筆記試験の翌日、実技試験の日。私たちA組一同は実技試験用の会場に集められた。そこには複数人の先生方が待機していたのだが、対ロボット戦の試験監督としてはやや多いのではないかと思える。
「それじゃあ、演習試験を始めていく。この試験でも、勿論赤点はある。林間合宿行きたけりゃ、みっともねぇヘマはするなよ!」
「ん、先生多いな……」
「諸君なら、事前に情報を仕入れて、何するか薄々分かってると思うが……」
「入試みてーなロボ無双だろぉー!?」
「花火ー!カレー!肝試しー!」
「残念!諸事情があって、今回から内容を変更しちゃうのさ!」
「「「校長先生!?」」」
「変更って……」
相澤先生が首に巻いている布の中から白い小動物……根津校長が現れる。校長による内容の変更宣言と共に、上鳴殿と芦戸殿の顔から生気が抜け、他の皆も驚いているようで動揺の声が聞こえてくる。
「これからは、対人戦闘・活動を見据えた、より実戦に近い教えを重視するのさ!というわけで……」
「諸君らにはこれから2人1組で、ここにいる教師1人と戦闘を行ってもらう!」
「「「なっ……!」」」
「先生方と……!?」
「なお、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度……諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表するぞ!」
動揺が広がる中、相澤先生から対戦の組み合わせが発表される。私は……7戦目、耳郎殿と共に、プレゼント・マイク先生と戦うことになった。
「試験の制限時間は30分!君たちの目的は、このハンドカフスを教師にかけるorどちらか1人がステージから脱出することさ!」
「先生を捕らえるか、脱出するか……なんか戦闘訓練と似てんな」
「ホントに逃げてもいいんですか?」
「うん!」
「とはいえ戦闘訓練とはワケが違うからなぁ!相手はぁ……超ぉーーーーー格上!」
「格、上……?イメージ無いんすけど」
「相手は教師以前にプロヒーロー。職場体験で、プロの実力は知ったはずだ」
「あっ……」
「今回は、極めて実戦に近い状況での試験。僕らを敵そのものだと考えてください!」
「会敵したと仮定し、そこで戦い勝てるならそれでよし。だが……」
「実力差が大きすぎる場合、逃げて応援を読んだ方が懸命……轟、飯田、緑谷、お前らはよく分かってるはずだ」
「もう、間違えない……この試験をクリアして、それを証明してみせる!」
「戦って勝つか、逃げて勝つか……」
「そう!君らの判断力が試される!けどこんなルール、逃げの一択じゃね?って思っちゃいますよね〜……そこで私たち、サポート科にこんなの作って貰いましたー!」
そう言ってオールマイトが取り出したのは、金属製のリストバンド。
「超圧縮お〜も〜り〜〜!」
「体重の約半分の重量を装着する、ハンデってやつさ。古典だが動き辛いし、体力は削られる!」
「ちなみにデザインはコンペで、発目少女のが採用されたぞ!」
「戦闘を視野に入れさせるためか……舐めてんな」
「HAHAHA……どうかな」
先生側の戦闘能力を削ぐ、言わば逆サポートアイテム。それ込みで、戦闘するか否かを考えろということか。
「よし!チーム毎に用意したステージで、1戦目から順番に演習試験を始める!砂藤、切島、用意しろ」
「「はい!」」
「出番がまだな者は、見学するなり、チームで作戦を相談するなり好きにしろ。以上だ!」
私たちは見学ではなく、戦闘に備えた作戦会議を選び、用意された待機部屋に入る。
「耳郎殿……今回の試験、私はそこまで役に立てないかもしれない」
「え?」
「私には、現状2種類の天敵が居る。1つは水。血が溶けてしまうのでな。そしてもう1つは……造血のための初撃を牽制してくる遠距離の大火力だ」
「そっか、マイク先生の個性は……」
「ああ、後者の遠距離大火力にあたる。仮に声のみで直接的な破壊はされないにしろ、近付けなければ私の火力には限界がある」
「でもさ、予選でやってたあの大砲みたいな技なら対抗できるんじゃない?」
「あれは血を使いすぎる。造血無しで使えば、その後の戦闘行動は難しくなるだろう。外してしまえば後がない」
