僕のヒーローアカデミア:紅き月の狂宴   作:Dr.Sin

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大っっっっっっ変長らくお待たせ致しました!諸事情が重なって中々執筆の時間が取れず……投稿ペースが以前のものに戻せるかは分かりませんが、これからも執筆を続けていきます。

それでは、第5章最終回をお楽しみください。




第14幕:凶血に浴す戴冠

 

 

「あの氷塊……轟殿か……!」

 

 

変わらず、衝撃波に対する防御の構えを取りながら戦いを観察していた所、突如として氷の塊が現れ、その上を3つの人影が滑走しているのが見えた。彼らは天高く打ち上げられ、それに向けて爆豪殿が高く跳ぶ。

 

 

(やはり来てしまっていたか、彼らは……だが、爆豪殿が離脱できたのなら、オールマイトも)

 

 

全力で戦える。そう思っていたのだが、黒い敵は泥のワープで他のヒーローを盾代わりにしたり、反転と思しき能力を使うことで、オールマイトに全力で戦えないようコントロールしていた。

 

盾代わりにされたヒーローを引き抜いて無理やり隙を生み出したオールマイトが敵の腕を掴み、拳と共に敵を地面に叩きつける。並の敵なら戦意どころか意識まで確実に喪失するような一撃だが……

 

 

(……馬鹿な。オールマイトの、No.1の拳を正面から受けた筈だ)

 

 

黒い敵は健在であったうえ、逆にオールマイトを衝撃波で吹き飛ばした。報道陣と思われるヘリに衝突する寸前、辛うじて他のヒーローが吹き飛ばされたオールマイトの軌道を逸らす。

 

 

(……オールマイトが、弱っているのか?複数の個性を使えるというのなら、弱体化させる個性を持っていても不思議では無い)

 

 

遠くない距離で戦いを観察している私は、オールマイトに何らかの弱体化個性が行使されていることを予想した。オールマイトが素の力であの敵に負けているというのは考えられない、というより考えたくない。

 

 

(敵の様子が……まずい、先程よりも強いのが来る……!しかも、その方向は……!)

 

 

男が膨張した腕を前に出す。衝撃波を放つ前兆なのだろうが、問題はその方向にあった。男が腕を向けているのは、まさに私が居る方向。つまり、パレ・メルモニアや、子供たちが避難している工房がある方に向けて、衝撃波を放とうとしていた。腕の膨張は先程までよりも大きく、これまでよりも高い破壊力の衝撃波が来る。

 

 

(奴が弱体化させる個性をオールマイトに行使しているとして、先程までより威力の高い衝撃波を受け止められるか……!?もし受け止めきれなかったとしたら……!)

 

 

そう考えた時、私の体は自然に動いていた。地面に打ち込んだ支え棒を爆破して推進力を生み、敵の攻撃を受け止めるために手の中で溜めていた血を携えたまま、戦場に向けて飛翔する。パレ・メルモニアを、子供たちを守るために。

 

 

《No Side》

 

 

「デケェのが来るぞ、避けて反撃を!」

 

 

「避けて良いのかなぁ!?」

 

 

「ッ……!」

 

 

自らの腕を膨張させ、今までよりも更に威力の高い衝撃波を放とうとするAFO。グラントリノはジェットの個性で空に跳び、オールマイトにも回避を促したが、彼はAFOの発言によって自らの後ろに瓦礫に埋もれた生存者がいることに気付き、回避を躊躇した。

 

 

「君が護ってきたものを、壊す!!」

 

「俊典!」

 

 

AFOが放つ衝撃波がオールマイトに直撃する刹那。2人の間に、紅い翼の少女が割って入った。

 

 

「血よ、力よ、護れ。【凶血護渦】」

 

 

少女の翼とその手に抱えられた赤黒い塊が、液体となって巨大な膜を生み出す。渦巻くそれは衝撃波を拡散し、破壊力を失った攻撃はただの風となって外側へと飛んでいく。

 

 

「君は……!?」

 

 

少女が身に纏う服の至る所が赤く滲み、そこから流れる液体によって更に膜は肥大化する。AFOによる衝撃波の放出が終わる頃には、その大きさは報道のヘリコプターに届くか否かという程までになっていた。

 

 

「……なぜ、君がここに……!()()()()()()()()()!!」

 

 

「子供たちを、守るために……」

 

 

常人の致死量、その数十倍にも及ぶ血を流した彼女は、元々白かった肌の色を更に青白くし、身体中の開いた傷跡から絶えず血が流れ出ている。

 

 

