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「タルパ、【濁水乱射】!」
「【諸火武装・焚曜の輪】!」
「【飛斬・鎌鼬】……!」
怪物が放つ無数の水の弾丸を、私たちがそれぞれ持つ範囲技で迎撃する。
リライ殿はピーク殿に合流し施設内から逃亡する敵を捕縛し待機中の道警に引き渡すため、イファ殿はこの後現れる増援をなるべく早くここに誘導するため部屋から離れ、この部屋に残ったのは私とマーヴィカ殿の2人だけだ。
「ちょこまかと逃げの一手で……!」
「マーヴィカ殿、燃素の残量は?」
「3割と言った所だな。そちらの血液は?」
「戦闘に使える量は、同じようなものです。先程まで温存していたのですが」
私もマーヴィカ殿も、無補給で長期戦ができるタイプではない。特にマーヴィカ殿は、力の源である太陽光を作戦開始からずっと浴びていないのだから、いつその力が尽きても不思議ではないだろう。
「マーヴィカ、君では僕とタルパに勝てない!降参しろ、そうすれば楽に逝かせてやる!」
「舐めるなよ
「そうか……ならば、君は惨たらしく死ぬといい!」
怪物の持つ剣が球体に姿を変えた。それは怪物の身を削って元の剣よりも質量を増しており、本体の半分程度の大きさに肥大化したそれは、こちらの攻撃など通さないだろうということが見て分かる。
「これを避ければ、部屋の出口が崩落し我々は生き埋めになる……!受け止めるしかないな!アルレッキーノ!」
「了解!」
「消し飛ばせ、タルパ!【濁水轟波】!」
BAGYUUUUUUNN!!!
「【燃素障壁】!」
「【血焔境界】!」
怪物が放った水の波動が、私たちが張った二重の壁に衝突する。燃素を固めたマーヴィカ殿の防壁を、裏から私の血で補強した即席の連携だが、最初の衝撃を受け止めることは成功。しかし、水の波動の照射が続くにつれ、マーヴィカ殿の髪の発光が弱まり、点滅を繰り返し始めた。
「くっ……燃素が……!」
「マーヴィカ殿……っ!」
燃素の壁にヒビが入っていく。しかし、私の盾を前面に出しても血が水に溶けてしまい意味が無いため後ろから壁の厚みを増やす以上のことはできず、絶体絶命と言って差し支えない状況。絶え間ない水の波動に、万事休すかと思ったその時……
「存護の槍よ!【不滅のアンバー】!!」
背後から聞き覚えのない声が聞こえると同時に、私たち二人の前に灰色の髪をした女性が現れ、更に壊れかけの壁の上に半透明のバリアのようなものが出現した。
「何とか間に合ったみたいだな!」
「イファ、それにクイクか!」
「持久力の回復が必要と聞いて、私が派遣されました!私の個性をマーヴィカ様に?」
“スタミナムヒーロー『クイク』、個性[エナジー]!自分か触れた相手のスタミナを急速回復できる!ただしこれは前借りであり、後でその分の疲労感や空腹感を味わうことになる!”
後ろに振り向くと、そこにはイファ殿と合流した第1班の方の姿が。
「クイク殿、個性は私に。それと確認ですが、この部屋の上部に人が住む建造物はありませんね?」
「え、ええ。この上は空き地になっているけど……何をする気なの?」
「説明の余裕はありません、早く……!」
「わ、わかったわ!」
クイク殿が私に触れると、急速に体力が回復していくのを感じる。急遽思いついた作戦を実行するべく、私は右腕を天井に向け、更にブラディトリガーを外して自ら手のひらに大きな傷をつけた。
「アルレッキーノ、何をする気だ!?」
「今この場で、唯一あの化け物を打ち倒せる可能性を持つのはマーヴィカ殿。ならば、その力を十全に発揮してもらう必要がある!【自刻勅印・融】……!」
