今回かなり短いです。あとペルヴェーレが凄く喋ります。
「……長い話になります。私の生い立ちに関わることなので……」
「構わないのさ、それならお茶を入れるのさ!」
「すみません、わざわざ……」
根津校長は、その小さな身体を上手く扱い2杯のお茶を入れると、その片方を私に差し出した。
「ありがとうございます。では私も……」
手に持っていた袋から白い箱を取り出す。
「ん?それはなんだい?」
「ああ、警察から事情聴取を受けた帰りに行きつけの喫茶店で買ったマカロンなんですが……校長、甘いものはお好きですか?」
「んー、好きでも嫌いでもないのさ。だけど、せっかくなら頂くのさ!」
私は箱を開け、根津校長にお借りした皿に色とりどりのマカロンを3つずつ分けていく。
「ふむ……子供たちに食べさせようと思って買ってきたが、今日これからパレ・メルモニアに顔を出す時間は無くなりそうだな……根津校長、残りのマカロンは先生方でどうぞ」
私はそう言って箱を差し出す。そして根津校長に出してもらったお茶を1口飲み、あらためて座り直した。
「ふう……では、私の幼少期の話からさせていただきます」
「うん、聞かせて欲しいのさ」
そうして私は、ぽつりぽつりと過去の話をし始める。
「……私は、壁炉の家に拾われる前の記憶はありません。そして私が拾われたとき、最初に声を掛けてくれたのが、クリーヴ・スネージヴィナという同年代の少女です」
「壁炉の家には、毎日17時から19時までの間で全員参加の戦闘訓練がありました。私は、その訓練の中で優秀な成績を残し、お母様……例の事件の主犯である逆島 焔に目をつけられ、次代の王という特別な訓練を受けることになりました」
「対して、クリーヴは戦闘訓練の成績は芳しくなく、クリーヴにとっては実の母親であるお母様からも冷たく扱われていました。彼女は運動神経も良くなければ、個性も打たれ強いだけで戦闘向きとは言えない……ショック吸収の、個性でしたから」
「それでも、私と彼女は親友と呼べるほどの間柄になっていきました。私はその、あまり友達作りが上手くなかったのですが、それでも彼女は私に良くしてくれましたから……」
「それで、私は彼女にくっついている時間が殆どでした。そして彼女も、壁炉の家を出た後は私と二人で、という約束をするくらいには、私のことを好ましく思ってくれていたでしょう」
「しかし……私たちが14歳になった年、クリーヴが突如として姿を消しました。ある日に起きたら、いつも隣で眠っているはずのクリーヴがいなかったんです」
私の話を聞いている根津校長の顔に陰りが見え始める。ヒーローとして、何より教育者として、このような事件は許せないのだろう。私自身も、過去のことを思い出すと決していい気分はしない。
「……そうか、その失踪が……」
「……はい。クリーヴが、詩透市連続孤児失踪事件の被害者になった時でした。お母様は最初、彼女は引き取り手が見つかったから居なくなっただけと言っていましたが……実際は、USJを襲撃してきた敵に引き渡されていたのでしょう」
「もしかして、あの脳無という化け物は……」
「……警察の検査が終わらないことには、なんとも言えませんが、少なくとも私は確信を持っています。……あれは、クリーヴです」
改めて口に出すと、やはり凄まじいショックがある。その私の姿を見て、根津校長は私にお茶を勧めた。
「ほら、お茶飲みな」
「ありがとう、ございます……」
「それで、君はあの敵が自分の親友だと知って、怒りのあまり個性を暴走させて戦った、と……」
「……はい」
「そうだとしたら、腑に落ちないことがあるね」
「なんでしょうか?」
「君とあの敵の戦いを見ていた生徒は、君の戦いぶりが極めて冷静だと言っていた。個性の制御が出来なくなる程の怒りの中で、冷静に戦うことが果たしてできるのかな?」
「それ、は……」
根津校長の質問に、思わず口を閉ざしてしまう。あの時起きたことを正直に話すべきか、どうしてもその判断がつかなかったからである。しばらく悩み、マカロンを1つ口に入れて飲み込むと、私は根津校長の目を見て、決心した。
「根津校長……恐らくですが、私の中には、私の知らないもう1つの人格があります。あの時戦っていたのは、そちらの人格です」
「第二の人格か……君の個性は、それが生まれるようなものなのかい?」
「……いいえ。明確な診断は貰っていないので分かりませんが、恐らくこれは……個性由来のものでは、無いかと」
「脳無の腕に槍を刺した時、すぐに脈がないことを感じ取りました。そして、あれがクリーヴの遺体を改造したものだと確信し、敵達に強烈な殺意を抱いた瞬間……」
「頭の中で声が響いて、次の瞬間には意識を失いました。次に気がついた時は目の前にオールマイト先生がいて、意識を失っている間の記憶、というよりは記録に近いものが頭の中に広がっていき、強烈な殺意は消え去っていました」
「……そうか。それが、君が冷静な様子で戦っていた理由なんだね。それじゃあ次の質問さ……なぜ、親友の体である脳無を、自ら手にかけようとしたんだい?」
「……」
「あの場にいた生徒から、君はあの脳無に「私が引導を渡さなければならなかった相手」と言ったそうだね。それが何故か、教えて欲しいのさ」
私は再び下を向き、沈黙する。話したところで、信じてもらえるか分からないうえに、そもそも荒唐無稽な話であるからだ。顔をあげて根津校長の顔を見ると、その目は真っ直ぐ私のことを見据えていた。
「……滑稽な話です。構いませんか?」
「構わないのさ」
「……クリーヴは、『永遠の地の英雄たち』という絵本が大好きでした。その絵本には、『死んだ人は西風の果てに渡り、そこで大切な人々と再開する』という一文があるのです」
「彼女は、小さい頃からずっとその一文を信じていました。今は、私も。その絵本の中で、西風の果てに渡れるのは肉体を失った者だけ。心が死んでも体が健在なら、そこに渡る事は出来ませんでした」
「……私は、彼女に苦しむことなく西風の果てへたどり着いて欲しかった。そしてそれは、彼女がああなってしまうことを防げなかった私の使命だと思っていたんです」
「私に、彼女の肉体を消滅させるほどの攻撃を行うことはできないことは分かっていました。それでも、彼女を討たなければならないと」
話し終えた私は、再び顔を伏せる。根津校長は、そんな私にお茶を飲みながら語りかけてきた。
「事情はわかったのさ。今回君がしたことは、一歩間違えれば、オールマイトの戦闘を邪魔しかねなかったということは分かるかい?」
「……はい。私情で取り返しのつかないことをしていたかもしれないと、理解しています」
「それならいいのさ。今回の件、オールマイトは君に反省の意があるのなら罪に問わないと言っている。だから、今回は僕からのお説教で済まそうと思うのさ」
「……寛大な処置、感謝いたします」
「うんうん、ではまず、この個性社会がいかに不安定なものかについて…………」
このあと私は、寛大な処置という発言を心の底から訂正することになるのであった。
次回、新章開幕。