僕のヒーローアカデミア:紅き月の狂宴   作:Dr.Sin

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第7幕:紅月の試練・急

 

「ほら、立ち上がってもう1回!」

 

「っ!」

 

合宿3日目。昨日と同じく飛霄殿、停雲殿と共に戦闘訓練を行っている。今日は昨日と趣向を変え、停雲殿から個性の使い方に関する指導を受けながら飛霄殿と1vs1をやるという内容だ。

 

「【竜嵐閃】ッ!」

「【血焔境界】……くっ!」

 

竜巻を纏った剣を血の壁で受け止めるが程なくして破られ、竜巻の風で吹き飛ばされてしまった。

 

「ペルヴェーレ様、その壁を出す防御方法は控えた方が宜しいかと。その様子だと硬さには限界がありそうですし、厚みで補強しようとしてはあなたの身がもちませんよ」

 

「しかし、今の私では回避に限界が」

 

「では、こう考えてみてはいかがでしょう?防ぐのではなく、避けるのでもなく……受け流す、と」

 

「受け流す……」

 

停雲殿が言うことはもっともだ。私の血は一定以上の圧縮をすると爆発物に変化する都合上、血の濃度を上げて壁を硬化させるのには限界があるし、厚みでの防御は身体的な負担が大きい。しかし、受け流すというのはどうすれば……

 

「今度はそっちから来なさい、私は逃げも隠れもしないわ」

 

「……わかりました」

 

飛霄殿が自分に向けて攻撃してくるように言う。私はそれに従い、今の私に出来る全力の一撃……職場体験の時に使った、波動血砲・重を構える。

 

「行きます、【波動血砲・重】……!」

 

地下室の時と同等の砲弾を放つ。それと同時に、飛霄殿が風を纏いながら手を砲弾の方に伸ばすのが見えた。

 

「【嵐旋防渦】ッ!」

 

次の瞬間、伸ばされた手から個性の竜巻が放たれると、その竜巻は砲弾を包み込み、外側から徐々に削っていく。それに気づいて爆発させる頃には、すでに無力化された後だった。

 

「砲弾が……呑み込まれた……?」

 

「これが私の防御技、嵐旋防渦。敵の攻撃を竜巻で『受け』、分解して『流す』技よ」

 

「飛霄様の個性は元々こういった使い方が可能なものですが、ペルヴェーレ様の場合は個性をより応用する必要があります。長丁場になりますが……覚悟はよろしいですか?」

 

「……やってみせましょう。お二人の力をお借りしているのに、出来ないでは不甲斐ないにも程がある」

 

「いいよ、その意気!じゃあ、早速ぶつかり稽古と行きましょう!」

 

「では、私が開始の合図を」

 

飛霄殿が武器を構える。私もそれに倣って武器を作り出し、停雲殿の「始め!」の合図と共に交戦を開始した。

 

 

 

「飛霄様、トリスビアス様が迎えに来ましたよ」

 

「え、もう時間?今いい所だったのに」

 

「ハァッ、ハァッ……もう少しで、何かが……!」

 

何度目か分からない打ち合いの後、停雲殿が飛霄殿を呼び止める。周りを見てみるともう夕暮れ時であり、今日の訓練は終了の時間になったということが理解できた。

 

「んー、もうちょっと続けたいんだけど……ダメ?」

「駄目です。私たちもですが、彼女には決まった時間割があるんですよ」

「ちぇっ。それじゃペルヴェーレ、また明日ね」

 

「はい……ありがとうございました」

 

お辞儀をして2人を見送り、合宿所に戻る。昨日のように死屍累々の皆と、人参・玉ねぎ・じゃがいもの山。(再放送……?)などとふざけた事を考えていると、食材がカレールーから醤油や酒、みりん、だしの素などの調味料に変わっているのに気付いた。

 

「これは……肉じゃがの材料?」

 

「みんな!世界一おいしい肉じゃがを作ろう!」

 

 

 