通常の自刻勅印と異なり、自分に付けた勅令を回収せず常にスタミナを血液に変換し続ける融。これとクイク殿の回復によって絶え間ない血液生成が可能になった私は、右手の傷口から大量の血を流し、あの怪物と同じように血の球体を生成する。
「まさか、アルレッキーノ……!」
「最大出力、波動血砲……!」
体育祭の時とは比べ物にならないほど巨大な血の砲弾を、天井に向けて放つ。それは天井に大きな着弾痕を残し、そこから大量の液体輸送用と思われるパイプが露出した。
「思った通り……やはり、脆い」
「天井に穴を開ける気か!?無茶だ!」
「下階層の崩落が始まった際、この部屋にはその衝撃が一切伝わってこなかった。少なくともこの部屋の外壁は他より頑丈だ」
「だが反面、無理な配管によって天井あたりの地盤は確実に弱っている。そこを突いて、1点に攻撃を集中させれば破壊できる……!」
「―!」
「着弾点に狙いを定めて……波動、血砲!」
2発目の砲弾が先程とおなじ場所に当たると、天井の着弾痕はより大きく、深くなった。だが一方、私の企みに気づいたと思われる敵の男が怪物に対して私を狙うよう指示したようで、その水の波動は徐々に軌道を私の方にずらしていく。
「もう、バリアが!」
灰髪の女性ヒーローが張ったバリアにはヒビが入っており、マーヴィカ殿は燃素切れ。急いで3発目の準備を始めると、突然視界がぐらりと揺れ、立っていられずそのまま膝を着いてしまった。
「アルレッキーノさん!」
「クイク殿、もう一度私に個性を……」
「駄目よ、これ以上はあなたの体が持たないわ!」
「仮にそうだとしても、成功すれば私一人で済む。しかし失敗すれば全滅だ……躊躇っている時間はない……!」
「───っ!」
「やってくれ、クイク」
「マーヴィカ様!?しかし……!」
「アルレッキーノ。私たちが勝つために、その力を貸してほしい。だが……死ぬなよ」
「了解……!」
再びクイク殿の個性が私の体に行使される。停止した融による造血を再開させ、3発目の砲弾を生成し始める。バリアが破れるよりも早く天井を破壊しなければならない以上、この一撃で決めきらなければ。
「過重充填……穿ち抜け、【波動血砲・重】……!」
3発目、これまでよりも更に大きな砲弾が、赤黒い軌跡を描いて天井に着弾する。更に着弾を確認したタイミングで砲弾を圧縮・爆発させ、破壊を確実なものにしようとしたが、その成果を確認するよりも早く……バリアが、破られた。
「バリアが破れる!早く離脱を───」
「っ、アルレッキーノ!」
「血焔結界───」
水の奔流が迫り来る。こちらに手を伸ばす灰髪のヒーロー、私を庇おうとするイファ殿、そして意味が無いと知りながらも血の壁を前面に展開する私……その全てを覆い尽くすほどの水が、私たちをまとめて呑み込まんと降りかかった。
水に呑み込まれる瞬間、私たちが感じたのは膨大な量の水ではなく……太陽のような、暖かい輝きだった。
「よくやってくれた、アルレッキーノ!あとは私に任せてもらう!」
私が天井に開けた穴から、陽光が差している。そしてその光の先には、全身を眩いほどに輝かせたヒーロー───マーヴィカ殿が、立っていた。
「マーヴィカ、殿……!」
「休んでいるといい、アルレッキーノ。ここからは私がやる」
笑みを浮かべ、こちらに振り向くマーヴィカ殿。その表情と声からは確かな自信が感じられ、その力が再び万全に回復したということが伝わってくる。それに安堵すると、全身の力がふっと抜け、後ろに倒れてしまう。
「ようやく復活したんだ?随分な重役出勤だね」
「はは、言ってくれるじゃないか、
“星魂ヒーロー『星』、個性【開拓】!自分の成長や周囲の環境など、様々なことをトリガーに新たな力を得ることができる!”
