大変お待たせ致しました。
投稿が滞っている中でもジワジワとお気に入りが増えていき、こうしてはいられないと空いてる時間を縫って書き上げたものになります。お楽しみいただければ幸いです。
1回戦を勝利で終え、リカバリーガールに手のひらの治療を受けると、そのままの足で控え室に戻る。椅子に腰かけ、吊り下げられたモニターに目を向けると、ちょうど次の試合が始まる頃だった。
『攻防一体!ダークシャドウを従える暗き侍!ヒーロー科、常闇踏陰!』
『バーサス!万能創造!推薦入学とあって、その才能は折り紙付き!ヒーロー科、八百万百!』
2人の個性相性は、直接戦闘だと八百万殿が若干不利だと見る。彼女の個性である創造は、物を作る上でどうしても遅延が生まれるが、常闇殿はほぼノータイムでダークシャドウによる攻撃が可能であるからだ。
『第6試合、スタートッ!!』
試合開始と同時に、常闇殿が先制攻撃を仕掛ける。八百万殿もそれを読んで盾を創造し防いだものの、ダークシャドウのパワーで場外まで押し出され、これまた呆気ない勝負となった。
『八百万さん、場外!2回戦進出、常闇くん!』
『第7試合は、個性ダダかぶり対決!』
『漢気一筋ド根性!鋼鉄!ヒーロー科、鉄哲徹鐵!』
『バーサス!漢気一筋ド根性!硬化!ヒーロー科、切島鋭児郎!』
体を鋼鉄とする鉄哲殿と、体を硬化させる切島殿。あまりに似通った2人の戦いは、異常なほど長引いていた。互いに体を固めて正面から殴り合うそのぶつかり合いは結局引き分けとなり、次の試合の後簡単な勝負で決着をつけることになる。
「硬化と鋼鉄……頑丈に状態変化するという点では同じだが、体を固くする切島殿と、体を鉄にする鉄哲殿では、個性の伸ばし方も異なってくるのだろうか……?」
『第1回戦、最後の第8試合!』
『中学からちょっとした有名人!カタギの顔じゃねぇ!ヒーロー科、爆豪勝己!』
『バーサス!俺こっち応援したいぃ……ヒーロー科、麗日お茶子!』
初日のテストや屋内訓練、ここまでの予選などでその力を遺憾無く発揮してきた爆豪殿と、触れたものの重力を無くす個性を持つ麗日殿。その戦いは、誰もが爆豪殿の圧勝を予想していた。
『第8試合、スタートッ!』
試合開始と同時に、麗日殿が突っ込む。先制で触れることさえ出来れば、試合の主導権を握れるからだろう。それに対し、爆豪殿は容赦なく爆破で迎撃し、麗日殿との距離を保つ。
『おぉー!上着を浮かせて這わせたのか!』
麗日殿は、爆発によって生まれた煙の中で上着だけを爆豪殿に向かわせることでそれを迎撃させ、一瞬の隙を作ることに成功した。しかし、爆豪殿の背後に現れた麗日殿に更にカウンターを叩き込む。
「凄まじい反応速度……単に爆豪殿のそれが優れているだけではなく、麗日殿に触れられたら負けかねないということを十分に理解している……相手は手強いぞ、麗日殿」
その後も果敢に攻め入る麗日殿だが、爆豪殿はその全てを見切り、迎撃する。どうにも会場の方では爆豪殿を非難する声が上がっているようだが……
『一部からブーイングが……しかし、正直俺もそうおもブフォァッ!?』
『ひ、肘……!?なにするん』
『今遊んでるつったのプロか?何年目だ?シラフで言ってんなら、もう見る意味ねぇから帰れ!帰って……転職サイトでも見てろ』
会場から上がっているらしい非難の声に対して、今日一日を通して初めて相澤先生が大きな声をあげた。
『爆豪は、ここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろ……!本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断も出来ねぇんだろうが!』