「爆豪くん包丁使うの上手っ!意外やわ」

「意外ってなんだコラ包丁に上手い下手なんざねぇだろ!」

「出た、久々に才能マン」

「みんな元気すぎ……」

 

昨日と同じく、私の役目は食材を切る事。それに加え、この中では料理に慣れている方というのもあって調味担当にもなっている。

 

「〜♪」

「わ、ペルヴィご機嫌だ。鼻歌歌ってる」

「……すまん、家でのクセが」

 

料理に慣れているとはいえ、家で作る時とはあまりにも量が違いすぎる。醤油だの何だのを計量カップで投入するのは初めてだ。

 

「少し味が濃いか……?いや、皆訓練で汗を流しているのだから、こんなものだな。よし、この鍋は完成でいい」

 

 

そして、夕食後。私は皆から離れていたので知らなかったのだが、どうやら肝試しの決行は今日らしく……夜の闇の中、ヒーロー科一同が集められた。

 

「さて、腹も膨れた、皿も洗った!お次はぁ〜?」

 

「肝を試す時間だー!」

「「試すぜーっ!」」

 

「その前に!大変心苦しいが、補修連中はこれから俺と授業だ」

 

「うそだろーーっ!?」

 

肝試しに心を躍らせる補修組が、相澤先生の布で拘束される。可哀想だが、まあ致し方なしと言ったところか。

 

「すまんな、日中の訓練が思ったより疎かになってたんで、こっちを削る」

 

相澤先生にまとめて引き摺られて行く彼らを横目に、我々は肝試しのルール説明を受ける。

 

「はい!というわけで、 脅かす側先攻はB組!A組は2人1組で3分おきに出発、ルートの真ん中に名前を書いた御札があるから、それを持って帰ること!」

 

「闇の饗宴……」

(常闇殿……?)

 

「脅かす側は直接接触禁止で、個性を使った脅かしネタを披露してくるよ!」

「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!」

 

「やめてください、汚い……」

 

「なるほど!競争させることでアイデアを推敲させ、その結果個性にさらなる幅が生まれるという訳か!さすが雄英!」

 

(流石なのは飯田殿だな……何であってもあちら側の意図を見抜くその洞察力も、ヒーローに必要な素質の1つなんだろう)

 

「さあ!くじ引きでパートナーを決めるよ!」

 

(くじ引きか……あまり運に自信はないな、奇数人だから余りが出るはず。そうならなければいいのだが……)

 

 

「よろしくお願いしますわ、スネージヴィナさん!」

「ああ。よろしく頼む、八百万殿」

 

なんとかあぶれる事なく、ペアを組むことが出来た。ペアの相手は八百万殿だ。

 

 

「それじゃあ4組目、ゴーっ!」

 

待っていると、割とすぐに私たちの番が回ってきた。スタート地点から2人同時に歩き出し、夜の森に足を踏み入れる。

 

「…………個性を使った脅かし、か」

「スネージヴィナさんは、こういった催しは苦手なのですか?」

「なぜそう思う?」

「いえ、その……先程から、膝が笑っておりますので」

「気のせいだ」

 

嘘である。私は……前世の頃から、こういったホラー的なものが大の苦手である。召使(アルレッキーノ)という性格を上から着ていても、それは誤魔化しきれなかった。

 

「キャアァァァァァーーー!?!?」

 

「!?」ビクッ

「あら、この声……耳郎さんと葉隠さんかしら」

「な、なんだ、あの2人か……全く、心臓に悪い」

「……やはり苦手なのですね」

 

遠くから聞こえてくる2つの甲高い悲鳴に、思わず体が反応してしまう。その反応を八百万殿に見られ、私がホラー的な物を苦手とすることがバレてしまった。最早隠す必要なしと全身で周囲からの脅かしを警戒していると、何やら焦げ臭い匂いが漂ってくる。

 

「……あら?この臭いは……山火事、かしら」

「少し待て、飛んで見てくる……【紅血風翼】」

 

もし山火事が起きているのなら大変だと、ルール違反は承知で個性を起動し、生み出した翼で臭いの方向を確認すると……

 

 

 