「この後ろには……私の、大切な子供たちが……怯えて……けほッ」

 

「スネージヴィナ少女!!」

 

 

彼女によって張られた膜が、彼女自身の体から流れ出る血が、次第に結晶化していく。その光景は、彼女が個性に目覚めた日、体から溢れ出た血液が結晶化したときのソレに酷似していた。

 

 

「勝って、ください、オールマイト……子供たちを、あなたの勝利で、守って……」

 

 

「……ッ!!ああ、約束しよう!!」

 

 

「【紅血風翼】……3分きっかりで……爆発し、推進力を……かはっ」

 

 

彼女は手を伸ばし、結晶で出来た不格好な翼をオールマイトの背中に作る。意識が保たない、そして彼に勝ってもらわなければならないと判断した彼女は、最後の意識を振り絞って自らの力を彼に託した。

 

 

『絶対、無事で帰ってきてね!』

 

 

「大、丈夫……です……だから、院長……また、明日───」

 

 

 

前に伸ばした手が力なく下ろされ、彼女は跪き、その目から光が失われる。それと同時に、血の結晶化が急速に進行し、その頭には頬から流れ出た血の結晶が冠のような形を成して、そこから全身を包み込むように結晶が伸びる。

 

更に完全に結晶化しきった膜がヒビ割れそれが崩れ落ちると、その結晶が彼女の周りに集まり、体の全てを包み込んだ。

 

そこに残ったのは、少女を包み込む巨大な赤い結晶だけ。透明感はあるが中まではっきり視認できるほどでは無いその結晶は、外から見れば人を包み込んでいるということしか分からず、中にいる者が正確に誰なのかを観測できるものではなかった。

 

 

 

『一体、何が起こったのでしょうか!?オールマイトと敵の間に赤い何かが割り込んで、敵の攻撃をかき消してしまいました!』

 

 

(さっき見えたあの赤い翼、スネージヴィナさん……!?どうして、何が……!)

 

 

爆豪を救出し、無事に廃倉庫から離脱することができた緑谷たち6人。市街地の巨大モニターからヘリコプターが中継するオールマイトと敵の戦闘を見ていると、突然赤い壁が生まれ、すぐに崩れ去り、その跡に赤い巨大な結晶が残るという現象が起きた。

 

 

『皆さん、見えますでしょうか!?突如現れた赤い結晶の中には、1人の人間が入っているように見えます!ここからではその顔は確認できませんが、まだ子供のようにも───』

 

 

『麗日殿……親孝行は、親がいるうちにしか出来ない。今のご両親を、大切にな』

『子供たちに、恥じない戦いを……』

『私の理想、誰も理不尽に大切なものを奪われない世界を作るためなら』

『刺傷9、切傷21、裂傷7、子宮全摘。これらは全て、私がまだ小さい頃にたった1人の敵から与えられた傷だ』

 

『[孤児院パレ・メルモニア]か……運営者は余程の資産家なのだろうか』

 

 

(……!まさか……!()()なのか!?)

 

 

今までのペルヴェーレの発言、そして先程目にした孤児院と、いまあそこにいる本人。それら全てが緑谷の頭の中で繋がり、1本の線を描く。

 

 

〈ペルヴェーレ・スネージヴィナは、小さい頃敵によって孤児となり、孤児院パレ・メルモニアで「子供たち」とともに暮らしている〉

 

 

緑谷のその予測は、当たらずとも遠からずであった。孤児院に入った経緯や、現在のペルヴェーレは一人暮らしであることなど事実と異なる点は多々あったものの、彼女が孤児であるという点やパレ・メルモニアの関係者であるということはその通りだった。

 

 

 

 

 

「……邪魔が入ったな。しかしオールマイト!守るべき子供に、逆に守られた気分はどうだい!?」

 

 

「黙れ……!!」

 

 

「悪いのは君だぜ?君が不甲斐ない姿を見せていたから、君を信じられなかったそこの子供が割り込んできたんだ!」

 

 

「彼女は……!子供たちを守るために立ち上がった、1人のヒーローだ!そして!!」

 

 

活動限界と戦闘のダメージによって、既に萎んでいくばかりだったはずのオールマイトの肉体が、活力を取り戻していく。本来なら、ここでAFOの衝撃波を受け止めたオールマイトの本当の姿(トゥルーフォーム)が衆目に晒される筈だったが、衝撃波をペルヴェーレが受け止めたことでオールマイトには幾分かの力が残ったのである。

 

 

「私は彼女に約束した!私の手で、必ず貴様に勝つと!!」

 

 

