最近地の文が書けなくなってきている気が……
第1幕:体育祭、来たる
根津校長のお説教から解放されたのは、もう日が暮れる寸前の頃だった。家に着いたあと、食事の用意も面倒に思い、買い置きしている冷凍食品で済ませようと冷凍庫を漁っていると、インターホンが鳴った。
「……?こんな時間に来客……」
モニターを確認すると、見覚えのある特徴的な青の混ざった白い髪と眼。私はすぐに玄関まで行き、来客を迎え入れた。
「どうしたんですか、こんな時間に……振奈院長」
「どうしたも何も無いよ!君のいるクラスが、授業中に襲撃されたってニュースで見たから……」
「その件なら、昨日も連絡したはずですが……まあ、上がってください」
「それとこれとは別!やっぱり、顔を見ないと安心できないよ。それに昨日の電話だって、一言無事だってことしか言わなかったし……」
ぶつぶつと何か言う振奈院長を部屋に通し、椅子に座ってもらうと、ペットボトルのお茶を注いで院長に出す。
「それで、要件は私の様子の確認だけですか?」
「まさか!渡すものがいくつかあるんだ……まずはこれね」
そう言うと、院長は紙袋から幾つかのタッパーと魔法瓶を取り出した。
「これは?」
「うちの料理長に作ってもらった料理」
「何故……?」
「そろそろ料理長の味が恋しくなる頃かと思って」
「そんなことはないのですが……まあ、有難く頂きましょう」
タッパーを1つ電子レンジに入れ、残りは冷蔵庫にしまう。実際、今日は夕食を適当に済ませようと思っていた分ありがたい。魔法瓶を開けると、孤児院でもトップの人気メニューであるポワソン・シーフードスープが、タッパーにはミートラザニアが入っていた。
「振奈院長はどうしますか?」
「ああ、僕はもう食べてきたからいいよ」
「わかりました」
温めた料理とスープを皿に出し、手を合わせて食べ始める。慣れ親しんだ味で、まだ最後に食べてから1ヶ月も経っていないのに、やけに懐かしく感じられた。
「……それで、襲撃の時何があったんだい?ただ襲われただけって感じじゃ無さそうだけど」
「……院長に隠し事はできませんね。ですが今回は守秘義務があるので」
「んー、それなら仕方ないね。ああそうだ、まだ渡すものがあるんだった……これ、フレミネから。僕も中身は知らないんだけどね」
院長から白い箱を手渡される。中身は、彼が作ったからくりの中でも代表作と言えるペールスの色違い。同封されている手紙には、リネたち3人からのメッセージが書かれていた。
「リネ、リネット、フレミネ……届けてくれて、ありがとうございます」
「うんうん、仲良きことは美しきことかな、だね。あと、最後に……これは、僕からのプレゼントだ」
先程とは対照的な、黒くて小さい箱。それとなく重量感を感じる。開けてみると、中には……
「これは……赤いガラス玉?」
「僕自作のアクセサリーってところかな。周りの装飾はみんなに手伝ってもらったけど……」
銀細工付きの、赤いガラス細工。ガラスの中にはパレ・メルモニアの紋章が刻まれており、中々に手の込んだものであることが認識できる。
「ま、お守りだと思って持ち歩いててよ」
「ありがとうございます、院長」
その後は近況報告を中心に院長と話しながら夕食を食べ終え、後片付けを終えると、院長が帰る時間になった。
「こんな時間に一人で帰って、大丈夫ですか?」
「心配することは無いよ、フレミネに防犯グッズ借りてきてるし」
「ならいいのですが……料理長に、いつも通り美味しかったと伝えてください。それとリネたち3人には感謝を」
「ああ、伝えておくよ。それじゃ、またね」
「ええ、また」
院長を見送ったあと、寝支度を整えて布団に入った。明日から、また学校だ。
《翌日 1-A教室》
「おはよう」
「「「相澤先生復帰はえぇぇ!!!」」」
教室のドアから、全身が包帯でぐるぐる巻きになった相澤先生が入ってくる。……あの様子なら、まだ安静にしておいた方がいいのではないだろうか?
