⚠「黒き深淵にて、声が届く」の話を読んでからをオススメします
虚無に包まれた精神空間――
そこに存在するのは、激動の外界とは裏腹な、静かなる観測者たち。
ヴェルドラ=テンペスト。かつての暴風竜にして、リムルの盟友。
そしてその傍らには、かつて火霊精だった存在――イフリートが控えていた。
「……ベルという少年、あれほどまでに純粋な意志を持っているとはな」
ヴェルドラが腕を組み、空間に浮かぶ“リムルとベルの戦い”を見つめていた。
その表情には、かつての飄々とした調子はなかった。
「ええ、ですが……」
イフリートは一歩前に出て、拳を強く握りしめる。
「ヴェルドラ様、このままではリムル様が……“本当に戻れなくなってしまう”のではありませんか」
その声音は、弟子としての不安と、主に対する深い忠誠が入り混じっていた。
「……心配か」
「はい。あのお方の魂の奥に、まだ“あの日々”が残っていると信じたい。
ですが、それも……限界が近い気がしてなりません」
イフリートは歯を噛みしめる。
ベルの叫び、リムルの拒絶――そのやりとりが、あまりに哀しかった。
ヴェルドラは眉を寄せ、しばし沈黙。
「……かつて、我も同じ道を歩いた。絶望に囚われ、怒りに身を任せ、力を暴走させた。
だがリムルは違う。あいつは、どんなに傷ついても、誰かを傷つけたくないと願っていた。だからこそ……」
そこで言葉を止め、低く呟く。
「今のリムルは……まるで、“自分自身”を罰しているようにも見える」
イフリートはその言葉に、はっとしたように目を見開いた。
「……自己罰、ですか」
「誰かに止めてほしい。でも、それを望むことすら裏切りに思える。
そういう地獄だ。俺も……見覚えがある」
そして、ヴェルドラはイフリートの方を見やる。
「イフリート。お前はどうしたい?」
「……!」
問いかけに、イフリートは胸に手を当てた。
「リムル様を……お救いしたいです。
ですが、我らは今、直接干渉できない。ならばせめて、ここで見失わぬよう、内から支え続けるしか――」
「うむ。正しい判断だ」
ヴェルドラは満足げにうなずく。
「まだ光は消えてはない。ほんの僅かだが、ベルの声に――リムルは揺れていた」
「はい、ヴェルドラ様。……ならば我らは、信じて見守るのみ。
たとえ今は届かずとも、いつかその手が、また誰かを救える日が来ると――」
「ふん。イフリートのくせに、偉そうだな?」
「それは、ヴェルドラ様の教えあってこそです」
「……フッ、まあいい。ならば見届けよう。
あのバカ正直なスライムが、どこまで堕ちるか、あるいは這い上がるか」
ヴェルドラは、再び“戦いの幻影”へと目を向けた。
その視線の奥には、かつて交わした笑顔と誓いが、確かにあった。