僕のヒーローアカデミア:紅き月の狂宴   作:Dr.Sin

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第2幕:焼尽体躯

「院長に、リネたちまで……観戦チケット、よく取れましたね」

 

控え室に向かう途中、院長と3人の子供たちに偶然遭遇した。

 

「ふふん!僕にかかれば容易いことさ!こっちのことは気にせず、存分に力を発揮してくるといい!」

「お父様、頑張って」

「僕たちも応援してますから!」

「ここに来れなかったみんなも、テレビ中継でお父様のことを応援してますよ」

「ありがとう、皆……行ってきます、振奈院長」

「うん!行ってらっしゃい、ペルヴェーレ!」

 

彼らからの激励を背に、控え室に向かう。子供たちが見ている場で無様な戦いは出来ないなと改めて思い、闘争心に火がつくのを感じた。

 

 

《1-A 控え室》

 

「あーあ、コスチューム着たかったなー」

「公平を期すため、着用不可なんだよ」

「予選の種目ってなんなんだろうな」

「何が来ようが、対応するしかない」

「ああ」

 

「皆、準備は出来ているか!もうじき入場だ!!」

 

飯田殿が勢いよく扉を開けそう叫ぶと、クラスの中に緊張が張り詰める。そんな中で、轟殿が緑谷殿の方に歩いていき、真剣な顔付きで話しかけた。

 

「緑谷」

「轟くん……何?」

「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う……けどお前、オールマイトに目ェかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねぇが……お前には勝つぞ」

 

「おおー……クラス最強が宣戦布告ぅ?」

「おいおいおい、急に喧嘩腰でどうした?直前にやめろって」

「仲良しごっこじゃねぇんだ、別にいいだろ」

 

正面から緑谷殿に勝つと宣言する轟殿。切島殿がそれを窘めるも轟殿はそれを一蹴した。そして、宣言された緑谷殿は……

 

「轟くんが……!何を思って僕に勝つって言ってるのかは分からないけど……そりゃ君の方が上だよ。実力なんて、大半の人には敵わないと思う……客観的に見ても」

「緑谷も、そういうネガティブなこと言わない方が……」

「でも!みんな……他の科の人も、本気でトップを狙ってるんだ……!遅れを取る訳には行かないんだ……僕も本気で取りに行く!」

 

轟殿の目を見据え、そう宣言した。

 

 

《雄英体育祭 1年の部 会場》

 

 

『ヘェーイ!刮目しろオーディエンス!群がれマスメディア!今年も、お前らの大好きな高校生たちの、青春暴れ馬!雄英体育祭が、始まりエヴリバディ!!アーユーレディ!!?1年ステージ、入場だぁっ!!』

 

『雄英体育祭!ヒーローの卵たちが、我こそはとしのぎを削る年に一度の大バトル!!どーせアレだろコイツらだろ!?敵の襲撃を受けたにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!ヒーロー科!1年A組だろぉぉぉ!?!?』

 

「はっ、ひ、人がすごい……!」

「大人数に見られる中で、最大のパフォーマンスを発揮できるか……これもまた、ヒーローとしての素養を身につける一環なんだ」

「めっちゃ持ち上げられてんな……なんか緊張すんな、なあ爆豪!」

「しねェよ、ただただアガるわ……!」

「子供たちに、恥じない戦いを……」

 

『話題性なら遅れを取っちゃいるが、こっちも実力派揃い!ヒーロー科、1年B組!』

『続いて普通科、C、D、E!サポート科、F、G、H!経営科、I、J、Kも入場だァ!!』

 

会場に、1年生が揃い踏みする。入場の際、A組と比べると明らかに他の組の紹介が少なかったが……もしや、競争心を駆り立てるための策略なのだろうか?そんなことを考えていると、なんというか……子供たちには見せたくない格好の先生が、お立ち台に立った。

 

 

「選手宣誓!」

 

「ミッドナイト先生、なんちゅう格好だ……!」

「さすが18禁ヒーロー……!」

「18禁なのに高校に居てもいいものか」

「いい!」

 

「静かにしなさい!選手代表、1-A、ペルヴェーレ・スネージヴィナ!」

 

そう、今年の選手宣誓は私の役割なのだ。というのも、例年選手宣誓は入試実技試験で1位通過だった者の役割であるため。何やら一般科の方から刺々しい視線を感じつつ、お立ち台に登った。

 

 

「……宣誓!我々選手一同は、公平公正なるヒーロー精神に基き、正々堂々と鍛錬の成果を発揮し競い合う事をここに誓う!そして……」

 