蒼い炎が、広がっていた。煌々と燃え盛るそれは、山火事のような自然現象によるものではない。明らかに、何者かが個性で放った炎。さらに、森の中は炎の煙とは違う紫色の霧が徐々に広がってきている。それら2つの異変に(ヴィラン)という言葉が頭を過ぎり、咄嗟に八百万殿の名を呼んだ。

 

「これは……八百万殿、ガスマスクを。我々の分だけではなく、森の中で脅かし役をやっているB組の分も」

「えっ!?何が起きていたのですか!?」

「恐らくだが、敵が襲撃を仕掛けてきた。個性によるものと思われる蒼い炎と、紫色の煙……有毒の可能性がある」

「敵が……!っ、わかりました!では、手分けしてガスマスクを皆さんに!」

「……いや、この場合、ガスマスクを創り出せる八百万殿の安全は他の者の生存率に直結する。私も共に居よう」

 

それから、私たちは近くにいた脅かし役のB組生徒に人数分より少し多いガスマスクを渡した。森の中に点在しているB組の位置を知っているのは同じB組の生徒だけであるから、彼らには決して1人にならないように、また敵と遭遇したら交戦は考えず逃げるようにと厳命し、他のB組生徒にもガスマスクを配って貰うことに。私たち自身も、泡瀬殿という生徒に案内されながら他の生徒へガスマスクを渡すべく行動を始めた。

 

『敵2名襲来!他にも複数いる可能性あり!動ける者は直ちに施設へ!会敵しても、決して交戦せず撤退を!』

 

「今のは!」

「マンダレイ殿のテレパス……やはり敵か。となるとまずいな。プッシーキャッツ4名のうち、少なくともピクシーボブ殿は行動不能になっている可能性が高い」

「なんで……って、そうか、土魔獣……!」

「そう、この森林への敵襲来という状況で、あの個性を使わない手は無い。拘束、気絶……考えたくはないが、命に危険が及んでいる可能性もある」

 

 

『A組B組総員!プロヒーロー、イレイザーヘッドの名において、戦闘を許可する!繰り返す、A組B組総員、戦闘を許可する!!』

 

『敵の狙いが1つ判明!狙いは生徒の「かっちゃん」!「かっちゃん」はなるべく戦闘を避けて、単独では動かないこと!』

 

「交戦許可!?」

「今ここにいる、プッシーキャッツと先生方だけでは対処できない程の敵か、数がいる……それに、狙いは爆豪殿……?」

「とにかく急ぎませんと、ガスがもっと広くに拡散する前に───っ!?」

 

 

交戦許可と、爆豪殿が敵の狙いということを告げるテレパスが脳内に響いたその瞬間。八百万殿が吹き飛び、その背中が木に打ち付けられた。

 

 

「なっ……!」

「【血焔境界】……!」

 

八百万殿が吹き飛ばされた方向に血の壁を出す。それは容易く破られたが、おかげで敵を捕捉することが出来た。

 

緑色の肌、八本の腕、身体中から生えるチェンソーやドリルといった武器……そして、露出した脳。

 

「脳無……!泡瀬殿、八百万殿を担いで施設に!できる限り最短ルートを通れ!このタイプの化け物とは交戦経験がある、ここは私に任せるんだ!八百万殿を頼んだ!」

 

破られた壁を圧縮爆破して時間を稼いだ間に、泡瀬殿に指示を出す。幸運なことに爆破した血が奴の体表面に刺さっており、そこから経由して血液の補充は出来たため、最低限の交戦は可能になった。

 

「ッ……!」

 

血の爆風を突破してきた脳無が、一直線に私を狙って飛びかかってくる。USJの時と同じパワーを持っているなら、まず間違いなく受け止められない……!

 

「主たる脅威はやはりその力……だが……!」

 

振り下ろされた拳を躱し、脳無の背後を取る。そのままの位置で、作り出した剣に無造作に血を纏わせて振り上げた。この一撃が脳無にも有効なのは、USJで証明済み。

 

「【血焔斬】!」

 

飛斬・焔鳥を発展させた、斬撃を飛ばさず焔鳥と同等の出力で直接相手を切る技。背中から生えている武器と一体化した腕、そのうち2本を切り落とすことに成功した。このまま畳み掛け、脳無という脅威を排除する……!

