僕のヒーローアカデミア:紅き月の狂宴   作:Dr.Sin

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第5幕:紅月の試練・序

 

「雄英高は一学期を終え、現在夏休み期間に入っている。だが、ヒーローを目指す諸君らに安息の日々は訪れない!この林間合宿で更なる高みへ……Plus Ultraを目指してもらう!」

 

「「「はい!」」」

 

林間合宿。夏休み期間中、ヒーロー科の生徒AB合わせて40人にのみ課せられた、1週間の修行期間。詳細な内容はしおりを呼んだだけでは分からないが、とにかく過酷だと聞き及んでいる。

 

「え?なになにA組補修いるの!?つまり期末で赤点とった人がいるってこと!?えー、おかしくないおかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なはずなのに!?あれれれれッ」

「ごめんなー」

「物間怖っ」

 

隣のバスの方から、期末前の食堂と同じような声が聞こえてくる。物間殿がA組への敵愾心丸出しで罵声を浴びせてくるのに対し、拳藤殿が首筋チョップで意識を刈り取る所まで全く同じ流れだ。

 

「あ、B組の!」

 

「体育祭じゃなんやかんやあったけど、ま、よろしくねA組!」

「ん」

 

物間殿以外のB組生徒は少なくとも我々に敵対心を向けている訳では無いようだ。となると、やはり彼の精神的な問題らしい。

 

「A組だけじゃなくB組の女子まで……!ジュルッ、よりどりみどりかよぉ!」

「お前駄目だぞ、そろそろ」

 

「A組のバスはこっちだ!席順に並びたまえ!」

 

 

「1時間後に1度バスを停める。そこから……」

 

「音楽流そーぜー!」

「しりとりしない?」

「合宿って何するんだろ!?」

 

合宿所に向かうバスの中は、それはもう騒がしいことになっていた。暇潰しを試みる者や合宿について話すもの、何も考えず盛り上がる者など、思い思いのことを喋っている。途中相澤先生が何か言いかけたが、その事に気付いた者はほとんど居ないようだ。

 

 

「ん……ふあぁ……っ」

 

バスに揺られること1時間と少し。私たちを乗せたバスは何も無い山道で止まり、そこで全員降りるよう言われた。座りっぱなしで凝った体を伸ばすと、背中からポキポキと小気味いい音が鳴る。

 

「ようやく休憩かぁ〜」

「おしっこ、おしっこ……」

「つかここ、パーキングじゃなくね?」

「あれ、B組は?」

 

「何の目的も無くでは、意味が薄いからな」

 

何も無いところで降ろされたということに疑問を持つ声がちらほらと上がり始め、それに合わせるように相澤先生が口を開く。

 

「ようイレイザー!」

 

女性の声と共に、バスの近くに停車していた黒い車のドアが開く。その中から現れたのは、ヒーローコスチュームと思われる派手な格好をした女性2人と、小学生くらいの子供1人。

 

「ご無沙汰してます」

 

「煌めく(まなこ)でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

「今回お世話になるヒーロー、プッシーキャッツの皆さんだ!」

 

「連盟事務所を構える4名1チームのヒーロー集団!山岳救助などを得意とするベテランチームだよ!キャリアは今年で15年にもなるブベラッ」

「心は18……ッッ!!」

 

相澤先生が現れた2人の紹介をすると、緑谷殿がいつものように饒舌な解説を始める。彼が活動歴についてを口に出すと、2人のうち片方が彼に急接近しその顔面を肉球グローブで鷲掴みにした。

 

「心は……!?」

「じゅうはちっ……!」

 

「「必死かよ」」

 

「そういう態度はかえって逆効果なのではふぎゃっ」

「なんか言った?」

「いえ、なにも」

 

あの肉球グローブ、爪先がものすごく尖っている。あの見た目でもしっかり武器ということか。

 

「あいつ基本頭良さそうなのに時々ポンコツなるよな」

「ねー」

 

「お前ら、挨拶しろ!」

 

「「「よろしくお願いします!」」」

 

「ここら一帯は、私らの所有地なんだけどね、あんたらの宿泊施設は、あの山の麓ね」

 

そう言って刺された指の先は、広大な森の中。少なくとも、私の目にはそこに何か施設があるようには見えない。

 

「「「遠ッ!!」」」

「えぇっ?じゃあなんでこんな半端な所に……?」

「これってもしかして……」

 

猛烈な「嫌な予感」。殺意だの敵意だの悪意だのとは違うが、私の本能が明確に危機を感じている。

 

「いやいやぁ……」

「あっはは……バス、戻ろうか……な、早く」

「そうだなー……そうすっか……!」

 

「今は午前9時30分……早ければぁ……12時前後かしら?」

 

「駄目だ……おい!」

「戻ろ!」

「バスに戻れ!早く!!」

 

「12時半までかかったキティは、お昼抜きねー」

「悪いね諸君……合宿はもう、始まってる!」

「ッ!【紅血風翼】!」

 

