僕のヒーローアカデミア:紅き月の狂宴   作:Dr.Sin

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※注意! 今回、人によっては抵抗をおぼえるような描写がございます。閲覧の際はご注意ください。

それと、今話の追加直前に、本作品のタグの整理を行いました。話の大筋が変わった訳ではありませんので、そのあたりはご心配なく。



第9幕:心の傷跡 体の傷跡

 

合宿所最寄りの病院に運ばれた私は、そこで検査を受けた。身体強化重ねがけが原因で全身の筋肉が凄まじい切れ方をしていたのと、チェンソーに切られた頬、そして若干の貧血が今回の戦闘で私の受けたダメージ。戦闘中に負った無数の生傷は救急車の中で反血癒炎を使ったことで既に治っている。

 

運ばれた日とその次の日は全身の筋肉痛で悶えていたが、その痛みが終わればあとは頬の傷だけ残して回復し、すぐに退院の許可が出た。壁炉の家で腕にナイフを刺された時もそうだったが、どうにもこの体は回復が早い。

 

病院から出て携帯の電源を入れると、そこには振奈院長から大量の着信が。折り返しの電話をかけると、慌てた様子の彼女の声が聞こえてくる。

 

『ペルヴェーレかい!?体は大丈夫!?』

「大丈夫ですよ、振奈院長。ご心配をおかけしました」

『よ、よかったぁ……色々忙しくてお見舞いに行けなかったから、ずっと心配してたよ!』

「今日にでも、1度顔を出します。いいですか?」

『こっちからお願いしたいくらいだよ!僕もそうだけど、子供たちがみんな君の心配をしていて不安そうなんだ!早くみんなと会ってあげて!』

「わかりました。では、今日の夜に」

『うん!待ってるよ!』

 

電話を切り、携帯をポケットにしまう。ふと、前の方から大人数が来る雰囲気を感じてそちらを向くと、非常に見知った者たち……A組の皆がそこにいた。

 

「ペルヴェーレちゃん、もう退院なのね」

 

「ああ、私は筋肉痛と貧血くらいだったからな。特別な治療が必要な状態でもない、治れば退院許可はすぐに出た」

 

「おい、その顔の傷……」

 

「ん?ああ、これは気にするな。脳無のチェンソーに雑に切られたせいで跡が残っただけだ。消そうと思えば消せないものでもない。それより、皆は何故ここに?」

 

「緑谷くんのお見舞いだよ」

「でっけーメロン買ってきたぜ」

「てかペルヴィ()()()()()()()()()

 

「問題ない。私も行こう」

 

皆と共に緑谷殿の病室に向かう傍ら、私はとあることで思い悩んでいた。

 

(私という人間が、分からなくなってきている)

 

前世の、平凡な男■■ ■としての「俺」。そして、生まれ変わったペルヴェーレ・スネージヴィナとしての「私」。私は元々「俺」という人間に「私」の皮を被せた人間だと自認していたが、最近それが揺らいでいる気がしてならないのだ。

 

口調も、思考も、「私」で上乗せしてきた部分に次々と「俺」のものが顔を出し始めていると感じている。「俺」の頃の記憶など、名前すら消えていったにも関わらず。

 

特に、合宿が始まってからはその兆候が強い。最初の土魔獣戦で指揮を出す時、「私」ならしない声の張り上げ方をした。洸汰殿が温泉の壁上から落ちた時、個性が暴発するほど取り乱した。2日目の炊事をしている最中、無意識に鼻歌を歌った……どれも、「私」ならしないはずの行動。

 

(私は……誰なんだ?()()()()()()()()()()

 

原因は分からない、それを知ること必要もないが、私がこの世界で2度目の生を受けたことには意味があるはずだ。そしてそれを遂行するために、私は「私」と「俺」のどちらを選ぶべきなのか。或いは、そのどちらでもない第3の「(だれか)」を生み出すべきなのか。

 

その自問に答えが出る前に、私たちは緑谷殿の病室の前まで辿り着いていた。

 

「緑谷、目ぇ覚めてんじゃん!テレビ見たか?学校今マスコミやべぇぞ!」

「春の比じゃねえ」

 

緑谷殿は、もう目を覚ましていたらしい。病室に入ると、顔面以外は全身包帯ぐるぐる巻きの彼の姿が。

 

「メロンあるぞー!みんなで買ったんだ、デカメロン!」

 

「迷惑かけたな、緑谷」

 

「うぅん……僕の方こそ、A組みんなで来てくれたの……?」

 

緑谷殿の「みんな」という言葉に、一同が顔を俯かせる。

 

「いや……耳郎くん葉隠くんは敵のガスによって未だ意識が戻っていない。そして八百万くんも、頭を酷くやられ、ここに入院している。昨日ちょうど意識が戻ったそうだ。だから、来ているのはそのうち3人を除いた……」

 

「15人だよ」

 

「爆豪いねぇからな」

 

「ちょ、轟……!」

 