徐々に土煙がはれ、スタジアムの全体が見えてくる。その地面は爆破によってボロボロになっているが、何やら妙な点が1つ。
「下側からの攻撃に従事し、爆破で煙を巻き上げさせることで爆豪殿の視線を上に向けないようにしていた……爆破の頻度と地面の痕跡に対して、転がっている瓦礫が明らかに少ないということは」
カメラの角度の問題でよく把握出来ていなかったが、今考察した2点から導き出される答え……それは。
『流星群!?』
『気づけよ』
爆破によって生まれた瓦礫を、麗日殿の個性によって絶えず浮かせていたということ。それを解除し瓦礫の雨を降らせることで、隙を生み出して爆豪殿に触れるのが彼女の作戦。並大抵の者なら対応しきれず瓦礫か個性のどちらかは食らってしまうだろうが……相手は、あの爆豪殿だ。
『ばッ……爆豪!会心の爆撃!麗日の秘策を、堂々正面突破ァーー!!』
降り注ぐ瓦礫は、たった1発の爆破で全て粉砕された。そして、策が不発に終わった麗日殿は、個性の許容範囲を超えたのかその場に倒れ、ほんの数cm這いずったところでミッドナイト先生が彼女の行動不能を宣言した。
『麗日さん行動不能。2回戦進出、爆豪くん!』
これで、1回戦全てが終わった。私の次の出番は、2回戦第3試合……常闇殿との戦いか。八百万殿を盾の上から押し出すほどの力と、騎馬戦で見せた防御力を兼ね備え、それをタイムラグ無しで使える強敵。
「やはり、身体強化を活かす方向か?しかし発動に一拍かかる、彼がその隙を見逃すわけが無い……さて、どうしたものか」
そんなことを考えている間に、会場では切島殿と鉄哲殿による腕相撲対決が行われ、勝利した切島殿が2回戦進出の切符を手にしたようだった。
『さァーこれで2回戦の進出者が出揃った!つーわけで、そろそろ始めようかぁ!?』
「案外早かったな……次は緑谷殿と轟殿か、控え室で喧嘩を売り買いした者同士、どのような戦いになるか見ものだな」
常闇殿への作戦は一旦後回しにし、モニターに目をやる。
『お待たせしたなエヴリバディー!2回戦第1試合は、ビッグマッチだぁー!』
『1回戦の圧勝で、観客を文字通り凍りつかせた男!ヒーロー科、轟焦凍!』
『方や、こっちはヒヤヒヤでの1回戦突破!今度はどんな戦いを見せてくれるのか!ヒーロー科、緑谷出久!』
この戦いの肝は、緑谷殿が如何にして轟殿に近付くかにある。緑谷殿は接近戦において学年で見てもトップクラスの出力を持つため、轟殿といえど懐に潜り込まれればひとたまりもない。だが、轟殿にはあの氷結がある……それへの対処無くして、緑谷殿の勝利もないだろう。
『今回の体育祭!両者トップクラスの成績!まさしく、両雄並び立ち!今、緑谷バーサス轟!スターートッッ!!』
開始と同時に、両者がその個性を振るった。轟殿が放つ氷結の氷と、それを指を弾いて砕き、風圧で轟殿を牽制する緑谷殿。しかし、そのために使ったであろう右手中指は腫れ上がっている。轟殿は即座にもう一度氷結を放つも、緑谷殿は人差し指を犠牲にそれを迎撃。
そのようなやり取りが合計で4回ほど行われ、緑谷殿の右手の指が全滅したところで、轟殿が前に出た。氷で足場を作って上をとり、そこから伸ばした氷で緑谷殿の足を捕まえる。そこから逃れるべく、緑谷殿は指ではなく腕全体を使った一撃を放ち、氷を轟殿ごと吹き飛ばした。しかしその代償に右手全体がボロボロになり、しかも轟殿は場内に留まっている。
『あーっ!圧倒的に攻め続けた轟!トドメの氷結をーーっ!!』
