ヤードラット星、白い霧に包まれた山の内部――
淡い光が差し込む洞窟の中、バーダックは岩に腰掛け、額から汗を垂らしていた。
向かいには、穏やかな顔のセレア。いつものように静かに佇んでいる。
「気を整えて……心を、静かに。感じてみろ」
「チッ……またそれか。何日、同じこと言いやがる……!」
バーダックは吐き捨てるように立ち上がる。
結局バーダックはセレアからの修行の申し出を受けることにしていた。
(……あくまで強くなるため、フリーザのやろうをブッ飛ばすためだ……!)
バーダックはそう自分に言い聞かせヤードラット星人の技術、スピリットを学んでいた。
それでも修行は進まない。己の“気”は練れるが、セレアが言う「感覚」には届かない。
「“スピリット”だろ? どう違うってんだ。気だって感情で動くだろうが」
セレアは首を横に振る。
「言葉の違いではない。“スピリット”とは……自分を知る力だ。
お前は、怒りと誇りで生きてきた。それは悪くない。だが今、迷っている」
「……!」
バーダックの表情が険しくなる。
あの子供を助けた時――戦士としての誇りと、訳の分からない“感情”がぶつかり合っていた。
(俺はサイヤ人だ。戦いが全ての種族。殺すか、殺されるか――そう生きてきた)
(でも……あの子供を、見殺しにはできなかった)
その理由は年が自信の息子の長男と同じくらいっだったからか、恩を返すためだったか。
どちらにしろ以前のバーダックだったら考えられないような行動だった。
その原因は己の気の迷いか、それとも……
「……オレは……弱くなったのか?」
ぽつりと、口から漏れる疑問。
セレアは静かに答える。
「弱くなったのではない。お前は、変わり始めている。それを受け入れるか、否定するかは……お前次第だ」
その言葉が、やけに胸に刺さる。
翌日。
村の中央広場――
バーダックは言われるまま、建設中の施設の資材を運んでいた。
無言で、黙々と。
周囲のヤードラット星人は、最初こそ警戒していたが、次第に少しずつ距離を縮めていた。
子供たちは彼の後ろをちょこちょこついてくる。
「おい、離れろ。危ねぇぞ……ったく」
言いながらも、バーダックの手が、瓦礫に足を取られた小さな子をそっと支える。
「……ありがと!」
「……っ、礼なんか言うな。気色わりぃ」
(……オレは何やってんだ)
気づけば、笑い声に囲まれていた。
こんなのは……惑星ベジータにはなかった。
その夜。再び洞窟の中――
バーダックは座禅を組み、目を閉じていた。
怒りでも、誇りでもない。
ただ、自分の“今”と向き合う。
「……俺は……強くなりたい。
仲間の仇を討つため……いや……生き残った意味を……見せつけるために――!」
その瞬間、周囲の空気がふっと変わった。
心の深く――“静けさ”と“熱”が、同時に広がる感覚。
バーダックは目を開けた。
「……これは……」
立ち上がると、瞬間、バーダックの身体が空間を滑るように一瞬消え、数歩先に現れた。
これはヤードラット星人の持つ特有の技術。彼らにとっての基礎的な技。
不完全な、だが確実に実感できたーー瞬間移動。
「!? 今……動いた、のか?」
セレアが静かに頷く。
「やっと……心が整ったな。怒りでも、執着でもない。
ただ――お前自身の“意思”が動かした。
それがスピリット。お前の“気”は、もう次の段階に入っている」
「……フッ、あっけねえな。
けど……ここからが、本番だろ」
バーダックの口元に、戦士らしい笑みが戻っていた。
そして――
ヤードラットの夜空の下、静かに幕が開く。
サイヤ人、バーダックの“新たな力”を得る旅が。
つづく
瞬間移動っていいですよね