 

リョウ「…響木。」

 

響木「ん…?」

 

リョウ「返事、いつでもお待ちしてます。」

 

響木「…ん。」

 

リョウも変わった様子はない。

けれど毎日催促されるのはもう日常になってきた。

キープってわけじゃない。

ただ俺が仮にリョウのことを振って、このバンドに亀裂が入ってしまうんじゃないか、ってことが怖い。

 

響木「はぁ…」

 

虹夏「どうしたの?響木くん。」

 

響木「虹夏ちゃん…」

 

現彼女である虹夏ちゃん。

まだ誰にもこのことは言ってない。2人だけの秘密だ。

というよりも俺が言えないだけ。

虹夏ちゃんにも不誠実なことを続けてしまっている。

 

響木「…ごめんね。はっきり言えなくて。」

 

虹夏「ん?あー…リョウのこと?もし良ければ私から言おっか?私の男に手を出すなー!って!」

 

響木「いや…自分のことだから、俺がちゃんと言うよ。」

 

虹夏「…そっか。でも、あまりにも言えないな、って雰囲気だったら全然頼ってね?私はいつでも響木くんの味方だから!」

 

頼もしい彼女だ。

こんなにも支えてくれるなんて思いもしなかった。

けれど今はライブに向けて皆、集中する時でもある。

俺のような邪な存在が邪魔してはいけない。

 

響木「ありがとう。色々、解決しないといけないことがたくさんあるから…一歩ずつやってくよ。」

 

虹夏「解決しないといけないこと?」

 

響木「あー…うん。ちょっと、ね。」

 

虹夏「…隠し事?」

 

その瞬間。

背筋が凍った。

俺は虹夏ちゃんの方を見ると俺を見つめる瞳に光が灯っておらず、まるで俺の内心を覗き込まれているような視線を感じた。

 

響木「い、いやひとりちゃんと色々あって…」

 

虹夏「ぼっち、ちゃん?今度はぼっちちゃんなの?」

 

響木「今度って…?」

 

虹夏「リョウの次はぼっちちゃんも響木くんのことを誑かしてるの?」

 

響木「いや、そういう訳じゃ…」

 

虹夏「この前のこともあったし、やっぱり響木くんのことを誑かしてるとしか…そうだよね、うん。私が“守ってあげなきゃ“…」

 

響木「虹夏ちゃん…?」

 

虹夏「あ、ううん。ごめんね。なんでもない。ぼっちちゃん、確かに最近元気ないよね。私からも話してみるよ。」

 

響木「え、いや大丈夫———

 

虹夏「遠慮しないで?私が響木くんの彼女だから。守ってあげるから、ね?」

 

言葉を遮られてしまう。

まるで圧をかけられているかのように。

有無を言わせないかのように。

 

虹夏「じゃあ、また…あとで、ね?」

 

響木「う、ん。」

 

このままじゃダメだと分かっている。

けれど、これでいいんだと認めてしまいたくなる。

もう何も考えなくていい。

虹夏ちゃんに全てを任せて———。

__________________________________________________

 

【視点:伊地知虹夏】

 

今、私は最高潮だろう。

バンド活動もうまくいっていて、それ以上にプライベートもうまくいっている。

浮かれてしまう。

私が響木くんの彼女になれる日が、ようやく訪れるなんて。

 

でも幾つか関心しないこともある。

響木くんに対しての周りの皆の態度。

リョウは常に響木くんに視線を向けていて、まるで自分が選ばれるかのように思ってる。

喜多ちゃんはベタベタと響木くんに纏わりついていて、ボディタッチも激しくなっている。

ひとりちゃんはどうやら響木くんに何かしらのアプローチをかけたらしい。寂しさ故だろう。

 

少しずつだけど皆が響木くんに対して歩み寄り始めている。

 

それに対して

響木くんも蔑ろにしない。

真摯に受け止めている。そういう優しいところが良いところでもあり、“ずるい“ところだ。

これも相まって、私の心に深い闇を作り出してしまう。

 

でも、私は寛容だ。

響木くんにはああ言ったけれど私もこのバンドには思い入れがたくさんある。

私がこれで強く言ってしまうとこのバンドはたちまち崩れてしまう。

 

だから私は“良い女“を演じるんだ。

響木くんがもっと、もっと私にのめり込んでくれるように。

 

虹夏「ごめんね〜。遅くなっちゃった!」

 

喜多「もー!遅いですよ!」

 

リョウ「…」

 

虹夏「あははー。ごめんね!ちょっと響木くんと話してて…」

 

ひとり「あ…響木くん、と…」

 

先に練習していた皆の視線が私に向く。

ただ名前を出しただけなのに。

よっぽど気になるようで———。

 

喜多「…そうだったんですね。」

 

喜多ちゃんはまるで嫉妬する女のように恨めしそうに私を見つめて。

 

ひとり「そ、っか…虹夏ちゃんと…何話してたんだろ…」

 

ぼっちちゃんは小さくボソボソと話している、まるで周りが見えていない。

 

リョウ「…」

 

リョウは———1番興味がなさそうにして、ただただベースを見つめている。

 

本当は気になるくせにそうやって強がるんだから。

 

虹夏「そうそう。と言ってもたわいもない話だけどね〜…じゃあ練習始めよー!」

 

———私は演じる。まるで気にしていないように。

 

強者として、誰よりも欲しかった

 

響木くんの“彼女“として———

__________________________________________________

 

あれから数日。

とうとう結束バンドの路上ライブの日になった。

下北沢でやるみたいで近いからゆっくり行こうかと準備をしていた時だった。

 

———ピンポーン

 

インターホンの乾いた音が部屋に響いた。

まだ午前10時。

彼女たちのライブの時間は午後のはずだが一体?