緑谷殿の両手が壊滅し、勝利を確信したであろう轟殿が放った氷結は、緑谷殿によって打ち消された。
「既に折れた指で、更に一撃を……あれでは、ここで勝ったとしても……」
拳を握り、何かを叫ぶ緑谷殿。それに苛立ったのか、轟殿は緑谷殿に走っていくが……その動きは、今までと比べて明らかに鈍い。
「個性の許容限界……いや、氷の多用による体温の低下か……?」
動きの鈍った轟殿の腹部に、緑谷殿の拳が直撃する。増強が抑えめだったのか場外には至らなかったものの派手に吹き飛ばされ、轟殿の顔に焦りが出始める。
『モロだぁぁーっっ!!!生々しいの入ったァァァーー!!』
その後も、両腕ボロボロの緑谷殿と動きも個性も鈍くなった轟殿による攻防が続く。既に壊れた腕を酷使する緑谷殿の姿が、私には酷く痛々しく思えた。
「緑谷殿、もう勝ったとしても3回戦を戦えないだろうに。何が彼を突き動かす……?」
そして、幾度かの攻防の果て……轟殿に緑谷殿が吹っ飛ばされ、立ち上がった彼に緑谷殿が何かを叫んだ時。
―――轟殿の左側が、火を吹き出した。
その瞬間、轟殿の氷結が、元の威力を取り戻す。周囲を凍りつかせたのち、素早く左の炎をその手に纏う轟殿と、脚部にも増強を作用させ、最後の一撃と言わんばかりの攻撃を仕掛ける緑谷殿。
その2人の衝突は、凄まじい音と勢いをあげて……弾けた。
『なにいまの……お前のクラスなんなの……?』
『さんざん冷やされた空気が瞬間的に熱され膨張したんだ』
『それでこの爆風って……どんだけ高熱だよ!?ったくなんも見えねぇ!おいこれ勝負はどうなってんだぁ!?』
次第に爆風が晴れ、スタジアムが見えてくる。そしてそこに立っていたのは……轟殿、1人だった。
『み、緑谷くん、場外……轟くん、3回戦進出!!』
その結末を見届けた私の足は、自然とリカバリーガールのいる医務室に向かっていた。
《医務室》
「やりすぎだ、あんたも、この子も」
扉に近付くと、中からリカバリーガールと緑谷殿、そして知らないもう1人の気配がある。しかし、私はそれに構うことなく扉をノックして中に入った。
「失礼する、リカバリーガール。緑谷殿は……」
そこには、両腕に包帯をぐるぐる巻きにされベッドに横たわる緑谷殿と、その横に立つリカバリーガール。そして、やせぎすの骸骨のような男が座っていた。
「……無事でないとは分かっていましたが、思ったより酷そうですね。それと、そこの方。初めまして、クラスメイトのペルヴェーレ・スネージヴィナです」
「やあ……」
緑谷殿の様子を見る。試合中には出ていたであろう
「「「「緑谷」くん」」ちゃん!!」
医務室の扉が乱暴に開かれ、見知った4人が中に入ってくる。皆、彼を心配してのことだろう。
「大丈夫……?」
そう問われた彼は薄らと目を開け、彼らの方を見て言う。
「みんな……次の、試合は……?」
「ステージ大崩壊のため、しばらく補修タイムだそうだ」
「そんな状態での第一声が他人の試合の心配とは……筋金入りだな、緑谷殿は」
「さっきの試合怖かったぜ緑谷……!あれじゃあプロも欲しがんねぇよ……!」
「塩塗り込んでいくスタイル、感心しないわ」
「うるさいよほら!心配するのはいいが、これから手術さね!」
騒がしくなった医務室から我々を退出させようとしたリカバリーガールから、手術という単語が出る。
「「「手術!?!?」」」
「……大方、治癒するために粉々になった骨を取り除くためだろう」
「ほら行った行った!あとは私に任せな!!」
「……茨による攻撃の初速よりも、飯田殿の加速の方が早いか。さすがのスピードだ」
『塩崎さん場外!飯田くんの勝利!』
