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※4章1幕にて登場したマーヴィカの身体強化技「烈日煌鏡」ですが、最近になってほぼ同名の技が鬼〇の刃に存在することを知り、それに伴って技名を変更しております。ご了承ください。
時は遡り、本部突入班が3つに別れた頃。マーヴィカは、本部の中枢と思われる場所に向かっていた。
《Side マーヴィカ》
「妙だな……ここに来るまで、頭どころか幹部級の敵すら遭遇していない……」
双駆輪で本部内を走る。事前の地図通りなら、このまま進めば中枢区画に辿り着くのだが、ここまで遭遇してきたのはどう見ても下っ端ばかり。まさか、中枢は他の場所?だとすれば、他の場所に向かわせた彼らが危ないかもしれない。
「とはいえ、まずこの先にある部屋の制圧だな」
双駆輪のスピードをさらに上げ、目的の部屋に急ぐ。もし最初の予測が外れていたのなら、早急に他所の援護に向かわなければいけない。
「来たぞ!マーヴィカだ!」
「怯むなよ!会長の期待に応えるんだ!」
何度目かわからない敵集団との遭遇。今まで通りと言うべきか、やはり幹部級と思しき敵はいなさそうだ。
「一人一人構っている余裕は無いのでな!双駆輪、吶喊形態!」
燃素を前面に展開し、横に広い流線型の固体にすることで前方の敵集団全員を弾き飛ばす。双駆輪を通常形態に戻すと、程なくして例の中枢と思われる部屋に到着した。
「ここだな。まあ、当然扉は閉ざされているか」
数日前の銀行立てこもり事件の時と同じように、身体強化によって腕力を強化し、扉を引き剥がしてそのまま部屋に突入すると、予想にもしていなかった光景が広がっている。
「これは……巨大な、水槽……?」
「初めまして!炎神ヒーロー、マーヴィカ!こうして顔を合わせるのは初めてだね!」
事前の地図に反して、部屋の広さはそこまででは無い。この部屋は、巨大な水槽の中をくり抜いたような部屋だった。
「水仙十字会4代目会長、若くして先代らを超えるスピードで組織拡大を果たした者……
「フフッ、いつか襲撃を仕掛けてくるとは思っていたが、こんなにも早く来るとは!」
奴は両手を広げ、何とも大袈裟な動きをしながら口を開く。隙だらけなように見えるが、奴の個性がどのようなものなのかという情報がなく、その上私の攻撃は大雑把なものが多く下手をすればこの水槽を破壊してしまうということから、攻めあぐねていた。
「ロシが違法薬物に指定されるのがこんなに早いとは思わなかったなぁ!僕らの縄張りでしか流通させてないから、もう少し売りさばけると思ったんだけどさ!」
「貴様……ロシの流通は、やはり研究費用集めか」
「んー、半分正解!」
私の問いかけに対し、奴は半分だけ正解といった。つまり、ロシを流通させた理由が他にもあるということ。幸か不幸か、奴はそのままもう半分の理由まで話し始めた。
「もう半分は……この水槽を満タンにするため!ロシは副産物、ここを満たす液体を作る過程で生まれるゴミに過ぎないからね!」
「まさか、この液体は全て原始胎海の……!」
最悪の事態が頭をよぎる。今までロシは培養実験の副産物という水仙十字会が生まれたばかりの頃の話を前提にしていたが、既に会は培養に成功していたというのか。
「んー、それはハズレ!結局、原始胎海の水は培養できなかったんだよねー。ま、実験の過程でもっと面白いものが生まれたんだけど!」
「ッ!貴様らは、何を生み出したのだ!?」
「じゃあ、その答え合わせをしよう!起きて───
瞬間、水槽のガラスが一気に割れた。大量の水が一気に流れ込んでくるかと思い咄嗟に身を屈め、剣を盾にするような姿勢になる。
しかし、水槽を満たす水が私の方に流れ込んでくることはなく、それらは奴の後ろでひとかたまりになっていく。
「何が起きた……!?」
全ての水が1つになり、姿を成す。
現れたのは、人の上半身のような形をした怪物。二本の太い腕と胴体、そして中心が赤く染まった波紋のような模様をした顔。
「なんという……!」
「これが!僕たちの怨恨の成果!幾代も前から虐げられた者の怒り!その怨みは継承され、僕の代で個性という形を成した!」
“黒川 怨巳、個性[怨塊]!怨み、妬みといった負の感情を結晶化させ、エネルギー源とする事ができる!”
