《No Side/神野市住宅街》
「んだこの建物!城か!?」
八百万が創造した探知機に従って爆豪の行方を追う雄英生5人。様々な店が立ち並ぶビル街を抜けると、彼らの目の前には豪勢な洋館がそびえ立っていた。
「[孤児院パレ・メルモニア]か……運営者は余程の資産家なのだろうか」
「皆さん、もうすぐ発信機が示す場所に着きますわ」
彼らが目にした洋館から程なくして、八百万が持つ受信機に反応があった場所へとたどり着く5人。彼らが目にしたのは、コンクリート造りで二階建ての、周りと比べてあまりにも無骨すぎる建物。
「これがアジト……如何にもだな」
「アジトかどうかは分かりません。ただ私が発信機で確認した限り、敵は丸1日ここから動いていません。その敵がここにいるから、爆豪さんがここにいるとは限りません」
八百万が生み出した発信機を取り付けた敵は通常の敵ではなく脳無。指示されるままに動くソレは人というより兵器に近く、敵連合が脳無を他と分けている可能性もある。そう考えた八百万は、他4人にこう告げる。
「私たちは今どれだけか細い情報でここに立っているか、冷静に考えてみてください」
「この中に、耳郎君や葉隠君のようなスニーク活動に秀でた者はいない……少しでも危険と判断したらすぐ止めるぞ。友であるからこそ、警察への通報も辞さんからな」
次に飯田が、改めて危険な行動をしないよう3人に警告する。今ここに来ていること自体が危険であり、一歩間違えれば再びヒーロー殺しの時のように法を犯す可能性があるからこその忠告。
「ありがとう、飯田くん……できる範囲でできること、考えよう」
「前提条件は僕らが個性を使わずかつ敵との戦闘を避けること。その上で───」ブツブツ
「久々に見たな、ブツブツ」
「緑谷さん、って感じですわ」
元は無個性、故に他者やプロヒーローの個性を観察してヒーローを目指していた緑谷は、高い分析力と思考力を持っている。1度思考を始めると長い上にその考えが丸ごと口から流れ出ていくのが玉に瑕だが、現状で最も作戦を考えることに長けているのは彼だ。
(そう、君は1度決めてしまえば止まらない、泊まれない……そんな所も友として、ライバルとして尊敬しているんだ。だがこれ以上は譲れない……!今度は俺が、守るんだ!)
「ここまで近付いても、何の反応もありませんわね……」
「電気もついてねーし、中に人がいる感じはねぇな」
発信機が示す敵のアジト、その目の前にある自動販売機まで距離を縮めた5人は、あまりにも静かすぎるその建物に対し、訝しみ始める。
「木を隠すなら森の中……廃倉庫を装ってるワケか」
「正面のドア、下に雑草が茂ってる……」
(他に出入口があるのか?個性でカモフラージュしてるとか……迂闊に中に入るなんて無謀なことはできない、どうにか中の様子を確認しないと……)
「おぉい!何してんだよホステス〜!俺たちと、呑みましょぉ!」
「やぁめとけバカァ!」
「一旦離れよう」
建物の分析をする5人に、突然酔っぱらいが声を掛けてくる。夜の街で違和感がないように変装していたことで、そっち系の仕事の人だと勘違いされたのだ。轟は自身を除いた4人よりも早くそれらから離れ、人通りの無さそうな場所まで他の4人を誘導する。
「多くはねえが人通りもある」
「目立つ動きはできませんわよ……どうされますの」
「裏に回ってみよう。どれだけか細くても、僕らにはここしか情報がない……!」
「狭いですわ……つっかえそう……!」
「安全を確信できない限り動けない、ここなら人目はないし……っ!あの高さなら、中の様子を見れそうだよ!」
5人が入ったのは、アジトと他の建物の隙間にある非常に狭い裏路地。オールマイトやエンデヴァーのような屈強な体つきでは入れないくらいの狭さだが、ここに居るものはかろうじてその隙間に入ることが出来た。
裏路地に入って少し進むと、アジトの中が見えそうな格子入りの窓が見え、そこから中の様子が見えそうだと緑谷が言う。
「この暗さで見られるか?」
「それなら、私が暗視鏡を」
「いや、八百万……それ持ってきてんだな、実は」
外は夜で暗く、アジトの中も特に電気が付いている様子はないので、今の状態では中の様子を確認できない。八百万が創造で暗視鏡を作ることを提案すると、切島が懐からソレを取り出した。