「「……いや、いつの間に観客席にいたの!?」」
医務室から出たあと、私は再び控え室に戻ろうと思っていたのだが、彼ら4人に連れられて観客席にいた。
「……洗脳を受けて騎馬戦を勝ち抜いたにも関わらず、尾白殿たちと違って私はトーナメントに出ることを選んだ。何となく居辛くて先程までは控え室で観戦していたのだが……と、次の試合は私と常闇殿か。では失礼する」
「……アイツもわりかし何考えてるかわかんねーよな」
『さあさあ行くぜ、2回戦第3試合!1回戦ではまさに瞬殺!今回もその黒い影が一瞬でカタをつけるのか!?ヒーロー科、常闇踏陰!』
『バーサス!その手、その血に触れたものをすべからく倒れ伏させるその姿はもはや死神!ヒーロー科、ペルヴェーレ・スネージヴィナ!』
急ごしらえの作戦は立てた。最優先は、初撃から来るであろうダークシャドウによる一撃を防ぐないしは避けること。
『2回戦第3試合、スターートッッ!!』
「ダークシャドウ!」
「アイヨッ!」
「やはりそう来るか……ならば!」
予想通りの、個性による速攻攻撃。それに対する対策は……試合開始と同時につけていた傷口から小さな血の盾を作り出し、ジャンプしながらそれを受けること。それにより私の体は上空まで吹き飛ばされることになる。
(下から上に、アッパーのような攻撃をしてくれたのは僥倖だな……!)
『おぉーっと常闇!いきなりペルヴェーレを上空に吹き飛ばしたァ!こいつぁ早くも勝負ありかぁっ!?』
そして、ここからが作戦の肝。私の血の特性のひとつ……圧縮すると爆発するという性質を、空中で使う。
「何ッ……!?」
「まずは、前に出ること……!」
場外に出る前に、私の後ろに飛ばした血を爆発させ、一気に前に出る。これで、初期位置よりも彼との距離が詰まった。
『ペルヴェーレ、まさかの空中軌道ぉぉっ!?吹っ飛ばされたのを利用して、一気に常闇に接近ンンーーッ!!』
「くっ……!守れダークシャドウ!」
常闇殿は、空中で右手を構えた私に対し攻撃ではなく防御を選ぶ。そして、それ自体は間違いではない。私の個性は血か手で触れる、あるいは血を体内に入れる必要があるため、ダークシャドウによる防御は私の個性から身を守るという一点において最善であるとさえ言える。
「【血技装填】……!」
故にここからは、ぶっつけ本番の技を使わざるを得ない。失敗すれば、血という最大のリソースを失った私の敗北は免れないだろう。
「【
右手の傷口から、血によって生み出された10本の棒が彼を包囲し、さらに上から血の板が蓋をする。
『ペルヴェーレ、右手から檻を生み出したァ!!常闇、こいつから抜け出せるのかぁぁ!?!?』
「ダークシャドウ、壊せるか!?」
「ビクトモシネェッ!」
「壊される前にカタをつけよう……【血技廻填】」
スタジアムに刺さった血の檻、その下部を変形させ、鳥籠のような形にしてスタジアムから独立させる。
「【血装顕現】……吹き、飛ばす……!」
更に右手から血を流し、ハンマーを生成。貧血気味でふらつく体を制御してそれを振りかぶった。
「初撃は見事だった……説得力はないかもしれんが、どちらが勝ってもおかしくない試合だっただろう……」
「ああ。次は負けんぞ、スネージヴィナ」
「フッ……今回は、私の勝ち、だ……ッ!」
そのままハンマーを檻に向かってフルスイングし、それごと常闇殿を場外送りに。この一撃を持って、勝負がついた。
「常闇くん場外!スネージヴィナさん、3回戦進出!!」
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