「行け、タルパ!奴を潰してしまえ!」
「ッ!」
奴の号令に従った水の怪物が、こちらに突っ込んでくる。その巨体に見合わぬ怪物の速さに回避が間に合わず、叩きつけられた拳を剣で受けるのが精一杯だった。
(なんという威力!受け止めただけで、蓄積していた燃素の3割を持っていかれた……!)
「タルパの拳を受け止めるか、一筋縄では行かないな……では、こういうのはどうだい!?タルパ!剣を持て!」
怪物の体を構成する水の一部が形を変え、奴の両腕には集まっていき、それは剣の形を成した。
「器用なことだな……!」
「その威勢がいつまで続くか楽しみだよ!タルパ、やれ!」
先程の一撃でハッキリした。赤炎滅葬による身体強化を加味しても、こちらの方が明らかにパワー負けしている。加えて奴がどうすれば倒せるのかも分からない以上、一か八かで最大火力をぶつける訳にもいかない……ここにきて、少数精鋭が仇になった。
「作戦本部!現在、十字会本部にて詳細不明の大型敵と交戦中!戦況は芳しくない!」
『マーヴィカ様!第2第4拠点への突入班からも同様の報告が!』
「なっ……!」
どうやら、状況は最悪に近いらしい。
《Side ペルヴェーレ》
まるで水中にいるかのような感覚を伴った、謎の声との邂逅。それを経て目を覚ました私の前には、私の傷に対して手当を施すイファ殿がいた。
「目が覚めてよかった!もうあまり動かない方がいい、マーヴィカ様が中枢を制圧すれば、俺たちの任務は終わりだ」
「そちらでは、何が……?」
「事前の推察通り、この先が研究室だった。既に資料とあの男は抑えてある。あとはマーヴィカ様が制圧するのを待って───ッ!」
瞬間、施設全体に巨大な揺れが起こり、インカムに緊急通信を知らせるアラートと共に「本部、第2、第4拠点にそれぞれ正体不明の大型敵が出現し、本部では現在マーヴィカ殿が戦っている」との報告が入る。
「イファ殿……私のことは気にせず、マーヴィカ殿の援護に……!」
「そういうわけに行くか!今の君の傷は―」
「傷のことなら、心配は不要です……【反血癒炎】」
先程の謎の声との邂逅を経て知った、私の個性の新しい使い方。敵から奪ったスタミナを血液に変換する能力を反転させ、血液をスタミナに変換し、それを用いて自然治癒力を高める回復技。
(変換効率は劣悪だな……だが、傷は治った)
「これで、私に心配される道理は無くなりましたね?」
「傷が……!本当に、大丈夫なんだな?」
「はい。戦闘も、自衛程度ならこなせます」
「……わかった、君を信じよう。俺はマーヴィカ様の援護に向かう、あまり無理はしないように」
「健闘を祈ります」
「ああ。行くぞ、カクークユニット!」
先程と同じく桃色の球体にぶら下がって飛んでいくイファ殿を見送ると、私は壁にもたれかかった。
(貧血気味……だな、これは。1人、弱い敵でもいてくれればいいのだが……)
ややぼーっとした頭でそんなことを考えていると、近付いてくる影が1つ。人ではなく、四足歩行の獣に近い影。やや見覚えのあるその影の正体は……
「ぐるる、がぅ!(アルレッキーノさん!)」
「ピーク殿」
私が彼の名を呼ぶと、その姿は次第に人に戻っていく。
「アルレッキーノさん、大丈夫?壁にもたれかかっていたから、何かあったのかと思って……」
「問題ありません……少々貧血なだけです。それより、撹乱の方は?」
「それが……さっきの揺れと同時に、敵たちが揃ってどこかに行ってしまって……今リライが行方を追ってるよ」
「そうですか、分かりました……」
「……マーヴィカ様の援護に行きたいんだろう?顔に出てるよ」
「……!表情に出る方ではないと、思っていたのですが」
「わかるさ。自分の力が役に立つかもしれないのにそれを使えないもどかしさは、僕も味わったことがある」
「……僕の背中に乗って。君の無線には入ってなかったようだけど、どうにも戦況は良くないらしい。建物内のことはリライと僕に任せるんだ」
そう言うと、ピーク殿は再び恐竜へと姿を変え、私に背中に乗るよう促してきた。
「……恩に着ます」
私は促されるまま背中に乗り、例の中枢部と目される部屋に向かう。途中、偶然敵の集団と遭遇し、そこから血液の補充もできた。その敵たちと遭遇した時、彼らは口々に「早く逃げなければ」「ここはもう終わりだ」などと言っていたのは気がかりだが……ともあれ、私たちは件の部屋の前に辿り着いた。
