僕のヒーローアカデミア:紅き月の狂宴   作:Dr.Sin

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幕間:紫澄 暁葉とチョコレートアイス

私の合格発表の翌日、パレ・メルモニアではちょっとしたパーティーが開かれた。国内最高峰たる雄英、それもヒーロー科に合格した者が現れたとなれば、それを盛大に祝うべきだというのが、職員たちの総意だったらしい。

 

去年にあった私たちの歓迎会と同じようなパーティーで、あの時の違う点があるとすれば、テーブルに並べられた料理が私の好物ばかりであるということ。そして、子供たちが臆することなく私に話しかけてくれるということだ。

 

「ペルヴェーレおねえちゃん!ごーかく、おめでとう!」

 

「ああ、ありがとう」

 

「ペルヴェーレねーちゃん!またあのノート見せてよ!」

 

「それはいいが、私が一人で静かにしてる時に邪魔をしないと約束できるか?」

 

「うん、わかった!」

 

[あのノート]とは、私の個性について分かっていることと、それを纏めている中で思いついた技のメモを書いたノート。時々せがまれて見せることがあり、子供たちはその中に新しい技を見つける度にそれの名前をつけたがる。入試で使った【飛斬・焔鳥】も、その名付け親は彼らだ。

 

「ははっ、歓迎会の日と比べたら、随分子供たちに懐かれたものだね」

 

「振奈院長……今なら分かります。あの時の私は、相当近寄り難かったでしょう」

 

「……あー……まあ、そういうことにしておこうか、実際そうではあったし……」

 

「……?」

 

大事なところが噛み合っていないような会話をしていると、壁炉の家からの移籍組3人がこちらに近付いてきた。

 

「「「お父様、雄英合格、おめでとうございます」」」

 

「ああ、ありがとう、リネ、リネット、フレミネ」

 

3人が私のことを「お父様」と呼ぶのは、ふたつの理由がある。

 

1つ目は、あの夜の私とお母様の会話を、フレミネが一部聞いたこと。というのも、フレミネが自作からくりの1つ【からくり音楽機・試作一型】をお母様と私が戦った大ホールに置き忘れてしまったらしく、その機能の一つである録音機能が自動で発動した結果、ホールに入って以降の会話は全て聞いてしまったと。

 

2つ目は、私とお母様の会話を聞いた3人にあの夜何があったかを聞かれ、その圧に負けた私が全てを話してしまったこと。リネットが次の引き渡しの対象になっていたことも含めて、である。

 

3人はお母様がやったことをあくまで又聞きした程度で殆ど実感はなかったようだったが、彼女がやったこと、やろうとしたことを聞いた結果、嫌悪の感情を露わにし、お母様への決別と私への謝意・敬意を込めて私のことを〈お父様〉と呼ぶようになった。最初のうちはむず痒いような感覚を覚えたが次第に慣れていき、今となっては(この3人だけではあるものの)この呼ばれ方の方が馴染みがいいほどだ。

 

それから暫く子供たちと共にパーティーを楽しみ、その日はお開きとなった。子供たちが眠りにつき始めたころ、私は院内の固定電話から、ある相手に電話をかけている。

 

『もしもし、紫澄です』

 

「ペルヴェーレです。お久しぶりですね、紫澄殿。」

 

『ああ、ペルヴェーレさんか!久しぶりだな、何かあったのか?』

 

電話相手は、私の理想に行き先を示してくれた人……紫澄 暁葉。結局あの日のあと連絡をする機会がなく、実に1年ぶりの会話だ。

 

「ええ。雄英高校、ヒーロー科に合格しましたので、その報告をと」

 

『本当か!?おめでとう!』

 

「ありがとうございます。……あの日、紫澄さんが私に道を示してくれたおかげです」

 

『道を示したのは私だが、合格は紛れもなく君の実力だ。それに、ヒーローになるための本番はむしろこれからだよ』

 

「ええ、そのつもりです」

 

『とはいえ、雄英に合格したのは凄いことだ。私も約束を果たさなければな……という訳で、来週の土曜日は空いてるかな?』

 

「来週の……ええ、問題ありません」

 

『よし、それなら土曜日の11時に保須の〇〇駅に来るんだ。約束通り、とびきりのチョコレートアイスをご馳走しよう』

 

「!……是非」

 

『よし、では決定だな。楽しみにしておくといい……改めて、合格おめでとう、ペルヴェーレさん』

 

「ありがとうございます。では、土曜日に」

 

約束を取り付け、電話を切る。そして数日後……

 

 

《〇〇駅前》

 

「顔を合わせるのは2回目だね、ペルヴェーレさん」

 

「紫澄殿、お久しぶりです」

 

駅前の広場で紫澄殿と合流した。個性の影響でそこまで厚着しなくても暖かい私と異なり、彼女はファー付きのコートに身を包んでいる。

 

「なあ、ペルヴェーレさん。その殿ってやつはやめてくれないか?なんだか……むず痒い」

 

「……わかりました。では、私のことはペルヴェーレと呼んでください」

 

「わかった。それじゃあ行こうか、ペルヴェーレ」

 

それから歩き出すこと約15分、紫澄さんに案内されてたどり着いたのは小さな喫茶店。それなりに年季が入っているようで、ほんの少しツタが絡まった吊り表札には[喫茶 棘薔薇の会]とある。

 

「ここ、ですか」

 

「ああ、寒いし、早く入ろう……マスター、2人入れるか?」

 

「2人も何も、今日は閑古鳥だよぅ……って、暁葉?どうしたの、ドジが過ぎて左遷か謹慎でも言い渡されちゃった?」

 