「先生!無事だったのですね!!」
「無事言うのかな、アレ……」
「俺の安否はどうでもいい……何より、まだ戦いは終わってねぇ」
「戦い……?」
「まさか……」
「また敵が!?」
「雄英体育祭が迫っている!」
「「「クソ学校っぽいの来たァァァァ!!!」」」
体育祭の、開催宣言。それにクラス全体が沸き上がった。
「待て待て!」
「敵に侵入されたばっかなのに、体育祭なんかやって大丈夫なんですか!?」
「また襲撃されたりしたら……」
「逆に開催することで、雄英の危機管理体制が磐石だって示す考えらしい……警備も例年の5倍に強化するそうだ」
「何より、うちの体育祭は最大のチャンス。敵ごときで中止していい催しじゃねぇ」
「いや、そこは中止しよ……?体育の祭りだろ?」
「うちの体育祭は日本のビッグイベントのひとつ。かつては、オリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した……今は知っての通り、規模も人口も縮小し形骸化した」
「そして日本で今、かつてのオリンピックに代わるのが、雄英体育祭だ!」
「当然全国のトップヒーローも見ますのよ、スカウト目的でね!」
「知ってるってば……」
「卒業後は、プロ事務所にサイドキック入りがセオリーだもんな!」
「そっから独立しそびれて、万年サイドキックってのも多いんだよね……上鳴、あんたそうなりそう。アホだし」
「……一理、ある」
「なぁっ……!?」
「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる……時間は有限、プロに見込まれれば、その場で将来が開けるわけだ。年に1回、計3回だけのチャンス!ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ!その気があるなら、準備は怠るな!」
「「「はい!!」」」
《昼休み》
「麗日さん、麗日さんはどうして雄英に、プロヒーローになろうとしてるの?」
昼休み、いつも通り食堂に向かおうとすると、廊下で話している緑谷殿たちを見つけた。
「飯田殿、何の話を?」
「おっ、スネージヴィナ君か。緑谷君が、麗日くんになぜヒーローを志したのかを聞いたんだよ」
「えっと……その……」
「お金!?お金欲しいから、ヒーローに……?」
「き、究極的に言えば……なんかごめんね!?不純で……飯田くんとか立派な動機なのに……私恥ずかしい……」
「何故!?生活のために目標を掲げることの、何が立派じゃないんだ!?」
「うん、でも意外だね」
「うちの実家、建設会社やってるんだけど……全然仕事なくて素寒貧なの。こういうの、あんま人に言わん方がいいんだけど……」
「建設……」
「はっ!麗日さんの個性なら、許可取ればコストがかかんないね!」
「どんな資材でも浮かせることができる、重機要らずだ!」
「……重機で吊り下げるのと比べて安全かもしれんな」
「でっしょー!?それ昔父に言ったんだよ!でも……」
麗日殿は小さい頃、将来は実家の建設会社に就職するつもりだったらしい。だが、父母は彼女自身の夢を叶えることを望み、背中を押してくれたのだそうだ。
「私は絶対、ヒーローになって、お金稼いで……父ちゃん母ちゃんに楽させてあげるんだ!」
そう言った彼女の目には強い意志が宿っている。それを見た飯田殿は両手を大きくあげて拍手し始め、緑谷殿も何か思うことがあるようだった。
「麗日殿……親孝行は、親がいるうちにしか出来ない。今のご両親を、大切にな」
「え……?それって……」
「タァーッハッハッハッ!緑谷少年がぁ……居たァァッッ!!」
「オールマイト!どうしたんですか?」
「ご飯……一緒に食べよ?」
「乙女や!!!」
緑谷殿をオールマイト先生の元に送り出し、私たちは3人で食堂に向かった。
《食堂》
「デクくん、なんだろうね?」
「バスの中で蛙水君が、緑谷君とオールマイトの個性は似ていると言っていただろ?2人の超絶パワーは似ているし、オールマイトに気に入られてるのかもな。流石だ……」
「かと言って、No.1ヒーローが個人をそこまで見るものだろうか?」
「オールマイトも、No.1ヒーローであると同時に一個人だ。そういうこともあるんじゃないか?」
「……それもそうか」
《放課後》
(体育祭か……それまでに、あの技を実用化しなければ……増強系、かつ外部因子に頼らない発動型なら……彼に聞いてみるか)
「緑谷殿、この後の時間は……ん?」
今構想中の技について、なにか参考になればと緑谷殿に話しかけようとすると、A組の出入口に人だかりで出来ているのが見えた。
「な、なな……何事だーー!?!?」
「君たち、A組に何か用か?」
「なんだよ出れねぇじゃん!何しに来たんだよー!」
「敵情視察だろザコ。敵の襲撃を耐え抜いた連中を、体育祭の前に見ときたいんだろ」
「そんな事したって意味ねーから……どけモブども」
「知らない人のこととりあえずモブって言うのやめないか!」
爆豪の挑発ともとれる発言に対し、人だかりの中から反抗する声が聞こえてくる。
「噂のA組、どんなもんかと見に来たら、随分と偉そうだな……ヒーロー科に在籍するやつはみんなこんなんなのか?」
「あァ……!?」
「こういうの見ちゃうと、幻滅するな。普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったってやつ結構いるんだ……知ってた?」
「そんな俺らにも学校側はチャンスを残してくれてる……体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって……その逆もまた然りらしいよ」
「敵情視察?少なくとも俺は、いくらヒーロー科でも調子乗ってっと足元ごっそり掬っちゃうぞっていう宣戦布告しに来たつもり」
(((この人も大胆不敵だな!?)))