「すごい、何で?」
「やれること考えた時に、要ると思ってよ」
「でもそれめっちゃ高いやつじゃない!?僕もコスチューム考えてた時にネットで見たけど、確か5万くらいしたような……」
「値段はいいんだよ、言うな!」
「よし、じゃあ緑谷と切島が見ろ。俺と飯田で担ぐ」
暗視鏡を持ってきた張本人である切島と、思考力の高い緑谷の2人が中を見ることになり、高い位置にある窓から中を覗くために飯田と切島がそれぞれを担ぐ。
「様子を教えたまえ、切島くん。どうなっている……?」
「ん……汚ぇだけで特には……あ……ッ!?はっ!?」
「どうした!何が見えた切島!?」
まず先に切島が暗視鏡で中を見る。最初は特に何もなさそうな様子だったが、次の瞬間、切島の全身から汗が吹き出し、バランスを崩して倒れかけるなど、明らかに動揺し始めた。
「左奥……!緑谷、左奥っ!見ろ!」
声が細くなり、動揺を通り越して怯えているような状態になっている切島から暗視鏡を受け取った緑谷が、言われたとおりに左奥の方を覗き込む。
「んっ!?嘘だろ……あれ、全部……」
その先に見えたのは、普通の人より少し背の高い箱と、中に溜まった液体、そしてその上から露出する脳味噌。彼は、彼らは、その特徴が何を示すかを知っている。
「脳無……!?」
《敵連合のアジト》
「先生……!?テメェがボスじゃねぇのかよ、シラケんな……!」
「黒霧、コンプレス、また眠らせて仕舞っておけ」
敵連合による勧誘を歯牙にもかけず、反抗の姿勢を見せ続ける爆豪。言葉による説得は不可能だと判断したのか、死柄木は黒霧とコンプレスに再び捕獲するよう命じる。
「はぁ……ここまで人の話を聞かねぇとは……逆に感心するぜ」
「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね!」
(最大火力でぶっ飛ばしてぇが、ワープ野郎が邪魔すぎる……!考えろ、どうにか隙作って、後ろのドアから……)
「どーも、ピザーラ神野店ですー」
脱出のための策を考えながら、後ろのドアに一瞬目線を送る爆豪。その瞬間、ドアを叩く音と同時にピザの宅配の声が響く。
誰も予想だにしなかった来客に対し、一瞬の静寂が訪れる。その静寂は、来訪者にとって十分な時間となった。
「SMAAAAAASH!!!!!」
ドアに全員の視線が集まりそれ以外の場所への意識が外れた瞬間、壁を突き破って現れたのは、日本が誇るNo.1ヒーロー、オールマイト。
「何だァ!?」
「黒霧!ゲート!」
「先制必縛……【ウルシ鎖牢】!」
続いて、全身から柔軟性に優れた木を伸ばすことができる個性を持った若手ヒーロー、シンリンカムイがそこにいた連合メンバー全員を捕縛する。
「木ぃ?んなもん……!」
「早んなよ……大人しくしといた方が身のためだぜ」
合宿所襲撃の際にもいた、蒼い炎を出す個性を持った敵、荼毘。彼が炎で自分たちを縛る木を焼き切ろうとした瞬間、足裏から空気を噴射する個性を持つ老齢のヒーロー、グラントリノが物凄い速度で蹴りを放ち、即座に彼の意識は刈り取られた。
「さすが若手実力派だ、シンリンカムイ!そして目にも止まらぬ古豪、グラントリノ!もう逃げられんぞ敵連合……なぜって?」
「我々が来たァッ!!」
「あの会見後に、まさかタイミング示し合わせて!」
「木の人引っ張んなって!押せってば!」
「攻勢時こそ、守りが疎かになるものだ……ピザーラ神野店は、俺たちだけじゃない。外はあのエンデヴァーをはじめとして、手練のヒーローと警察が包囲している」
ピザの宅配を装った警察官と、それに同行するエッジショットがアジト内になだれ込む。更に外にも警察隊や取り逃した際の保険となるトップヒーローが待機しており、敵連合は完全に包囲されていた。
「怖かったろうに、よく耐えた!ゴメンな、もう大丈夫だ少年!」
「こっ、怖くねぇよ!余裕だクソ!!」
「せっかく色々こねくり回したのに……何そっちから来てくれてんだよラスボス……!」
(全員抑えられて、簡単には逃げられない……チッ、仕方がない……!俺たちだけじゃない?それはこっちもだ!)