ここまでは、事前に渡された台本通り。それを言い終えた私は、マイクをスタンドごと動かして生徒たちの方を向く。ここから先は……ぶっつけ本番のアドリブだ。

 

「我々A組は、入学早々敵による襲撃という災難を受け、良くも悪くも注目の的になっている!しかし、それは我々1年の中でA組が最も注目すべき存在ということを意味するのではない!」

 

「あえて言おう!ここに集う雄英高校一年の生徒は皆、等しくスポットライトを浴びるに相応しい者たちであると!」

 

「故に、我々A組を含むあらゆる生徒は、自らの手でスポットライトを勝ち取らなければならない!あらゆる注目の機会は、自らの実力によってのみ得られる!」

 

「そして今日という日は、互いに競い合い、高め合う最高の機会でもある!我々は皆、ただ1人の選手だ!己の身一つで、全てが決まるこの場所において―――」

 

「今日、我々は!新たなる成長のステージへと上がる!!」

 

 

A組に対する注目のあまり、他の組のことが頭から抜けていそうな観客やマスメディアに対する喚起と、半ば腐っていた他科に対する激励を込めたメッセージ。台本には無いもの故に反応が心配だが……

 

 

「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」

 

 

どうやら、心配は杞憂だったらしい。

 

「素晴らしい宣誓だったぞ、スネージヴィナ君!」

「ペルヴィちゃん、あんな大きい声出るんだね」

「……思ったことを、つい」

 

むず痒い賞賛の声を聞いていると、正面のモニターの文字が選手宣誓から第一種目に変わる。……ついに、始まるのだ。

 

「さーて、それじゃ早速始めましょう!第一種目はいわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ(ティアドリンク)!さて運命の第一種目は……!」

 

ミッドナイト先生の背後にプロジェクターで投影された映像が移り、スロットのような物が回る。

 

「今年は…………これ!!」

 

止まったスロットには、【障害物競走】と書かれていた。

 

「計11クラス全員参加のレースよ!コースはこのスタジアムの外周約4km!我が校は自由さが売り文句、コースを守れば、何をしたって構わないわ!さあさあ、位置につきまくりなさい!!」

 

 

ミッドナイト先生による競技説明が終わると、私たち生徒は全員ゲート前に集まる。何をしたって構わないというのならばと、私は待機中に爪を手のひらに突き立て、いつでも血を出せるようにした。

 

『スタートッ!!』

「……ッ!」

 

3つのランプが全て消えると、選手たち全員が一斉に走り出した。私自身も走り出したが、それと同時に手のひらに傷をつけ、前にいた3人の生徒に私の血を少しばかり浴びせる。ゲートを出て、外の状態を確認してからスタミナを奪うつもりだ。

 

『さぁーて実況していくぜ!解説アーユーレディ!?ミイラマン!』

『無理やり呼んだんだろうが……』

『早速だがミイラマン、序盤の見所は!?』

『今だよ』

 

「狭いって!」

「どけ!」

「押すなよ!」

「邪魔すんな!!」

 

人数に対し、明らかに狭すぎるゲート……これ自体が、最初のふるいとして機能している。そう思った直後、後方から冷気が漂ってきた。

 

「悪いな」

 

最初は後方に位置をとっていた轟殿が、前にいる者たちの足元を凍らせて先頭に出る。

 

(やはり初手で回収しなくて良かったな、低温状態で体力を奪えば命に関わる。ならば、早速……新技の試し打ちと行こう)

 

「我が血よ、滾り循環せよ……【焼尽(しょうじん)体躯(たいく)】」

 

全身の血に熱を帯びさせ、循環速度を上げることで身体能力を増強しつつ放熱を行う新技、【焼尽体躯】。足元の氷は瞬く間に溶け、ゲートをいち早く抜けることが出来た。私以外にも、爆豪殿や八百万殿などA組の生徒をはじめ、何人かの選手はいち早く凍結を脱しているのが見える。

 

「甘いわ轟さん!」

「そううまくは行かせねェ!半分野郎ーッ!!」

 

「クラス連中は当然として、思ったより避けられたな……ん?」

 

凍結した地面を踏むよりも、私の熱で足元の氷が溶ける方が早い。そして、速力自体は通常通りの轟殿に対して、私は身体能力を増強している。故に……

 

「追いついたぞ、轟殿」

「ちっ」

「轟の裏の裏をかいてやったぜ……!ざまぁねぇってんだァ!!」

 

更に後ろから、峰田殿が凄まじいスピードで追いついてくる。氷の上にもぎもぎを投げ、その上を跳ねることで私以上のスピードを出しているようだ。

 