「ぎゃう!ぐぎゃおぉん!(マーヴィカ様のこと、よろしく頼むよ!)」
ピーク殿に送り出され、マーヴィカ殿が壊したと思われる扉から部屋の中に走る。
「アレか、通信にあった大型敵は……!」
部屋の中に入った時、最初に目に入ったのは巨大な水の怪物。下半身がなく、異常に太い両腕とその手に握られた剣、波紋状の顔という異形の存在。
次いで、髪を輝かせ全身から橙がかった白い光を放つマーヴィカ殿と、飛行装置を手に飛び回るイファ殿の姿を見つけた。
「マーヴィカ殿!イファ殿!」
「アルレッキーノ!?どうして……!ッ、下がれ!学生の君の手に負える相手じゃ……!」
「わかっています!しかし!」
「話は後だ!イファは怨巳の捕縛に集中を!アルレッキーノ、後方支援を頼む!あの怪物の攻撃は受けようと思うな、必ず回避しろ!」
「「了解!」」
「1人増えたところで何が変わるか!やれ、タルパ!」
奥に控える男……今代の会長と思われる人物がそう叫ぶと、怪物はこちらに向かって剣を振り下ろす。言われた通り回避に全神経を集中し、後ろに飛んで回避しつつ距離を取り、技の発動準備に入った。
「【血技装填】……【裂血弾】!」
5発の裂血弾を怪物に向けて放つ。水に溶けないよう体に当たる前に炸裂させたその弾丸は、なんの有効打にもなっていないようだった。
「せりゃァッ!!」
さらにマーヴィカ殿が大剣を振るうも、怪物の体が波打つばかりで効いている様子は無い。イファ殿が指示役の捕縛を試みているようだが、怪物に阻まれそれも成功する様子もない。やはり、あの怪物をどうにかしないと勝利はないようだ。
「あれだけの水、個性か何かしらの動力源が必要なはず。それを見つけて破壊できれば……!」
「しかし、マーヴィカ殿の攻撃ですら効果がないのではどうにも……」
「太陽の光があれば、燃素の回復ができるのだが……無い物ねだりをしても仕方がない!」
『本部より各班へ!第1支部の制圧が完了!継戦可能な者は、未制圧の各班に援護を!移動は、星穹ヒーロー事務所より来てくださった百界ヒーロー[トリスビアス]様が支援します!』
劣勢な状況の中、一筋の光明が刺す。私は急いでインカムを入力モードに変え、本部に通信を送った。
「こちら本部班、アルレッキーノ。本部側に、持久力の回復ができる個性を回せるか?火力の高い者は第2、第4支部に」
『了解!増援の到着まで、持ちこたえてください!』
「アルレッキーノ!今の通信は!?」
「説明する余裕はありません。今はどうか、私を信じて時間稼ぎを」
「……ああ、わかった。信じよう!」
体力を温存するため私は怪物からさらに距離をとり、マーヴィカ殿とイファ殿は怪物の周りで時間稼ぎに徹してくれている。
「ちょこまかと……!まどろっこしいぞ!タルパ、【濁水分霊】!」
苛立ち、痺れを切らした様子の男がそう叫ぶと、怪物の体を構成する水の3割ほどが体を離れ、私の方に向かってくる。その水は私の目の前で止まると姿を変化させ、怪物の小さなコピーとも言うべき姿になった。
(血は水に溶ける、槍の物理攻撃は効かない……!やられる……!?)
「アルレッキーノ!」
奴の拳が目前に迫る。万事休すかと思ったそのとき、私の後ろから重低音な笛の音が響いてきた。
「剛音、【
その音に続いて、巨大な土の塊が私の上を通り、怪物を押し潰す。形状を崩されたその水は本体に吸収され、本体はその質量を元の状態に戻した。
「リライ殿……助かりました」
「気にするな。それより、伝えなければならないことがある。マーヴィカ様!」
「リライか!」
「その化け物が出現すると同時に、この施設の崩落が始まりました!既に侵入不能な部屋も多く、建物内にいた敵は浅い階層や外への脱出を行っています!」
「何ッ!?」
「このままのペースで崩落が続けば、この部屋はあと5分で脱出不能か、最悪部屋が潰れることに……!」
リライ殿から告げられたのは、ここ自体が既に相当危ない状態になっているということ。増援の到着が先か、崩落が先か……この状態では、運頼みと言わざるを得まい。
次回、第4章最終回。
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