 

喜多「こんにちは。先輩♡」

 

ドアの前に立っていたのは赤い髪を揺らす喜多さんだった———。

 

一瞬、心臓が跳ねる。

虹夏ちゃんに見られていないよな?

誰かに覗かれているような錯覚と、罪悪感の熱が一気に忍び寄る。

 

響木「喜多、さん?」

 

喜多「はい♡“先輩の“喜多郁代です♡」

 

響木「なんでここに…」

 

喜多「…実は———。」

 

喜多さんがここに来た理由。

それは路上ライブに対しての不安。

そしてひとりちゃんのことだった。

 

喜多「色々、不安になっちゃって…」

 

響木「そう、だったんだ…」

 

ひとりちゃんは俺が寄り添ってくれないんじゃないか、これからのことや俺が離れてしまうことに不安を覚えてしまった。

それでそばにいて欲しいという言葉を使って、縛ろうとした。

けれどそれが重荷になってしまうのが、俺に迷惑をかけてしまうんじゃないかって思って距離をとっていた。

そんなひとりちゃんをずっと支えてきたのが喜多さんだったみたいで———。

 

響木「俺が、弱いから。喜多さんにも迷惑かけちゃってたんだね…本当に、ごめん。」

 

喜多「そんな!違います!私が、もっと皆の力になれたら良かったのに…」

 

沈黙が続いた。

そんな時だった。

 

喜多「先輩…」

 

響木「ん?」

 

喜多「少し、甘えても、いいですか?」

 

響木「え———」

 

そう喜多さんは言うと俺に抱きついた。

 

その時、虹夏ちゃんの顔が一瞬よぎり、腕を振り解こうとした。

でも———Tシャツを濡らす喜多さんの涙に、力が抜けていく。

離さなきゃいけないのに。

 

だが俺は、気づけば腕を彼女の背中に回してしまっていた———。

 

響木「喜多、さん…」

 

喜多「…郁代、でいいです。」

 

響木「え、いやでも喜多さん、名前嫌ってたんじゃ…」

 

喜多「先輩が名前で呼んでくれたら、好きになれそうな気がするんです…だから———お願い、できますか。」

 

響木「…郁代。」

 

喜多「———っ!」

 

すると、喜多さんの抱きしめる力が強まった。

不安を拭いたいかのように『もっと』と呟いた。

まるで甘える女の子のように———。

__________________________________________________

 

あれから一刻。

泣きじゃくっていた喜多さんの涙は少しずつ引きつつあった。

抱きしめられていた腕の力も弱まり、俺は彼女を少しずつ離した。

 

喜多「…えへへ///すみません、先輩…」

 

響木「いや…それよりもう大丈夫そう?」

 

喜多「はい…先輩のおかげでライブ、頑張れそうです。それとひとりちゃんのことも。」

 

響木「そっか…色々、ありがとうね。」

 

喜多「大丈夫です!ただ———」

 

喜多さんが言い淀んだ時だった。

 

ピロロロロ———

 

ロインの電子音が鳴った。

ただそれは一瞬で

 

ピッ———

 

喜多「…」

 

すぐに電子音が鳴り止む。

画面を見ると『不在着信1件』。

虹夏ちゃんからだった。

 

響木「喜多、さん?」

 

まるで喜多さんが画面を見て、電話を切ったように見えた。

 

空気が重い。

背筋が凍る。悪寒がする。

さっきまで泣いていた淡い少女の姿ではない、嫉妬に塗れたような、真っ黒な闇に飲まれてしまったような女の姿のようで———

 

喜多「ごめんなさい。私の携帯だと思って消しちゃいました。」

 

その声のトーンはさっきまでの甘えていた女の子とは別物。

笑っているのに、目は全く笑っていないという奇妙なものだった。

そんな姿に、俺は背筋がどんどんと冷たくなる———。

 

(…違う。これは、喜多さんじゃ、ない)

 

喜多「相手。」

 

響木「え?」

 

喜多「相手、伊地知先輩ですよね?」

 

響木「あ、そう、みたいだね———」

 

瞬間。

俺の唇は塞がれていた。

柔らかい触感に脳が真っ白になる。

体は抵抗しろと叫んでいるのに、動かない。

 

彼女が、虹夏ちゃんがいるはずなのに

今は、その思考が停止しているかのようで

 

目の前には喜多さんの可愛らしくて、綺麗な顔。

喜多さんの瞳が開いたまま俺を見つめていて、逃げられない。

 

結局、また人を裏切ってしまうことになってしまう

 

…結局、俺は———

 

喜多「…先輩。私のファーストキスあげました。」

 

『責任、とってくださいね?』

 

——————最低(クズ)だ。

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