僕のヒーローアカデミア:紅き月の狂宴   作:Dr.Sin

25 / 46

説明回です。本格的な展開は次回から……


第2幕:十字の足跡

 

職場体験2日目。7時に起床し、例の端末の電源を入れる。認証が済み今日の私の日程表が表示されると、昨日とは随分様子の違う表になっていた。

 

「9時から本部全員参加の指定敵団体対策会議?私も出るのか。その後は13時から特別戦闘訓練、17時からパトロール……中々に忙しそうだ」

 

食堂で朝食をとり、指定された会議室に向かう。おそらくこの建物でもっとも広いであろう部屋には椅子がズラリと並んでおり、それなりに早く来たつもりだったが既に何人かが着席して待っていた。私も詰めて座るよう促され、前から2列目の中心辺りに座る。周りが皆事務所所属のプロヒーローの中に職場体験の私が混ざっているのはなんとも言えないアウェー感があるが、それを気にしても仕方がない。

 

しばらくすると席は埋まり、前のプロジェクターの横にマーヴィカ殿と事務員が着席する。指定の時間になると、前の方から資料が回ってきたため、それを後ろに回しつつ表紙に目をやる。そこには指定敵団体『水仙十字結社(旧十字鈴蘭学会)』に対する強制捜査への参加について、と書かれていた。資料が後ろまで行き渡ったのが確認されると、マーヴィカ殿がマイクを持って立ち上がる。

 

「これより、水仙十字結社に対する強制捜査についての説明と、作戦会議を始める。今から3日後、我々マーヴィカヒーロー事務所が長年追ってきた指定敵団体に対し、警察による強制捜査が行われることになった。そして道警からの協力要請により、我々マーヴィカヒーロー事務所は総力を上げてこれに協力する」

 

指定敵団体という聞き覚えのない言葉に、一瞬困惑してしまう。名前からして、敵が徒党を組んだ集団ということは予想が着くのだが……

 

「これに伴い、まずは改めて水仙十字結社についての情報を振り返りたいと思う。新しい仲間もいる事だしな。資料を1枚めくってくれ」

 

「水仙十字結社とは、元々個性黎明期以前から存在していた孤児院『水仙十字院』と、反異形排斥組織の一つ『鈴蘭十字学会』にルーツを持つ指定敵団体……黎明期以前であれば、極道やヤクザと言われていたような集団だ」

 

「元々水仙十字院は戦災孤児や犯罪者の子供など特殊な事情をもった子供を専門的に保護していた孤児院だったが、個性黎明期に入るとその保護範囲は異形型の個性も含まれるようになった」

 

「黎明期においては異形型個性を排斥する動きが非常に強く、元々あまり良いものではなかった水仙十字院を見る世間の目はますます悪くなっていった。そんな中、とある異形型の少女……璃々水が入所したことが、全ての転機となる」

 

「彼女の個性は【純水】、自らの体と触れた液体を真水に変化させるという個性だった。その個性と、それを持った彼女は異形型個性を持つものにとって希望となる。アルレッキーノ、何故だかわかるか?」

 

突然指名され、驚きをなんとか隠しながら答える。

 

「……海水や汚れた水を、生活用水に変えられる。そんな個性を持った者が、異形型として生まれたから、ですか?」

 

「そうだ。水資源に乏しい国や、干ばつによって水が足りなくなったダム、畑などにとって、海水を使用可能な水に即時変換する彼女は英雄と言って差し支えないほどの存在だった」

 

「彼女の存在を嗅ぎつけた異形系個性を持つ者たちは、水仙十字院出身の研究者を中心に彼女を異形の代表として祭り上げ、彼女を代表に異形系の有用性を証明するための組織である『十字鈴蘭学会』を設立した」

 

「しかし、十字鈴蘭学会が彼女を表舞台に立たせようとした直前、とある事故が起こる。ある日、水仙十字院の子供が軽い怪我を負い、それを見た凛々水はその子に応急処置を施すために、その子の傷に触ってしまった」

 

「彼女の個性、【純水】の適用範囲は、彼女自身もよく知らなかったんだ。彼女の触れた液体を真水にする力は、触れた液体とそれに繋がる同質の液体全てを真水に変えてしまうものだった」

 

「……まさか」

 

「そう。怪我を負った彼は、瞬く間に全身の血液が水に変わり、命を落としてしまう。この件は幼児が起こした個性による事故で、相手も孤児だったため、公になることはなかった。しかし凛々水は自身の行動の結果に耐えられず、部屋に閉じこもって出てこなくなってしまった」

 

「その事故のことなど知る由もない十字鈴蘭学会からすれば、異形型の英雄になれるはずだった少女が突然隠匿されたように見えるのだろう。そして、度重なる差別を受け続けた彼らにとって、その事は何かしらの陰謀に感じられる」

 

「彼らは水仙十字院を襲撃した。凛々水を自分たちの頭に据えるために、その身柄をなんとしてでも確保しようとしたんだ。その結果、そこに居た職員や孤児たちの多くが犠牲となり、学会の者たちは彼女を確保することに成功した」

 

「しかし、彼女を手に入れた学会は本来の目的……異形の有用性を示す、というものを忘れ、自分たちを差別したもの達への復讐に傾倒していく。多くの無辜の者たちの血を流して確保した彼女も、そのための武器として扱おうとした」

 

「それを知った彼女はより心を固く閉ざしたが、それに怒った学会は、水である彼女の身体を小分けにして瓶詰めにし、その水を研究することで彼女の力を手に入れることを計画する」

 

「そして彼らは、彼女の体を構成する水が普通の水ではない……彼女の個性と似た性質を持つ水であるということに気付いた、気付いてしまった。彼らはそれを【原始胎海の水】と名付け、以降はそれの培養に総力を捧げるようになった」