「耳郎殿と比べて、音の個性としても出力は向こうが上……逃げるのが最善手になるな」
その後、開始時間まで作戦会議は続いたものの、あまり良い策は思いつかず……開始と同時に私が飛んで脱出ゲートの位置を特定し、そこに全力で向かうという作戦になった。
『スネージヴィナ・耳郎チーム、演習試験、レディ・ゴー!』
「では当初の作戦通り、私が飛んで道にアタリをつける。【紅血風翼】」
「お願い、ペルヴェーレ」
翼を生やし、羽根を燃焼・爆破させて空に飛び上がる。
(我々のスタート地点は中心、脱出地点は東か。恐らく先生は脱出地点で待ち伏せしているだろうな……故に問題は、マイク先生との距離、そして彼の射程)
一度地上に降り、耳郎殿に情報を共有しようと思ったその時。
「YEAHHHHHHHHHH!!!!!!!!!」
「ガッ……!?」
(気付かれた!?まずい、堕ちる……!)
衝撃で推進用の羽根の一部が暴発し、左右のバランスを崩したことで私の体は地面に向かって落ちていく。あと少しで地表に激突するといったところで羽根を爆発させて落下の勢いを相殺し、間一髪のところで着地に成功した。
「ペルヴェーレ!」
「怪我は無い、が……予定より多く血を使ってしまった。脱出ゲートは向こう、先程の声の方向からして、先生はそこで待ち構えているようだ」
「やっぱ待ち伏せしてるか……とにかく、ゲート前まで向かおう」
「ああ」
ゲートの方向を教え、二人でその方向に走る。しかし……
「出て来ぉぉぉぉぉぉぉぉい!」
「まぁだでぇすかぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「耳がっ……!これ、無理……!!」
「近付けば近付くほど、威力が……!」
マイク先生が声での攻撃を行う度に足が止まる。近付くほど音源との距離も詰まるため、迂闊に近付きすぎると鼓膜が破れてしまいそうだ。
「早くしてぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「これ以上は鼓膜やられる!どうしよ……ペルヴェーレ、なんか作戦ない?」
「作戦?作戦は……」
格上と戦っているのは職場体験の時と同じ。しかしあの時は、それに対抗できる力を持つマーヴィカ殿がいた。しかし今回、こちらの戦力は私が上限値。あの時のように、他人を手助けするだけでは勝てない。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!!」
「考えが、纏まらない……!」
「とりあえず、相殺ッ……!」
マイク先生の声攻撃と耳郎殿の音攻撃がぶつかり合い、一時的に向こうからの声が止まった。この隙に策を考えなければ。
しかしどうやって?近付くことさえ叶わないなら、私は何の役にも立たない。血の残量が十分ならいいのだが、紅血風翼や衝突回避のための消費で万全とは言えず、波動血砲は使えない。裂血弾も恐らく声の衝撃で着弾前に爆発してしまうだろうから、私が使える遠距離攻撃は無いに等しい。
「耳郎殿、その相殺はこれ以上近付いても使えるか?」
「ちょっと厳しいかも、今のだって向こうの声の終わりがけに合わせてギリギリだし……」
となると、相殺に合わせて一気に突っ込むことも出来ないか。いや、耳郎殿をここに残して一瞬の相殺に合わせれば或いは……
(しかし、私1人近づいたところでどうなる?向こうは息を吸うだけで何度でもあの攻撃を出せるのだから、接近後にもう一度撃たれて終わりだ)
あの個性に合わせて、肺活量も鍛えているはず。それに、こちらの意図に気付かれて声を温存されればそれまでだ。
「そこかぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「ぐッ……!」
「先生が強すぎる!耳がもたない……!」
これは試験、打開策が存在しないなんてことは無いはず。もっとも、それがあったとしても見つけることが出来なければなんの意味もないのだが。
(私一人の力では打開できない。鍵になるのは耳郎殿をどう活かすかということ……向こうとこちらを比べて、違うところを考える……!)
