Q.どうして神様転生で、スコアアタックを走らなければならないのか? 作:落陽 幽雪
アルフレッド・アインホルンの人生において、敗北の二文字は決して珍しいものではなかった。
『ええ、そうやって喰らいついてくる狼の方がたたきがいがありますわ。』
先日、正に彼は鎖狼の乙女ことシェルラルカ・グッドライズに対して、決闘を挑み、そして、負けた。清々しい程の敗北だったと思う、と同時に自身の不甲斐無さにため息がこぼれるのも事実だった。
シェルラルカが踏みにじり、そしてアルフレッドが背負おうとしたもの。学園に必要なのは強者だけ、その基準を満たしていなければ、王族であろうと試験から落とすと堂々と謳っているこの学園にとって、試験から落ちたものは例外なく敗者であり、必要とされないものなのだ。
無論、その中でも
「シェルラルカ・グッドライズ……噂に違わず、鮮烈な女性だったな……。」
まだ他の生徒の来ていない一人だけの教室で、そう呟いた。少しすれば同じ
「アルフレッドくんおはよう!」「よう、アルフレッド、昨日は凄かったな。」「アルフレッドくんあんなふうに思ってたんだ。」「くそう、なんで負けたんだよ、お前に賭けてたのに!」「賭けてる方が悪いでしょそれ!!」
「昨日は残念だったな、けど誰もアルフレッドが劣ってるなんて思ってねぇぞ」
面と向かってそう励まされると、少し照れるような気恥ずかしい気持ちになるが。
「あぁ、ありがとう、僕としても昨日で終わりだなんて思ってないさ、今後も鍛錬を欠かさずいつかリベンジするつもりだ。」
そう決意を述べる、このまま負けたままでは終われない、いつだって負けたところから学んできた人生だったのだ、今回だって同じことだ。鍛錬して追い付いて、次は勝つ、それだけのことだ。
そう思考してると同じ学科の生徒が口を開く。
「その前に、私たちとの決闘も忘れないでくださいね、予約待ちみたいにみっちりと予定詰まってるんですから」
そうだったなと苦笑する、目標に目を向けるのも大切だが、今は同胞たちと高めあうことも大切だろうと思う。
そう言えば話題の渦中の人物であった、シェルラルカの方は今はどうなっているのだろうか。彼女も自分みたいに、学友たちに囲まれてわちゃわちゃしているのだろうと考えると、少しほほえましい気持ちになってくる。
「……ラルカさん ……シェルラルカさん」
はっ! 危うく爆睡するところだった、というかもうほぼ寝ていた。退屈なんだよな
「シェルラルカさん退屈なのは分かりますが、最低限起きていてくださいね」
「はーい」
そう気の抜けたような返事をすれば授業を担当している先生は苦笑いしていた。苦笑いの後、思いついたかのようにシェルラルカの名前を呼んだ。
「そうだ、シェルラルカさん、貴方なら基本魔法であるフレイム、一節と十節ではどう詠唱しますか? 」
「うーん、そうですね。一節なら、 燃えよ フレイム 、十節なら…… 我は火を抱くもの 燃えよ 燃えよ 燃えよ 願うたびに三度 消えぬ灯 燃え滾る焔 軌跡を絶やさず 白き火にて 全てを燃やせ フレイム ……ですかね。」
そう言って十節の詠唱にて顕現したボーリングボール大の大きさの白い火球を手を振って消滅させる。
「うーん、言動以外を見れば優等生のそれなんですがねぇ、詠唱も癖がなく誰でも使える神話要素を抜いた比較的簡単な詠唱ですし……」
そりゃあまぁ、死ぬほど勉強させてもらえる環境だったから、折角転生したんだし魔法の学習は急務だった、まさか期限が別のところからやってくるとは思わなかったが。
「さぁて、皆さん授業もあと少しですので、せめて寝ずに聞き流してもいいですから受けてってくださいね。」
そう言って先生が授業を再開する、真面目に聞くもの、聞き流すもの、バレないように眠りにつくもの、内職をするもの、様々だった。
「そうだ、さっきは起こしてくださりありがとうございましたわ」
そう隣の子に伝える、そうすると隣の子は恥ずかしそうに謙遜するように手をふった。にしても可愛いなこの子、メカクレ族は心の健康にいいのでできればもっと増えてほしい。
名無し そう言えばお嬢、今日は何するか決めてるの?
