「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった」
午後のヒーロー基礎学が始まると同時に、相澤先生が告げる。
「はい!何するんですか?」
「災害水難なんでもござれ、レスキュー訓練だ!」
瀬呂殿が相澤先生に聞くと、先生は RESCUE と書かれた紙を取り出してそう言った。オールマイト先生といい、どこからともなくあの紙を取り出すのは雄英教師の必須技能だったりするのだろうか?
「レスキュー……?今回も大変そうだな……」
「ねー」
「ばっかお前、これこそヒーローの本文だぜ!鳴るぜ腕が!」
「水難なら私の独壇場、ケロケロ」
「おいまだ途中……今回コスチュームの着用は、各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな」
(コスチュームは自由か。私は動きやすい単なる戦闘服、着ておくに越したことはないな)
「訓練場は少し離れた所にあるから、バスに乗っていく……以上。準備開始!」
着替えてバスの所に向かうと、コスチュームの着用は各自の判断とされたものの殆どのクラスメイトはコスチュームに着替えていた。
「1-A集合!バスの席順でスムーズに行くよう、番号順に2列で並ぼう!」
「飯田君、フルスロットル……」
「いずれ空回りしなければいいが」
「クソっ……こういうタイプだったか……!」
「意味なかったなー」
「いずれとは言ったが、まさかこうも早いとは」
移動用のバスは2人席が並んでいるタイプではなく、どちらかと言えば公共バスのような……2人席と向かい合った長椅子が共存しているタイプだった。
「私、思ったことはなんでも言っちゃうの。緑谷ちゃん」
「なぁっ!アッ、蛙水さんっ!」
「梅雨ちゃんと呼んで。あなたの個性、オールマイトに似てる」
「ウェッ!?そ、そうかなぁ!?いやでも、あの僕は、その……」
蛙水殿にそう言われた緑谷殿が、明らかに動揺している。隠し事が下手すぎるとも思ったが、思い返すと彼はそもそも女性とのコミュニケーションが苦手な節があったし、今回もそれだろう。
「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトは怪我しねぇぞ。似て非なるアレだぜ。しっかし増強型のシンプルな個性はいいなぁ!派手でできることが多い!俺の硬化は対人じゃ強ぇけど、如何せん地味なんだよなぁ」
「僕はすごいカッコイイと思うよ!プロにも十分通用する個性だよ!」
「プロなぁ、しかしやっぱヒーローも人気商売なとこあるぜ?」
「ボクのネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み☆」
「でもお腹壊しちゃうのは良くないね」
「でもまあ、派手で強いつったらやっぱ、轟と爆豪、それにスネージヴィナだな!」
「ケッ……」
「私もか」
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそう」
「ンだとコラ!出すわ!!」
「この付き合いの浅さで、既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されてるってすげえよ」
「テメェのボキャブラリーは何だよコラ殺すぞ!!」
「低俗な会話ですこと」
「でもこういうの好きだ、私!」
「……まあ、元気があるのは結構なことじゃないか」
「もう着くぞ!いい加減にしとけ!」
「「「はい!!」」」
「皆さん、待ってましたよ!」
バスが到着したのはドーム型の訓練場。3人目の担当教員と思われるヒーローが入口前で待機していた。
「スペースヒーロー13号だ!災害救助で目覚しい活躍をしている紳士的ヒーロー!」
「わぁー!私好きなの、13号!」
「早速中に入りましょう!」
「「「よろしくお願いします!!」」」
ドームの中に入ると、岩山や崩壊した建物、巨大プールなどの様々な施設があり、ひとつの施設であらゆる災害現場を訓練できるようにしているのだということが見受けられる。
「すっげー!USJかよ!」
「水難事故、土砂災害、火災、暴風etc……あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です!その名も……」
「ウソの災害や事故ルーム!略して、USJ!」
(((ホントにUSJだった……!)))
(著作権的な問題は大丈夫なのか……?)