私が咄嗟の判断で飛び上がると同時に足元の土が隆起し、地面にいたクラスメイトの皆を飲み込んでいく。その土は崖下までなだれ込み、私を除くA組生徒は1人残らずそこに叩き落とされた。

 

「おーい!私有地につき、個性の使用は自由だよ!今から3時間、自分の足で施設までおいでませ!この、魔獣の森を抜けて!」

 

「魔獣の森……?何らかの比喩表現か、それとも私の知らない魔獣と呼ばれる生物が存在しているのか……」

 

地上から聞こえる声を聞き、あの場所が何なのかを考える。が、考えが纏まるよりも先に地上から私に向けて声がかけられた。

 

「スネージヴィナ!お前もアイツらの中に加われ……初手の攻撃を回避したのはいいが、アレも合宿の一貫だ」

 

「……分かりました。では」

 

相澤先生に言われ、翼を畳んで崖下に降下する。既に何らかとの戦闘は始まっているようで、轟殿や爆豪殿、飯田殿、緑谷殿などの高出力個性持ちが人型の怪物を撃破している様子が見えた。

 

(あの崩れ方、土か。しかし、なんというか……自然物で構成された人型の怪物となると、嫌なものを思い出す)

 

「あっ、ペルヴィ!」

「咄嗟の判断で飛び上がったのだが、相澤先生に降りるよう言われてな。今の状況は……何となく把握している」

 

「あの魔獣を瞬殺かよ!」

「やったな!」

「やった……オイラやっちまった……」

 

「流石だぜ爆豪!」

「……まだだ!」

 

森の少し奥から、呻き声に似た何かが聞こえてくる。魔獣とやらが本当に土を原料として生まれてきているのなら、単にリソースの面から見れば……それは、ほぼ無限に現れるだろう。

 

「おいおい……いったい何匹居るんだよ!」

「どうする?逃げる?」

「冗談!12時までに施設に行かなきゃ昼飯抜きだぜ!」

「なら、ここを突破して最短ルートで施設を目指すしかありませんわ!」

「ケロっ!」

 

全員の方向性が前進と迎撃に固まる。それを見計らって、私はある提案をした。

 

「ならば、個性ごとにポジションを決めよう。これだけ人数と個性が整っている戦場なら、各々の得意分野を活かす方向で動きたい」

 

クラスメイト各員を、その個性が最も活きる位置に割り振る。分散したり、苦手な分野で交戦するよりもそちらの方が戦闘を優位に進めることができると判断したためだ。

 

「ああ!つっても、誰をどんな所に置くんだ!?」

 

切島殿の疑問に対し、私は自分が考える皆の力を最も活かせる配置を伝える。

 

「まず、緑谷殿や轟殿など短期間で魔獣を破壊可能かつ一定の継戦力を持つ者や、瀬呂殿、峰田殿のような拘束系個性を持つ者を前衛に出す。また、尾白殿には柔軟な機動力を活かした斥候を頼みたい」

 

「次に私、耳郎殿、障子殿の3人は索敵役として中衛。芦戸殿と麗日殿は、前衛と中衛の間くらいの位置からサポートを」

 

「そして、上鳴殿や砂藤殿など、一撃の破壊力は高いが持久力に不安がある者は大型魔獣の出現や前衛のスタミナ切れ、後方からの奇襲に備え、後衛で待機を。また、八百万殿、青山殿など、アウトレンジから攻撃可能な者もここで攻撃を行う」

 

「例外的に爆豪殿は遊撃手として自由に動き回ってくれて構わない。火力、速度、そして持久力を併せ持つ爆豪殿なら、集団行動よりも単独行動の方がこの場合は有効だ。構わないか?」

 

「異論はねぇ」

「ポジショニングはそれでいいと思う!」

「俺に指図すんじゃねぇ!言われなくても全員ブッ殺してやらァッ!!」

 

私が考えた戦術にひとまずの賛同を得られたので、皆をその通りに配置する。

 

「八百万殿、全員にトランシーバーを。私が上空から指揮を執る」

「っ、分かりました!」

 

「よし……行くぞA組!」

「「「おう!!!」」」

 

飯田殿の号令と共に、一斉に行動を開始。基本的にはやや縦に広い隊列を組みつつ、足並みを揃えて前進する。遊撃の爆豪殿と斥候の尾白殿はやや隊列から離れるが、それでも索敵役の誰かからは観測できる範囲だ。

 

「前方から3匹!左右に2匹ずつ!」

「総数7……来るよ!」

 

「瀬呂殿は前進、飛行型の拘束を。拘束された魔獣は緑谷殿が破壊」

「前方の地上型は飯田殿と常闇殿で対処、左方は轟殿、右方は蛙水殿と麗日殿で対応を」

「火力が足りない所は、私が援護する……!」

 

「よっしゃあっ!行くぜ!」

「ダークシャドウ!」

 

前と左右から囲み込むように迫ってくる魔獣を、クラスメイトそれぞれに指示を出して迎撃させる。比較的持久力のありそうなメンバーで前線を構築したが、この一戦でどの程度消耗するかで今後を考える必要もあるか。

 