ふとコメント欄を見たらそう書いてあったから答えるが、今日は決闘もお休みでお茶会の日である。なんせ今日は婚約者との約束があるのだ、婚約者と言っても親がいた代からの約束だからもう婚約自体を反故にしてもいいのだが、あちらからの熱烈なアプローチに断るに断れず今日までここに至ると言った感じだ。
そういうわけでアフタヌーンティー方式でお茶会である、参加者は私の婚約者であるルクス・レイライン、黒髪黒目で日本にいてもおかしくないような見た目をしている、そんな郷愁を感じさせる見た目が婚約を断れない要因の一つでもある。
そこに加えて先日決闘を経て仲良くなったアルフレッド・アインホルン、金髪に碧眼と王子様然とした見た目をしている。
そして最後に今日の授業で横に座っていたメカクレちゃんである、見た目は灰色の髪に金眼で何となく小動物っぽい見た目をしている。
「それで、そこにいるのが件の噂になっていたアルフレッドくんか。」
「貴方がルクスさんですね、
「なぁ、シエル、アルフレッドの話は聞いてたが、そっちの小動物みてぇな子はどうしたんだよ。」
「拾いましたわ、あ、そうそうお二方も気軽にシエルと呼んで構いませんのよ、シェルラルカじゃ長いでしょう? 」
「拾われ……ちゃった、ミルヒ・グラスランナー……気軽にミルヒでいいよ、よろしく。」
それぞれの個性的な自己紹介? の後、話は自然とこの間の決闘についての話へと移り変わっていった。最初に話を切り出したのはルクスだった。
「おっ、これ美味いな。そういやシエル、
「このお馬鹿さんは何も知りませんのね。仕方ないから説明してあげましょう、まず
今更の説明になるが、この王立中央学園には
「ほーん、てことは
「ん、その通りですわ。ちゃんと美味しくできてますわね、やっぱり自分で作った方が好みに合いますわね。」
ケーキスタンドからサンドイッチを手に取り味を確認する、前世の癖が抜けないからかやっぱり自分で作る方が、味としても好みとしても信頼できる。割と強引に連れて来たミルヒちゃんもちゃんと楽しめているようで改めて呼んでよかったと思う。
そんなこんなで雑談をしながらわいのわいのしていると、ミルヒが、あっやらかしたとでもいうような顔で急いで机の下に隠れようとした。
「見つけました!! ミルヒ・グラスランナー!! 決闘ですわっ!! 」
「なんで
そう言って観念したようにテーブルの下からミルヒが出てくると、その女子生徒が憤慨するように一枚の紙をミルヒに叩きつけた。
「もう先生の承認は取れてますわ、明日の放課後お待ちしておりますわ。」
「それとなんでとおっしゃりましたわね、単純ですわ、貴女が
「それでは明日を楽しみにしておりますわ。」
そう言って彼女は去っていった。私達三人は置いてけぼりである、渦中のミルヒを見ると自身に叩きつけられた決闘の許可証を見て茫然と突っ立っていた。
「ミルヒさん、貴女元々は
そういうと彼女は苦笑いで答えた。
「そう、でも私には適正がなかったから、
そういうと、彼女は手に持っていた決闘の許可証をポケットに突っ込み、元の座っていた席に戻ってスコーンを手に取った。
「まぁ、明日見ててよ、私の実力見せてあげる。」
そう自信満々に言ってのけ、スコーンを口に運んだ。
そして次の日……
決闘を行う闘技場には、自身とアルフレッドの時ほどでないにせよ、そこそこの人数の観客が席を埋めていた。アルフレッドも自身の決闘を終わらせ、この会場に来ていた。
というかこの世界の住民、決闘好きすぎるだろ。ほぼ毎日決闘決闘どこかで誰かが誰かと必ず戦っている。まぁ、それくらいしか娯楽といった娯楽がないと言えばそれまでだが。決闘には何かが賭けられていることも多い。名誉だったりマジックアイテムだったり、基本両者合意の上だが何と無く嫌な予感がする、当たらなければいいのだが。こういう時の嫌な予感を外したことがない。
ミルヒと相手の
そして、見ただけで分かった、あの
審判として教員が出て来る、いつも審判役お疲れ様です。
「それではミルヒ・グラスランナーとキャシー・ハートアーツの決闘を始めます、ではお二方今回の決闘に賭けられるものの確認を。」
「ええ、キャシー・ハートアーツは今回の決闘で賭けられるものが負けた生徒の自主退学であることを認めますわ。」
「……そんなこと書いてたんだ、あれ。」
そう呟いたのがシェルラルカにはよく聞こえてしまった、その賭け金に対して
「ミルヒさん……今ならまだ……」
とっさにそんな言葉が出てしまった、けれどそんな声を打ち砕くようにミルヒは声を上げた。
「ん、ミルヒ・グラスランナーもその賭けに同意する、シエル、心配してくれてるのはうれしいけど、大丈夫見せてあげるから、私の力。」
「ふん、その強気がどこまで続くか見ものですわね、いいんですわよ今泣いて土下座すれば自主退学は消してあげますわよ、おほほほ。」
こほんと、審判役を担っている先生が小さな咳払いをした。
「これより、両者合意のもと、決闘を始めます。ミルヒさん、キャシーさん、双方六節までの事前詠唱が許可されています。」
先に詠唱を始めたのはキャシーの方だった。
「 我ら祈る者 手折る事無く 剣携えることなく ただ我が騎士に 祈りを捧ぐ 勝利せよ 」
遅れてミルヒが詠唱する。
「 我ら祈る者 この手に溢さず 命の奔流を ただ倒れることなく 祈りを捧ぐ 我を癒せ 」
二人が呪文を唱え終えると、教員がカウントダウンを始める。魔素エーテルが輝き、魔力オドが溢れる、ざわつくような観客席の声も今のミルヒには心地よかった。
「両者構え、3、2、1、開始!! 」
「ブレッシング!」「リジェネーション」
二人の魔法が同時に起動する。同時に祝福を受けた騎士がミルヒに向かって駆けだした。
「悪く思うなよ、お嬢様の命令なんだ。」
そう言って騎士が剣を振りかぶる。
「
ミルヒが相手の剣戟をぬるっと躱すと相手の鎧越しに胸部に手を当てる。
「ちょっと痛むよ。」
ミルヒがそのまま力を入れると騎士の男はそのまま吹き飛び、壁に激突しそのままめり込んで動けなくなった。
観客のだれもがキャシーの騎士が勝つと思っていた、それだけミルヒと騎士の経験には差があったはずだった、それを一撃でひっくり返した少女は、まるで当たり前であるかのように呟いた。
「やっぱり、こっちの方が速い。」
「な、なにが、一撃で、だって、わざわざ、上級生の……」
そう現実を吞み込めていない少女にミルヒが近づいていく。
「ごめんね、でも気が付いたんだ、拳で直接行った方が速いって。んじゃ、もう会わないかもしれないけど、ばいばい。」
そんなこんなでこの日の決闘は見たものの記憶に残る衝撃的なものになりましたとさ。