恐らく普通科と思われる生徒の発言で、妙な沈黙と緊張が走る。その直後、やたらと声のデカい男が現れた。
「おうおう!隣のB組のもんだけどよ!敵と戦ったっつーから話聞こうと思ったんだがよ!えらく調子付いちゃってんなオイ!!」
(((また不敵な人来た……!)))
B組の生徒が大声で叫び回る中、爆豪殿は我関せずと言った具合に教室を出ようとする。
「無視かテメェ!」
「おい待て爆豪!どうしてくれんだ、お前のせいでヘイト集まりまくってんじゃねぇか!」
「関係ねぇよ、上に上がりゃ関係ねぇ」
そう吐き捨てると、爆豪殿は帰っていった。全体的に妙な雰囲気になってしまったが、それはそれとして緑谷殿に声をかける。
「……さて。緑谷殿、いいかな?」
「エッ!?な、何かなスネージヴィナさん!?」
「体育祭本番まで、訓練に付き合って欲しいんだが」
《グラウンドβ》
「緑谷殿の個性は、外部に頼らない発動型増強個性で間違いないか?」
「う、うん……!でもまだ制御が上手くいかなくて、使う度に腕とか足とかぶっ壊しちゃうんだけど……」
「十分だ。実は、私の個性で何とか身体強化が出来ないかと模索していてな」
相澤先生に許可をとり、放課後にグラウンドを1箇所借りてそこに緑谷殿を呼ぶ。自分の意思で発動する増強系の個性を参考にしたく、最適なのは彼だと判断したからだ。
「手本を見せてもらう……というのは、緑谷殿の体がもたないか。構想段階の技を使うから、何かアドバイスがあれば教えて欲しい」
「……あれ?スネージヴィナさん、USJの時……黒い敵と戦っていた時は明らかに動きが良かったと思うんだけど、あれとは別?」
「ああ。スタミナを奪取しての高速造血中は、身体能力が上がるのだが……如何せん、相手からスタミナを奪えなければならないからな。いや、待てよ?そうか、高速造血中の体内と同じ状態を操血で再現すれば……」
緑谷殿の一言で、今まで何故気付かなかったのだろうという点に気が付く。やはり、彼に声をかけて良かった。
「……始める。何か思ったことがあれば言ってくれ」
「!」
私は自分の体のみに意識を集中させ始めた。高速造血中の身体強化を想像し、その時の血の巡りをイメージする。
(高速造血中は全身の血流が早くなる……ならば、身体の中の血を血液操作で高速循環させれば……!)
「―――フゥー……」
「熱っ……!?ちょっ、スネージヴィナさん!?目が……!」
構造物のガラスに反射した自分の姿を見ると、首から下の露出した箇所全てが黒く染まっている。更に、目の中の黒いバツ印が肥大化して眼球から飛び出し、上側は眉の下あたり、下側は頬の上あたりまで伸びていた。
「……上手く、行った……!」
ブラディトリガーで剣を作り振ってみると、演習場の建物に1本の太刀傷がつく。【自刻勅印】と違って、タイムリミットが存在する感じもない。常に技のための集中を切れないのは難点だが……ふと緑谷殿の方を向くと、神妙な面持ちでブツブツと何か言っている。
「全身の血流を操作することで身体能力を向上させる、その方法なら体外に放出されるロスなく満遍ない強化ができるのか。ん……待てよ?全身にロスなく……個性でかかる負荷を全身に分散させれば……いや、そもそも出力の調整ができない今のままじゃ……」
(……怖)
思わず内心で素が出てしまった。しかしそうも言ってられず、緑谷殿に意見を求める。
「緑谷殿、何か気付いたことなどはあるか?こうした身体強化は初めてなのでな、小さなことでも構わない」
「そう、だね……ここからでも分かるくらい体温が上がってるから、近接戦闘ではそれだけで近寄りたく無くなるかもしれない。あと、さっきの攻撃からして強化幅もそれなりに高そうだね。詳しく知りたいなら初日にやった体力テストと同じ事をやってみるといいと思うよ」
「あ、ああ……ありがとう、緑谷殿」
まくし立てられると毎度驚いてしまうが、ともあれ有用なアドバイスなのは事実。体力テストによる強化幅の計測や強化中に武器術を使った時の体の動かし方の違いなどを試していると、あっという間に2週間が経過し……
雄英体育祭、その当日を迎えた。