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そんなぽいずんさんがうちに訪れてから数日。
結束バンドの面々は今日も今日とて練習に明け暮れていたのだ。
虹夏「ふぅ…よし、今日の練習終わり!お疲れ様。」
喜多「あ、もうそんな時間!」
ひとり「そ、それでは私はこの辺で…」
リョウ「じゃあ帰ろう響木にぃ。」
そうこうしているうちに今日の練習は終わっていた。
聞いていたがやはりまだ拙い。
決して稚拙というわけではない。ただ言ってしまえば“並“。
響木「その前に。」
「ひとりちゃん。」
ひとり「あ…うん、どう、だった?」
響木「ソロはいつもながら完璧。ただセッションは相変わらずだね。まるで合ってない。多少なりとも昔STARRYで初めてやった時よりは大分マシにはなったけれどあくまでもマシになっただけ。」
ひとり「う…」
響木「それと喜多ちゃん。」
喜多「は、はい。」(唇を噛みながら、小さく頷く)
響木「まだ声が張れてない。かといって演奏がうまくいっているかと言われればそうじゃない。いずれも中途半端になってるよ。うまくやろうとしない事。」
喜多「…」
響木「リョウ。」
リョウ「ん。」
響木「正直うまく合わせてるだけ、だね。色がない。言い方変えるとリョウらしさが感じられない。」
リョウ「私らしさ…」
響木「最後、虹夏ちゃん。」
虹夏「うん。いつでもバッチこい。」
響木「ドラムは言うなればそのバンドの要的存在でドラムがその曲の軸をズラせばそれはまた別の曲になってしまう。それくらい重要な存在。それは理解してる?」
虹夏「一応、そのつもり。」
響木「そしたら今、このバンドで1番変える必要があるのは虹夏ちゃんだよ。」(ただそれと同時に1番バンドを左右する存在するものでもある。)
虹夏「!」
ひとり「そ、それってどういう…」
響木「以上。それじゃ、解散。」
その時のスタジオの空気はお通夜状態といってもいいだろう。
とてつもなく重苦しい空気が流れていた。
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「ふぅ…」
手に持っていたのは缶コーヒー。
ブラックの苦味は苦手だから微糖だ。
ほんのり苦い、ほんのり甘い。
息を吐くと白い息が暗く寂しい寒空を照らすように浮き出た。
まるで逃げ出した自分の存在を誇示したいかのように。
「良かった。まだ居た。」
まさか見つけられると思わなかった。
まぁ見つけられるほど目立つ場所に未だ立っている自分が言うのはおかしいのだけれど。
響木「何かあった?リョウ。」
リョウ「それはこっちの話。どうしたの?響木にぃらしくない。」
響木「はは。それってどう言う意味?」
リョウ「響木にぃはもっと優しい。あんな突き放すことは言わない。」
リョウは真っ直ぐに、それでいて俺の中の深層まで覗くかのように見つめた。
響木「…なんでもないよ。」
リョウ「言えないこと?」
そう言って彼女はさらに近寄ってきた。
本当に顔は良い。あの頃も可愛いと思っていたけれど今は美人だ。
リョウ「ふふ、そんな熱視線を送られると照れる。」
響木「送ってるつもりはないんだけれどね。」
そう言ってリョウはもう一歩近づいた。
それこそ顔が重なり合うかのようなところまで。
その時、わずかにコロンの香りが俺の鼻を掠めた。
思わず息を呑んだ。
昔のような可愛くて美人な女の子じゃない。
昔よりずっと、彼女は女に代わっていた。
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場面は変わり、数分前のこと。
スタジオ、STARRY内で私たち、結束バンドは佇んでいた。
練習終わりのはずなのに誰1人として帰ろうとはしてなかった。
そんな中、私は言われたことに傷ついた。
俯いたまま、誰にも気づかれないように。
音も立てずにスタジオを出た。
その時、閉まる扉の“パタン“という音だけが耳に残った。
虹夏「響木お兄ちゃん…」
声にならない声が
1人で、暗くて、寂しい、黒い空間に吸い込まれた。
ずっと昔。
あれは私がまだ幼い頃に知り合ったかっこいい、と言うよりも可愛らしいが似合うほどの男の子。
恋心を自覚した途端に消えてしまった幼馴染。
ドがつくほどの優しくて、私にとってかっこいい男の子。
そんな人に1番悪いレッテルを貼られてしまった情けない私。
虹夏「理想に、お兄ちゃんの…」
お兄ちゃんの理想になりたい。
あの時、この人の隣に居たいと見ていて欲しいと望んだのだから。
なら隣に立てるほどの理想にならなきゃ、私を見てくれない。
けれど今の自分じゃ届かない。
別にここで毒吐いたところで何も変わらないけれど涙が止まらない。
なんであんなことを言ったのかがまだ理解できていない。
虹夏「きっと今のままじゃダメなんだ…」
ただいつまでもここで泣いてばかりではいけない。
仮にも結束バンドのリーダーで支えなくてはならない立場。
もう一度2人っきりで、お兄ちゃんと話してちゃんと前を向かなくちゃ。
お兄ちゃんの理想になれるように。
そう思って戻ろうと思い、スタジオの扉に手を伸ばす。
けれど、その時私は違和感に気づいた。
ーーーー話し声。
聞こえるのはSTARRYの入り口。
もう割と夜も更けている頃だ。そんな中で話込んでいることに違和感が過った。
だからか、思わず入り口に向かってしまった。
あの時、向かわなければ私は知ることはなかったというのに。
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皆、落ち込んでる。
それもそうだ。いつもそばで応援してくれて、支えてくれていた人からあんな言葉をもらったんだ。
当然だ。
でも私は違った。
『ソロは完璧。』
私は響木くんに認められている。
褒めてもらえる。
私を見つめていた“目“も虹夏ちゃんや喜多さんとは違う。
私に言った時の“声“も、私の音を聞いてくれる“耳“も。
喜多「ひとりちゃん。」
ひとり「は、はい…!?」
喜多「私、まだまだ、なのかな。」
ひとり「…い、いえ、その、喜多さんは十分、頑張ってると思います「でも、響木先輩は」」
そう言って喜多さんは俯いてしまった。
当然だ。私だったらとっくにバンドを辞めている。
でも私は違う。
喜多「ねぇ、ひとりちゃん。」
「なんで笑ってるの?」
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俺とリョウの距離は、唇が触れ合ってしまうほどに近づいていた。
その時ーーーー
「ガタンッ!」
後ろで物音が鳴った。
ーーーーー我に帰るには、遅すぎた。
「っ…!」
すぐに俺はリョウの肩を押し返す。
リョウは驚いたように目を見開き、少しだけバランスを崩した。
ただそれ以上は何も言わなかった。
「…リョウ?」
俺の声はひどく乾いていた。
心臓が、まだ熱を帯びているようだった。
「…そっか。そうなんだ。」
リョウはどこか含みを持たせるような、けれど普段通りのトーンだった。
それが逆に、俺の動揺を深くさせた。
「ごめん、響木にぃ。もう行こ。虹夏たち、待たせちゃってるし。」
そう言って、リョウは先に戻っていった。
その背中はいつも通りのリョウに戻っていてーーーーー
それでも、どこか違って見えた。