僕のヒーローアカデミア:紅き月の狂宴   作:Dr.Sin

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全話に引き続き、第三者視点になります。


《No Side》第2節:掲げし理想

「私は、ヒーローになります」

 

紫澄の前で、そう宣言するペルヴェーレ。確かな決意をもったその目に紫澄は一瞬だけ驚いた顔を見せたが、すぐに向き直り、その目を見据え、確信を持った声で告げる。

 

「そうか……大丈夫、君ならヒーローになれる。人を見る目には自信があるんだ」

 

「―――!」

 

紫澄の言葉は、多くの感情が入り乱れてぐちゃぐちゃになっていたペルヴェーレの心に、不思議なほど染み渡っていった。

 

紫澄の真意はどうあれ、ペルヴェーレにとってその言葉は『許し』となったのだ。クリーヴを守れず、憎悪に駆られて刃を取った自分でもまだ、誰かのために力を使うことができるのだと。

 

そんなペルヴェーレの様子を見て、紫澄は少し真剣な表情になる。

 

「……とはいえ、ペルヴェーレさん。ヒーローになることは、そんなに簡単なことじゃない。その資格はいくつもの試練を乗り越えて、ようやく手に入れられるものだ。となると、手っ取り早いのはヒーロー科のある学校に行くことだけど……被害者で正当防衛が認められたとはいえ、今回の件は進学先に伝わると思う」

 

「それは、そうでしょうね」

 

「だから、生半可なヒーロー育成学校じゃダメだ。君のことを理解し、そのうえで特別扱いするわけでも、厄介者にするわけでもない場所でないといけない」

 

紫澄の頭の中にいくつかのヒーロー養成校が浮かんでは消えていく。残ったのは、最初に思いついた2校……『雄英高校』と『士傑高校』だった。

 

「となると、君が行くべきは『雄英高校』」

 

「雄英高校?」

 

「オールマイトやエンデヴァーといったトップヒーローを数多く輩出してきた実績を持つ、日本最高峰のヒーロー養成校だ」

 

紫澄がペルヴェーレに提示したのは、雄英高校。というのも、彼女の転院先は関東であり、関西の士傑高校は手間だろうと判断したからである。

 

「毎年の倍率は300倍を超える狭き門、見込みなしとされれば除籍処分も珍しくない。だが、あそこのヒーロー科にはトップヒーローになるための最適な環境が整っている」

 

「……私が、合格できるのだろうか」

 

紫澄の言葉を聞いたペルヴェーレの顔が曇る。前世の記憶があるとはいえ殆どが朧気、今世ではまだ平均的な教育しか受けていないという状況で、倍率300倍超えという凄まじい数字を聞いたことで怖気付いた……とまでは行かずとも、不安感はかなり大きいものになった。

 

「大丈夫だ、さっきも言ったろう、私の人を見る目は確かだと。それに、この程度で怖気付いていたらヒーローなんて夢のまた夢だぞ?」

 

「怖気付いてなど……ええ、分かりました。その雄英高校という高校を目指します」

 

「うん、その意気だよペルヴェーレさん。ああ、いい事を思いついた。もし雄英に合格できたら、さっきの件、合格祝いに早めに行こうか」

 

「二言はありませんね?」

 

「もちろんだとも」

 

そうして、ペルヴェーレが雄英進学を心に決めた頃。2人が話している場所に、1台の白い車が近付いてきた。

 

「お、どうやら君の迎えが来たみたいだな」

 

白い車は2人の前で止まると、一瞬の間の後に運転席の扉が開く。中から現れたのは、白と薄めの青が混ざった髪に、藍色でかなり凝ったデザインの服を着た1人の女性だった。

 

「こほんっ……初めまして、ペルヴェーレ・スネージヴィナ!僕は今日から君を預かることになった、[孤児院パレ・メルモニア]の院長、水上 振奈だ!君の事情は聞いたよ、その上で安心したまえ!パレ・メルモニアにいる間は、君の安全を僕が保証しよう!」

 

芝居がかった仰々しい名乗りを上げる女性[水上 振奈]は、その右手をペルヴェーレに差し出す。

 

「これからよろしくね、ペルヴェーレ」

 

「……ええ、よろしくお願いします、水上院長」

 

ペルヴェーレは一瞬躊躇う素振りを見せたが、すぐに立ち上がり、差し出された手を自身の手でとった。その光景を横で見ていた紫澄は満足気な表情を浮かべると、ポケットから取り出した携帯端末で誰かと連絡を取り始めた。

 

「日々宮警部、紫澄です。今、ペルヴェーレさんの引き取り先の院長を名乗る女性が―――はい、水上 振奈という……はい、分かりました。では失礼します」

 

通話を終えた紫澄は端末をしまい、2人の方に向き直る。

 

「ではあとのことはお任せします、水上院長」

 

「任せたまえ!刑事さんも、捜査のことよろしく頼むよ」

 

「紫澄さん、色々とお世話になりました。黒川さんにも、ありがとうございましたと伝えて頂けると」

 

「ああ、伝えておこう。それじゃあ、また。いい報告を楽しみにしておくよ」

 

