僕のヒーローアカデミア:紅き月の狂宴   作:Dr.Sin

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本話から3話の間、物語が第三者視点で進行します。


第1章:紅月の立志
《No Side》第1節:夢を抱いて


「今でも信じられねぇけどな……元プロヒーロー[ファトゥス]、本名[逆島 焔]。引退後は孤児院を開業し、捨てられた子供たちを集めて教育を施していたっていう人間が、裏で敵と繋がっていたってのは」

 

とある一室にて、2人の警察官……李央 節士と日々宮 正奈は、孤児院壁炉の家で起きた一連の事件[詩透市孤児連続行方不明事件]の資料をまとめながら、話をしていた。

 

「しかし、あの子の発言に嘘がないということは、私が確認したわ。あの子が口を開いた時、嘘をついている人特有の感情のぶれがなかったもの。」

 

「ああ、そうだな。それで、彼女たち……壁炉の家の孤児達はこれからどうなるんだ?」

 

「もう……話を聞いていなかったの?壁炉の家の子供たちは全国各地の孤児院に転院、あの子……ペルヴェーレちゃんも正当防衛が認められて、他の子たちと同じように転院よ」

 

「……アァ、そうだったそうだった。それで、逆島焔の方はどうだ?」

 

「そっちはまだダメね。体内からの爆発なんてほとんどないケースだし、一応まだ生きてはいるけど、これから目を覚ますかどうかまでは分からないわ」

 

「この件は、どうしても逆島からの自供が欲しい。何とか目を覚まして、事件のことを話せる状態まで回復してくれればいいんだが……ん?」

 

部屋の扉がノックされ、1人の警官が入ってくる。

 

「失礼します、李央警部!例の少女……ペルヴェーレですが、聞き取り調査と諸々の登録が終了したので、先程解放致しました!」

 

「おう、お疲れ」

 

「お疲れさま。ところで……壁炉の家には捜査の手が入ってて、子供たちはみんな他の孤児院に移送されたってことは伝えた?彼女、迎えに来てくれる人もいないでしょうから、それを伝えてあげないと壁炉の家まで向かっていってしまうと思うのだけど……」

 

「…………あッ」

 

「お前なぁ……」

 

「大変じゃない!彼女の引き取り先は……今頃他の子の受け入れで手一杯よね……1度迎えに行ってあげた方がいいかしら?」

 

「いや、それなら現場にいる奴らに連絡して、伝えてもらった方が早いだろうな。日々宮、ペルヴェーレの引き取り先に、迎えに行くよう頼んでくれるか?」

 

「わかったわ」

 

《壁炉の家 跡地》

 

逆島 焔とペルヴェーレの戦いから一夜が開けた壁炉の家では、警察による大規模な捜査が行われている。子供たちは既に各所への転院が始められており、この迅速さの理由は、捜査が入った初期の段階で本来いるはずの職員たちは存在せず、実際は逆島 焔が1人で運営を行っていたことが判明し、彼女が意識不明の重体である現在の状態で子供たちをここに置いておくことは出来ないという判断が下されたためだった。

 

(子供たちは……)

 

警察による捜査のため封鎖された壁炉の家の前で呆然とするペルヴェーレに、1人の警官が声をかける。

 

「君、ペルヴェーレ・スネージヴィナだな」

 

「あなたは?それに、子供たちは……」

 

「聞かされてなかったのは本当なんだな……私は――県警の紫澄 暁葉、少し向こうで話そう」

 

壁炉の家から少し離れた場所で、ペルヴェーレは警官から今の状況を聞いた。

 

「……というわけで、君たち壁炉の家の子供たちは各地の孤児院に3、4人ずつ分散して引き取られることになった。」

 

「私の引き取り先は?」

 

「勿論決まっているよ。確か神奈川の……なんと言ったかな……パ、パレム、パレモ……?あぁ、妙ちきりんな名前だったから思い出せない!日々宮先輩にちゃんと聞いておけばよかった!」

 

「……はぁ」

 

(ハッ!今、ものすごく冷たい目で見られてる気がする……何とか、何とか思い出せ紫澄 暁葉!)

 

頭を抱え、記憶の奥底からその名前を捻り出そうとする紫澄と、彼女に対して何とも言えない視線を向けるペルヴェーレ。何とも奇妙な光景の中に、更に1人の警官がやってくる。

 

「……何をやってるんですか、紫澄さん」

 

「黒川!なあ、彼女……ペルヴェーレの転院先の名前、覚えてないか?」

 

「彼女の?私の記憶が正しければ、神奈川の[孤児院パレ・メルモニア]でしたか。日系フランス人の若い女性が運営しているという。それより、なぜ彼女がここに?」

 

「そう、それだ!彼女、本当なら迎えが来るまで署で待機させる予定だったんだけど、担当官が間違えて解放しちゃったらしくて」

 

「間違えて?それはなんというか、結構大きい問題になるんじゃ……?」

 

2人の会話を聞いていたペルヴェーレが、少し困ったような表情を浮かべながら口を開いた。

 

「私は気にしていない。よく考えれば、1人で運営されていた孤児院から運営者が居なくなったのだから、施設が維持されているわけはなかったしな」

 

「ず、随分大人びてるね、君……」

 

(それよりも驚きなのは、まだ戦いから一日も経っていないのにここまで冷静なことだ。というか、上層部は何を考えているんだ?検査と聞き込みを半日で済ませるなんて。彼女の左腕にはナイフが刺さった形跡があったと聞いたが)

