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『それでは先程行われた、雄英高校、謝罪会見の様子の一部をご覧下さい』
食事や風呂などを終え、子供たちも多くが寝静まった頃。私は、共有スペースのテレビでニュースを見ていた。
雄英による会見が行われていたらしいのだが、丁度その頃私はフレミネと共に工房に籠っていたため見ておらず、一応見ておこうと思ってのことだった。
「何見てるの、ペルヴェーレ?」
「院長」
1人でソファに座り会見の映像が流れるのを待っていると、後ろから声を掛けられる。振り返って確認すると、声の主は振奈院長だった。
「寝れない?」
「いえ、雄英が会見を行っていたらしいので、一応見ておこうと」
「そっか。僕も見ようかな、ペルヴェーレが通う学校のことだしね」
そう言った院長が私の隣に座ると、ちょうど会見の映像が流れ始めた。その場に立っていたのは根津校長のほか、いつもより格段に身なりを整えた相澤先生、B組担任のブラドキング先生の3人。
『この度、我々の不備からヒーロー科27名に被害が及んでしまったこと、ヒーロー育成の場でありながら、敵意への防御を怠り、社会に不安を与えたこと、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした』
「メディアを嫌う相澤先生が、表立って頭を下げるとは……それほど、今回の事件が世間に与えた影響は大きいということか」
相澤先生の言葉に合わせ、校長とブラドキング先生も含めた3人が記者団の前で頭を下げる。私以外にもこの会見を見たクラスメイトがいれば、驚きを隠せる者はいないだろう。
「メディア嫌い?あの真ん中のヒーロー?」
「はい。私の担任なのですが、相澤先生……ヒーロー名イレイザーヘッドは、メディアでの露出を避けていると、クラスメイトのヒーローマニアが」
「そうなんだ。言われてみれば確かに、あんなヒーロー見たことないかも」
『〇〇テレビです。雄英高校は今年に入って4回、生徒が敵と接触していますが、今回生徒に被害が出るまで、各ご家庭にはどのような説明をされていたのか。また、具体的にどのような対策を行ってきたのか、お聞かせください』
体育祭開催が決まった時点で、雄英の対敵基本姿勢は公表されている。それは、敵に屈することなく磐石な防御をアピールするというもの。
『周辺地域の警備強化、校内の防衛システムの再検討、強い姿勢で生徒の安全を保証すると、説明しておりました』
「どれだけ固く構えても、守れなければ意味が無い、か」
《No Side/敵連合のアジト》
「不思議なもんだよなぁ。何故ヒーローが責められてる?ヤツらはすこーし対応がズレてただけだ」
ペルヴェーレが、振奈と共に雄英の会見を見ている頃。敵連合のアジトでも同様の映像がテレビから流されており、その電源を切った死柄木は再び爆豪に語りかける。
「守るのも仕事だから?誰にでもミスの1つや2つある。お前らは完璧でいろって?現代ヒーローってのは硬っ苦しいなぁ。爆豪くんよ」
「護るという行為に対価が発生した時点で、ヒーローはヒーローで無くなった。これがステインのご教示!」
「人の命を金や自己顕示に変換するヒーロー、それをルールでギチギチと守る社会、敗北者を励ますどころか責め立てる国民……俺達の戦いは問い。ヒーローとは何か、この社会が本当に正しいのか、1人1人に考えてもらう」
「俺たちは勝つつもりだ。君も、勝つのは好きだろう?」
雄英体育祭で中継された言動から、爆豪の根底にあるものを勝利への渇望だと判断した死柄木は、自分たちが「勝つつもり」ということをアピールした。
「荼毘、拘束外せ」
「は?暴れるぞコイツ」
「いいんだよ、対等に扱わなきゃな……スカウトだろ?それに……この状況で暴れて勝てるかどうか、分からないような男じゃないだろ、雄英生」
身代金目的ではなく、勧誘目的の拉致。それならば、一方的に縛って自分たちの意見を聞かせるだけではいけないと判断した死柄木が、拘束を外すよう荼毘に命令する。
「……トゥワイス、外せ」