店内はがらんとしていて、ドレスのようなエプロンを着た金髪の女性がカウンターで頬杖をつき、暇そうにしていた。

 

「なっ、そんなわけが無いだろう!今日は非番で、知り合いの合格祝いだ!……紹介しようマスター、彼女はペルヴェーレ・スネージヴィナ。来年の春から雄英のヒーロー科に進む、未来のヒーローだ」

 

「はじめまして、ペルヴェーレ・スネージヴィナです」

 

自己紹介と軽い会釈をする。

 

「はじめまして、ペルヴェーレさん!私はこの[喫茶 棘薔薇の会(スピナ・ディ・ロースラ)]2代目マスター、成布衣 有栖よ!今日は他にお客さんもいないし、ゆっくりして行ってちょうだいね」

 

彼女に促されカウンター席に座ると、すぐに1枚のメニュー表が渡された。喫茶店らしくコーヒーや紅茶の名前、軽食がずらりと並んでいる中、まず驚いたのは、フードメニューの7割以上がスイーツだったことだ。

 

「ペルヴェーレ、コーヒーは飲めるか?」

 

「ええ、まあ」

 

「よし、マスター、ブレンドのホットと……サンドイッチのバスケットを2つずつ頼む。伝票は一緒でいい」

 

「はいはーい」

 

注文を受け取ると、マスターは背後の棚に並べられた瓶を3つ取り出し、それを抱えて裏の厨房に入っていった。しばらくすると2人分の注文をトレイに乗せて厨房から出てきて、それぞれを私と紫澄さんの前に並べていく。

 

「お待たせしました、ブレンドのホットとサンドイッチバスケットです。ごゆっくりどうぞ〜」

 

「さ、食べようかペルヴェーレ。ここの名物はチョコレートアイスだが、他の料理もちゃんと美味いぞ」

 

「ありがとうございます、いただきます」

 

まず、コーヒーが注がれたカップを手に取り、口元に運ぶ。するとコーヒー特有の香りが鼻腔をつき、口に入れるとほんの少し酸味の混ざった苦味が口の中全体に広がってきた。

 

(苦っ……ブラックコーヒーとは、ここまで苦いものだったか……いや、私の舌が幼くなっているということなのか)

 

バスケットに添えられた角砂糖を1つ取ってコーヒーの中に落とし、溶かして再びそれを飲むと、苦味が和らいで普通に飲めるようになった。

 

「ははっ、ペルヴェーレでもブラックはまだ早かったか。どれ……ん、マスター、ソースの配合を変えたか?」

 

「あら、分かる?からしをちょっと減らして、ワインビネガーを増やしてみたの」

 

紫澄さんとマスターの会話が聞こえる中で、バスケットからレタスとトマトが挟まったサンドイッチを1つ取り出す。口に入れると、レタスのシャキシャキとした食感に加え、トマトの瑞々しい酸味と甘み、そしてパンに塗られたソースの独特な味わいが絶妙なバランスで噛み合って……

 

「……うまい」

 

思わず、前世の口調が出てしまう。それほどに美味だった。

 

「!……初めて見たな、ペルヴェーレの口調が崩れた所」

 

「え、なになに?そんなに美味しかった?」

 

「とても」

 

「それなら良かった♪それで、さっきは聞き流しちゃったけど……あなた、あの雄英に合格したの?」

 

「はい、実技の方は首席で」

 

「うっそ、首席!?暁葉、あんた凄い子と知り合いなのね」

 

「……首席というのは私も初耳だ」

 

会話を続けつつ、サンドイッチを食べる。ハムチーズ、たまごサラダ、ツナマヨ……どれも絶品だった。最後のひとつを食べ、コーヒーを飲みきると、紫澄さんも食べきったようで追加の注文を申し出ていた。

 

「マスター、コーヒーのおかわりと、チョコレートアイスを2つ頼む」

 

注文をとって厨房に入ったマスターは先程よりも早く戻ってきて、私と紫澄さんの前にチョコレートアイスのカップと2杯目のコーヒーを1つずつ置いた。ミントとゴーフルがトッピングされたアイスは、一般的なものと比べて色が濃く、チョコレートの粒のようなものが練り込まれている。

 

「当店自慢のチョコレートアイスよ!存分に味わってちょうだい!」

 

「いただこう……はむ」

 

スプーンで一口分すくい口に入れると、ガトーショコラのように濃厚なチョコレートのほろ苦い甘みが口いっぱいに広がる。粒の正体は甘いミルクチョコでコーティングされたナッツ類で、そのぽりぽりとした食感やコーティングのチョコが良いアクセントになっていた。

 

次の一口は、トッピングのミントと共に食べる。濃厚な味にミントの爽やかさが加わって、先程とはまた違った味わいがあった。

 

「とても、おいしいです。今まで食べたアイスクリームの中で、1番」

 

「ええ、そうでしょうそうでしょう!なんせ、開発に2年はかけてるんだもの!伊達にうちの看板を飾ってるわけじゃないのよ♪」

 

そしてアイスを食べ終わりリネ達や院長への土産としてマカロンを幾つか包んでもらうと、そろそろ店を出ようかという事になった。

 

「そろそろ行くか。マスター、お勘定」

 

「はいはーい……うん、丁度あるわね」

 

「また来るよ、いつになるかは分からんが」

 

「ご馳走様でした、マスター。次は子供たちも連れてきます」

 

「ありがとうございましたー♪……ん?子供たち?彼女まだ中学生よね……?」

 

店を出ると、駅に着くまでの間に今日のお礼をし、帰路に着いた。余談だが、土産のマカロンは特に振奈院長とリネットに好評で、次に喫茶 棘薔薇の会に行く時は必ず連れて行って欲しいと念押されることになった。

 




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