「くらえオイラの必殺ゥゥゥあぁぁぁぁぁ…………」

 

空中でもぎもぎを投擲する姿勢をとった峰田殿の脇腹を、何かが思い切り殴りつける。体の小さい峰田殿はその一撃を受けると、吹っ飛んで派手に転がって行った。

 

「今のは……」

 

「ターゲット……大量!」

 

「入試の仮想敵……!」

 

『さァーいきなり障害物だぁ!まずは手始め、第一関門!ロボ・インフェルノ!』

 

峰田殿を吹き飛ばした攻撃の主は、入試の実技試験で現れた0ポイントの巨大ロボット。それも大群を成しており、このままでは隙間を抜けることも出来そうにない。

 

「入試の時の0ポイント敵じゃねぇか!」

「マジか……!」

「こんなのと戦えなんて……!」

「一般入試用の仮想敵ってやつか……」

「どこからお金出てくるのかしら」

 

巨大ロボットが先頭にいる轟殿に襲いかかる。しかし彼はそれを意に解することもなく、一撃で凍結させた。

 

「折角ならもっとすげぇの用意してもらいてぇな……クソ親父が見てるんだから」

 

そのまま凍結させたロボットの足の間を走っていく轟殿。他の生徒も彼の後に続こうとしたが……

 

「やめとけ。不安定な姿勢の時に凍らせたから……倒れるぞ」

 

彼の宣言通り、巨大ロボットは土煙を上げて倒壊した。

 

『1-A轟!攻略と妨害を一度にィ!こいつはシヴィィイーー!!すげぇな、1抜けだ!あれだな、もうなんか……ズリぃな!』

『合理的かつ戦略的な行動だ』

『流石は推薦入学者ぁ!初めて戦った、ロボ・インフェルノを全く寄せつけないエリートっぷりだぁ!』

 

土煙の中から、小型ロボットも次々に現れ始める。どうしようかと観察していると、誰かが声を上げた。

 

「おい!誰か下敷きになったぞ!」

「死んだんじゃねぇか!?」

「死ぬのかこの体育祭!?」

 

「死ぬ、かァァァァ!!!」

 

『うわあああああ1-A切島潰されてたー!ウケるー!!』

 

倒壊したロボットの残骸から、見覚えのある赤髪が雄叫びを上げて飛び出してくる。さらにその横には、聞いたことのあるような、無いような声とともに飛び出してくるものが1人。

 

「A組の野郎は!ホントに嫌な奴ばっかりだよなぁァァ!!」

 

『B組の鉄哲も潰されてたー!ウケるー!!』

 

「個性ダダかぶりかよただでさえ地味なのにー!」

「待てコラァァ!!」

 

そのまま倒壊したロボットの上を走っていく2人に続き、爆豪殿や瀬呂殿たちがロボットの頭上からの突破を図っている。その中で私は……

 

(……すまんな、誰かも知らない選手の1人。せめて貰うスタミナは最小限で済ませる)

 

「【勅令結印】、【血技装填】」

 

ゲートで付着させた血液を経由してスタミナ奪取を行い、手のひらの傷口に高速造血で生み出した血を集めていく。

 

(血の砲撃で風穴を開け、身体強化の機動力で一気に抜ける)

「穿ち抜く、【波動血砲】!」

(残骸が倒れる前に、走り抜ける……!)

 

撃ち放った血の砲撃は狙い通りロボットの軍団で出来た壁にひとつの穴を開けた。残った血で自分の周りにドーム状の膜を張り、その穴を一気に走り抜けることで、第一関門を突破した。

 

 

『オイオイ第一関門チョロいってよ!!んじゃ第二関門はどうだァ!?落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォール!!』

 

(綱渡り……何かと雑になる焼尽体躯はかえって不利か)

 

第二関門を前に、身体強化を1度解除する。轟殿は綱の上を凍結させてスケートのように滑り、爆豪殿は爆発の勢いで飛行することでそれぞれ突破している。

 

(子供たちも見ているところで、立ち止まってはいられないな……よし、血を足場にすれば)

 

私は綱を右手で握り、傷口から染み出した血を吸わせる。その血を操作して綱の上に硬化した血の板を作り出し、その足場の上を走ることで第2関門を突破した。今の状況は……先頭は轟殿、その後ろに再び焼尽体躯を起動した私と空を飛ぶ爆豪殿がつけており、それより後ろは団子状態と言ったところか。

 