「は、俺!?嫌だし……」
「外せ」
「嫌だァ……」
支持を受けた荼毘はそれをトゥワイスに丸投げし、結局拘束はトゥワイスが外すことになった。
「強引な手段だったのは謝る。けどな、我々は悪事と呼ばれる行為に勤しむただの暴徒じゃないってのもわかってほしい。君を攫ったのはたまたまじゃねぇ」
「ここにいるのは事情は違えど、人に、ルールに、ヒーローに縛られ苦しんでいる……君ならそれを───」
「ッらァッ!!」
トゥワイスが拘束を外している間も、爆豪に語りかける連合の者たち。手を動かして拘束が解かれたことを確認した爆豪は、それまでの勧誘や圧倒的な人数差を気に留めてすらいないとばかりにトゥワイスを蹴飛ばし、死柄木の顔面に爆発を食らわせた。
「死柄木!」
「黙って聞いてりゃダラッダラよぉ……バカは要約出来ねぇから話が長ェ!要は
この状況にも関わらず、いつも通りの口調を吐き続ける爆豪。その脳裏に宿っていたのは、幼き日のこと。家電屋のテレビで、オールマイトの活躍を見ていた日のことだった。
『オールマイトってやっぱカッケーよなぁー!どんだけピンチでも、最後には絶対勝つんだよなぁー!』
「俺はオールマイトが勝つ姿に憧れた!誰が何言ってこようが、そこはもう曲がらねぇ!!」
獰猛な笑みを浮かべる爆豪。一方、爆発で顔に貼り付けた手が吹き飛ばされた死柄木は、血走った目でその手を見つめていた。
「お父さん……」
《Side ペルヴェーレ》
『生徒の安全、と仰りましたが、イレイザーヘッドさん。事件の最中、生徒に戦うよう促したそうですね?意図をお聞かせください』
何処から聞きつけたのか、記者は林間合宿襲撃の際相澤先生が出した戦闘許可のことを問う。
「……これ、本当なのかい?戦うように言われたって」
「積極的に交戦するよう言われた訳ではありません。ただ、抵抗するために戦うことが出来るよう建前として許可を出しただけ……と、私は思っています」
『私どもが状況を把握できなかったため、最悪の事態を避けるべくそう判断しました』
『最悪の事態とは?26名もの被害者と1名の拉致は、最悪と言えませんか?』
『私があの場で想定した最悪とは、生徒が為す術なく殺害されることでした』
『被害の大半を占めたガス攻撃、敵の個性から催眠ガスの類いと判明しております。拳藤さん鉄哲くんの迅速な対応のおかげで、全員命に別状はなく、また生徒らのメンタルケアも行っておりますが、深刻な心的外傷などは今のところ見受けられません』
あのガスの出元を討ったのはその2人だったのか。被害の拡大が防げたのならそれで良いと、そう言えるのは我々が当事者であって非難する者ではないからなのだろうか。
『不幸中の幸いだったとでも?』
『未来を犯されることが、最悪だと考えております』
『攫われた爆豪くんについても同じことが言えますか?』
『雄英高に優秀な成績で入学、体育祭3位、また中学時代、ヘドロ事件で強力な敵に単身抵抗を続け、経歴こそタフなヒーロー性を感じさせますが……反面、準決勝や受賞台で見せた粗暴さや態度なと、精神面の不安定さも散見されています』
マスコミと先生方との問答の中で、取材者は体育祭で爆豪殿が見せた態度について触れる。奴は、会見の体で雄英を非難するばかりか、その材料として拉致された爆豪殿を利用しようと言うのか。
「……生徒個人のパーソナリティーまで非難の道具にするか、マスコミは……!」
「ちょっ、落ち着いてよペルヴェーレ……!」
「……すみません、院長」
思わず立ち上がってしまった所を、院長に窘められる。私らしくない言動をしてしまったことに動揺する精神を落ち着かせ、もう一度座り直した。
『もしそこに目をつけた上での拉致だとしたら、言葉巧みに彼を騙し、悪の道に染まってしまったら?未来があると思われる根拠をお聞かせください』
『爆豪勝己の粗暴な行動については、教育者である私の不徳の致すところです』
「相澤先生……」
メディアの質問に立ち上がった相澤先生がその場で頭を下げ、爆豪殿の言動を自らの教育不足として詫びる。しかし、ただ頭を下げただけではなく、爆豪殿を擁護する発言がそれに続いた。