「13号、オールマイトは?ここで待ち合わせるはずだが……」
「……不合理の極みだな」
相澤先生が13号先生に何かを聞いたようで、ほとんど聞こえなかったがその後の先生の顔から恐らく何か先生的に非合理的な事があったのだろうと予想は着いた。
「仕方ない、始めるか」
「えー、始める前にお小言を1つ、2つ……3つ、4つ……」
(((増える……)))
「皆さんご存知とは思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んで、チリにしてしまいます」
「その個性で、どんな災害からも人を救いあげるんですよね!」
緑谷殿の発言に、麗日殿がものすごい勢いで首を縦に降っている。よほど13号先生の事が好きなんだろう。
「ええ。しかし、簡単に人を殺せる力です。みんなの中にもそういう個性がいるでしょう」
「超人社会は、個性の使用を資格制にし厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる行き過ぎた個性を個々が持っていることを忘れないでください!」
「相澤さんの体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘訓練で、それを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では、心機一転!人命のために、個性をどう活用するかを学んでいきましょう!」
「君たちの力は、人を傷つけるためにあるのではない、救けるためにあるのだと、心得て帰ってくださいな!以上、ご清聴ありがとうございました!」
13号先生の「お小言」が終わると同時に、クラス中から歓声が上がる。私も、その言葉には感動を覚えていた。
「素敵ー!」
「ブラボー!」
「よーし。そんじゃまずは……」
相澤先生が口を開いた瞬間。
(……ッッ!!!)
内部の照明がバチリと音を上げ、それと同時に猛烈な嫌な予感が背筋を過ぎった。お母様との訓練中に何度か感じた死の気配と似た予感に、全身が震え上がる。
「ッ!」
相澤先生も何かを感じたようで、広場の方に振り返る。そちらに視線を向けると、中心にある噴水のあたりから黒く渦巻くもやが浮かびあがって……その中から、複数の人間が出てくるのが見えた。
「全員、ひとかたまりになって動くな!13号、生徒を守れ!」
「なんだありゃ……また入試の時みたいに、もう始まってるってパターンか?」
「「動くな!」」
私と相澤先生の声が重なる。
「あれは……
相澤先生がそう言うと同時に、軍団の最後尾から現れた黒い化け物。それが私の目に入ると同時に、先程からの嫌な予感が更に膨れ上がり、それと同時にアレに対する酷い嫌悪感が湧き上がってきた。
(なんだ、あの黒い巨体は!見ているだけで腸が煮えくり返るような感覚……!お母様と相対したあの時と同じか、それ以上の……!!)
「13号に、イレイザーヘッドですか……先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが」
「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」
(先日の……まさか、マスコミの侵入騒動?)
「どこだよ……せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ……オールマイト、平和の象徴が居ないなんて……子供を殺せば来るのかなぁ??」
お母様との訓練で浴びせられたのは、殺意であっても悪意ではなかった。しかし、ここに来た彼らが発しているのは、純然たる悪意。おそらく、私以外にも大半がそれを感じ取っているだろう。
「はぁ!?
「先生、侵入者感知用のセンサーは?」
「もちろんありますが……」
「現れたのはここだけか、学校全体か……なんにせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうことができる奴がいるってことだな」
「奴らは、校舎から離れた訓練場に学生が集まる時間割を把握している」
「ああ……バカだがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」
轟殿の分析を聞いたクラス全体に緊張が走る。
「13号、避難開始。学校に連絡試せ……センサーの対策も頭にある敵だ、電波系の奴が妨害している可能性がある」
「上鳴!お前も個性で連絡試せ」
「あっ、ス!」
「先生は!?一人で戦うんですか!?あの数じゃ、いくら個性を消すと言っても……!」
「一芸だけじゃヒーローは務まらん……任せた、13号」
そう言うと相澤先生は一人で敵の一軍に飛び込んでいった。先生はその個性と布を駆使してまず数人を捕縛し、そのまま捕縛した敵を振り回して武器にすることで一気に複数人を制圧していく。
「凄い……多対一こそ、先生の得意分野だったんだ」
「分析している場合じゃない!早く!」
13号先生を先頭に、出口に向かって駆けていく。しかし……
「させませんよ。初めまして、我々は
「本来なら、ここにオールマイトがいらっしゃる筈。ですが、何か変更があったのでしょうか?まあ、それとは関係なく、私の役目はコレ……」
「でぇりゃぁッ!!」
「うぉらァッ!!」
黒いもやが何かを話終える前に切島殿と爆豪殿がそれに向かって突っ込んでいき、爆豪殿の爆発で黒い煙が舞う。
「その前に俺たちにやられることは考えなかったか!」
切島殿が威勢よくそう叫んだが、煙からは未だ黒いもやからの声が聞こえ、その健在が示されている。
「危ない危ない……生徒といえど、優秀な金の卵……」
「ダメだ!どきなさい、2人とも!」
「私の役目は……あなた達を散らして!嬲り殺す!!」
次の瞬間、黒いもやが一気に広がった。咄嗟に自分と近くにいた者の口を塞いだが、回避行動は間に合わずもやに呑まれてしまう。
(毒ガス……!?いや違う、敵たちはこの中から現れた……つまり、これは!)