全て足しても、19人にしかならない数字。そして轟殿の、爆豪殿は居ないという言葉を受けた緑谷殿の目に、涙が滲み始める。

 

 

「オールマイトがさ、言ってたんだ……手の届かない場所には助けに行けないって」

「だから、手の届く範囲は必ず助け出すんだ……」

 

道理だ。どこまで行っても、私たちが人間である以上助けられる範囲には限界がある。たとえばトリスビアス殿のように遠くまで一瞬で行って誰かを助けても、その時そこではない所で危機に陥っている人を助けることはできない。

 

「僕は、手の届く場所にいた、必ず助けなきゃいけなかった、僕の個性は、そのための個性なんだ……!相澤先生の、言う通りになった……!」

 

相澤先生は、体力試験の時、緑谷殿に「お前のは1人を助けて木偶の坊になるだけ」という言葉を投げかけた。今回の状況は、彼にとって正しくその言葉通りであったのだろう。

 

「つぅっ……身体、動かなかった……っ!洸汰くんを助けるのに精一杯で、うぅっ……目の前にいる人を、僕は……!」

 

 

「じゃあ、今度は助けよう」

 

「「「はぁっ……?」」」

 

緑谷殿の独白、助けられなかった後悔に、切島殿が口を開く。その言葉は、私たちA組一同を驚かせるに足るもの。驚いていないのは、轟殿だけだ。

 

「実は俺と轟さ、昨日も来ててよ……」

 

 

《No Side/切島の追憶》

 

 

「あーっ!轟、なんでいんの!?」

「お前こそ」

「俺ぁ、その……なんつーか、家でじっとしてらんねー、つーか……」

「……そうか、俺もだ」

 

緑谷たち、合宿所で重症を負った者たちが入院している病院。クラス全体として見舞いに行くのは次の日となっていたが、切島と轟はそれぞれ1人で病院に訪れたところを遭遇し、行動を共にする事になる。

 

入院しているA組メンバーらそれぞれの病室に向かう中、八百万の病室は扉が空いていた。そこには八百万だけではなくオールマイトと警察がおり、3人で何かを話している。

 

「B組の泡瀬さんと、スネージヴィナさんに協力して頂き、敵の1人に発信機を取り付けました。これがその信号を受信するデバイスです。捜査にお使いください」

 

2人は八百万がオールマイトに何かの機器を手渡す所を目撃し、そしてその機器が敵の居場所を探ることが出来るものであるということを知った。

 

「この前、相澤君は君を咄嗟の判断力に欠けると評していた。素晴らしい成長だ!ありがとう、八百万少女!」

 

「級友の危機に、こんな形でしか協力できず、悔しいです……!」

 

「その気持ちこそ、君がヒーロー足りうる証だよ!」

 

「え……?」

 

「あとは私たちに任せなさい!」

 

 

「……なあ轟、アレがありゃ、爆豪を……!」

 

八百万とオールマイトのやり取りを聞いた2人は、とあることを閃いた。そして彼らは自分たちがお見舞いに来たということなど忘れ、その閃きを行動に起こすための事を考え始めたのである。

 

 

《Side ペルヴェーレ》

 

 

「つまり、その受信デバイスを八百万くんに作ってもらう、と……?」

 

「だとしたら?」

 

切島殿が話したのは、昨日2人が病院で会ったこと、そしてたまたま耳にした八百万殿とオールマイト先生の会話から、自分たちも敵の居場所を特定できるということ。それを聞いて大多数が呆気にとられる中、飯田殿が声を張り上げる。

 

「クッ……オールマイトの仰る通りだ!プロに任せるべき案件だ!俺たちが出ていい舞台じゃないんだ、馬鹿者!!」

 

「ンなもん分かってるよ!でもさ、何も出来なかったんだ……!ダチが狙われてるって聞いてさ、何も出来なかった!しなかった!」

「ここで動かなきゃ俺は、ヒーローでも漢でも無くなっちまうんだよ!!」

 

切島殿が、飯田殿に大声で反論する。自らの信念、漢らしさを第一とする切島殿からすれば、今回の件はその信念が揺らぐ出来事。だが、私も彼らの意見に賛同することはできない。彼らの身を案じるのと同時に、彼らの身に何かあった時今以上に雄英が責められることになるためである。

 

「切島、ここ病院だぞ落ち着けよ……!こだわりはいいけど今回は……!」

「飯田ちゃんが、正しいわ」

 

上鳴殿と蛙水殿が、切島殿を窘める。蛙水殿に至っては声が明らかに震えていた。

 

「……飯田が、みんなが正しいよ!そんなことは分かってんだよ!でも!」

 

皆から説得を受けながらも、切島殿は緑谷殿の方を向き、手を差し出す。自らに、同調してくれと願うように。

 

「なあ緑谷!まだ手は届くんだよ!救けに行けるんだよ!」

 

 