『ただ、体育祭での一連の行動は、彼の理想の強さに起因しています。誰よりもトップヒーローを追い求め、もがいている。アレを見て隙と捉えたのなら、敵は浅はかであると、私は考えております』
爆豪殿の言動の全ては、常軌を逸した勝利に対する渇望から来ている。それはクラス全員が承知する所であり、そしてそれは彼自身のトップヒーローという目標に対する志の高さに等しい。
『根拠になっておりませんが?感情の問題ではなく、具体策があるのかと伺っております』
『我々も手をこまねいているだけではありません。現在警察とともに捜査を続けています。我が校の生徒は必ず取り戻します』
「……もういいな」
「ペルヴェーレ?」
結局、この会見も昼間に携帯で見たワイドショーと本質は変わらない。雄英を責め立てるために過剰な追求を行い、それを事件の責任として正当化するもの。これを見続けても、最早なんの実りもない。
「会見の名を借りた、単なる雄英への嫌がらせをこれ以上見る意味は無い……院長、私はどこで寝ればいいですか?」
「あー……傷のことあるから、子供たちと一緒に寝る訳にも行かないもんね。前使ってた部屋は新しい子たちが使ってるし……仕方ない、今日のところは僕の部屋を一緒に使おう」
「すみません、ありがとうございます」
「じゃ、テレビ消すよ。布団は……今から敷くのも面倒だし、僕のベッド大きいし……まいっか」
「ちょっと待ってください、どういう意味ですか?」
「ははっ、まあなんだっていいじゃないか」
テレビの電源を消した院長が、何やら聞き捨てならないことを言っている。追求してものらりくらりと躱され、結局丸め込まれた私は同じベッドに入って眠ることになった。
……この後すぐ、生死の境を彷徨うことになるほどの大事件に巻き込まれることなど思いもせずに。
《No Side/敵連合のアジト》
『我が校の生徒は必ず取り戻します』
「ハッ……!言ってくれるなァ、雄英も先生も……そういうことだァ!クソカス連合!!」
いつの間にか再び付いていたテレビから、根津校長の声が響く。それに呼応するように、爆豪は闘志を燃え上がらせていた。
(あんだけ大掛かりな襲撃カチ込んで成果は俺1人……!言質も取れてる!コイツらにとって俺ァ、利用価値のある重要人物!俺の心に取り入ろうとする以上、本気で殺しにくる事はねェ!コイツらの方針が変わらないうちに、2、3人ぶっ殺して脱出したる!)
「言っとくが俺はまだ、戦闘許可解けてねェぞ!!」
「自分の立場よくわかってるわね、小賢しい子!」
「いや、バカだろ」
「刺しましょう!」
「その気が無いなら、懐柔されたフリでもしとけばいいものを……やっちまったなぁ」
爆豪が起こした行動に対し、連合の面々が抱いた印象は異なっていた。状況を最大限利用していることに苛立つ者、これみよがしに始末しようとする者、彼の行動を愚かしいと思う者。その意識が違えど、何れの者もこれから戦闘に発展することを疑ってはいなかった。
「したくねぇモンは嘘でもしねぇんだよ俺ァ……!こんな辛気臭いとこ、長居するつもりもねェ!」
「お父さん……」
唯一、今爆豪に目を向けていない死柄木の目線は、変わらず落ちた手に注がれている。一言「お父さん」と口に出すと同時に彼の左手が上に上がると、黒霧が慌てた様子で制止した。
「いけません、死柄木弔!落ち着いて!」
「手を出すな……お前」
しかし、死柄木は黒霧が想定したように暴れ取り乱すのではなく、あくまで落ち着いた様子であった。彼は3本の指で手を拾い上げ、両手でそれを顔にはめ直す。
「彼は……大切な駒だ。出来れば少し耳を傾けて欲しかったな……君とは分かり合えると思ってた」
「分かり合うだぁ?ねェわ」
「仕方ない……ヒーローたちも俺らの捜査を進めていると言っていた。悠長に説得してられない」
「先生……力を貸せ」
『いい判断だよ、死柄木 弔』
死柄木は横の方に顔を向け、【先生】と呼ばれる人物に助けを求める。そしてモニターから聞こえてきたのは、死柄木の判断を称える男の声。温和な雰囲気に覆われているようで、隠しきれない底知れぬ悪意を内包している声だった。