『さらに前方、大型が2体!』

「後ろからも来る!総数3!」

 

いや、それ以前に敵の出現が絶えない。再編成云々を考えている余裕は無いな……とにかく、迎撃しつつ前進しなければ。

 

「尾白殿は回避しつつ本隊合流まで陽動、その後は轟殿と切島殿で破壊を。八百万殿は後方の敵を迎撃、だが機動力を削げば必ずしも破壊の必要は無い」

 

「左右から追加だ、右2匹、左3匹!」

 

「右方は峰田殿が拘束、その後青山殿がとどめを!左方は芦戸殿が機動力を奪った上で、上鳴殿が破壊!後方と違って、修復後にもう一度襲いかかってくる可能性がある!」

 

「ウィ☆」

「よっしゃ、任せとけ!」

 

自然と、指揮を執る声にも力が入る。冷静さを欠いているつもりは無いが、いつもと比べて声を張り上げているということが嫌でも実感できるほどに。

 

「左右前方にかけて広く展開してる!総数11……いや、9!」

『飛行タイプも来てるぞ!このままじゃ囲まれる!』

 

「蛙水殿、飛行タイプの拘束は任せる!麗日殿はフォローに!左方は瀬呂殿が拘束しつつ八百万殿、右方は飯田殿と常闇殿で!前方は───」

 

爆豪殿が暴れて数を減らしてくれているとはいえ、魔獣は総動員でも対処がギリギリな数で襲いかかってくる。交戦を重ねるにつれどの程度の威力で破壊できるかを皆が把握してきたとはいえ、これは……全体的に、持久力との戦いになるか。

 

 

《PM 4:30》

 

「んあ、やーっと来たニャー?」

「随分遅かったねぇ」

 

 

「はぁっ、はぁっ……」

「クッ……」

「がっ、はっ……くっ……」

 

最初の戦闘から、約7時間。合宿所にたどり着いた頃には全員まさに満身創痍。個性の過剰使用がダメージに繋がる者はほぼ皆その影響が出ており、そうでない者も立っているのがやっとといった具合だった。かく言う私も途中から前線に立った影響で貧血状態、視界が揺れる中血を杖にしなんとか辿り着いたという次第である。

 

「なにが3時間ですかーーっ!」

「それ、私たちならって意味!悪いね〜」

「実力差自慢のためか、やらしいな……」

「腹減ったー!死ぬー!」

「早急に……血液を……」

 

「ネーコネコネコネコ……でも正直もっとかかると思ってた!私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった!いいよーキミら、特に、そこ4人!」

 

私の顔を肉球グローブで掴んだヒーローが、緑谷殿、轟殿、爆豪殿、飯田殿の方に指を指す。

 

「躊躇のなさは経験値によるものかしらぁ?3年後が楽しみ!ツバつけとこーっ!」

 

「……マンダレイ、あの人あんなでしたっけ?」

「彼女焦ってるのよ。適齢期的なアレで」

 

例のヒーローが、件の4人に向けてペッペと唾を吐きかける。……ツバを付けるとは、あんな物理的な意味では無いのでは?

 

「あっ、適齢期と言えばあぶっ!」

「と言えばって……?」

「ずっと気になってたんですが、その子はどなたのお子さんですか!?」

 

「ああ違う、この子は私の従兄弟の子供だよ!ほら洸太、挨拶しな。1週間一緒に過ごすんだから」

 

我々が魔獣の森に落とされる前にも居た、尋常でなく目付きが悪い少年。壁炉の家とパレ・メルモニア、そのどちらにもあそこまで敵意むき出しと言えるような子供はおらず、対応がイマイチわからない。その子供に緑谷殿が近付いていき、彼に向けて自己紹介を始める。

 

「ああ、えっと僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね!」

「フンッ!」

「オ゚ア゚ーーーーッッッッ」

 

身をかがめ、握手のために手を差し伸べた緑谷殿に襲いかかったのは、まさかの金的。

 

「緑谷君!おのれ従甥!なぜ緑谷君の陰嚢を!!」

 

「ヒーローになりてぇなんて連中と、つるむ気はねぇよ!」

 

「つるむ!?いくつだキミは!」

 

今の彼の行動と発言で直感した。少なくとも彼は、ヒーローに対して悪感情を抱いている。それも、親族にヒーローがいるにも関わらずあの嫌いよう……ヒーロー絡みで、両親に何かあったのだろう。

 

「マセガキ……」

「お前に似てねぇか」

「あァン!?似てねぇよ!つかテメェ喋ってんじゃねぇぞ舐めプ野郎!!」

「悪い」

 

疲労困憊状態でも爆豪殿の態度は変わらずか。あそこまで来ると色々と通り越して感心するレベルだな。子供たちには絶対に合わせたくないが。

 

 

「茶番はいい!バスから荷物を下ろせ。部屋に荷物を運んだら食堂にて夕食、その後入浴で就寝だ……本格的なスタートは明日からだ。さあ、早くしろ!」

 

 

ここらから始まる。私たちが更に向こうへいく為の試練……林間合宿が。

 





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