「えーっと、要するに……ヤオモモから発信機のやつ貰って、それを辿って、自分らで爆豪の救出に行くってこと?」

「ああ」

 

芦戸殿が、切島殿の計画を要約して口に出す。こういう時に声を出して状況を纏めるのは、冷静になるのにいい手段だ。

 

「敵は俺たちを殺害対象と呼び、爆豪は殺さず攫った。生かされるだろうが、殺されないとも言いきれねぇ。俺と切島は行く」

 

「ッ……!ふ……巫山戯るのも大概にしたまえ!!」

 

「待て、落ち着け!切島の何も出来なかった悔しさも、轟の眼前で奪われた悔しさもわかる。俺だって悔しい……だが、これは感情で動いていい話じゃない。そうだろう?」

 

2人の計画を聞いて激昂するように声を荒らげた飯田殿に、障子殿が包帯でぐるぐる巻きの手を伸ばして制する。しかし救出に同調する訳ではなく、他の者と同じように2人を止めようとする声もかけた。

 

「オ、オールマイトに任せようよ。林間合宿で、相澤先生が出した戦闘許可は解除されてるし……」

 

「青山の言う通りだ。助けられてばかりの俺には強く言えんが……」

 

「みんな、爆豪ちゃんが攫われてショックなのよ。でも冷静になりましょう、どれほど正当な感情であろうと、また戦闘を行うというのなら、ルールを破るというのなら……その行為は、敵のソレと同じなのよ」

 

青山殿、常闇殿、蛙水殿……何人もが、2人に考え直すよう説得する。だが2人は依然として救出を志しており、生半可な説得ではその心が変わることは無いということがその目から伝わってくる。

 

「けど……けどさ!」

 

「いい加減にしろ」

 

2人を説得するためには、言葉だけでは足りない。そう判断した私は……

 

上に着ている白いワイシャツのボタンを力任せに引きちぎって脱ぎ捨て、上半身を露わにする。

 

「ちょっ、ペルヴィ!?なにやっ、て─── 」

 

 

刺傷、切傷、裂傷、そして下腹部の手術跡……壁炉の家で、お母様に直接しごかれていた時にできた無数の傷。刺激に弱い者が見れば卒倒するような悍ましい私の肉体が、ここにいる皆の前に晒された。

 

 

「刺傷9、切傷21、裂傷7、子宮全摘。これらは全て、私がまだ小さい頃にたった1人の敵から与えられた傷だ」

 

「この傷跡でも、命が取られていないだけマシなのだろうな……敵と戦うとは、こういうことだ」

 

目を背ける者、俯く者……あの峰田殿でさえ、声を出せずにいる。2人を止めるためとはいえ、この体を見せるのはやはり良くなかったか。

 

「なあ、ペルヴィ……合宿前に買い物行った時は、そんな傷無かったよな……?」

 

「敵や個性事故、いくらでも傷を負う可能性がある個性社会だ。跡を隠す化粧品など、いくらでもある……病院では手に入らなかったがな」

 

呆気にとられる皆をよそに、私は救出に赴こうとする2人の前に立つ。

 

「君たちが敵と相対し、私のように傷を負った時、誰が責任を取ると思う?」

 

「そ、れは……!」

 

「君たちではない。責任を取るのは、君たちを監督する立場にある者……相澤先生であり、雄英高校だ。幾ら君たちが自分のせいだと言っても、世間は先生や学校の監督不行届と断ずるだろう」

 

「分かっている、とは言わせない。それならこんな行動に出ようとは思えない筈だ。今、ただでさえ襲撃と爆豪殿の拉致で信頼が揺らいでいる雄英高校に、君たちが更に泥を塗るつもりなら……ここで個性を使い、そんな気が起きなくなるまで体力を吸い取る」

 

「理解できたら、ここで宣言しろ。そのような馬鹿な考えは捨てると───「お見舞い中ごめんねー。緑谷くんの診察時間なんだが」あっ」

 

「ッ、ペルヴィちゃん!」

「スネージヴィナ!」

 

私が2人に詰め寄っていると、病室の扉が開き緑谷殿の主治医と思しき方が現れる。今の私の状況的にマズいと思った次の瞬間、麗日殿がパーカーを私に被せ、その上から障子殿の包帯が巻かれていない方の腕で私を覆い隠してくれた。

 

「すまん、助かる」

 

「い、行こうか。耳郎や葉隠の方も気になるし」

「そ、そうだな……」

「うん……デクくん、お大事にね」

 

「うん。みんなも、ありがとう……」

 

半分以上は私のせいな気がする妙な雰囲気が漂う中、次々と病室を出るA組一同。私は真っ先に病室を出され、他の女子たちの助けを借りてなんとか荷物の中にあった予備の服に着替えることが出来た。

 

 

しかし、そのせいで私は気付かなかった。切島殿がすぐには病室を出ず、緑谷殿に何かを話しかけに行ったことを。

 

そしてその様子を、飯田殿が見ていたことを。

 

 

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