「イファ、クイク、アルレッキーノを頼む」
「はい!」
「マーヴィカ様、ご武運を」
私の体は地面に倒れるよりも早くイファ殿とクイク殿に受け止められており、地面に背中を強打するようなことにはならなかった。
「マーヴィカ、往生際が悪いな!学生の力を借りなければ、とっくに死んでいるというのに!」
「ああ、その通りだな。だが彼女は……アルレッキーノは、ただの学生じゃない!マーヴィカヒーロー事務所の仲間、私が認めた1人のヒーローだ!」
「だからなんだ!やれタルパァッ!!」
マーヴィカ殿は、怪物の剣を片手で構えた大剣で受け止め、そのまま弾き返す。
「なぁっ!?」
「無意思の怪物とはいえ、いたぶるのは趣味ではない。今ここで討つ!」
「ぐッ……!舐めるなぁぁぁ!!!!」
男の激昂に呼応するように、大きく拳を振り上げる怪物。それに相対するマーヴィカ殿は、大剣を天高く掲げ、その刀身に炎を纏わせる。
「今こそ天を焦がす時!聞け、太陽の咆哮を!【墜陽斬】!!」
それは、まさに必殺の一撃。燃え盛る炎の一振りは怪物の拳を正面から打ち破り、その全身を真っ二つに両断した。
「ば、馬鹿な!しかし、タルパはその程度では……!」
「言ったはずだ、ここで討つと!赤焔に葬られよ……【燃素バースト】!!」
両断された怪物に、炎と化した燃素の奔流が放たれる。後方に控えていても熱が伝わってくるほどの炎、そしてその後に残ったのは、赤い核を紫色の水晶が包んでいるような謎の物体だけだった。
「これが、貴様らが生み出した怪物のコアか」
「そんな……我らの研究成果が、タルパが負けるなんて……何かの間違いだ……!」
マーヴィカ殿は結晶を拾い上げると、それを自分の真上に放り投げ、大剣でそれを粉砕。全身を輝かせたまま、水仙十字会の頭である男の方に歩いていく。
「終わりだ、黒川。水仙十字会の長きに渡る妄執は、ここで潰える」
「ま、まだだ……!タルパのいる拠点はここだけでは……!」
『本部より各班へ!第2、第3拠点の制圧が完了しました!残る拠点は、本拠点並びに第4拠点のみです!』
「フッ……どうやら、貴様の言うタルパが敗れたのはここだけではないようだが?」
「そんな、デタラメを……ぐッ!?」
「何にせよ、既に貴様に抵抗する力は無いな」
マーヴィカ殿が男の腕を掴むと、私が天井に開けた穴から覗く影が1つ。
「マーヴィカ様!施設内に残っていた敵は、全て僕とリライで捕縛しました!そこももう危ないです、お早く!」
「ピーク!よし、急いでここを離れるぞ!」
マーヴィカ殿が燃素で天井の穴までの道をかける。私も脱出のためイファ殿とクイク殿に支えられながら立ち上がろうとしたが、全く全身に力が入らない。結局マーヴィカ殿の双駆輪の後ろに座らされ、地下を脱出したところで本日二度目の気絶を迎えた。
「……ここ、は……」
目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった。凄まじい疲労感で体が動かず、瞼を開けるのがやっとだ。
「あっ、アルレッキーノさん……?イファ先生!アルレッキーノさんが目を覚ましたよ!」
「ヴァレサ……殿……?」
ほんの少し目を横に向けると、作戦会議の時に見たピンク髪の女性が。
「今先生を呼んでくるからね、ちょっとまっててね!」
ヴァレサ殿が部屋を出ると、程なくしてイファ殿とクイク殿が現れた。
「具合はどうだい?ああ、喋るのもしんどいようなら、首を動かすだけでも……」
「いえ……話すくらいなら、できます……体調は……とにかく、疲労が……」
「私の個性を、2回連続で使えばそうもなるわよ。2日で目を覚ましたのが不思議なくらい」
「ふつ、か……?」
「ああ、アルレッキーノさんは丸2日目を覚まさなかったんだ。職場体験の期間内に目を覚まさなかったらどうしようかと……」
どうやら私は、かなりの時間寝込んでいたらしい。それを含めてもこの疲労感なのだから、全力の波動血砲は凄まじい血液消費なのだということがわかる。
「残りの、日程は……」
「明日で終わりね……それに、まだ日があったとしても多分なにも出来ないわよ?今うちの事務所は事後処理で忙しくて、パトロールも他に任せてるくらいだし」
「そういう訳だから、今日はこのまま休んでいた方がいい。というか、動けないだろう?」
「それは……まあ……」
そうですが、と言葉を続けようとした時、疲労で鈍っていた全身の感覚、特に腹のあたりに変化があった。
「あの、イファ殿……部屋を移しては貰えませんか……?」
「ん?何かあったかい?」
「いえ、その……凄まじい、空腹が」
《食堂》
「はぐっ……んぐっ、んぐっ……ぷはぁっ」