「素晴らしい……まいった、強情できかん坊な事を忘れてた……じゃあこれも君の心には支障ないかなぁ」

 

 

結晶の前に立ち、いつものような笑顔で拳を握るオールマイト。それに対しAFOは人差し指を立て、ある事実を告げた。

 

 

「あのね、死柄木弔は、志村奈々の孫だよ!」

 

 

「──────」

 

 

力を受け継ぐ個性、OFA(ワン・フォー・オール)。オールマイトが受け継いだ個性、その先代継承者であり、彼の師である志村奈々。AFOは敵連合の死柄木弔が、彼女の孫であるという事実をオールマイトに告げた。それを耳にした瞬間、彼の笑顔は消え、全身の力が抜けていく。

 

 

「君が嫌がることをずーっと考えてた!君と弔が会う機会を作った、君は弔を下したね、なーんにも知らずに勝ち誇った笑顔で!」

 

 

「嘘を……」

 

 

「事実さ!分かっているだろう!?僕のやりそうな事だ!」

 

 

目も、眉も、鼻もなく、口すらマスクで隠れたAFOの顔は、それでも今にやけ面であることが伝わってくる。反対にオールマイトは普段の笑顔が消え失せ、先ほど必ず勝つと啖呵をきった時はまだ辛うじてヒーローとしての姿を保っていた筈の姿が、皮と骨ばかりのやせ細った本当の姿(トゥルーフォーム)になってしまっていた。

 

 

『一体、どうしたというのでしょうか!オールマイトが……萎んでしまっています!』

 

 

(オールマイトの、秘密が……!)

 

 

緑谷出久は、前の冬に起きたとある事件から、オールマイトの秘密を知っている。その時は当然他言無用であり、世間にも公表されていないオールマイトの弱体化という事実が、全国中継という形で一気に知れ渡ることになってしまった。

 

 

「なんだ、あのガイコツ」

「あれ、オールマイトか……?」

「そんな……」

「ヤバくない?」

「嫌だ……!」

「オールマイト、あんたが勝てなきゃ、あんなの誰が勝てんだよ……!」

 

「姿が変わっても、オールマイトはオールマイトでしょ!?」

「いつだって何とかしてくれたじゃんか!」

「オールマイト頑張れー!」

「負けるな、オールマイト!」

 

 

その光景を見た人々から最初に上がったのは、オールマイトの勝利を疑う声。しかしその声は、次第にオールマイトへの声援へと変わっていく。それは、オールマイトがこれまでNo.1ヒーローとして積み重ねてきた「平和の象徴」という姿への信頼から来るものだった。

 

 

「勝てや……!」

 

「勝って!!」

 

 

「「オールマイトォォーー!!」」

 

 

 

 

「負け……ないで……!オールマイト、お願い……助けて……!」

『子供たちを、あなたの勝利で、守って……』

 

 

今や一部を除いて瓦礫の山となった神野住宅街で、助けを求める市民の声がオールマイトの耳に届く。そして脳裏には、自ら盾となってAFOの攻撃を防ぎ、その結果力尽きて赤い結晶に包まれた少女の言葉も。

 

 

「お嬢さん、もちろさ……!」

 

 

オールマイトが再び拳を握る。全身は既に痩せ細った姿になってしまっているものの、握りこんだその拳と右腕だけはヒーローとしての姿を取り戻していた。

 

 

「ああ……多いよ、ヒーローは……守るものが多いんだよ、オール・フォー・ワン!」

 

「だから!負けないんだよ!!」

 

 

『俊典、限界だーって思ったら思い出せ!何のために拳を握るのか……原点、オリジンってやつさ。そいつがお前を、限界の少し先まで連れていってくれる!』

 

(私の……オリジン……!)

 

『皆が笑って暮らせる世の中にしたいです』

 

 

右腕のみの戦闘形態(マッスルフォーム)。その歪な姿を見たAFOはそのニヤついたような顔をそのままに空へ飛び上がる。

 

 

「渾身、それが最後の一振だねオールマイト。手負いのヒーローが最も恐ろしい……腸を撒き散らし迫ってくる君の顔!今でもたまに夢に見る……2、3振りは見といた方がいいな」

 

 

先程衝撃波を放った時のように、腕を膨張させる。アウトレンジから一方的な攻撃を仕掛けようとするAFOだが、その企みは砕かれる。

 

 

「開け、百界門!」

 

「!」

 

 

空間を破り現れた、白く輝く門。その中から吹き出した炎によって、AFOは衝撃波を迎撃に使わざるを得なくなった。

 

 

「ッ!」

 

 