 

「そして今も、学会は名を『水仙十字会』と改め活動を続けている。主な活動は、原始胎海の水の培養実験と、その過程で生まれる『ロシ』と呼ばれる幻覚作用や依存性のある薬物を売り捌くことだ」

 

 

ここまでの説明を聞いて、私は腸が煮えくり返るような思いを抱いていた。子供の命を奪い、更に子供を利用して野望を叶えようとしているという彼らの行為は壁炉の家での経験を経た私にとって逆鱗といっても差し支えないことであり、両手に力が入り、爪が手のひらに食いこんで血が流れるのを感じる。

 

「彼らの捜査には我々や警察も手を焼いていたが、先日彼らの製造するロシを国の指定する禁止薬物の一覧に加える法案が可決された。これにより、奴らの拠点を捜査する大義名分が生まれたことになる」

 

「3日後、道警は彼らの拠点8箇所に対して同時に強制捜査を行う。我らは治安維持に必要な戦力を残し、それ以外は全てこの捜査に同行する!戦力配分が決定し次第、それぞれの端末にその情報を送信する。因縁の相手だ、皆、よろしく頼むぞ」

 

「「「はい!!」」」

 

「それとアルレッキーノ。今回の作戦には、君にも参加してもらう。プロの大規模な現場を肌で感じて、少しでも学びを得るんだ」

 

「はい!」

 

その後、具体的な作戦内容についていくつか話し合った。明日には道警の方も交えて再び会議を開くそうだ。そうこうしている内に、次のスケジュール……特別戦闘訓練の時間となり、指定された第2訓練室に入ると、中では巨大な剣を携えたマーヴィカ殿が待っていた。

 

「特別戦闘訓練の内容だが……改めて、アルレッキーノの実力が見たい。という訳で、今から私と戦ってもらう」

 

「私が、マーヴィカ殿と?」

 

「ああ。もしかしたら、3日後の作戦で前線に出てもらう、という可能性もあるからな」

 

「私が前線に?プロどころか、仮免すら持っていませんが」

 

「そのあたりは心配いらない。ただ、やはり体育祭を見ていただけでは足りないと思うのでな。私が直々に、その実力を見定めようという訳だ」

 

そう言うと、彼女自身の身の丈ほどはあろうかという大剣を片手で持ち上げ、私の方に剣先を向ける。

 

「……本気で行かせて頂きます。【焼尽体躯】」

「そう来なくては」

 

ブラディトリガーを引いて片手剣を作り、マーヴィカ殿の方に突撃する。しかし振りかぶった血の剣は、大剣の一振りで儚くも砕け散った。

 

「なっ……!」

「脆いな!そんなものでは!」

「っ、距離を……!」

 

砕け散った剣の血を即座に圧縮爆破し、煙に紛れて後ろに跳んで距離をとる。しかし彼女は煙の中から躊躇なく飛び出し、私に向けて大剣を振った。

 

「ブラディチョーカー、起動(アクティブ)……!」

 

首元から血の盾を出し、なんとかその一撃を凌ぐ。しかし盾も剣と同じく一撃で破壊されており、先程効かなかった以上爆破による目くらましも効果は見込めない。

 

(だが、剣は一方的に折られた訳ではない。向こう側にも、少なからず衝撃は伝わっていた……ならば)

 

「【自刻勅印】……ッ!」

 

入試以来一度も使ってこなかった、自身のスタミナを造血に回す技。身体強化にこれを上乗せすることで、数による突破を試みる。

 

「ほう、悪くない。しかし!」

「くっ……!」

その(数で攻める)やり方は、もう少し実力が拮抗していなければな!」

 

連続する剣撃で体勢を崩そうと試みるも、ほとんど効果がない。一瞬押し込めたとしても、彼女はすぐに体勢を直してこちらを迎撃してくる。そこで、砕かれた剣の血を裂血弾に変換し、包囲攻撃を仕掛けようとした時……

 

 

「さて、アルレッキーノ。私の個性について教えよう」

「!」

 

「私の個性は【燃素】。太陽光を浴びることで特殊なエネルギーを生成し、全身の筋肉の中にそれを蓄積する個性だ」

 

「このエネルギーの使い方は実に多様でな。液体として放出すれば双駆輪の燃料になり、体の中で活性化させれば高出力の身体強化になる」

 

「何故それを今……」

「こういう使い方もあるからさ!【灼熱閃光】!」

 

その瞬間、彼女の体が強烈な光と熱を放出する。周囲に展開していた裂血弾は全て焼き尽くされ、閃光の目くらましには体育祭で爆豪殿にやられた時のように血の壁で追撃を防ごうとしたものの、壁は大剣一振りで破壊され、そのまま彼女にマウントポジションを取られた。

 

「……降参です」

「そうか、わかった。ふむ、君の実力は大体理解したよ。……とりあえず、足りないのは筋力だな!」

 

そう言うと彼女は取り出した端末を操作し、誰かと電話を始めた。

 

「イアンサ、アルレッキーノの戦闘能力測定が終わった。明日から徹底的に筋力を鍛えてやってくれ」

『わかった!体格とかのデータを雄英に貰うから、それを元に筋力増強を主軸にしたトレーニングメニューを作っておくよ』

「よろしく頼む……というわけで、明日から君には筋力の増強をメインにした鍛錬をしてもらう。事務所業務の一環だから、しっかりな」

「はい」

 

その後、自刻勅印の反動で2時間ほど寝込んでしまい、目を覚ましたあとは昨日と同じようにパトロールへ同行。今回はパトロール中に敵犯罪が発生するようなこともなく、順調に全てのスケジュールが完了した。

 





皆さんの感想、評価、お気に入り登録が何よりの励みです!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。