「黒霧!持ってこれるだけ持ってこい!!」
死柄木が叫ぶ。持ってこれるだけ、というのは武器やアイテムのことでは無い。彼が黒霧に求めたのは、人の死体に多数の個性を埋め込んだ怪人[脳無]。しかし彼の要請に対し、黒霧は何の行動も起こさない、否、起こせない。
「……どうした黒霧!」
「すみません死柄木弔!所定の位置にあるはずの脳無が……無い!」
《神野住宅街》
「あっ……?おい!」
「っ、あれは!」
「ふんっ!!」
オールマイトたちが敵連合のアジトを強襲するのと同時に、緑谷たちが覗き込んだ建物……敵連合の脳無格納庫にも、ヒーローたちが攻め込んでいた。
手始めに巨大化する個性を持ったマウントレディが建物にかかと落としをお見舞し、それによって顕になった施設内部に繊維を操るベストジーニストやプッシーキャッツの虎などが突入することで内部は瞬く間に制圧された。
「脳無格納庫、制圧完了」
《敵連合のアジト》
「やはり君はまだまだ青二才だ、死柄木!」
「アァ!?」
「敵連合よ!君らはナメすぎだ!少年の魂を、警察の弛まぬ捜査を……そして、我々の怒りを!」
外は夜闇に包まれているというのに、他の者からはオールマイトにまるで後光が差しているように見える。彼は、死柄木弔に鋭い目線を浴びせこう告げる。
「おいたが過ぎたな……ここで終わりだ。死柄木弔……!」
「いぃっ……!?オールマイト、これがステインの求めた、ヒーロー!」
威圧され、体が竦む敵連合の面々。しかし、とうの死柄木の目に宿る闘志は消えていない。否、むしろそれは強くなったように、縛られながらも立ち上がった。
「終わりだと……?巫山戯るな、始まったばかりだ!正義だの平和だの、あやふやなモンで蓋されたこの掃き溜めをぶっ壊す、そのためにオールマイトを取り除く!」
「仲間も集まり始めた、巫山戯るな、ここからなんだよ……!黒霧!!」
死柄木が黒霧の名を叫ぶが、それとほぼ同時に黒霧の体を赤い糸のようなものが貫き、黒霧は力なく倒れ伏した。
「きゃあぁーっ!なに、見えなかったわ!?なに、殺したの!?」
「中を少々弄り気絶させた……死にはしない。【忍法・千枚通し】!この男は最も厄介、眠っててもらう」
警察官に同行して現れたエッジショットによって、この場からの脱出手段であるワープゲートを抑えられた敵連合。脳無を潰され、この場から逃げ果せたとて外にもトップヒーローが待機している現状は、もはや絶体絶命と言って差し支えなかった。
「さっき言ったろ、大人しくしといた方が身のためだって。引石健磁、迫圧紘、伊口秀一、渡我被身子、分倍河原仁!少ない情報と時間の中、お巡りさんが夜なべして素性を突き止めたそうだ……わかるかね、もう逃げ場はねぇってことよ!」
「なぁ死柄木、聞きてぇんだが……お前さんのボスはどこにいる?」
グラントリノは、制圧された敵連合メンバーの本名を次々と口にした。死柄木弔、黒霧、荼毘を除くメンバーの名が呼ばれ、さらに死柄木に向けて上にいるのは誰だと問い詰める。
問われた死柄木の脳裏に過ぎったのは、小さい頃の自分と「先生」が邂逅したときの記憶。
『誰も助けてくれなかったねぇ……辛かったねぇ、志村転弧くん……』
『ヒーローが、いつかヒーローが、そう言ってみんな君を見ないふりをしたんだね……一体誰がこんな世の中にしてしまったのだろう?』
『君は悪くない。大丈夫、僕がいる』
独りになった死柄木に、手を差し伸べる男。それが彼のボスであるオール・フォー・ワンとの、邂逅の時であった。
(こんな、こんな、呆気なく……!巫山戯るな、巫山戯るな)
「奴は今どこにいる?」
グラントリノに代わり、オールマイトが死柄木に問う。オールマイトは、彼ら敵連合のバックにいる存在に勘づいていた。
「失せろ、消えろ……!」
「死柄木!!」
「お前が!嫌いだぁぁぁ!!!」
オールマイトが語気を強くし、それに対して死柄木が叫んだ瞬間、何も無い空間から灰色の泥のようなものが溢れ出し、中から脳無が出現する。その数は1つ2つではなく、各々が敵連合を警戒しながらで戦えるとは思えない数だった。
「エッジショット!黒霧は!?」
「気絶している!こいつの仕業ではないぞ!」
「シンリンカムイ!絶対に離すんじゃないぞ!」
「ぐぼぉっ!?なんだ、コレ……!」
「!?……爆豪少年!!」
次の瞬間、濃霧が現れるのと同じ黒い泥が爆豪の口から溢れ出す。それは瞬く間に爆豪の全身を包み、オールマイトが彼を守ろうとするも、その泥ごとオールマイトの腕をすり抜け消えてしまった。
「Noooooooo!!!」
「エンデヴァー、応援を!……ッ!?」
シンリンカムイが下に目を向けると、アジトと同じく黒い泥から無数の脳無が出現しているのが見える。先程までのヒーロー側の優勢は何処へやら、事態は混迷の一途を辿っていた。
_人人人人人人人人人人人_
> 主人公、出番なし <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
次話からはちゃんと出番あるので……!