軽く頭を下げ、車に乗り込むペルヴェーレと水上。2人を見送った紫澄は、折りたたみの椅子を片付けながらぽつりと呟いた。

 

「頑張れ、未来のヒーロー」

 

《水上の車》

 

「いやぁ、災難だったねペルヴェーレ。連絡ミスって怖いね」

 

「まあ……ですが、得がたい出会いもありました。あの紫澄という警官の方には、色々と」

 

「不幸中の幸い、ってやつかい?」

 

「そうかもしれません。水上院長、私の他に壁炉の家から移ってきた子供はいるのですか?」

 

「ああ、君以外に3人……リネとリネット、それにフレミネと言ったかな」

 

「!」

 

「その様子だと、交友関係があったのかな?」

 

「ええ、リネとリネットはそれなりに話したことが。フレミネも、1度か2度話したことはあります」

 

「それならよかったよ、こっちに馴染めなくてつまらない思いをするのは辛いだろうから」

 

赤信号で車が止まると、水上は目を細め、懐古の表情を浮かべた。

 

「人生は長いようで、楽しいことを純粋に楽しめる時間は短いからね。だから、パレ・メルモニアの子供たちには、できるだけ楽しい時間を過ごしてほしいんだ」

 

信号が青に変わると、水上は細めた目を再び開き、その表情も先程までの明るいものに戻っていた。

 

「なーんて、君に話しても詮無いことだったかな。でも、楽しい時間を過ごして欲しいっていうのは君にも、だよ?」

 

「楽しい、時間」

 

はて、生まれ変わってからの自分にそんな時間はあっただろうかと、ペルヴェーレは思案すると……あるにはあった、訓練の後、眠るまでの間のクリーヴとの語らい。だが、ペルヴェーレの訓練時間が長くなるにつれてその時間は短くなっていき、最後には5分程度のものであった。

 

「楽しく過ごす、か……」

 

楽しい時間は、常にクリーヴと共にあった。故に、前世の記憶の殆どを失っているペルヴェーレは……端的に言えば、不安だった。クリーヴが一緒にいないのに、楽しく過ごすということが、自分に出来るのだろうかと。

 

「……あれ?そんな深刻な話だったかな……?」

 

「いえ……これは、私の問題です」

 

「……まあ、僕にできることがあったら言ってよ。できるだけ力になるから。」

 

ああ、そういえばと、何かを思いついたように水上は言う。

 

「ペルヴェーレ、喋り方無理してるよね」

 

「それは、その……礼儀として」

 

「いいよ、楽にして」

 

「は……?」

 

「無理して堅苦しくされるの、なんか居心地悪いし。それに、パレ・メルモニアでもそうやってずっと僕への口調に気を使ってたら疲れるよ?」

 

「しかし、そういう訳には……」

 

「いーや、僕が言ってるんだから決定だ!」

 

「……では、口調を戻させていただこう」

 

ペルヴェーレの言葉から一瞬のつまりが無くなり、⬛︎が知る『ペルヴェーレ』の口調に変わる。生まれ変わる前の素の口調という訳では無いが、生まれ変わってからクリーヴの前以外ではペルヴェーレとしての口調を作り続けていたためか、そちらの方が自然体になっているのだ。

 

「はは、うんうん!そっちの方がいいよ、気を遣われるの苦手でさ」

 

それから車を走らせ、高速道路に入ってから1時間と少し。PAで休憩にした2人は、遅めの昼食をとっていた。

 

「んぐ……PAの食事って、なんか特別感みたいなのあると思うんだよね、僕」

 

「壁炉の家の外で食事をした経験がない私には、なんとも言えないが。まあ、言いたいことは分かる」

 

水上はカルボナーラを、ペルヴェーレはホットドッグをそれぞれ購入した。最初、水上はペルヴェーレの分の代金も払おうとしていたが、ペルヴェーレはそれを断り、壁炉の家で成績優秀者に限って僅かばかり与えられていた小遣いから支払った。

 

「ここのご飯代くらい、僕が払うのに。なんでそんなに自分で出すことに拘ったんだい?」

 

「壁炉の家で手に入れたもの……と言うより、お母様から与えられたものを持っていたくは無かった」

 

さっさと使ってしまいたかったのだと言うペルヴェーレに、水上はなんとも言えない感情を抱く。

 

その後すぐ2人揃って最後の一口を飲み込むと、PA内の売店で飲料を調達して車に戻る。それから車がパレ・メルモニアに到着するまでの間、2人の間に会話はほとんどなかった。

 

「……さて、到着だ!ペルヴェーレ、車内に忘れ物とかしないようにね」

 

「ああ。と言っても、ボトルと小銭入れの小包くらいなものだが」

 

建物のすぐ横にある駐車場に車を停め、降りたペルヴェーレを待っていたのは……壁炉の家と同じくらいか、それよりも少し広い場所―――孤児院パレ・メルモニアだった。

 

「では、改めて……ようこそ、パレ・メルモニアへ!院長水上 振奈と、ここに属する全ての者で、君を歓迎しよう!」

 

 




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