「くぁっ……!やはり、ワープの個性!」
黒いもやから吐き出されると同時に地面に叩きつけられる。周囲を見ると、火がそこらじゅうで上がっている街の中に、多数の敵が構えているのが見えた。
「ここは……火災エリアか?」
「そうみたいだな……無事か?スネージヴィナさん」
「ああ。そちらも問題なさそうだな、尾白殿」
「問題ないかどうかは分かんねぇけどな……!」
ここに飛ばされてきたのは、どうやら私と尾白殿の2人。敵は恐らく炎に強い者ばかりだろうから、私の個性の副次作用は効き目が薄そうだ。しかし、わかったこともある。
「尾白殿。恐らくだが、奴らは私達の個性までは把握できていない」
「なんでそう分かる?」
「私の個性……主に固めた血を武器にするということを知っているなら、私のことは血を固められなくなる水難エリアか暴風雨エリアに送るはずだ」
「ま、どっちみち俺の個性は外から丸わかりだけどな……!」
尾白殿と話していると、周囲の敵連中が大声で威嚇してくる。
「作戦会議は終わったかァ!? そんじゃまぁ……死ねやぁぁぁ!!!!」
「うおぉぉぉぉ!!!」
「切り抜けて正面ゲートに向かうぞ、尾白殿。私は後方から支援する、君は集中して目の前の敵と戦うんだ」
「ああ……!」
薬指のボタンを押してブラディトリガーを引き抜く。その武装は弓、唯一の遠距離武器であり、外部からパーツを補強する必要がある武装だ。腰に巻いたベルトのバックルから糸を取り出して弦にし弓を、リング内に残った血で矢を形成する。
「ヘッ、弓なんてシャラくせぇ!!後ろががら空きだぜェェェ!!」
私の後ろから異形型の男が飛びかかってくる。静かにすれば気付くのが遅れただろうに、大声を出すものだから私には飛んできているのが丸わかりだ。
「ブラディチョーカー、
首元のチョーカー、その中に仕組まれた音声認識機能と採血機能を起動する。ブラディトリガーの機能を調整する中で考案されたものの受験の日までの完成には至らず、サポートアイテム制作会社の協力でコスチュームと同時期に完成した防御用自動採血兵装。
「うおらァァァァガッッッ!!!???」
「接近を感知し、自動で血液を吸い取るチョーカー。出した瞬間血を固めれば、即席のシールドになる。敵味方の識別は不可……現時点なら申し分ない。そして……」
「ンだよコレ、硬ぇっ!……アァッ!?」
固めたシールドを棘の形に成形し、私を背後から奇襲した敵の肩に飛ばす。その傷口からは……私の血液が、浸透する。
「【勅令結印】……貰うぞ、貴様の体力」
男の体内に浸透した血を経由してそのスタミナを奪うと、その男が痛みと急激な虚脱感に倒れ、同時に私の体内で高速造血が始まる。
「援護の役割を果たすとしよう……フッ!!」
自分に襲いかかってくる相手をチョーカーで迎撃しつつ、尾白殿の背後に回ろうとする敵を片端から撃っていく。弓術の腕前はそうでもないが、血でできた矢にはある程度指向性を持たせることが可能であるが故に、多少狙いは雑でも当たってくれる。さらに矢は貫通して相手の体内に私の血を残していくため、スタミナの奪取による造血も戦えば戦うほど進んでいく。
(とはいえ、二人で処理するには数が多いな。ふむ、やってみるか)
瓦礫をつたってなるべく高いところまで移動すると、やはり屋外にいる敵の位置が丸わかりだった。そのポジションで人差し指、中指、薬指のボタンを押してトリガーを引く。
「【血技装填】……尾白殿、建物の影に」
「っ、わかった!」
「なっ!バカめ、逃がすかよ!!」
「一掃する……【
圧縮により光を放つ三本の血の矢を弓に番え、敵が集中している3方向にそれぞれ指向性を持たせて放つ。それらは着弾点で爆発を起こし、死なない程度にダメージを与えつつ、爆発によって拡散した血の破片が刺さった敵から体力を奪っていく。
「王たるもの、武芸百般に通づるべし……雄英に来てから、お母様の教育が存分に成果を発揮しているのは業腹だが、仕方あるまい。手にあるものは全て使わねばな……尾白殿!周囲の敵は一掃した、出口まで向かうぞ」
「お、おう!」
ペルヴェーレは、壁炉の家で次代の王としての教育を受ける際に、様々な武具の訓練を受けました。その中でも彼女は剣術を得意とし、弓術を苦手としていましたが、それでもお母様による指導のもと、一定の練度は確保しています。