 

「それより、私はどうすればいい?ここで待っているか、それとも警察署まで戻るか」

 

「日々宮先輩は、引き取り先にここまで迎えに来てくれるか頼んでみるって言ってたし……ここで待っててもらったほうが良いかな」

 

「なら、折りたたみの椅子と……自販機か何かで飲み物を買ってきましょう。ペルヴェーレさん、何か飲みたいものは?」

 

「……ココアをお願いしても?」

 

「分かった。紫澄さん、彼女と一緒にここで待っててください」

 

そう言うと黒川はやや小走りで去っていき、その場には紫澄とペルヴェーレの2人が残された。一瞬気まずい雰囲気になるが、紫澄が先に口を開く。

 

「あー……えっと……色々と済まないね、ペルヴェーレさん。こっちの手違いというかなんというかで面倒なことにしてしまって」

 

「先程も気にしていないと……それに、たとえ予定通り他の孤児院に行っていたとして、この場所には遠くないうちに足を運んでいただろうしな」

 

「どうして?」

 

「別れを告げるために。かけがえのなかった友、犠牲になった多くの子供たち……私が、お母様の本性に気付いていれば……」

 

「っ、それは君が気に病む事ではない!悪いのはこの事件を引き起こした逆島だ!」

 

「わかっています。それでも消えないんです、後悔が。何かできることがあったはずだと」

 

(この子は……逆島を超える力を手にしてしまったから、かえって自分の無力感が強くなってしまっているんだ。……かける言葉を間違えたか)

 

再び沈黙が訪れる。今度はどちらも口を開くことはなく、沈黙を破ったのは戻ってきた黒川だった。

 

 

「戻りました。ペルヴェーレさん、どうぞ」

 

「あぁ、ありがとうございます」

 

「では、私は現場に戻ります。それと日々宮警部からの連絡がありまして、あと1時間ほどでペルヴェーレさんの迎えが到着すると」

 

黒川はペルヴェーレに缶のココアを手渡し、折りたたみ椅子を2つ開くと、壁炉の家の方に向かっていった。それを見送るとペルヴェーレは椅子に座り、貰ったココアを飲み始める。

 

「……甘い」

 

これまでずっと仏頂面だったペルヴェーレの表情が綻び、薄らとだが笑みが浮かぶ。

 

「甘いものが好きなのか?」

 

「ええ、はい」

 

本来、原典の『召使(アルレッキーノ)』は素材の味を活かした食事を好んでいたが、こと食事の好みに至っては完全に元の人格に寄っており、今の彼女は前世と同じく甘味やファストフード全般を求めていた。

 

「まあ、壁炉の家では滅多に口にすることも出来ませんでしたが」

 

「ふむ……そうだ!私の地元に、おいしいチョコレートアイスを出す店があるんだ、今度……そうだな、君が高校生になったら案内しよう!私の連絡先を渡しておくよ」

 

「!……是非」

 

紫澄がポケットから取り出した手帳から1枚破り、電話番号を書き写してペルヴェーレに手渡す。それを受け取ったペルヴェーレの表情は、クリーヴの前以外では長らく見せていなかった笑みであった。

 

「ふふっ、やっぱり子供は笑ってる方がいいね」

 

「なっ……!私はもう子供という歳では……!」

 

「中学生はまだ子供だよ、少なくとも私にとってはね」

 

「そ、それは……」

 

(そうか、この世界の私はまだ中学生、子供と見られて然るべきではある……)

 

和んだ空気の中で二言三言交わした後、紫澄がペルヴェーレにひとつの疑問を投げかける。

 

「ペルヴェーレさん、君に夢はある?こうなりたいとか、何をしたいとか」

 

「夢、ですか」

 

自らの夢を問われたペルヴェーレは、少し思案する。そして、昨夜の戦闘の中で得たひとつの信念を口にした。

 

「夢とは少し違うかもしれないが……ただ、私のような思いをする人が、もう生まれないようにしたいと。かけがえのない人を失う喪失感は、もう誰にも味わってほしくない」

 

「――そうか、立派な夢じゃないか」

 

ペルヴェーレの言葉を聞いた紫澄は、少し悩んだような表情をしたあと、意を決したように口を開く。

 

「ペルヴェーレさん。君は、ヒーローを目指してみる気は無い?」

 

紫澄がそう言うと、ペルヴェーレは驚いた表情で目を見開き、紫澄に問いかける。

 

「ヒーロー……?それは、公に個性の使用が認められた、敵と戦うというあの?」

 

「まあ、それだけが仕事という訳でもないが。というか、ヒーローに対する認識が妙な感じになってないか?」

 

「お母様……逆島 焔にそう教わったので」

 

「今回の件といい、一体何を考えているんだ逆島 焔……自分だって元ヒーローだろうに」

 

「それにしても、ヒーローか。私が……」

 

そんなことは考えたこともなかったと、空を仰ぐペルヴェーレ。クリーヴの仇とはいえ1人の人間を殺しかけた自分が人を救うヒーローになれるのか、なっていいのかという思いと、今世で初めて得た信念を実行するためにはヒーローという力が必要だという確信との間で揺れ動いていたが……

 

「紫澄さん、ありがとうございます」

 

「ん?」

 

「あなたのおかげで、私は夢を見つけました。私は

 

 

 

 

 

 

 

ヒーローに、なります」




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