「……!そうか、それなら……!」
「っ、なんか思いついたの!?」
こちらと向こうとで勝っている点ではなく、異なる点。それを軸に考えた時、ひとつの策を思い付く。しかしこれは、失敗すればそれで終わりな上、耳郎殿にそれなりのリスクを背負わせる作戦だ。
「ああ。失敗すればそれまで、耳郎殿にもかなりの負担がある一か八かだが……」
「クリアできないよりはいいよ、作戦を教えて!」
「……わかった。作戦は……」
「……行くぞ、耳郎殿」
「いつでも!」
「かなりの熱さに耐えてもらうことになる……覚悟してくれ」
耳郎殿を背負って血で固定した状態で身体強化を使い、脱出地点の方向に全力で駆ける作戦。彼女にかかる第一の負担は、身体強化中の私から放たれる高温。そして……
「まぁだでぇすかぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「耳郎殿、相殺を!」
「わかった!」
マイク先生の声攻撃、その終り際に先程と同じく相殺をしてもらうのが第二の負担。ここまでで起こした向こうからわかる行動は初手の飛行と先程の相殺のみ、私たちの大凡の位置しか分からない先生は声の温存という択を選ばないと仮定して作戦を立てた。
「耐えてくれ、耳郎殿……【焼尽体躯】」
「熱っつ!?」
向こうの声が終わると同時に、身体強化を全開にして走る。先生の声攻撃には、その性質上確実に「息を吸う」という予備動作が入るということを利用し、次の攻撃までに可能な限り先生との距離を詰める!
「次が正念場だ……これ以降、私は音が聞こえなくなる。何かあれば自己判断で頼むぞ」
「ッ……了、解!」
だが、距離の関係上接近までにもう一度先生の攻撃を受けることになる。私は予め血で耳栓を作って彼女の耳に装着させており、そこに上から手で耳を塞ぎ、さらに相殺すれば彼女の耳は無事……とは言わずとも、聞こえる状態で済むだろう。しかし私は彼女を背負っている都合上手で耳を抑えられず、耳栓だけでは不十分。そこで、意図的に鼓膜を破ることを選択した。
「早くしてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「───ッッ!!」
「ペルヴェーレ!」
「作戦……開始ッ!」
耳郎殿が私の背中にプラグを刺し、攻撃が止んだ事を伝える。それと同時に、私は先生のいる方向へ発火した血弾を一斉に放った。
(私の血は熱を持つ。圧縮方法を少し変えてやれば、出火させることは難しくない)
次の攻撃よりも早く、先生と脱出ゲートが見えてくる。私の狙い通り……足元が燃え、そこから熱気と煙が登ってきている状態の先生は、息を吸うことを躊躇っているようだった。
(息を吸うという予備動作が、私たちの付け入る隙。息を吸わなければ攻撃できないのなら、息を吸いたくないと思わせればいい……!)
「耳郎殿、受け身の準備を!」
「───!」
彼女の体を拘束していた血を溶かし、思い切りゲート方向に投げた。それに並行して私もマイク先生の方に走り、耳郎殿の脱出を邪魔されないよう交戦を仕掛ける。
「───!」
「悪いな、何も聞こえない……!【昇りゆく凶月】!」
体内に残った戦闘に使える血を限界まで引き出し、先生の足元に棘を生やす。刺さったソレの血を経由して体力を奪い、拘束を完全なものにしたところで、耳郎殿がゲートをくぐったのが見えた。
『スネージヴィナ・耳郎チーム、条件達成!』
何も聞こえないが、確かに条件は達成した。これで、演習試験は合格のはずだ。
勝利方法が無茶苦茶……?作者の脳みそじゃこれが限界だったんだ……