本来なら疲労で動かすのも辛い腕を必死に動かし、運ばれてくる料理を次々と口に運ぶ。消化器官は2日間の絶食状態で弱っていそうなものだが、少なくとも自分ではそれを感じない。
「私の個性は元気の前借り、代償は疲労と空腹。とはいえ、よく食べるわね」
既に普段なら考えられない程の食事をとっているのに、一向に食欲が収まる気配はない。
「すみません、ハンバーガー2つと青椒肉絲、五目春巻きを追加でお願いします」
「あいよ!できたらすぐ持ってくからね!」
こうして食事を続けること1時間。ようやく腹の虫が治まってきた頃、食事のおかげか疲労感もだいぶマシになってきていた。
「ふぅ……」
「1時間ほぼノンストップで飲み食い……見た目によらず、ものすごい健啖家なのね」
「すみません、ミルクジェラートとコーヒーゼリーを」
「まだ食べるの!?」
「はは、思ったより元気そうじゃないか。目が覚めたとは聞いていたが、忙しくてな」
「マーヴィカ殿」
後ろの方から近付いてきたマーヴィカ殿が、私の正面に座る。微笑んだ表情とは裏腹に、その視線は真剣そのものだった。
「アルレッキーノ。今回の件、君のおかげで首魁の逮捕に至ったと言っても過言では無い。本当にありがとう」
「っ!顔を上げてください、マーヴィカ殿。私は、自分にできると思ったことをしただけです」
「そうか……なら、ここからは事の顛末について話そう」
「まず、アルレッキーノが気を失った後。君は速やかに事務所の医務室に運ばれ、私はトリスビアス殿の個性で第4拠点に送られた。そこで最後の怪物……タルパを倒し、作戦は成功となった」
「あの怪物の正体は、奴らの研究の末に生み出された特殊な水に対して、黒川 怨巳が自らの個性を動力源にすることで生み出されるものだった。」
「奴の個性は[怨塊]、負の感情を結晶化させエネルギー源とする個性で、幼少期から現在の社会に対する憎しみを増幅させられるような教育を受けていたらしい」
「水仙十字会の構成員は全員逮捕された。今のところ、逃がした者がいるという報告は無い。とはいえ大規模作戦の後、今この事務所は事後処理でパトロールも手が足りないほどでな。作戦に協力してくれた星穹ヒーロー事務所に一時的に委託している」
「成程……大体のことは分かりました」
「そうか?ならよかった。っと、すまないが、私はもう行くよ。片付けなくてはならない書類がまだあるのでな。明日はまた青森まで送っていく」
そう言うとマーヴィカ殿は、忙しそうにオフィスに戻って行った。私はと言えば、医務室でイファ殿に言われたように、今日一日は休んでおくことに。
そして翌日。職場体験を終え、北の地を去る日がやってきた。
「忘れ物はないな?あればそちらに郵送することもできるが、無いに越したことはない」
「大丈夫です。皆さんへの挨拶も済ませました」
荷物を纏め事務所前に立つ私に、双駆輪を携えて現れたマーヴィカ殿が確認の言葉をかける。
「よし。では、ここから青森まで来た時と同じように水上を走る。私の後ろに───」
「ちょーっと待った!」
双駆輪の後ろに乗り込もうとした時、どこからともなく声が聞こえてくる。その方向に顔を向けると、地下で私たちを助けてくれたヒーロー……星穹ヒーロー事務所の星殿がいた。
「ん?どうした星、私に何か用か?」
「いや、そっちの……アルレッキーノだっけ?」
「私ですか?」
「うん。アルレッキーノ、ちょっと先の話だけど、インターンはウチに来ない?地下での戦いで興味が湧いたんだ」
「インターン、ですか?」
「そうだよ。あれ、1年生だと話すらまだ出てこないんだっけ?まあいいや、コレ名刺だから、考えといてね。それじゃ」
言いたいことを言って、私に名刺を渡した星殿は、そのままどこかに走り去っていった。
「あの破天荒さは相変わらずだな……まあいい、行くぞアルレッキーノ!」
「はい」
改めて双駆輪の後ろに乗り、行きと同じように水上を走る。まだ2度目で慣れないが、最初と比べればいくらか冷静でいられた。
帰りの電車が出る駅に辿り着くと、私はすっかり忘れていたことを思い出し、慌ててポケットからそれを取り出した。
「すみませんマーヴィカ殿、端末の返却をすっかり忘れていました」
「ん?ああ、それは持っていて構わないぞ。数が足りないようなものでも無いし、何より……君は、私たちの大切な仲間の1人だからな」
「……っ!ありがとう、ございます。この職場体験で、自分の目指すべき姿が段々と見えてきた気がします……色々と、お世話になりました」
「ああ!体には気をつけて、また会えることを楽しみにしている!」
こうして、私の職場体験は幕を閉じたのであった。
長きに渡るオリジナル展開にお付き合い頂き、ありがとうございました!
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