『さあ、早くも最終関門!かくしてその実態は……一面地雷原!地雷の位置はよく見りゃ分かる仕様になってるぞ!目と足酷使しろ!!』

 

競技用に爆風と音だけが強い地雷が大量に埋まっている……か。その仕様上、先頭に近いほど避けるべき地雷が多く不利になる、逆転の可能性を秘めたエリアというわけだ。そして、地面に埋まったものが障害である以上……空を飛べるものが、確実に有利。

 

「ハハァッ……!俺は関係、ねェ!!テメェ!宣戦布告する相手を、間違ってんじゃねェぞ!!」

 

爆豪殿が一気に轟殿を抜き去り、1位に躍り出た。

 

『ここで先頭が変わったァァーー!!喜べマスメディア!お前ら好みの展開だァァ!!』

 

空を飛ぶ爆豪殿と、彼からの直接攻撃をいなしつつ的確に地雷を避ける轟殿による熾烈な先頭争い。一方私は、地雷を踏まないよう慎重に進みつつ策を練っていた。

 

(地雷を回避しつつ、最短距離で前に進む……ならば、私が取るべき策は)

 

「【血技装填】、【知悟凶月】」

 

地雷原全体に薄く血を張り巡らせどこに地雷があるのかを特定、頭の中で最短ルートを構築してから手を離し、あとはその通りに進むという策。

 

(ルート策定……あとは、走るだけ)

 

先頭2人に追いつき、追い越すために走り始める。彼らとの距離が詰まり始めたところで……

 

 

BAGOOOONN!!!!!

 

 

「なっ……!」

「っ!?」

 

『後方で大爆発ゥゥーー!?なんだあの威力!?』

 

私たちの後方、関門の入口に近い位置で大爆発が起きた。まさか事故でも起きたのかとそちらに目を向けると、爆風の中から現れる小さな影が1つ。

 

『偶然か!?故意か!?A組緑谷!爆風で猛追ィィーーッッ!!つーか抜いたァァァ!!!』

 

「デクゥッ!俺の前を行くんじゃねェェッッ!!!」

「後続に道作っちまうが、後ろ気にしてる場合じゃねぇ……!」

 

爆風を利用して一気に先頭に立った緑谷殿に呼応するように、先程まで先頭争いしていた2人もスピードを上げる。特に轟殿は氷で道を作り出すことで、後続に道を与えるデメリットと引き換えにかなりのスピードを出していた。

 

(また距離を離された、直接の妨害を行うには血が足りない……ならば、なりふり構っている場合では無い……!)

 

多少動きが雑になることを承知で【焼尽体躯】を起動し、足回りに血で簡易的な防御措置を行ったうえで、一気にスピードを上げていく。しかし、落下してきた緑谷殿が手に持った緑色の鉄板を地面に叩きつけたことで咄嗟に防御の構えを取ってしまい、減速を余儀なくされた。

 

「くっ……うおぉぉぉぉっっ!!!」

『緑谷ァァ!間髪入れずに後続妨害ィィィ!!!』

 

(鉄板を叩きつけて更なる爆発を……!いけない、距離の差が決定的に開く……!)

 

『イレイザーヘッドお前のクラスすげぇな!どういう教育してんだぁぁ!?!?』

『俺は何もしてない……ヤツらが勝手に、火ィ付けあってんだろ』

 

 

守りを解いて再び走り始め煙を抜けるも、既に前の3人との差はこの短距離では埋められない。更に後ろから飯田殿など機動力特化の個性をもつ者やB組の生徒らが迫ってきており、最早私は後続に追いつかれないよう走ることしかできなかった。

 

 

『雄英体育祭!1年ステージ!序盤の展開から、この結末を誰が予想できたぁ!?』

 

『今!1番にステージに帰ってきたその男!緑谷出久の存在を!!!』

 

 

 

私がスタジアムの入口に差し掛かったあたりで、緑谷殿の1位ゴールを告げるアナウンスが響き渡った。

 

(くっ……轟殿、爆豪殿にも追いつけない……!ここまでか……!)

 

『さぁ続々とゴールインだぁっ!順位などは後でまとめるから、今はとりあえずお疲れ!』

 

「4位、か……子供たちも見ているというのに、我ながら情けない……!」

 

 

悔しさのあまり、普段出さないほどの強い感情が口から出てきてしまう。しかし、まだ……体育祭は始まったばかりだ。






わかった方もいらっしゃると思いますが、選手宣誓の文の一部はアルレッキーノの星座を参考に書かれています。
次回投稿も頑張って書きあげますので、どうか気長にお待ちください。
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