 

「───!!」

 

瞬間、切断したはずの腕がチェンソーと共に再生。咄嗟に身を引いたが、頬の当たりを掠めてしまった。

 

「チッ……!だが、この程度では……!」

 

私の方に伸びてきている腕を再び切り裂く。今度は再生攻撃に備え、泡瀬殿達が逃げている方向とは逆の方向にすこし距離をとる。すでにこの脳無は私に狙いを定めているようで、彼らがいる方向に向かう様子はない。

 

(脳無は指揮がなければ動かない……再生能力がある以上、私が時間を稼いでいる間に誰かが頭を抑えるのを期待するしかないか)

 

脳無の正面に立つ。赤尖槍があればなお良いのだが、生憎アレは合宿所だ。

 

「【血装顕現】……【模造・風嵐斧】」

 

剣を溶かし、代わって私が生み出したのは、飛霄殿が持つ斧の模造品。質量とリーチ、その双方が満遍なく必要な現状において最適な武器である。

 

(先程の攻撃を躱したあとのクレーターの深さ、そして八百万殿のダメージから見て、USJの脳無ほどのパワーはない。下手に避け続けて他が狙われるくらいなら、正面から戦って時間を稼いだ方がマシだな)

 

「───!!」

 

「はぁっ!」

 

脳無のチェンソーと私の斧がぶつかり合う。造血状態の増強に焼尽体躯を上乗せした今の状態なら、ギリギリかもしれないが正面から受け止めきることができると踏んでの正面衝突だが、予想は正しかった。

 

「とはいえ、長くは持たん……なっ!」

 

受け止めることは出来たが、その均衡も長くは続かない。身体強化の重ねがけでなんとか追いついている私に対し、向こうは素の力でそれを出しているのだから、徐々に私が押し込まれるのも当然である。

 

押されきる前に私は全身の力を込めて斧を振り下ろし、それと同時に後ろに跳んで、打ち合う前と同じくらいの距離をとった。このまま衝突と回避を繰り返し、時間を稼ぐ……と、思ったその時。

 

「───」

 

「……なんだ?」

 

脳無は、踵を返して森の中に向かっていく。2人が逃げた方向ではないので彼らの追撃に向かったわけではなさそうだ。脳無に指示を出していたものが呼び戻したのか、それともより優先する目標があるのか……

 

(優先目標……まさか、爆豪殿が確保された!?)

 

それと同時に、泡瀬殿が逃げた方向からこちらに走ってくる。

 

「泡瀬殿?なぜ……」

「八百万に、コイツをあのバケモンの体にくっつけろって……」

「これは……発信機?それに泡瀬殿の個性……八百万殿、考えたな。ならば急ぐぞ、奴は走って逃げている。私に掴まれ」

 

泡瀬殿を背負い、紅血風翼で飛び上がる。程なくして脳無に追いついたが、奴はこちらを一瞥することもなく一目散に走っているため、接近は容易だった。

 

「泡瀬殿、今から脳無に一瞬だけ接近する。その隙に個性でソレをやつの体に」

「なんかもう分かんねぇ、けど……分かった!」

 

接近した瞬間に、彼が個性で発信機を脳無の体に溶接する。それを確認したあと、私は少し距離を取って泡瀬殿を降ろした。

 

「泡瀬殿、君は早く離脱を。恐らくだが、既に奴らは目的を果たし撤退を始めている。単独で動いても、襲われる可能性は低いだろう」

 

「君は、って……」

 

「私は脳無を追う。既に爆豪殿が確保されているのだとしたら救出しなければ……奴ら敵に、成功体験を積ませてはならない」

 

「おい、ちょっと待てよ、待てって!」

 

 

泡瀬殿の制止を振り切り、私は再び空に飛び立つ。敵の手から、爆豪殿を奪還するために。

 

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