「なんだ貴様……!その姿はなんだオールマイトォー!!」

 

「どうにか間に合ったな……!」

 

「行くぞミュリオン、俺たちは生存者の救助だ!」

「ミュッ!」

 

 

瞬間移動が可能な門を開くヒーロー、トリスビアス。彼女が生み出した門から、アジト制圧班のエンデヴァーやエッジショット、シンリンカムイ、更に彼女が所属する星穹ヒーロー事務所の共同代表の1人、星魂ヒーロー『穹』が増援として現れる。

 

 

『ここは私たちにお任せ下さい!みなさんは、百界門を通ってオールマイトさんの援護をお願いします!』

『プルルッ!』

 

『脳無は殆ど無力化されている。後は俺と彼女、それに警察の皆さんで十分だろう』

 

“虹光ヒーロー『ヒアンシー』、個性[イカルン]!イカルンという丸っこい馬のような生き物を召喚し、周囲の傷を癒すことができる!”

 

“スロウヒーロー『ヴェルト』、個性[停滞]!触れた相手の体感時間を遅れさせる、特殊な光を放つことができる!”

 

 

夜に始まった戦闘が長引いたことで、とうに日付は回っている。それは、トリスビアスの個性発動制限が解除されたということ。アジト制圧は星穹ヒーロー事務所の2人に引き継がれ、元々制圧に当たっていた面々がこうして現れたという訳だ。

 

 

 

「ほう……すべてミドルレンジとはいえあの脳無たちをもう制圧したか……さすがNo.2に上り詰めた男!」

 

 

「オールマイト……!なんだその情けない背中はぁぁーーッッ!!」

 

 

「応援に来ただけなら、観客らしく大人しくしててくれ!」

 

 

「抜かせ破壊者!俺たちは助けに来たんだ!」

 

「それが我らの仕事!……頑張ったんだな、マウントレディ!」

 

「シンリンカムイ……」

 

「オールマイト!我々には、これくらいしか出来ぬ!あなたの背負うものを、少しでも……!」

 

「虎……!」

 

「皆、あなたの勝利を願っている!どんな姿でもあなたは、皆のNo.1ヒーローなのだ!」

 

 

「ミュリオン!そこの瓦礫をまとめて砕いてくれ!」

「ミュミュミュン!ミュ〜〜ッ!」

 

「オールマイト!生存者の救助は俺たちに任せてくれ!あの敵を倒すのは、あんたに任せる!」

 

 

“星魂ヒーロー『穹』、個性[開拓]!自分の成長や周囲の環境など、様々なことをトリガーに新たな力を得ることができる!”

 

 

「穹……!」

 

 

増援に現れたヒーロー達は、AFOの迎撃や倒壊した建物からの生存者救助など、オールマイトが戦いやすいよう環境を整える。全身全霊を込めた一撃を、迷いなくAFOに叩き込ませるために。

 

 

「“この身を以て……アナタと共に歩み、守り、そして導きましょう”【抱擁と傷痕の賛歌】」

 

 

「……!これは……」

 

 

「一時的にですが、アナタの力を強めました。オールマイト、どうか勝利を」

 

 

“休日ヒーロー『サンデー』、個性[祝福]!祝詞を唱えることで、自分以外の誰か一人の身体能力を上げることが出来る!上昇量は、サンデー本人の肉体強度に依存するぞ!”

 

 

百界門から現れた最後の増援、星穹ヒーロー事務所のサンデーによって、オールマイトの力が高められる。更に、オールマイトの背中に生み出された赤い翼が徐々に熱を帯び始めた。

 

 

「ふん、煩わしい」

 

「くっ……」

「うおぉっ……!?」

「ッ!ミュリオン、サンデー……!」

 

 

AFOが再び腕から衝撃波を放つ。救助活動やAFOとの戦闘を行っていたヒーローたちがまとめて吹き飛ばされ、その周囲にはオールマイト以外の人間が存在しなくなった。

 

 

「精神の話はよして現実の話をしよう……【筋骨バネ化】、【瞬発力×4】、【膂力増強×3】、【増殖】、【肥大化】、【鋲】、【エアウォーク】、【槍骨】!」

 

「今までのような衝撃波では、体力を削るだけで確実性がない……確実に殺すために、今の僕が掛け合わせられる最高最適の個性達で……君を殴る!!」

 

 

AFOの右腕が再び肥大化する。それは今までのように衝撃波を飛ばすための単なる膨張ではなく、直接攻撃によってオールマイトを殺すための、複数個性による右腕の武器化。

 

 

(先程手を合わせてようやく確信を得たよ、オールマイト。君の中にもうワンフォーオールはない、君が今使っているのは余韻、残りカス!譲渡したあとの残り火!そしてその火は、使う度に弱まっている。もはや吹かずとも消えていく弱々しい光……)

 

 

「緑谷出久!ワンフォーオールの譲渡先は彼だろう?資格も無しに来てしまって、まるで制御出来てないじゃないか!存分に悔いて死ぬといいよ、オールマイト!先生としても、君の負けだ!!」

 

 

「ぬぅりゃぁぁぁっっ!!」

 

 

オールマイトとAFOの拳が衝突する。その衝撃は猛烈な衝撃波を生み出し、周囲の瓦礫を吹き飛ばしていく。唯一、赤い巨大結晶を除いて。さらにAFOは衝突と同時に衝撃反転の個性を発動し、オールマイトの右腕に大きなダメージを与えた。

 

 

「そうだよ……先生として、叱らなきゃいかんのだよ……私が!叱らなきゃいかんのだよ!」

 

「なるほど……」

 

(吹かずとも消える弱々しい残り火、抗っているのか。役目を全うするまで絶えぬよう必死で抗っているのか……!)

 

「醜い!」

 

「くっ……!うわぁっ!」

 

 

2つの拳の衝突は、明らかにAFO側が優勢だった。拳に押されるオールマイトが口から血を吐き、宙に浮あがる。

 

 

『限界だーって感じたら、思い出せ!』

 

(象徴としてだけでは無い……お師匠が、私にしてくれたように!私も彼を育てるまでは、それまでは!)

 

 

自らの師の言葉を再び思い起こしたオールマイト、その背中の赤い翼が爆発し、推進力を生む。体勢を無理やり整えたオールマイトは、自らの右腕を犠牲にしながらもAFOの拳を受け流し、フリーの左腕にその力を込めた。

 

 

「そこまで醜く足掻いていたとは、誤算だった!」

 

「まだ!死ねんのだぁぁぁ!!!」

 

 

左腕からの一撃が、AFOの顔面に突き刺さる。しかしそれは有効打にならず、AFOは左腕を膨張させ衝撃波を放とうとする。

 

 

「そりゃあ……腰が入って無かったからなぁ!!」

 

 

『何人もの人が、その力を次へと託してきたんだよ。みんなの為になりますように、ひとつの希望になりますようにと……次はお前の番だ、頑張ろうな、俊典!』

 

 

「うぅぅぅおぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

 

 

(さらばだ、オール・フォー・ワン!!)

 

 

「UNITED STATES OF SMASH!!!!!!」

 

 

(さらばだ……ワン・フォー・オール)

 

 

オールマイトの、残った全てを賭けた最後の一撃。AFOに直撃し、そのままの勢いで地面に叩きつけられたそれは、巨大な竜巻すら引き起こすほどの絶大な威力。

 

 

『オ……オールマイト!敵は、動かず!!オールマイト!!勝利のスタンディングです!!!』

 

 

それを受けたAFOは立ち上がらず、オールマイトは天高く拳を突き上げ立っている。その姿が意味するものは……オールマイトの、平和の象徴の勝利であった。

 

 

《Side 緑谷》

 

 

「身動き取れんな……轟くん八百万くんと合流したいが」

 

「とりあえず動こうぜ!爆豪のこと、ヒーローたちに報告しなきゃいけねーだろ!」

 

「っ、そうだな!」

 

 

オールマイトと敵の戦いが終わり、中継が戦いから救助の様子に変わった頃。僕たちは神野の繁華街の人混みの中で立ち往生していた。切島くんが、かっちゃんの救出について報告しなければいけないと提案したことで、僕たちは一旦人混みの中から抜け出そうとする。

 

 

『次は……君だ……!』

 

 

「オールマイト!」

「やっぱすげぇよアンタ!」

 

 

その時、オールマイトから短く発信されたメッセージ。それは一見、まだ見ぬ犯罪者への警鐘。平和の象徴の、折れない姿。でも、僕には真逆のメッセージに聞こえた。

 

「私はもう、出し切ってしまった」

 

 

「くっ……うぅっ……」

 

 

あのメッセージをそう受けとった時、周りの歓声とは真逆に、僕の目からは自然と涙が流れ出してきたのだった。

 

 







少女が目覚めたのは、深き海の底。

■■の廃棄場はその精神を暴き、消えたはずの■■を呼び覚ます。

明かされるのは、人の秘密か、世界の秘密か。

次回……断章【往日に響く追憶の歌】、開幕。

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